【第2話】伴衛飛鳥と飛鳥巴恵
まず初めに、僕事『トモエ=アスカ』について語ろうと思う。
僕の名前は、伴衛飛鳥。
享年17歳で、”男の娘”。
なんか漢字が微妙に違うが、・・・・気にしてはいけない。
僕には、もう1つの名前がある。
その名前は、飛鳥巴恵。
享年17歳で、”女の子”。
だった。
今の名前は、トモエ=アスカ、15歳。トモエが名前で、アスカが家名となる。男なのか女のかは解らない。その時の気分によって、性別すらも変更できるのが、僕の種族である『神人族』だからだ。今は、とりあえず『男の娘』となっているが、女の子の服装だ。
現在僕は、核爆弾によるテロで死んでしまい、異世界『唯一無二の世界』に地球時代の記憶と技能を持ったまま転生している。現在の容姿は、地球にいた頃の容姿そのままである。
生前は、1人で2つの名前を使い分けている男の娘な僕だが、1日に大半を女の子として過ごしているため、ずいぶんと女子力が向上してしまっている。
学校の制服から私服に至るまで、僕のタンスの中身はすべて女の子の服で占められている。男の服は、僕の”本業”出来る副くらいしか今は持っていないのではなかろうか。
また、料理の腕はすでに趣味の壁を越えてしまい、プロ顔負けの腕前である。僕が料理指導したお店は、洋の東西を問わず大盛況である。ついこの間まで閑古鳥が鳴いていたお店ですら、僕が料理指導したと報じられれば、閑古鳥が巣立っていくというありさまだ。
その他、女子力と呼称されているモノは軒並み手を出しており、幼馴染の女の子に言わせれば、『性転換すれば、どこからどう見ても女の子ね』と言わせるほどまで鍛え上げられている。
閑話休題。
僕が通う学校は、中高一貫校で文武両道を校風に掲げる私立校だ。
文武両道はその名の通りで、まるで何処かの王族のような英才教育を受け、日本古来の古武術を極めるという校風を持っている。なんせ、この学校を卒業するには、その習う古武術の段位を取らないといけないのだ。
古武術といっても、その内容は多義にわたっており、剣術などの武器を扱うものから、不可思議な力を扱うものの中から1つを選び、それを極めていくというモノ。モノによっては、『段位』というものが存在していないので、正確に言えば、『段位取得』が卒業の条件ではなく、それに準じたモノを取得するというものである。
なので『古武術と取得』という文言も、実際には違い、正確に言えば、『古来より伝わる技術の習得』といったほうがいい。しかし、その技術も戦闘に利用できることから、この学校では、すべてを含めて『古武術』と称しているだけだ。
で、僕はどうも、武術系の才能は皆無らしく、不思議な力を使う系に特化していたみたいで。
その中で僕が選んだ古武術は、『陰陽道』と呼ばれるモノだ。あの有名な安倍晴明の『陰陽道』を極めました。その過程で僕は、陰陽道と切っては切れない関係である、『修験道』と『密教』にも深く精通してしまっている。
その辺の話は横に置いておくとして。
世間一般では、迷信だのなんだのと言われている力を、何故か僕は開眼してしまい、中学卒業までにはこの世界では『知らぬ者なし』の存在まで上り詰めてしまっていた。
ちなみに、すでに僕は、学校卒業後の就職先まで決定してしまっている。
それはいいとして、今僕が置かれているこの状況だ。
僕の今の格好は、この学校の”女性の制服”であるセーラー服を着ている。
そして僕は、日常的に女装をしているわけだが、それには深いわけがあったりする。
その訳とは、男であるときの僕が、『陰陽道』における最高権力者である『陰陽頭』の位にあるからだ。
陰陽頭に就任したのは、陰陽道を極めてから半年後の中学3年の夏。夏休みに終わりごろから、僕の存在がその界隈で有名になり、いろいろなところから、いろいろな軋轢をかけられていた。それは、国際的な問題となっていき、僕の手から離れた場所での問題へと発展していく。世界中の国家が僕を注目し、手に入れようと画策する中、日本の上層部は僕を保護する代わりにとある提案をしてきた。
それは、僕の名前と容姿に深くかかわって来ることで。
僕の名前は伴衛飛鳥。どっちから読んでも、名前にもなりまた苗字にもなる。
そして、僕の容姿はというと、155㎝という平均よりも低い身長。卵顔で、クリっとした大きな瞳が特徴の全体としては女顔。髪型は、お尻の中ほどまで伸ばしたロングストレートで黒髪(幼馴染や家族の意向で腰から股下の間で切り揃えるように強要されている)。声もまた、変声期を終えたはずなのに女性的な声音であった。もちろん喉仏は出ていない。
そんな僕が女装をすれば、10人中10人が女と勘違いするほどで。それを利用して、よく幼馴染たちと遊んでいたものだ。
そんな僕に示されたのは、『女装』と『偽名』。
たまたま、女装して遊んでいる現場を、政府の担当者が目撃。それをそのまま偽装に利用しようと考えたわけだ。その担当者ですら、目の前で僕と会話しているのに、気付かなかったくらいだからね。僕の事を表面的でしか知らない人たちならば、完全にだまされるわけだ。
日常的に女装をし、陰陽道としての仕事をするときだけ元に戻る。名前も本名と離れすぎるのもあれなので、ひっくり返して『飛鳥巴恵』とする。『伴衛』では漢字表記ではあれなので、『巴恵』となったが。
この偽装がまた、政府が行うことだけあって完璧で。
『飛鳥巴恵』という人物像もまた、矛盾しない程度に完璧に作り上げられていった。
女の子である僕、『飛鳥巴恵』の経歴はこうなっている。
17年前に日本の何処かで生まれたが、出生届を出されることなく、地方にある孤児院の門の前に捨てられているのを、孤児院の院長である老婦が発見、保護をする。
その後、里親制度を利用して、中学3年の夏に『伴衛家』の長女として養子縁組をする。しかし、名前が
『伴衛巴恵』となる事は、イジメの原因にもなり得るため、あえて旧名のまま『飛鳥巴恵』と名乗っている。
つまり、女の子としての僕は、親の顔も知らない孤児という設定である。もちろん僕を『育ててくれた』孤児院もしっかりと存在しており(この孤児院自体が、厚生省直轄の施設だったりする)、いろいろな意味で口裏合わせっもばっちりである。『飛鳥家』は、偶然にもこの孤児院の院長の姓であったため、さらに信憑性が高まっていたりする。
さらにこの孤児院は厚生省直轄なだけはあり、子供の入れ替わりが激しく、”僕がここで暮らしていた”15年間の間だけでも、500人近くの子供が入れ替わっている。そして、孤児院の中に学校があるため、中学卒業まではほとんどの子供が地域の学校に通学する事はないのも、この孤児院が『飛鳥巴恵の出身地?』に選ばれた理由でもある。
さらにこの時伴衛家は、その歴史的背景を利用して、僕を含めて10人近くを弟子入りという形で、その孤児院から引き取っていたりする。伴衛家自体、安倍晴明を祖先に持つ由緒正しき陰陽道の家系の1つなのが幸いしている。
つまり僕は、所謂『先祖還り』の存在らしい。
伴衛飛鳥は、普段どうしているかというと・・・。
設定上では伴衛家の屋敷内に造られている地下礼拝場(本当に存在しているから驚きである)において、悪霊や怨霊たちを鎮める儀式を日夜続けているらしい。そして、伴衛飛鳥に唯一面会できる人物が、伴衛家の長女として屋敷に入ってきた僕事、飛鳥巴恵となっているらしい。
これは、僕事、伴衛飛鳥が、神託か何かで何処かにいる誰かから賜り、伴衛家に伝えたといわれているらしい。
『らしい』と語尾をつけているのは、そんな事は、一度たりとも僕は行ったことがないためだ。地下礼拝場での儀式は、毎日欠かさず行っているため事実といえば事実だが、僕自体は毎日学校に通っているため引きこもりではない。
中学3年の秋から僕は、女生徒として学校に通っているが、誰1人としてそのことを指摘したクラスメイトはいない。そもそも僕の事を男と見てくれていた事はなかったかもしれない。ただ、”息子が常にいた”ので、男だと認識されていたにすぎない。
女の子になった今では、普通に女生徒の輪に溶け込んでしまっている。もともと僕の趣味は、どちらかといえば女性寄りに偏っており、所謂女子力と呼ばれている分野においては、幼馴染の女の子よりも上手かったりする。
そんなこんなで僕は、中学3年の夏休みからずっと女の子として暮らしているため、今では仕草から何から女性寄りになってしまっている。今では、『伴衛飛鳥』として仕事をする事が、男として演技しているような感覚に陥っている。
こんな理由で、女の子として僕『飛鳥巴恵』は、現在生徒会長として壇上に立っているわけで。
何故か知らないが、僕の発する言葉には、不思議な力が宿っているらしく、こういった式典では、必ずと言っていいほど何かの代表をやらされている。生徒会長も、無投票で当選してしまったほどだ。
壇上の主となって約10分。
僕が用意された原稿を読み上げ初めて中盤に差し掛かる頃、それは唐突に起こった。
複雑怪奇な文様を刻む不思議な陣が、僕らのいる講堂の床一面に現れたかと思うと、眩い光とともに、講堂内にいる者たちすべてを包み込んでしまったのだ。
壇上でその光景を見ていた僕は、一部始終をこの目に焼き付ける事になってしまった。
そこで、僕に記憶が途切れてしまったため、その後はどうなったかは知らない。
僕をこの世界に送った神様『天照大神』であるヒミコさんによれば、爆弾テロをかましやがった国は、現在とっても大変な状況に陥っているらしい。
そして、この世界には、どうもその爆弾テロで死んでしまったお仲間が、結構な数転生してきているらしいが、何もかも変わっているらしく一目見ただけでは判断だ就かないという事だ。ただし、僕と出遭った瞬間に、記憶などが覚醒して誰の転生かが解るようにしてもらっている。
まあ、必死こいて探し出す事はしないが。
その転生者の中に、僕の幼馴染たちがいる事を切に願っている。
まあ、そんなことよりも、目の前の事を何とかしないと、転生者に出遭うことすらもできないのだが・・・・・。