【第25話】ギルマスと会談(その2)
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【登録カード】
【名前】
【所属パーティ】
【冒険者ギルドランク】S
【商業ギルドランク】A
【生産者ギルドランク】A
【受理依頼】△▽
【討伐魔物数】△▽
【発行ギルド】冒険者ギルド キシュウ王国アパランチア辺境伯領パリダカ支部
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「これは?」
名前の欄が空欄で、それぞれのギルドランクがやけに高いカードだ。不思議に思い、そう聞いてみることにした僕。その回答がこうだった。
「流れの魔導具職人を偽るには、本名ではまずいだろう?これは、そのためのカードだ。
それでだな。偽名を考えてくれ。その名前で登録をする。」
カイバルさんがこう答えてくれた。
「それはいいのですが、やけにランクが高いですね?」
「火炎竜をソロで狩れる奴がEランクじゃおかしいだろう?今後、上位のランクにいる魔物を狩った場合は、このカードを使うといい。『トモエ=アスカ』で作ったカードは、普通の依頼で使うといいだろう。」
確かにEランク冒険者が、高位ランクの魔物の素材を持ち込めば、ランク詐欺と言われそうな予感がする。
「俺もそうだ。流れの魔導具職人さんが、何か素材を売り払いたい時には、このカードを使ってくれて構わない。」
これは、テノールさんからだ。
テノールさんは、素材の取引に使ってくれと言ってきている。
素材か~~~~。
そういえば、山ほどあるんだよね。オリハルコンとか、ミスリルとか、アダマンタイトとか。
「私からは、高額の魔道具を売る時にでも使ってください。そういえばトモエちゃんは、古代神話級魔道具も造る事は可能でしょうか?」
「古代神話級魔道具ですか?どうでしょうか。造った事はないので何とも。
そもそも、魔道具と古代神話級魔道具の違いがよく解りません。」
エーテルさんが、こんなことを言ってきたので素直に答える。
魔道具と古代神話級魔道具。
本当に、何が違うのかが解らない。
「そうですね。一番大きな違いはこれですね。
『魔道具』は、使用する際に使用者の魔力を利用する。
『古代神話級魔道具』は、使用者の魔力は起動時だけで、あとは自然界にある魔素を利用して動き続けている。
でしょうか。ちなみに、今さっき造った『異空間旅倉庫』鑑定結果では『異空間倉庫指輪』と出ていましたが。この指輪の動力は何ですか?」
「それの動力ですか?『羽根ペンタイプの異空間旅倉庫』も、『異空間倉庫指輪』も、動力自体は魔素で動いてますね。という事は、これは『古代神話級魔道具』という事になるんでしょうか?」
「そうですね。この指輪は、まさしく古代神話級魔道具です。つまりトモエちゃんは、古代神話級魔道具を造る事が可能となるわけです。
よって、こちらのカードを使うときは、古代神話級魔道具を売りき来られた時にしてください。普通の魔道具を売る際は、『トモエ=アスカ』のほうでお願いします。」
「そうしたほうがよさそうですね。」
どうも僕は、日本にいた時同様に、2つの名前を使い分けないといけないみたいだ。
確かにそうだな。
僕の力は、一部を除いてこの世界にいる人類をはるかに超えていると思う。全力でやった時と、手加減してやった時を使い分けていたほうがいいだろう。
「では、早速だが、偽名を考えてくれんか?」
「そうですね。では、僕の名前をひっくり返して、『アスカ=トモエ』でいいですか?ついでに、Eランク冒険者の『トモエ=アスカ』は女の子ですので、『アスカ=トモエ』は男の子です。」
「性別すらも偽るのか!!それならば『名前が似ているだけのただの別人』になり済ませれるな!!
よし、それでいこう!!」
僕の偽名のほうはこれで決まったみたいだ。あとは、マイカちゃんのほうだな。
「あとはマイカちゃんんですね。常に僕と一緒にいるので、マイカちゃんつながりで、同一人物だとばれてしまいそうです。
なので、『アスカ=トモエ』の時は、マイカちゃんは奴隷ではなくただの平民にしたいと思っています。名前はそうですね。『イズミ=キリサキ』とでもしておきましょうか。」
僕が言った言葉に、少し顔をかしめる面々。
「それはいいが、奴隷隷属の首輪はどうするんだい?」
もっともな質問を投げかけてくるエーテルさん。僕は、それにこう答える。
「大丈夫です。マイカちゃんの首に嵌っているのは、魔道具の『奴隷隷属の首輪』ではなく、僕がかけた隷属魔法のエフェクトである『隷属の首輪』ですので。見えなくする事も可能なんですよ。こうやって。」
僕は、魔法を操作して首輪を半透明化する。それを確認してから、テノールさんが僕にこう質問をしてくる。
「これは隷属魔法だったんかい。それじゃあ、なぜ首輪だけ常時見えるようにしているんだい?消せるんならば、消しておいたほうが彼女は自由だろうに?」
「それは、マイカちゃんの意志だからです。マイカちゃんは、10歳の頃から今日まで110年間、奴隷として生きてきました。」
僕は、あの村でのマイカちゃんの暮らしぶりを、マイカちゃんから聞いていた通りに詳細に話した。
「こんな感じで、マイカちゃんは、奴隷以外の生き方を知りません。また、あの村では、最低限の仕事しか与えられていなかったため、手に職は何も持っていません。
なので、奴隷から解放されると、自分の手足で生きていく事が困難になります。
何か、生きていけるだけの能力がつくまでは、僕は奴隷から解放しないほうがいいと判断しています。」
僕の言葉に、しばし考えるギルマスたち。
「トモエ君は、手に職さえつけば、いつでも開放する気でいるんだね?」
「はい。隷属化した事についてはともかく、法律上の奴隷からは解放するつもりです。
隷属魔法の解除は、あの条件が邪魔をしているので、解除の見込みがたっていません。今、別の方法を模索中ですが・・・・。」
「確かにあの条件では、今のトモエ君の魔法を撃ち蹴る事は、理論上不可能だね。
奴隷のマイカの事は解った。
こちらとしては、それで構わないよ。
では、ついでにパーティ名を決めてくれ。マイカ・・・いや、イズミ君とアスカ君の2人組のパーティ名だ。もちろん『イズミ=キリサキ』名義のギルド証も発行しよう。」
「そうですね・・・・・。では、『アマテラス』にしてください。」
「わかった。そのようにしよう。」
しばらくして、マイカちゃんのギルド証が届いた。
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【登録カード】
【名前】イズミ=キリサキ
【所属パーティ】アマテラス
【冒険者ギルドランク】A-1
【商業ギルドランク】未登録
【生産者ギルドランク】未登録
【受理依頼】△▽
【討伐魔物数】△▽
【発行ギルド】冒険者ギルド キシュウ王国アパランチア辺境伯領パリダカ支部
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偽名とはいえ、マイカちゃんにとっては、この世界で初めてとなる身分証である。使用する事はほとんどないとは思うが、とてもうれしそうな顔で受け取っていた。
「あっ!!そうだった。これの換金をお願いします。」
僕は、万能異空庫から、冒険者ギルドで貰った小切手を机の上に出した。
「どっちの口座に入れておく?」
エーテルさんがこう聞いてきました。
「どっちでも同じですよね?」
「同じだね。名義人の名前は違うけど、どっちもトモエちゃんだからね。」
「小切手の受取人が『トモエ=アスカ』なので、そっちの口座に入れておいてください。そのほうは事務処理が楽でしょう?」
「わかった。全額、口座に入れていていいんだね?」
「そうですね。金貨10枚分と、金貨1枚以下の細かいお金は、現金でお願いします。」
エーテルさんは、後ろに控えている女性に小切手と、僕のギルドカードを渡して、手続きを支持している。しばらくすると、トレイの上にギルドカードと、金貨10枚、銀貨9枚、銅貨6枚、青銅貨89枚が載せられて僕の前に置かれた。僕はそのお金をすべて万能異空庫の中に放り込んでおく。
その後は、雑談をしながら魔道具と古代神話級魔道具を片手間で造りながら30分ほど話して部屋を出た。帰り際に、思い出したようにカイバルさんから先ほどの話が出た。
「そういえば、トモエちゃんは、アマネから指名依頼を受けないかという話を受けていたな?」
「何だい?その話は?」
そこに、エーテルさんが食いついてくる。
「実はな、この嬢ちゃん。一瞬で橋を架けれるほど魔法に精通しているんだ。そこで、騎士団が手を出せれていない山越えの街道を復旧しつつ、沿道の町や村に支援物資を運んでもらおうという話が出てるんだ。まだ領主様には、話を通していないから、正式に決定されているわけではないんだがな。」
「そんな話が出てたんかい。その話、私にも1枚かませな。支援物資は、商業ギルドが用意しておいてやるから。」
「そのつもりで、今話したんだ。テノールはどうする?」
「そうだな。・・・・どうせ、色々と壊れているんだろうからな。農具やポーションなんかの生産品は、俺たちに任せておきな。配給量は好きないだろうが、それなりに揃える事ができるはずだ。
最悪は、アマテラスに依頼を出せばいいだけだからな。
雑談の片手間で製作していたポーション、ギルドの等級で照らし合わせれば中級は確実にあるからな。下手をすれば特級は言いすぎだが、上級の上位にはいくはずだ。
トモエちゃんに聞けば、今回が初めてだそうだぞ。ポーション製作。」
「初めてでそれかい?そういえば、ポーションも含めて、素材はなに1つ用意していなかったはずだが、どうしてるんだい?トモエちゃん?」
「素材は、『素材錬成』とか、『素材錬金』とかいうスキルで”創って”います。素材があれば、使う魔力は少なくても済むんですが、なければ内で”創れば”いいんです。」
もう、カミングアウトしまくりである。自重を投げ捨てたともいう。
「というと、ミスリルも”創った”んかい?」
「はい。創りました。ぶっちゃけけますと、ミスリルの産地なんて知りません。」
「ちなみに、他のもあるんかい?」
「はい。創ろうと思えば。今は、必要ないので手元にはありませんが。」
「道具のほうはいいが、素材関係はお願いだから、大量に卸すのはやめてくれな。市場が混乱してしまう。」
「わかっています。他の人の食い扶持を奪う事はしません。」
「その話はそのくらいにしておいて。
指名依頼の件は、数日待ってくれ。領主様と話を詰めないといけないからな。決まったら、アマネに話しておくから。」
こうして、ギルマスとの会談はお開きとなりました。
ギルドを出るときは、すでに大分と日が傾きかけていた。
マイカちゃんは、数時間の正座でしばらく立つ事すらできなかったので、魔法で浮かして部屋を出た。
受けた薬草採取の依頼は明日に行う事にして、今日のところはいろいろな道具を買う事にした。まだ、武器すら購入していないからね。




