【第22話】初めての町
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パリダカ
定住人口約17,000人。
アパランチア辺境伯爵領の領都でもあるこの町には、神々から35番目の聖地として登録された『八咫烏の降臨地』があることでも有名な街でもある。そのため、この町の神殿は、八咫烏とともに、太陽神『マハー・ヴァイローチャナ』を祭神としている。もともとは、聖地を開いた『光母神の聖女』の子孫である領主の紋章も、八咫烏をモチーフにしている。
町の産業は、東側を流れる川の先にあるオリンネス大森林地帯や、西側にある洞窟迷宮『三足烏の大迷窟』から産出される魔物やモンスター、鉱石関連の素材の加工である。そのため定住人口の約半数以上の冒険者でもある。この大迷宮を目当てに周辺国から冒険者が、聖地巡礼を目的に神職たちが押し寄せており、これらを合わせると、町の人口は約30,000人に膨れ上がる事もある。
そのため、別名『冒険者の町』とも、『迷宮都市』ともいわれている。また、神職関係者には、八咫烏伝説をもじって、『導神の住まう町』という通り名で呼ばれることもある。
ちなみに、迷宮都市といわれているのは、世界中で100カ所を超えている。
パリダカの町は、東側を流れるアパランチア川を背に、半円状に広がっていて東西南北に町に入る城門が1つずつある。北・南・西門からは、それぞれ街道が伸びており、東側にも城門の先には港になっている。
そのため、陸運と水運が交差している街でもある。
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入城手続きも終わり、僕とマイカちゃんは、異世界で初めてとなる街『パリダカ』に足を踏み入れた。入城する際の規則に則り、マイカちゃんをはじめとした奴隷の皆さんは、それぞれの所有者に、首輪に繋がれた鎖に曳かれての入城である。こうする事で、奴隷にかかる入城税が免除されるため、たいていの奴隷は、鎖に曳かれて入城する。
ちなみに、町への入城税は、身分証を持っている者は銅貨5枚、持っていないもので銀貨1枚、鎖に曳かれていない奴隷が銅貨1枚となっている。
道すがら、町の様子をキョロキョロしながら観察していきます。すでにマイカちゃんたちに付けられた鎖は外されており、各々自由に歩いています。マイカちゃんの首輪からは、(周りからは見えない)半透明の鎖が繋がれたままなんですが。
ちなみに普通の旅人は、町に入るとすぐ城門の隣にある銭湯で旅の汚れを落とすのが義務付けられている。これは、伝染病予防の観点から、たいていの町ではそう決まっている。
ちなみに僕は、今現在は女の子になっているので、マイカちゃんとともに女湯に入りました。
銭湯でさっぱりとした後に宿屋を探しながら町を練り歩いている。
城門からまっすぐに伸びた大通りは、道幅も広く(測量スキルで100m)、両端にはぎっしりと商店が立ち並んでいます。大通りが交差する場所には、この町の神殿が聳えており、時間を知らせる鐘の音が鳴り響いています。
ゾロゾロと馬車を連ねているのも何なので、城門を潜った段階で、馬を含めて全て万能異空庫に突っ込んであります。もちろん、万能異空庫の能力の一つである『フォルダー貸与』を使い、一時的にパリスさん専用のフォルダーを作っています。
天空の牙のメンバーには、奴隷も含めて全員が、『フォルダー管理権移行』を使い、万能異空庫の中に専用のフォルダーを持っています。その流れで、なぜか知らないが、僕がパーティの共有財産を管理する事になり、それ専用のフォルダーを作りました。
そのため、僕たち一行は、旅人でありながら、自衛のための武器以外は手ぶらで歩いています。
ちなみに現在、万能異空庫の能力は全て使えるようになっており、それぞれの能力は次のようになっている。
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【時間固定型倉庫】
生き物以外ならば、なんでも収納でき、また数量・重量・容積ともに無限に収納できる。中に入れたモノは、入れた時の状態で保持され、いつでも出し入れ可能。
【フォルダー管理】
万能異空庫に入れたアイテムを、任意に分けて分類できる引き出し(フォルダー)を作る能力。フォルダーの個数は、生涯レベルの数字だけ作る事が出来る。
【自動収納】
討伐した魔物やモンスターを、自動で収集して万能異空庫内に収納する能力。フォルダーを指定すれば、自動でそのフォルダーに格納する。
【自動解体】
万能異空庫に入れた魔物の死体を、各部位ごとに自動で解体する能力。フォルダーを指定すれば、自動でそのフォルダーに各部位を分類してくれる。
【フォルダー貸与】
万能異空庫内に作り出したフォルダーの一部を、第3者に一定条件下で貸し出す能力。定められた条件から外れた場合は、中に入れたアイテム事スキル保有者のモノになる。
【フォルダー管理権移行】
このスキルを保有する者が所属するパーティメンバーに対し、万能異空庫内に作り出したフォルダーの一部を、管理権ごと譲与する能力。なお所属しているパーティを、管理権を持つ者が脱退した場合は、中に入れたアイテム事スキル保有者のモノになる。
【自動修復】
万能異空庫内に入れたアイテムが、修理の必要のあるアイテムの場合、自動で補修・修繕をする能力。
【万能生体倉庫】
万能異空庫内に生き物も入れれるようになる能力。万能異空庫内に入れた生き物は、亜空間に創られた専用フィールド内ならば自由にできる。
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僕1人いれば、数万人の軍隊の移動も、物資込みで可能なレベルになってしまっている。城門前の広場で、荷物をしまった時、大荷物を抱えた旅人たちが、うらやましそうな顔になっていた。中には、パリスさん同様に、何台も馬車を連ねている商人さんもいたが、僕には関係のない事だと無視を決め込んでいる。
それはともかくとして、僕とマイカちゃんが、パリスさんを連れて真っ先に向かったのは服屋だ。橋を架けた時の報酬をもらうためにやってきたのだが、あまり時間もかけられないので、動きやすさを重視した服を数着ずつ購入してもらった。
その場で1着着て、残りは万能異空庫に放り込んでおく。
僕の服装は、職業の『巫女(聖女は少しアレなので偽っている)』を意識して、外出用に旅装束にアレンジされた修道服を数着、部屋着として何着かラフな服を購入してもらった。現在は修道衣を着ている。
マイカちゃんのほうは、質素な感じの丈夫な服を数着と、部屋着として何着かラフな服を購入してもらった。武装については、明日冒険者登録を行ってから整える事にして、今日のところは諦める事にする。実際は持っているのでいらないのだが、あの武器はとんでもない性能なので、普通の武器を持っておいても損はないだろう。
宿屋は、町の中心に建つ神殿の目の前にある、『聖女の寄生木亭パリダカ宿』という名前の宿屋だ。どうも、過去に何度か『聖女様』が泊まった事がある宿屋らしく、この町では最上級の宿屋になる。名前の示す通り、聖地がある町には、『聖女の寄生木亭〇〇宿』という名で世界展開しているらしい。
「これからの予定ですが。
先日の豪雨であちこちの街道が寸断されているみたいです。そのため、ここで情報をいろいろとしいえるために、10日間ほど滞在いたします。その間は、この宿を拠点にしていただいてもかまいません。
我々は、情報を集めがてら、露天を開きたいと思っています。ナルシスたちも、冒険者活動をしながら情報を集めてください。」
パリスさんの話で、夕食が開始されました。僕たちは、パリスさんがとってくれた個室に集まって夕食をいただきます。
明日から10日間に予定を、いろいろと話し合っていく僕たち。その中で、ふいにある事を思い出した僕は、ナルシスさんに聞いてみる。
「ナルシスさん。シャルルさんの解放はいつ行いますか?」
そう、まだシャルルさんの奴隷解放は行っていないのだ。けち臭いかもしれないが、銅貨1枚でもけちるのは商売人の性でもある。
「そうだな。明日の朝にマークレルさんのところに行こうか。そこで開放をしてくれ。解放後は、マークレルさんが、身分証の再発行の手続きをしてくれる手はずになっているからな。」
「わかりました。では、明日の朝一緒に行きましょう。」
もうすでに、マークレルさんとの話がついていたんですね。たぶん、僕が解放できると話した後にでも、こういう話し合いをしたんでしょう。
ここで、奴隷の解放について少し話そう。
奴隷解放は、実は解放できるものがいれば、いつでも開放する事が可能だ。
しかし、1つ大きな問題が立ちはだかっている。
それが、身分証の問題である。
奴隷として登録された者は、たとえ奴隷隷属の首輪が外れていても、身分上は奴隷のままである。つまり、奴隷から解放された後は、身分の変更手続きが必要になるのだ。
実は、魔道具である『奴隷隷属の首輪』には、1つ1つシリアルナンバーが刻まれており、このナンバーでもって奴隷を管理している。そして、この魔道具はリース品であり、魔道具自体の所有者は商業ギルドの下部組織である奴隷ギルドが持っている。
つまり、外した首輪は、奴隷ギルドに返却しなければいけないのだ。返却する事によって、奴隷になる前の身分が刻まれた身分証が再発行される仕組みになっている。
その手続きを行うのが奴隷商人である。
マイカちゃんのように、隷属魔法でもって奴隷になった者が嵌めている『隷属の首輪』には、シリアルナンバーは刻まれていない。そもそもこっちの首輪は、術者の魔力でできているからね。
この話は、昨日の晩にマークレルさんから聞いた事だ。
この話を聞いた瞬間僕は、『よかった~~~』と安堵した事を覚えている。マイカちゃんが嵌めていた奴隷隷属の首輪は、今は僕が預かっている形だからだ。破壊しなくて本当に良かったと心から思えた瞬間だった。
何時になるか分からないが、マイカちゃんを奴隷から解放するときに、確実に必要になってくるアイテムなのだから。
緩和休題。
僕とナルシスさんの話を、少し離れた場所から聞いていたシャルルさんは、うれし涙を流して、隣に座っていたシャルリードさんに抱きしめられていた。そういえば、シャルリードさんも、明日の朝、シャルルさんと一緒に解放されるんでしたね。
今回の手続きで解放されない他の奴隷たちも、この件に関してはうれしそうな顔になっている。ここにいる奴隷の中では、シャルルさんだけが唯一生涯奴隷のままだったんだからね。
翌日。
僕とナルシスさん、オーパルさん。あとは、今回奴隷から解放をするシャルルさんとシャルリードさんとで、朝早くから奴隷商であるマークレルさんの元へと来ている。
マイカちゃんは留守番だ。たぶん、文字の勉強をしていると思う。
「おはようございます。では、早速ですが、奴隷身分のシャルルとシャルリードの解放手続きを始めましょうか。」
こうして、2人の奴隷解放の手続きが始まった。
「では、まずシャルルのほうから行いましょうか。
トモエちゃん。シャルルの首輪を外してください。」
マークレルさんの指示に従って、僕はシャルルさんの首輪を外した。外れた首輪を手に取ったマークレルさんは、首輪に刻まれているシリアルナンバーを手元の紙に控えていく。
「親類縁者の行方は解らないので、ナルシスさんの養女として身分証を作成しますがいいですか?」
「ああ、それで構わない。」
「あたしもそれでいいです。」
こうして新しく発行された身分証には、2人の養女として『シャルル=ハイクークル』と書かれた身分証が発行された。
「では次に、シャルリードの解放手続きをいたします。
所有者であるオーパル氏の恩赦を受けて、『奴隷刑120年のところを60年に短縮。すでに刑期が終了しており、あとは解放手続きを残すのみ』という事であっていますか?」
「ああ。その通りだ。」
「はい。私は、ご主人様の恩情で、刑期を短縮していただきました。」
2人の言葉を聞いたのち、シャルルさんと同様の手続きが始まる。
1か所違うところといえば、シャルリードさんは、養女としてではなく、オーパルさんの妻として『ハイクークル』姓を貰ったところだろう。
つまりこの瞬間、2人の結婚が成立したのだ。
そして、2人のついでに、マイカちゃんも法律上では奴隷身分ではなく、平民として暮らしていく事になった。だが、僕に隷属化させられており、マイカちゃん自身も、110年間培った?奴隷根性が抜けきっていないため、相変わらず僕の奴隷という立場を崩していないのが現状だ。




