【第21話】時空間属性の優位性
『温度指定式湧水水晶』と『移動式乾燥室』については、この旅が終わるまでモニターをしてもらうことで話がついた。移動式乾燥室は、まだまだ改良の余地はあるからだね。温度指定式湧水水晶のほうは、これ以上の改良は無理そうだけど問題点がある。
移動式乾燥室は、モノがモノだけに注文生産でも行けそうだが、温度指定式湧水水晶のほうはただの水晶で、それも手のひらサイズ土地いなく、量産可能ときている。現に、1回の生産で、100個作ってしまっているからね。
そうなると、薄利多売方式になるんだけど、定期的な納品の問題が付きまとってくるね。僕はこれから、世界中を旅する予定で、1か所に留まるつもりは今のところ考えていない。まあ、僕には転移魔法があるから、世界中の何処にいても、パリスさんのお店に行く事は可能なんだけどね。
そのあたりは、おいおい考えよう。
さて、パリスさんの最終目的地は、キシュウ王国王都トラディマウントだ。
キシュウ王国王都トラディマウントに、パリスさんが経営している商会の本部がある。ナルシスさん率いる『天空の牙』も、そこまでの護衛を引き受けているため、僕とマイカちゃんも必然的に王都まで同行する事になる。
ちなみに、パリダカから王都トラディマウントまでの道のりは、『キシュウの魔境』と呼ばれる山岳地帯を横断するルートと、海岸沿いを行くルートがある。どちらのルートも、『シロイハマ』と呼ばれる街で合流し、王都へと続いている。山岳ルートのほうが海岸ルートよりも1/3ほどの距離で踏破できるため、海岸線にある各町や村に用のない限りは、危険を承知で山岳ルートを通るものが多い。そのため、山岳ルートは整備が行き届いており、200㎞から300㎞おきにそれなりに大きな町が存在している。
僕たちは、海岸線には用事はないため、当然山越えルートを通る事になる。
どれくらいの距離があるのかは知らないが、パリダカから王都トラディマウントまでは、順調に進めて2ヶ月から3ヶ月らしい。山越えするだけで、1ヶ月はかかるという話だ。
緩和休題・・・・。
現在僕とマイカちゃんは、パリスさんが乗っている馬車に同乗している。これからの事をいろいろと確認するためだ。
野営地を出発して、馬車に揺られて約1時間。
あまりの揺れに悲鳴を上げた僕は、お尻の下に魔法でエアマットを作って対処をする。時と目で見てきたマイコちゃんにも、同じモノを作ってあげると、パリスさんもうらやましそうに見てきたので、馬車に乗っている全員分造った。
この魔法は、風属性を持っていれば誰にだって使える魔法だ。一度発動すれば、2時間ほどは効果が持続するように創ったし、何よりも使用する魔力量も1回当たり50~150MPほど。今回は1人1つずづ、座布団サイズで作ったが、マットほどの大きさで作れば、使用する魔力量も減少する。一番大きなサイズは、2m×5mで、使用する魔力は150MP前後となる。
「トモエちゃんの身分証の方は、お金さえあればいつでも発行してもらえますよ。マイカちゃんは奴隷だから身分証はないけどね。
一番簡単なのは、冒険者ギルドに行って冒険者登録をする事ですね。冒険者ギルドについては、ナルシスから聞いていたので割愛しますが、犯罪歴さえなければ誰でもなれる職業ですし、冒険者だといろいろな優遇が受けられます。
冒険者ギルドで登録後は、商業ギルドと生産ギルドのほうも登録してもらいます。」
「なぜですか?」
「それは、トモエちゃんの造る魔道具の取引のためです。
トモエちゃんのお話だと、全世界を旅するという事です。これは、冒険者になっていれば、国境を超える手続きも簡略化されますので、簡単に行き来ができます。簡単に言えば、一度でもその国の土地を踏めば、転移魔法等でゲートを無視して通過しても、罰せられる事がありません。もちろん、特例で禁止されている場合もありますが。
トモエちゃんは使えるんですよね?転移魔法。」
「どうして、転移魔法が使えると言い切れるんですか?」
僕は、パリスさんの言葉を聞き返した。
「それは、たとえ失敗したとしても、どこからかは知りませんが、あの橋の袂まで転移して来て、そのあとは気絶する事もなくピンピンしていたでしょ?それだけでも、保有魔力が膨大だという事が解ります。
さらに言えば、全属性の魔法が使え、私たちの目の前で
収納魔法を使っていたでしょ?
さらにあの魔道具の数々。
これだけあれば、推測する程度はたやすいことです。
『トモエちゃんならば、転移魔法程度は楽に使いこなす』
と。で、本当に所はどうなんですか?」
僕は、正直に本当の事を話していく。
「はい。使う事ができます。ただし、『僕がこの目で視た事のある場所』にしか転移する事ができませんが。このキシュウ王国は、僕は旅した事はありませんので、今は無用の長物的な魔法ですがね。もちろん、あの橋に転してくる直前、何処にいたのかを忘れてしまっているので、その場所に戻る事はできないんですがね。
そういえば、転移魔法が使える事は、隠しておいたほうが言いのでしょうか?」
ついでなので、この世界の転移魔法の価値について聞いてみる。
「別に隠さなくてもいいですよ。
時空間属性を持っている人は、確かに数が少ないですが、1国に対して数人程度は確認できています。当然、持っている人の仕事は、移動要員と荷物持ちになってしまいますが・・・。そのため、時空間属性持ちの人は、すべての権力から保護されています。だから、先ほど申し上げた『転移魔法等でゲートを無視して通過しても、罰せられる事がありません』となるのです。
そのため国も、有事の際に『時空間属性を持っている人の協力』を取り付けるために、様々な優遇処置を国は施しております。
戦争や災害時は、協力如何で結構変わってきますので。
もちろんその上に胡坐をかいて、力を振りかざしている者は罰せられますがね。トモエちゃんは、そんなことはしないと思っています。
それと、時空間属性を持っている者は、たいてい冒険者として世界をまたに活動しています。それは、さっきトモエちゃんが言っていたように、転移できる場所を、1つでも多くするためです。多ければ多いほど、自分を売り込めますからね。
だから、トモエちゃんが、その事で気に病む必要はどこにもありません。」
これはいいことを聞いた。これからは、時空間魔法に関しては自重しなくてもよさそうだ。
「話を戻して、トモエちゃんには、パリダカで冒険者ギルドと商業ギルド、生産ギルドの登録をしてもらいます。」
「そういえば、その話をしていましたね。」
「脱線してしまいまいたが。
まずは、冒険者ギルドですが、これは全世界を旅するのには必修だからです。
私からは、商業ギルド、生産ギルドの登録についての説明をします。
まずは、生産ギルドからお話します。
どんなものにしろ、道具を作る際には生産ギルドに登録しておいたほうが、色々と便宜が図られます。
一番利便性があるのは、素材の融通ですかね。
生産ギルドに登録すると、必要な素材が格安で手に入ります。ギルドに登録しなくても、生産活動は可能ですが、素材の調達から出荷までの工程を、1人ですべて行わなければなりません。ギルドに登録すると、その作業をすべてギルドがしてくれるので、生産者はただモノを造っているだけでいいのです。
その分、年会費などがかかってきますがね。
また、不要な素材を無償で提供する事で、ギルドのランクが上がっていきます。
技術に関しては、新技術や現存の技術の改良などをした場合は、登録する事を推奨しています。登録する事で、技術使用料をもらう事ができます。なおこの仕組みは、世界共通の仕組みのため、何処かの生産ギルドに登録すれば、世界中から使用料をもらう事ができます。」
この世界にも、特許制度が存在しているみたいだ。1か所で登録した特許が、国の枠を超えているのは、地球よりも優れている。地球だと、国ごとに特許登録をしないといけないからね。それで、問題になっている国があるくらいだし。
この世界では、全世界に支店を持っている生産ギルドだから、こんな便利な仕組みができているんだと思う。これは、是が非でも登録をしておいたほうがいいな。
「次は、商業ギルドですね。
こちらは、モノの売り買いをする施設です。
露天商や移動商を含めて、どんなに小さなお店を開くにしても、商業ギルドを通しておかないと、色々と不都合なことが生じてきます。その最たる例が、税金関連と裏組織ですね。
まずは、商業ギルドに登録した際のメリットの部分だけを話しますね。デメリットである税金関連と裏組織については、少しややこしいので割愛します。
1つ目は、ギルドに登録すると、その場で口座を無料で開く事ができます。
この口座は、冒険者ギルドと商業ギルド、生産ギルド共通の口座となっており、相互で入金・引き出しが可能になります。これは、商業ギルドだけに特典で、他のギルドでは、開設負担金が発生します。他にもいろいろなギルドが存在していますが、たいていのギルドは、この3つのギルドの下部組織となっています。
2つ目は、ギルド発行の信用手形があり、商取引時に現金の持ち合わせがなくても、大きな金銭の発生する取引ができることです。
これについては、色々と決まり事があるので今は割愛します。
3つ目は、奴隷の取引関連です。
町の中での奴隷の売り買いは、各町で1ヶ月にに数回行われる奴隷市での取引か、奴隷ギルドが開設している奴隷商館以外の売り買いは、基本禁止されています。そのどちらかに、奴隷を出品する際に、ギルドの会員証が必要になります。
奴隷というのは、知的種族である神霊族・純人族・亜人族・獣人族・大地族・魔族の奴隷と、隷属魔法で奴隷化した魔物やモンスターも含めた総称です。
4つ目は、商会を立ち上げることによって、ギルドを介して商会同士で取引が可能になります。
この取引は、直接双方が顔を合わせていなくても、商品をギルドの納めれば、手数料を引かれた金額がそれぞれに支払われる仕組みになります。つまり、ギルドを支店代わりに利用する事が可能になるわけです。そして、ギルドに併設している小売スペースを使う事が可能になり、ギルド主催の競売にも参加できるようになります。
たいていの商会は、この方法で全世界に展開しております。
これを踏まえて、トモエちゃんには、生産と商品売買を1つに纏めた商会を立ち上げていただきます。
我々『アラガルト商会』と、マークレルが率いる『ライド商会』は、トモエちゃんが立ち上げる商会を通じて取引を行っていきます。」
それはとても便利ですね。転移魔法があるとはいえ、いちいちパリスさんの居場所に転移するのは至難の業ですし、メンドイのでやりたくありません。さらに言えば、旅先で僕の創ったアイテムが売れれば、それだけでたくさんの人の手元に届くことになります。
「わかりました。パリダカについたら、早速3つのギルドに登録します。」
僕は、こう宣言した。
ほどなくして、パリダカに到着した。
さてさて、異世界で初めてとなる街を堪能しましょうか。
そういえば、この町に転移させたあの盗賊さんたちは、どうなったのかな?




