【第18話】旅は道連れ世は情け!?(その2)
「では、僕からの対価は、これを要求しましょう。」
僕は、パリスさんに求めている報酬を話した。
パリスさんに求めた報酬は、次の3つだ。
1つ目。
次の町までの同行の許可と数日間の宿代
2つ目。
適当な武器と数着服を見繕ってほしい
3つ目。
魔物素材の買い取り
パリスさんは快く同意してくれた。
そこに、隣で聞いていた別の商隊のリーダーが割り込んでくる。
「パリス殿への報酬はそれでいいとして。そのお零れに与る俺からも、これを。
そうそう、まだ名乗ってなかったね。
俺はマークレル=ライド。ライド商会の若旦那だ。」
そう話しながら、マークレルさんは、中身で結構膨れている少し大きめの革袋を手渡してくれた。中身を確認すると、予想通りお金だった。いくつ入っているかは知らないが、中身はすべて金貨である。
「ありがとうございます。」
僕は、ありがたく受け取り、万能異空庫の中に革袋を放り込んだ。それを見た商人さんや冒険者の皆様方は、少し驚いた顔つきになる。
「トモエちゃんは、『万能虚空庫』を持っておったんかい?その中には、服を入れておかなかったのかい?」
パリスさんが、こんなもっともな質問をしてくる。
『万能虚空庫』
時空間魔法の一つで、万能異空庫の魔法版みたいなものだ。この魔法を利用するには、100,000MPという莫大な魔力が発動時にかかり、その後も1日当たり5,000MPほどの維持魔力がかかる。そのため、時空間属性をたとえ持っていたとしても、その魔力量から発動できるものが少ないのだ。
さらに言うと、それだけの魔力がかかっていても、中に入る量は、100種類のアイテムを各100個、総重量10トンまでという制限がかかっている。中に入れたモノは時間固定されるため、時間劣化していく事がないのは救いだが。
万能異空庫持ちの僕にとっては、使い勝手が非常に悪い魔法だが、世間一般にとっては、喉から手が出るほど欲しい魔法でもある。この魔法を、何かのアイテムに付与したモノを、総称して『異空間旅倉庫』と呼ばれている。付与されるアイテムは様々であり、使い勝手がいいアイテムほど高値で取引されている。
この事から、マイカちゃんが嵌めている首輪も、大きく言えば異空間旅倉庫といえるだろう。
緩和休題。
「いえ、僕が持っているのは、天恵技能のほうの『万能異空庫』です。」
話を合わせて、『万能虚空庫』と言い張ってもよかったが、素直に本当の事を暴露した。
「服も、万能異空庫の中に入れておけばよかったんですが、ほとんど出かける事がなかったので、入れておかなかったんですよね。身分証は、首からかけていただけなので、こちらに転移するときに何処かに行ってしまいました。元の住処に転移されずに残っているとありがたいんですが・・・・。
今では、その事が悔やまれます。」
「そうでしたか。たしかに、全部万能異空庫の中に入れておけば、無くなる事はなかったんだよな。」
ナルシスさんが同乗してくれている。胸に突き刺さる何かがあったが、ここはスルーして話を進めていく。
「長々と話をしていても仕方ありませんし、さっそく橋を架けてしまいましょう。」
いったん話を切った僕は、流された橋を架け直すため魔法を使った。
当初架かっていた橋は、残骸から推測するに木橋だったみたいだが、僕が架けた橋は丈夫な石橋だ。橋の周りも、土砂が流されるのを防ぐため、橋から前後500mくらいの範囲を石垣で護岸工事をしてある。
これでまた橋が流される事はないだろう。
僕たちは、出来たばっかの端を渡り、最寄りの町へと急ぐ事にした。
対岸にいた商人さんたちも、お礼の言葉と共に、しっかりと対価を払ってきました。僕とマイカちゃんがもらったのは、商品として積んであった反物です。パリスさんから、僕たちが服を1着も持っていない事でも聞いたんでしょうか?
パリスさんが会頭を務める『アラガルト商会』は、キシュウ王国(今僕たちがいる国の名前らしい)を中心に営業をしている旅商人で、取り扱っている商品は、多岐にわたっており、生鮮品と奴隷以外はずべており扱っているそうだ。確かに個の商団だけでも10台以上の馬車を連ねている。
マークレルさん率いるライド商会は、キシュウ王国一の奴隷商らしく、今回は、奴隷の買い付けで国内を走り回っていて、この豪雨に巻き込まれたらしい。確かに、マークレルさんが率いている馬車は、みな鉄格子が嵌められており、その中には若い男女が入れられている。しっかりと見ていないが、全員魔道具の『奴隷隷属の首輪』を嵌められているのだろう。今年は特に、干ばつがひどいらしく、奴隷落ちする人が多いみたいだ。
多大な被害を被ってはいるが、ここ3日間の豪雨は、干ばつ被害が特に大きい王国南部にとっては恵みの雨だったらしい。
そして、ナルシスさん率いる冒険者パーティ『天弓の牙』は、パリスさんの商団の護衛を引き受けているパーティで、護衛をしている15人すべてがパーティメンバーみたいだ。15人と言っても、5人以外は全て奴隷という話である。
今僕らは、パリスさんの馬車に揺られて約100㎞細先にある『パリダカ』という町に向かっている。
ここら辺一帯を治めている辺境伯の領都でもある。
現在時刻は、すでに夕暮れ時。
架けなおした橋からは、40㎞くらい離れている野営地である。今日はここで野営をする事になる。野営地と言っても、街道沿いにある開かれた広場のような場所で、中心付近には、焚き木の後のような黒い焦げ跡があるだけだ。
「さて、どうしたらいいでしょうかね。」
パリスさんとナルシスさん、マークレルさんと護衛のリーダーを務めているガイアスさん、そして、なぜだか知らないが僕が円陣を組んで話し合っている。
少し大きな問題が、道中でもあり、そして、今ここでも起きている。
「ここまでくる道中でも確認してきたが、雨で木々が濡れてしまっている。これでは、火を焚く事ができん。それに、川の水が濁っていて流れが速い。これでは、川の水を使用することは不可能だ。」
問題とは、焚き木に使えそうな枯れ枝などがなく、さらに川が増水して流れが速く濁っている。
「トモエちゃん。何か方法はないかな?」
「そうですね。魔法で何とかしようと思えばできますが、たぶん町に入るまでは、同じ状況になっていると思います。」
魔法で出してしまえば楽なのだが、それは最終手段だとナルシスさんに止められている。今この野営地にいるメンバーでは、魔法使いは、僕を含めて2人しかいない。しかし、その2人は、ここまでくる道中に魔力をほとんど使ってしまい、これからの事を考えると、なるべくならば魔力を温存しておきたいそうだ。
今回は、たまたま僕がいるので、何とでもなるが、いないと完全に詰みの状態である。
「魔道具でも作りましょうか?」
「「「「作れるのか?」」」」
何となしに行った僕の言葉に、他の4人が同時に反応する。
「ぶっちゃけてしまいますが、魔道具は朝飯前です。」
正直に暴露する僕。魔道具程度ならば、どうにでもなる。どんな属性の魔道具でも作りだす事ができる。
「トモエちゃん。どんな魔道具でも作れるのかい?」
「はい。全属性持っているので、どんな性能の魔道具でも可能ですね。素材から造りだす事も、何かの道具に付与する事も含めてです。
何なら、遺失文明魔道具も作ろうと思えば作れますが。」
「「「「言い値で買うから、作ってくれ!」」」」
人の声がきれいにハモリました。少し声が大きかったらしく、何事かと周りの人たちがこちらを凝視しています。
「今回は、綺麗な水だ出る魔道具と、焚き木の代わりになるような魔道具。
・・・・それ以外については、後ほど交渉の場を設けましょう。それでいいですね。」
パリスさんの糸声で、この場を引いてくれる3人。
「では、ちゃっちゃと作ってしまいましょう。まずは水の出る魔道具から。形状はどうします?まあ、推奨みたいな感じでいいかな。
『魔道具全自動製作』」
いつものように、無詠唱で魔法を行使します。今回は、予め魔道具を作るための創っておいた新魔法を使用します。この魔法を使用すると、僕にだけしか見ることのできない設定画面が開き、その画面に沿っていろいろと設定していきます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《魔道具名称》温度指定式湧水水晶
《付与対象アイテム》直径3㎝の水晶(素材錬成)
《付与対象魔法》湧水(水属性)
《発動条件》使用者が魔力を注いだ時(遠隔操作式)
《その他の設定》
(1)1回につき入れられている入れ物を満たす(使用魔力は1ℓにつき10MP)
(2)回数制限なし
(3)温度指定は、魔力取り込み時の術者のイメージに依存
《製作個数》100個
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
モノがモノだけに、直接地面に置くのは憚られるので、適当な器を創ってその中に作成する。
「では、実験してみましょう。ナルシスさん。何か水筒のようなモノを持っていませんか?」
「水筒か?それならば空になったこれを使ってくれ。」
そう言って見せてくれたのは、竹でできた水筒です。大きさは、1ℓほど入る大きさモノです。
「ではナルシスさん。この中の一つをその水筒の中に入れて、魔力を流してください。その際、冷たい水がほしいと念じてみてください。」
「それだけでいいのか?」
「はい。それだけでいいです。」
僕の指示通りに、魔力を流すナルシスさん。すると、水筒から溢れるほど水が出てくる。3ℓほど出たところで水が止まる。
「少し流す魔力が多すぎましたね。そこら辺は要調節です。冷たい水ですか?」
「確かに、とても冷たい水だな。持っている手が凍えそうだ。
ゴクッ!!ゴクッ!!ゴクッ!!
冷たくておいしい水だな。」
「はい。この世界にある、一番おいしいと言われている湧水をイメージして作り上げたので、たぶんその湧き水の味がしていると思います。何処に存在しているのかは知りませんが。
あと、その水晶を水筒の中に入れておけば、いつでもその湧き水を飲む事ができます。魔力を込めるときに、どのくらいの温度がいいかイメージすれば、その水温で水を生成します。
で、この魔道具。使えますかね?」
「使えるも何も、こんな便利な魔道具ならば、金貨100枚出しても買う人はいる思いますよ。それで、トモエちゃん。この『温度指定式湧水水晶』は、いくらで卸して貰えるんですか?」
僕の質問に、肩を震わせて答えるパリスさんとマークレルさん。
「その『温度指定式湧水水晶』は、サンプルとして差し上げます。
まだまだ造らないといけない魔道具もあります。それに、そのあと食事も作らないといけません。そこらへんのお話は、後ほどでいいでしょう。」
あとで聞いたことだが、そもそも魔道具を作るのには、属性を司る魔物やモンスターの魔核が必要となる。僕が作ったように、魔法を付与するやり方もあるのだが、製作者が使える魔法しか付与できないため、たいていの魔道具は魔核を利用して作られている。そのため、どうしても魔道具は効果になり、生活に密着するものは少なくなる傾向があるという事だ。
その後僕は、生木を乾燥させる魔道具を作った。『移動式乾燥室』と名付けた。
この魔道具は生木のほかにも、濡れた衣類や食料品なども乾燥させることができるため、それなりに大きく小型の馬車を改造して作らせてもらった。動力となる魔力は、100MPで2時間ほど動かす事ができる。また、馬車が動いているときは、車軸に設置した発電機みたいな装置で、空気中を漂う魔素を取り込んで魔力に変換して動力にしている。
この『温度指定式湧水水晶』と『移動式乾燥室』については、パリスさんとマークレルさんが、僕の言い値で購入してくれることが決定している。
さて、いくらで卸そうかな?
考えモノである。




