【第13話】隷属魔法と奴隷の証(その1)
「そういえばさあ、トモエ君?」
必死に文字を書き写していたマイカちゃんが、ふとそんな事を言いながら視線を向けてくる。昨日の内に、この世界の都はあらかた調べてしまったため、今日は、マイカちゃんの文字の勉強に付き合っている。どうせ外は雨なので、どこにも行く気は起らないからだ。
午前中は、昨日渡した絵本を読み聞かせてから、その後マイカちゃんに読んでもらい、読み詰まったところを確認していく。教材が絵本だという事に、マイカちゃんは何も思わない。本人に聞いても、
「全く読み書きする事ができないんだから、絵本ほど素晴らしい教材はないと思うよ?文字と絵が対応しているところがまた素晴らしいと思ったりする。幼少教育に絵本を使うのは、文字を一から勉強している私から見れば、本当に理にかなっているんだね。」
というありがたい回答を得た。今マイカちゃんが持っている絵本を、無理なく読む事ができたら、次のステップへと進む予定だが。
閑話休題。
「何?マイカちゃん?」
「私の首に嵌っているこの首輪。魔道具の『奴隷隷属の首輪』とは、全く違うものなんだよね?そして、向こうの首輪と違って、二度と外す事ができないって聞いてたけど、・・・・どうしてなの?その理由は、まだ聞いていないんだけど。」
「そうだったかな?」
僕は、マイカちゃんに出逢ってからこれまでの事を思い出してみる。確かに、なぜ二度と外す事ができないかの理由を言うのを忘れていた。
なので、改めて、隷属魔法の事を一から話す事にする。
「僕の奴隷にする前にも話したけれど、マイカちゃんと僕との奴隷契約。
とある理由で、二度と解除する事はできないんだ。つまり、マイカちゃんは、二度と自由の身に戻る事は叶わない。
ここまでは話したよね?」
「うん。」
「まず、隷属の首輪を外せない、というか、隷属魔法を解除できない理由はね。
『魔法の無効化』に関する制約があるからできないの。
で、魔法を無効化するには、次の制約があるの。」
そう言って僕は、魔法について調べた事柄から無効化に関する事を話していく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
魔法を無効化する際(結界や相反属性など)は、込められた魔力の倍の魔力を込めないと完全に無効化はできない(それぞれ込められた魔力量の比率により、無効化される割合が変化する)。
自身で創った魔法を無効化する際は、次に示す制約がある。
(1)魔法効果が短時間で解除される魔法
込めた魔力量の2倍の魔力を与えて、相反する魔法を放てば無効化できる。この方法で、保有する魔力量を増大させることができる
(2)魔法効果が永続化する魔法
無効化する際は、属性の上位魔法で無効化する事ができる。そのため、上位属性で構築された魔法は、基本的に無効化する事ができない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんな理由で、解除できないんだ。さらに言えば、隷属魔法は闇属性・・・つまり、上位属性の魔法だから、もともと無効化する手段がないの。ついでに言えば、魔法効果が永続化する魔法だからね、隷属魔法は。
上位属性のさらに上の属性があれば、話は変わってくるんだけど・・・・。僕が知る限りはないんだよね。そんな属性。あとは、そうそう。
自分で創った魔法を打ち消すには、」
「ふ~~~ん。つまり、トモエちゃんが創った魔法だから、奴隷化を解除するすべが見当たらないんだね。永続化って、どうやって永続化させているの?」
「時間指定で効果が切れる魔法は、込められた魔力が無くなった時に魔法が消えるんだけど。永続化する魔法の仕組みは、常に何かから魔力の供給があるという事。つまり魔力の供給を断てば、魔法が切れるんだけど、隷属魔法は特別だからね。其れすらもできないんだよ。」
「特別とは?何となく解る気がするけど。」
「マイカちゃんが出した答えを言ってごらん?」
「トモエ君の話で出てきた『魔力供給』だけど。トモエ君からは、首輪から伸びているこの半透明の鎖から魔力を供給しているんだよね。」
「そうだよ。」
「もう1つは、首輪を嵌められている私からも、魔力を供給しているんじゃないの?」
「よくわかったね。ちなみに、魔道具である『奴隷隷属の首輪』は、嵌められているモノの魔力で動いているからね。」
「そうだったんだ。」
そんな事を話しながら、マイカちゃんのステータスを流し読みする。
ちなみに隷属化対象のステータスは、主人となった者は何時でも無許可で確認する事が可能になる。『奴隷には人権は存在しない』というが、プライバシーすらも主人に対しては筒抜けなのだ。もちろん、このことは、魔道具で奴隷化されても変わらない。
そして僕は見つけてしまった。もう1つ、謝らなくてはいけないことを・・・・。これは、僕のステータスにもしっかりと追加されている。
「もう1つ謝る事があった。」
「何?」
「マイカちゃんのステータスを視てごらん。」
「・・・・ステータスって、視る事が出来るの?」
「そういえば、『万能鑑定』か、『ステータス鑑定』の魔眼がないと視る事ができないんだった。」
「という事は、トモエちゃんは視る事が出来るんだ。」
「うん。マイカちゃんに対しては、プライバシーは何一つ存在しないね。それが、奴隷に落とされた者の定めだから諦めてね。」
「という事は、あの村の村長だった人物は、私のステータスが筒抜けだったってこと?」
「そういう事。そうしておかないと、奴隷が持つスキルの確認ができないでしょ?
奴隷は人ではなく、モノ扱いだからね。
所有者には、すべてのスペックを開示をしておかないといけないという理由が、一番大きいな理由だと思う。そして、そのスペックの改変は、主人の気持ち一つということだ。だから、奴隷のスキルを封印する事が可能になるんだよ。
現に、本人が知らない場所で、マイカちゃんのスキルのほとんどが、封印されていたんだからね。」
何かいい案はないかと思い、マイカちゃんのステータスを視る僕。すると、天恵技能の中に、使えそうなスキルを発見した。そのスキルを鑑定して、これならば何とかなるかとマイカちゃんに教える。いろいろと制限がかかってはいるが、手っ取り早く習得させるにはこれほど便利なスキルはない。もちろん、修練次第で身につくスキルは、このスキルで習得させることはしないが。
そうそう。勝手に複製しないように、隷属魔法で『制限』をかけておかないといけない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【スキル名称】無断複製(限定)
【スキル種別】天恵技能
【スキル習得条件】△▽
ランダムで付加されるスキル
【スキルの効果】
他人のスキルを複製して自分のスキルにできる能力。
『限定』がついているため、複製する際には次の制限がかかる。
(1)天恵技能の複製はできない
(2)複製したスキルは、相手のレベルにかかわらず『LV1』での複製となる
(3)複製したスキルのレベル上げは、通常の10倍の経験値がかかる
(4)スキル保有者は奴隷のため、所有者が指定したスキルしか複製できない
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「マイカちゃん。『無断複製(限定)』っていうスキルを使って、僕のステータスから『世界樹の魔眼』・『成長特化』・『成長促進』の3つのスキルをコピーしてほしいのだけど。」
「・・・・。できたよ。」
「それじゃあ、その中の『世界樹の魔眼』ていうスキルで、、ステータスの確認ができるから。使ってみて。」
「おお~~~~~!!!!」
問題なくステータスを視る事ができたみたいだ。
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【名前】マイカ=キリサキ
【年齢】120歳【性別】女
【種族】混血族(人間族+エルフ族)【身分】生涯奴隷
【生涯レベル】LV15【職業レベル】LV3(LV12)
【天啓職業】異界の剣闘士【現在の職業】戦闘奴隷
【奴隷隷属設定】△▽
《所有者》トモエ=アスカ
《隷属方法》隷属魔法による隷属
《奴隷区分》戦闘奴隷
《奴隷期間》無期限(変更不能)
《奴隷制約①》所有者から半径1㎞以内のみ自由行動許可
《奴隷制約②》戦闘行為は所有者の許可が必要
《奴隷制約③》『無断複製(限定)』の使用は所有者の許可が必要
【基礎能力値】△▽
《生命力》1,290HP
《魔力》1,200MP
《防御力》1,200DEF
《筋力》2,300STR
《俊敏力》1,200AGI
《器用力》1,000DEX
【称号】△▽
異世界からの客人・転生者
剣神の戦神子・武闘神の戦神子
販売奴隷(元)・ランエ村の奴隷(元)・盗賊団の販売奴隷(元)・性処理奴隷(仮)・戦闘奴隷・トモエ=アスカの生涯奴隷
【加護・呪縛】△▽
剣神の加護・武闘神の加護・神人族の加護
隷属魔法の呪縛・生命の呪縛
【属性魔力】△▽
風・火・無
【天恵技能】△▽
剣術の才能
武術の才能
無断複製(限定)(許可制)
不老不死
【無断複製技能】△▽
世界樹の魔眼(LV1)・成長特化(LV1)・成長促進(LV1)
【種族技能】△▽
万能才能(LV2)
【固有技能】△▽
言語理解(LV4)・環境適応(LV5)
料理(LV1)・清掃(LV2)
農作業(LV3)・解体(LV5+1)・採集(LV5)
薬学知識(LV5)・医学知識(LV5)
異界剣術(LV5)・異界格闘術(LV5)
斧術(LV1)・棒術(LV1)・棍術(LV1)・槌術(LV1)
【耐性技能】△▽
生活耐性(LV5+1)・物理耐性(LV5)・魔術耐性(LV3)・精神耐性(LV5+1)
病気耐性(LV5+1)・毒耐性(LV5)・細菌耐性(LV5)・痛覚耐性(LV5+1)
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「マイカちゃんのステータスについては、後でいろいろと確認するよ。マイカちゃん自身も知りたい内容とかあるだろうしね。」
「うん、それでいいよ。」
「それじゃあ、最初の話題に戻るけど。」
「うん。」
「隷属魔法をかけられた時現れる首輪と首輪に嵌っているプレート、半透明の手枷・足枷、そして鎖とこのブレスレットから説明するね。」
「お願いします。トモエ君。」
僕は、マイカちゃんの前に置き鏡を出し、マイカちゃんを映しながら説明を始める。
「まず初めに、マイカちゃんの首に嵌っている『隷属の首輪』から説明するね。」
「うん。」
「この首輪自体、僕の魔力でできている。首輪の色が黒いのは、闇属性の属性色が黒色だからだ。光沢があるのは、込められている魔力の純度が濃い証拠だよ。首輪の太さはデフォルメだから、なぜこの太さなのかは僕にも解らない。
ちょっと実験。
指で首輪の内側を触ってみろ。」
僕は、何なしにこんな命令をマイカちゃんにする。
僕の命令で、マイカちゃんの指が勝手に動いていく。命令伝達もうまくいっているみたいだ。
普通は何もないので、指は首輪の内側を一周するのだが、5か所で指が止まってしまう場所がある。マイカちゃんは、その事を不思議に思っているので、命令を解除してから、魔道具である『奴隷隷属の首輪』を机の上に置きながら説明してあげる。
「魔道具の首輪にもあるけど、内側の出っ張りは命令を伝達するための補助具みたいなものと、嵌められた者の魔力を供給するためのモノだね。」
魔道具の首輪の内側には、針のような出っ張りが10か所付けられている。
「魔道具では、この針みたいな部分を地肌に突き刺すことで命令を伝達させていたんだけど、魔法では、首の後ろと左右の5か所にある伝達神経みたいな場所に、魔力線を直接繋げることによって命令を伝達しているんだ。
その魔力線自体も、僕が魔力で創りだしたものだからね。切断するには、無効化する方法でも話した通り、僕の魔力量の2倍の魔力を注がないといけないよ。その魔力線も闇属性だから、切断する事はできないんだけどね。」
「ふ~~~ん。わかったようで、ぜんぜんわからないよ!!」
「別に、魔法の理屈は解らなくても生きていけるからね。まあ、そういうものだという事だけ理解していれば今はいいよ。」
「わかった。」
こうして、マイカちゃんに嵌められている、首輪や枷なのどの説明を始めていくのだった。




