【第11話】万能異空庫の新たな能力
午後になって初めての休憩時間。
マイカちゃんの頭からは、少し煙が噴き出している。これは、沈静化するまで暫くかかるなと思いながら、窓際まで歩く。マイカちゃんは、ふらふらと歩きながらキッチンへと行き、飲み物とコップを持って僕のほうへと歩いてくる。
「この現象。トモエ君の魔法なんだよね?」
飲み物が入ったコップを手渡しながら、マイカちゃんがこう話してくる。
奴隷であるマイカちゃんは、普通の奴隷契約では、主人が所有するあらゆるものを触ったり動かしたりする権利はない。主人からの命令がない限り、食事が終わった皿1枚たりとも動かす事ができないのだ。
それは、奴隷自身が主人の所有物だからだ。そのため、奴隷の主人の事をこの世界では、『所有者』と表現している。
しかしそれでは、色々と不都合が生じるため、制約をかけて、奴隷自身が自由意思でできる範囲を決めているのだ。
で、僕とマイカちゃんの場合は、この家?の中にあるモノは、自由に使ってもいいという事にしてある。要するにマイカちゃんは、隷属魔法の時にかけた制約である『所有者から半径1㎞以内のみ自由行動許可』と『戦闘行為は所有者の許可が必要』以外は、奴隷でありながら平民同様に普通の暮らしができるのだ。
閑話休題。
「それがどうしたの?」
不思議に思うそう聞いてみる。
「だって、トモエ君の説明だと、最大で半径200㎞ほどの範囲で暴風雨と落雷を起こしていたんでしょ?この魔法。そんな魔法を、平然と使ったトモエ君って、なんだかチートだと思ってさ。」
「チートか・・・・。確かに僕は、極ブリの魔法チートだね。」
「どういう意味?」
マイカちゃんに、僕のステータスと持っているスキルを簡単に解説する。
「トモエ君だけずるい。一生懸命に頑張っているみんなに対して、土下座するレベルだよ?それ。
そして何?今の保有魔力量が100万を超えているなんて!!」
「は・は・は・は」
僕は、空笑いするしかなかった。そして、逃げる。
「さて、雑談はこのくらいにしておいて、お勉強の続きでもしようかな?」
「は~~~~い。」
「じゃ、この世界で流通している貨幣から行こうかな。ちょうど盗賊たら巻き上げた本物がある事だしね。」
そう言いながら僕は、机の上に大小さまざまな大きさの貨幣を並べていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【流通している貨幣】
流通している貨幣は、世界共通通貨を使用している。通貨単位は、1000年ほど前は存在していたが、現在は使用されてなく『銅貨1枚』などと数えている。国や地域の経済状況により、その価値が多少異なっている。
《使用されている硬貨》
市井に流通しているのは、青銅貨・銅貨・穴銅貨・銀貨・穴銀貨・金貨の5種類で、金貨の上には、王金貨と水晶貨が存在し、銅貨の下には青銅貨と貝貨が存在ている。
各貨幣の交換比率は次の通りとなる。
=貝貨・青銅貨=
貝貨100枚で青銅貨1枚の価値
奴隷に支払う賃金として使われている以外は、まったく価値のない貨幣。
=青銅貨=
青銅貨100枚で銅貨1枚の価値。
市井で確認できるもっとも価値が低い貨幣。ただし、たいていの商品は銅貨単位での販売なため、ほとんど流通していない。
そのため、奴隷に支払う賃金として使われている。
=銅貨・穴銅貨・銀貨・穴銀貨・金貨=
銅貨10枚で銀貨1枚の価値。
銅貨5枚で穴銅貨1枚の価値。
銀貨10枚で金貨1枚の価値。
銀貨5枚で穴銀貨1枚の価値。
金貨1,000枚で王金貨1枚の価値。
王金貨1,000枚で水晶貨1枚の価値。
=王金貨・水晶貨=
大きな取引の際しか使われる事がない貨幣。そのため、流通量も極端に少なく、貴族背もあまり使う機会は(特に水晶貨)ない。
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「これはマイカちゃんの分だね。」
そう言いながら、机の上の置かれた貨幣のいくつかを、マイカちゃんに手渡す。
「このお金は何?」
不思議そうな顔で、マイカちゃんが訪ねてくる。
「今僕が持っているお金は、盗賊団から巻き上げたものだ。そして、その盗賊団は、当然マイカちゃんが暮らしていたあの村から、村人たちが蓄えていたモノを巻き上げているはず。」
「・・・うん。盗賊さんたちは、確かに村の家々からすべての財産を接収していたよ。私は、鉄格子の中にいたし、そもそも私物なんか、何一つ持っていなかったからね。盗賊さんたちも見逃してくれたんだけどね。」
「マイカちゃんは、あの村で110年間奴隷をしていた。そしてその間、本来ならばもらえるはずの賃金をもらっていなかった。村にあったお金も盗賊の財産になっているから、そこからマイカちゃんが貰えるはずだった110年間の賃金を払おうと思う。
それは、このお金だ。
一応計算としては、申し訳ないんだけど、奴隷に払う賃金の最低額である1日貝貨1枚を基準にして・・・・。1年420日が110年間だから、貝貨で46,200枚だから、銅貨4枚と青銅貨62枚が、マイカちゃんの110年間の賃金だ。最低額なのは、あの村基準で行ったから許してね。」
そう言いながら、マイカちゃんの前に置かれているお金の説明をする。
盗賊団が持っていたお金の中で、青銅貨があってよかった。貝貨もしっかりとあった。たぶん村々にいた奴隷たちが持っていた財産だろう
と推察する。
「で、ここからが、僕の奴隷としての賃金だ。
マイカちゃんが、僕の奴隷になって今日で2日目。僕が、マイカちゃんに支払う賃金は、奴隷の賃金としては最高額に指定されている1日銅貨1枚。後は、戦闘行為で仕留めた魔物やモンスターの討伐報酬と素材売却益の1%を支払う事にするね。
で、これが、昨日の分の銅貨1枚。今日の分は、1日が終了して寝る前に渡すから。」
「うん、それでいいけど。そんなに貰ってもいいの?」
「銅貨1枚の価値は、日本円で言うと大体100円くらいの価値だからね。駄菓子程度しか買えないよ?
だから、いくら働いても、普通はお供のお小遣い程度しか奴隷は賃金を貰えないんだ。いや、お小遣い以下かな?」
「それでも、自由に使えるお金があるのとないのとでは、全然違うよ!」
「それはそうだけどね。」
マイカちゃんは、机の上のお金を数えながらご満悦な顔だが、ふいにある事を思い出す。
「そういえば、私、私物が何一つもっていない。どうやってこのお金、管理しようかな?」
マイカちゃんのその呟きに、ある事を思い出した僕。
「そうだ。マイカちゃん。僕の実験に付き合ってくれると嬉しいな。」
「実験?内が始まるのか知らないけど、『奴隷がご主人様の命令には逆らえない事』は知っているでしょ?」
「何か、言葉が二重音声で聞こえたんだけど?」
「嘘は言っていないよ?本当の事だから、いいじゃない?」
「・・・・。まあ、いいや。では早速、実験開始と行こうか。」
そう言って僕は、『万能異空庫』の中に新たに加わった『フォルダー管理設定』と書かれた項目を開き、『フォルダー管理権移行設定』という項目を開く。
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【フォルダー管理設定】
使用フォルダー一覧△▽
フォルダー新規作成△▽
フォルダー貸与設定△▽
フォルダー管理権移行設定△▽
(1)フォルダーの管理権を移行します。次の項目を設定していってください。
《譲渡する者の名前》マイカ=キリサキ
《管理者との続柄》管理者の奴隷
《譲渡期間》一生涯(生涯奴隷のため)
《管理者のパスワード》XXXXXXXXXXXX(内容を変更する際に必要です)
《譲渡者のパスワード》XXXXXXXXXXXX(内容を変更する際に必要です)
《フォルダー名称》マイカちゃんの私物入れ
《フォルダーの出入り口》隷属の首輪
《フォルダー容量》
最大収納数:100種類を100個まで(変更不可)
最大重量数:1種類当たり10,000㎏・総合計1,000,000㎏まで(変更不可)
最大容積数:1種類当たり100㎥・総合計10,000㎥まで(変更不可)
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僕は、表示された項目に設定をしていく。
まずは、名前を入力してから、新しくフォルダーを新設し、その名前を『マイカちゃんの私物入れ』という名前に変更する。そのほかの項目は、マイカちゃんの名前を入力した瞬間に自動設定された。そして、変更ができない仕様になっていた。
このことから推察するに、奴隷に管理権を移譲すると、自動的に首輪が指定されるみたいだ。また、容量も自動的に設定されてしまい変更不可と出た。
2つのパスワードは、どうせマイカちゃんとは生涯離れる事はないので、適当な文字を12文字並べた。《譲渡者のパスワード》のほうは、普通は僕には設定する事はできないのだが、マイカちゃんが僕の奴隷という事で、僕に設定する権利が生まれたみたいだ。奴隷になると、こんな事まで自由に出来ないんだと思った。
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(2)魔力パターンを入力してください。
譲渡予定者は管理者の奴隷なため、すでに魔力パターンを登録済みです(隷属魔法での魔力登録を引用しました)。
(3)指定したフォルダーの管理権を移行します。
しばらくお待ちください・・・・・
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魔力パターンは、奴隷契約の時に行っているため、改めて行う必要はないみたいだ。さて、いつマイカちゃんの魔力を登録したのだろうか?
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作業を完了しました。
指定したフォルダーの管理権は、管理者の手から離れました。
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こんなメッセージとともに、作業が完了した。試しに、『使用フォルダー一覧』を開いてみる。
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【フォルダー管理設定】
使用フォルダー一覧△▽
《フォルダー名》食材関連△▽
《フォルダー名》服飾関係△▽
《フォルダー名》魔物の素材△▽
《フォルダー名》野営道具△▽
《フォルダー名》その他△▽
《フォルダー名》マイカちゃんの私物入れ(表示不可)
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ほかのフォルダーに関しては自由に開く事ができたが、『マイカちゃんの私物入れ』だけは、『△▽』が『(表示不可)』に変更されており、中身を視る事ができなくなっていた。
さて、こちら側の設定は終わったので、マイカちゃんに実際にやってもらおう。
「僕のほうの設定は終わったから、マイカちゃん。そのお金に手をかざすか、お金を持って『収納』と心の中で唱えてくれる?」
マイカちゃんは僕の指示を聞いて、賃金として渡したお金の山に手を翳した。すると、そのお金が一瞬で消える。
「何が起こったの?」
わけが解らないという顔つきのマイカちゃんに、僕が行った実験を説明する。そしてマイカちゃんは、中に入れたお金の中から、銅貨1枚を取り出した。そしてまた収納したり、マイカちゃんに手渡したモノを収納したりと忙しそうに動いている。どうも、奴隷という事が制約をかけているのか、僕がマイカちゃんに手渡したモノしか収納ができないみたいだ。
新たな発見をしたのでよしとする。
「・・・・つまり、トモエ君のスキルである『万能異空庫』の中のフォルダーの一つが、私が管理できるようになって、奴隷の首輪を介して自由の出し入れできるようになったと。さらに、その中に入れられているアイテムは、トモエ君には自由に視る事も移動する事もできないと。」
「そういう事。そして、このフォルダーは、マイカちゃんが僕の奴隷であり続ける限り、マイカちゃんが管理する事になる。
そうそう、首輪から2m以内ならば何処にでも出し入れできるけど、それだと、色々と面倒事が発生するかもしれないからね。緊急時以外は、誰から見ている前では使っちゃいけないよ。」
「それは解っているよ。普通は奴隷が持っても言いモノではないからね。」
「今日最後の授業は、マイカちゃんには、ちょっとしたテストを受けてもらおうかな?」
「テスト?」
「簡単なモノだよ。僕が言った単語を、表記図を見ないで書き取ってもらうだけだからね。」
こうして、書き取りテストが始まったのだった。




