異世界転生は爆弾テロから
真っ白な空間に点在する数多の島々。
その中の1つに佇む、絢爛豪華な建物の中。
僕は、その建物の中にある1室で、これまた豪華な机を挟んで1人の女性と対面している。
その女性は、質素なんだがとても煌びやかな貫頭衣に身を包んだ金髪のお姉さんだ。それも、この世のモノとは思えない、絶世の美女である。
そして、僕とこの美女さんとで、今現在お茶会を開いている最中である。
「伴衛君?それとも巴恵ちゃん?」
「どっちでもいいですよ。ところで、お姉さんはいったい誰ですか?」
「それじゃあ、今の服装から巴恵ちゃんって呼ばせてもらうね。
アッ、そうでした。まだ名乗っていませんでしたね。
私は、巴恵ちゃんが暮らしていた国日本を管理していた神々の1柱で『日神子』と言います。俗世では、『天照大明神』と呼ばれています。
私の事は、日神子と呼んでいただいて結構です。」
僕の名前は、伴衛飛鳥。
享年17歳で、”男の娘”。
なんか漢字が微妙に違うが、・・・・気にしてはいけない。
僕には、もう1つの名前がある。
その名前は、飛鳥巴恵。
享年17歳で、”女の子”。
いわゆる偽名だ。
僕はこの年にして、すでに2つの名前を持っている。
誇張でも中二病的なあれな感じでもなく、公的な戸籍も2つ持っている。
これは、日本国政府も公認の、僕を”偽装”している手段の1つだ。
性別すら偽り、普段もまた女の格好をしている僕だが、とある事をきっかけに初めた”女の子”が、今現在の僕の生活のすべてだったりする。
男の娘に戻るのは、僕が始めた”仕事”の時だけだ。
その仕事すらも、月に1度か2度あるだけでなので、女の子ライフは、僕の生活のすべてといっても過言ではない。
そのため、現在の僕が普段名乗っている”本名”は、男としての『伴衛飛鳥』ではなく、女としての『飛鳥巴恵』の方である。
普段の生活すべてが、『飛鳥巴恵』として生活をしているのが”僕”という人物である。
まあ、僕の事はとりあえずここまでにしておいて。
なぜ、僕がこの絶世の美女である天照大御神と、豪華な部屋でお茶会なんぞ開いているかというと・・・・。
「巴恵ちゃん。あなたは、つい先ほどご臨終しました。享年17歳です。
死因は、隣の国の現職軍人さんが起こした爆弾テロによるものです。」
どうも僕は、死んでしまったらしい。それも、爆弾テロで死んでしまったらしい。
「それで、日神子さん。ここには僕以外見当たらないのですが、テロに巻き込まれたのは、僕しかいないのですか?」
「いえ、テロが遭った現場は、あなたが通うはずだった学校の講堂です。ちょうどテロの遭った時間、講堂内では、入学式と言う式典が開かれていました。
件の軍人さんは、事もあろうかその講堂内に、事前に超小型の核爆弾を仕掛けて破裂させました。その影響で、講堂を中心に少なくとも半径1㎞圏内が核汚染され、その中にいた人すべてが犠牲になって死んでしまいました。」
日神子さんが話してくれた内容によると、核爆弾の影響下にあった半径1㎞圏内にいた人数は、少なくとも2,000人に上っているという。その中には、世界各国の要人も含まれており、件の軍人が所属していた国は、世界中から非難を浴び、現在すべての国家と国交が断絶しているそうだ。
現在僕がいる世界は、神界で地球の時間軸とは切り離されている世界だ。そして、地球では、そのテロが起こってすでに1年以上が経過しており、件の国ではすべての貿易が止まっているため、現在国内が大混乱をきたしているらしい。
さらに悪い事は続くらしく。
つい先日、その国と敵対関係にある北隣の国がいきなり侵攻してきて、現在国土の5割近くがすでに切り取られてしまっているらしい。
その国のトップたちは、現在戦争をしながら世界中の国に対して、土下座外交を繰り広げているみたいだ。
自業自得と言う事で、神々からも見放されてしまっているという話だ。
何故、神々からも見放されてしまっているのかというと、その国の宗教観も影響しているが、一番の理由は、世界の神々の寵愛を受けていた者たちが、すべてそのテロに巻き込まれて死んでしまった事が大きい。
その神々の寵愛を受けているうちの1人が、どうも僕みたいだ。
そうそう。テロに巻き込まれてしまった2,000人だが。
現在、ここ神界の何処かで、僕のように神々から説明を受けている最中である。
「それで、僕はどうなるんですか?このまま輪廻の輪に入って新たな生として何処かに生まれ変わるんですか?」
「いや、巴恵ちゃんをはじめとした神々からの寵愛を受けている人たちは、それぞれの寵愛を受けている神が管理している異世界に、知識や技能などをそのまま受け継いで新たな肉体を創って転生してもらう予定かな。
で、巴恵ちゃんなんだけど。
少なくとも、私を含めて10人の神々の寵愛を受けているからね。
すべての世界の中心である『唯一無二の世界』の転生してもらおうと思っているの。」
その後僕は、『唯一無二の世界』について、日神子さんからレクチャーをうけた。
この世界に転生するのは僕1人だけだが、輪廻の輪を潜って転生してくる魂について、僕の我儘が通ってしまった。
その我儘とは。
『僕と出遭った転生者は、その時に地球での記憶を呼び覚ます。
僕と出遭うまでは、記憶は封印されているが、地球で身につけた技能に関しては、【固有技能】という形で引き継がれる。
僕と出遭わない限り、この固有技能も封印される(ただし、本人の努力で封印が解除される場合もある)。』
一応救済処置として、我儘を言ってみたが、僕は転生後に探し出す事はしないと日神子さんには話している。偶然に出遭うから、こういう事は面白いのだ。わざわざ探し出してまで、力を覚醒させる必要などはないのだ。
「唯一無二の世界では、巴恵ちゃんの好きなように生きていっても構わないわよ。世界を征服してもいいし、自由気ままに旅をしてもいい。
巴恵ちゃんには、神々からの祝福として、いくつかの【天恵技能】が付与されているはずだから、転生後に確認しておいてね。確認の仕方は、巴恵ちゃんが好きだったゲームと同じ方法でできるから。
そうそう。これを渡しておくわ。」
そう言いながら日神子さんが、僕に手渡してきたのは、僕が生前?に使っていたスマートフォンだった。もっとも、その薄さと大きさは、クレジットカード並みなんだが。
「これは?」
「巴恵ちゃんが、生前に使っていたスマートフォンを少しいじったモノよ。唯一無二の世界では、これが身分証明となっているから失くさないでね。この中には、身分証明となるデータのほかに、『聖魔創世記録年鑑』にアクセスして唯一無二の世界のあらゆる情報が閲覧できるアプリのほかに、巴恵ちゃんが、生前に使っていたスマートフォンにダウンロードしていたアプリがすべて使えるようにしてあるから。もっとも、電話やメール機能は、今のところ私としか繋がらないようになっているけどね。
ちなみに、この機能は、この世界の住民が持っているカードにはない機能だからね。むやみに他の人の前では使わないことをお勧めするわ。
ここでは詳しく説明しないから、向こうについたら確認してね。」
「解りました。詳しくは、向こうについてから確認してみます。」
「後、向こうの町についたら、とりあえず神殿に立ち寄ってね。神殿の中からなら、ここに来ることが可能になるからね。私のほかにも、巴恵ちゃんとお話ししたい神たちがたくさんいるから、絶対に神殿に来てね。」
「わかりました。」
何か、途轍もなく大変な事が起きそうだが、ここは素直に神殿に行こうと思っている。
「世界の詳細については、カードで確認してね。
そろそろお別れだね。
第2の人生を、思い切り楽しんでちょうだい。」
「いろいろとありがとうございました。日神子さん。」
僕は、光の粒になって神界を旅立っていく。
新たな人生を歩むことになる『唯一無二の世界』にむけて・・・・。