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第一級国家建国士  作者: 土ノ子 三台
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魔紋鑑定

俺は豪華なソファに腰掛けて老人と向かい合わせで座っていた。

あの後老人の屋敷へと招待されたのだ。


途中乗せてもらった馬車の中では特に何を話すでもなく、覚えているのは屋敷に到着した時の事だけだ。

かなり大きなお屋敷で、街中だというのに広い庭があり。遠目に庭師さんが手入れをしているのが見えた。かなり小柄な庭師さんだ。

こっちに気付いて会釈してきたのでお辞儀し返しておく。

すると老人が不思議なものを見るような目で見てきた。

しまった。もしかして貴き身分の者は下働きの人にいちいちお辞儀なんかしないものなのかもと思ったが、こちらは身分差別の薄い日本生まれの日本育ち、偉い人の振る舞いなんて知ったことではない。

すました顔で老人に愛想笑いを返しておいた。


「さて、貴き御方。まずは自己紹介をさせて頂きたい。私の名はセヴェルス・オベイロン。このガルガーノの街の領主を務めております」


俺の回想を遮るように、老人が軽く魔紋を見せながら名乗る。

これがどうやらこの世界での挨拶の仕方なのだろう。

俺も左手を持ち上げて挨拶を返す。


「国木修といいます。出身は……信じてもらえないかもしれませんが、ここではない世界です」


ちょっとためらったが、思い切って本当の事を言ってみる。

隠し事をしてもすぐにばれそうな気がしたというのもあるが、目の前の老人に隠し事をするのが何だか嫌だった。


「ほう、ここではない世界ですか」

「信じられないですよね」

「いえ、信じますよ。他ならぬ『貴き御方』の言うことですからな」


また出た。この老人から「貴き御方」という言葉を聞くのはこれで二度目だ。


「あの、その『貴き御方』というのは一体?」

「ふむ、どうやら何も御存知ない様子。少し長くなりますが順を追って説明しましょう」


セヴェルスは目を閉じて軽く頷くと、俺の髪を指さした。


「まずその髪の色です」

「髪の色?」

「この世界では銀色の髪は神の御使いのみが持つとされています。

 実際に私の知る限りでそのような髪の持ち主はおりません」


神の御使いとは、髪一つでおおげさな。神と髪とかけてるのか?

そんなくだらない事を考える間にもセヴェルスの説明は続く。


「しかも、私が確認のためにミネアに問うと、黒く見えると言い出すではないですか。これはいよいよもって本物だと思いましての」

「はあ」

「神の御使いのお姿は選ばれた者にしか見えないと聞きます。

 他の者にはまるっきり見えない、という意味なのかと思っておりましたが、黒髪の普通の色に見える、という事だったのですな」

「まあ、元は黒髪だったんですけど」

「元はと言いますと、魔紋か何かで色を変えているのですかな?」

「いえそういうわけではなくてですね……」


俺はこの世界に来た経緯を全て話した。

妙な少年に「国を作ってみないか」と話しかけられた事。

少年に刺された事。

少年の身体を与えられた事全部。

黙って話を聞いた後セヴェルスは大きく頷く。


「その少年は本物の神様だったのかも知れませんな。

 そして貴方様は神に選ばれた本物の神の御使いなのでしょう」

「神様なんだとしたら、もうちょっと色々説明してくれてもいいと思うんですよ。

 いきなり送られてもどうしていいのか」

「そう心配されなくても、それだけの魔紋を持っていればどうとでもなりましょう」

「この刺青、魔紋って言うんでしたっけ、何かの役に立つんですか?」

「?……まさか、魔紋の事を知らないのですか!?」

「?……いや、元の世界には無かったもので」

「おおう、女神様」


何だか大袈裟に呻いてセヴェルスは天を仰いだ。


「魔紋は人の地位と能力を表すもの。いえ、そのものです。

 それ無くしてどのように生きていけるというのでしょう」

「どうって、普通に生活してましたけど」

「それではお聞きしますが、貴方様の世界では人々はどうやって仕事を決めていましたか?」

「成りたい仕事になりますよ。まあ、皆が皆そうってわけではないですが」

「魔紋もないのにどうやって仕事をするのですか?」

「それも普通にしますが?」


おかしい、どうにも話が噛み合わない。

セヴェルスもそう思ったのか話を変えてきた。


「どうやらまずは魔紋の力を理解してもらう必要がありますな。

 失礼ですが貴方様の魔紋を鑑定させて頂いてもよろしいですかな?」

「鑑定できる人がいるんですか」


自分の能力が把握できなくて困っていたところだ。

鑑定家がいるというなら願ったり叶ったりである。


「私これでも第三級魔紋鑑定士の魔紋を持っております。

 よろしければ魔紋に触れさせていただけますかな?」

「それは助かります」


俺は喜んで左手を差し出す。

セヴェルスは俺の左手を恭しく握ると、魔紋と魔紋をそっと触れ合わせた。

その瞬間、部屋の中が光で溢れた。


「これはっ!」

「どうなってるんですか!?」


部屋は光る文字のようなもので溢れ返っていた。

まるでゲームのステータス画面のように。


「もしかして、これが俺の鑑定結果ということですか」

「その通りです。魔紋を使って鑑定を行うと同時に説明しやすいように鑑定結果を視覚化したのです。しかし、これほどの量が出てくるなど今まで無かったことです」

「魔紋にそんな力が」

「この魔紋の力がなければ魔紋鑑定など出来ません。どんなに知識があっても魔紋の表面に表された大雑把な情報が分かるだけです」


ハンニバル警備隊長のようにか。あの人は魔紋を見慣れているといったが、魔紋鑑定士としての魔紋の力が無いから決して魔紋鑑定士にはなれないわけだ。


「他にも軍人なら軍人としての力を持った魔紋が無ければ戦えませんし、私が領主としての仕事をこなせるのも、住民把握といった力を持つ第一級領主の魔紋を持っているからに他なりません」

「それで僕の魔紋の力はどんなものでしょうか」

「あまりに膨大な量なので一つ一つはとても説明しかねますが、何と言ってもその『第一級国家建国士』でしょうか」


俺の頭上で一際大きな輝きを放つ文字を指さすセヴェルス。


「目を凝らしてごらんなさい。翻訳の魔紋の力もお持ちですから読めるはずです」

「お、本当だ。知らない文字なのに読めるぞ。えーと『第一級国家建国士:所属する国家に繁栄をもたらす。主な能力は他者の魔紋を活性・成長させる能力』」

「これほどの情報が出てきたのはそれが原因です。

私の本来の魔紋鑑定の能力では、能力名まで分かってもその能力の効果まで把握は出来ませんでした」

「それが僕の魔紋の能力で活性化してここまでの情報を引き出した」

「そういう事ですな」


これは確かに面白い。面白いとは思うが。


「何だか地味な能力ですね。もっとこう戦闘向きな能力はないでしょうか。

 例えば、大軍を薙ぎ払う光の剣とか、あらゆる攻撃を跳ね返す魔法とか」

「残念ながらそういった能力はお持ちでないようですが。

おお、この無病息災の魔紋などすごいですな。戦闘で毒など受けても平気ですぞ」


いや、それもかなり地味だと思う。

そもそも戦闘で毒など使うのは物理攻撃が効きにくい場合だろう。

戦闘系の能力が無いとなると剣で切られて終わりだ。

俺は困って頭を抱える。


「オサム様はまだ魔紋の事を良く分かっていらっしゃらないようだ。

 その『第一級国家建国士』の魔紋があれば戦闘系の魔紋など必要ないでしょうに」

「え?」


どういう事かと尋ねようとした時、部屋の扉が勢いよく開いて人が飛び込んできた。


「今の光は何ですかっ、セヴェルス様!」


飛び込んできたのは少年。

年の頃は十代前半といった所だろうか、今の俺の身体と同じくらい。

よほど慌ててきたのか心配げな顔に少し汗をかいていた。


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