エピローグ
晴れ渡る青空のもと。結婚式の鐘の音が鳴り響いていた
結婚式を挙げるのは、俺の相棒であり今はこの国の国王になったユリアスと前王エウゲニウスの孫娘のミネアだ。
エウゲニウスに王の魔紋が無い事を証明した後、俺たちはセヴェルス老を王にしようとした。しかし、その考えはネポス宰相にまったをかけられた。エウゲニウス王がいきなり退位して、不仲だったセルヴェス老がその地位に就けば誰もが王位の簒奪を疑うだろうと。
そこで、エウゲニウス王とセルヴェス老が仲直りしたと見せるために、ユリアスがセルヴェス老の実の孫であることを明かし、ミネアと婚約したと全国民に発表。
相棒に無理矢理政略結婚をさせたみたいに聞こえるかも知れないが、最初からミネア姫はこの話にのりのりだったし、照れながらも満更でもない様子をユリアスも見せたので問題はなかった。
その後、エウゲニウスを退位させてセヴェルス老を王にしようとしたら、今度はセヴェルス老本人からまったがかけられた。これまでのエウゲニウス王の統治の下で疲弊した国を建て直すのなら、いっそのこと年若い王が立ったほうが良いだろうと。ついでに婚約も進めて結婚させれば国民に活気がつくというものだ。
筋の通った意見ではあるが、老い先短い爺さんが面倒事を押し付けてついでに曾孫の顔を早く見るための計画ではないかと俺は思う。
まあそんなわけで、今王都は年若い王と凛々しい姫の結婚式で盛り上がっている。
そして俺はそんな王都の喧騒を聞きながら、城門を出て行こうとしていた。
「君は何かのお使いかい。大変だねぇ、こんなめでたい日まで働かされて」
「いえ、こんなめでたい日だからこそです」
「偉い、偉いな君は!それじゃあ気を付けて行っておいで」
「はあい」
門番のお兄さんが励ましてくれるので、俺は元気よく返事をする。
この国で俺はなろうと思えば宰相になることも出来るだろう。実際、ネポス宰相からはその地位を譲ると何度も言われた。しかし、俺の能力は「他者の能力の活性化と育成」。実際に国を取り仕切るのは他の誰かに任せた方がいい能力だ。しかもネポス宰相は、あのエウゲニウス王の下で国を支え続けた名宰相だ。彼がこのままユリアス王を支えていけば、この国には何の問題も無い。
そこで俺は思い当たった。「俺、この国にいる必要ないじゃん」と。
俺の力はチートだ。あの少年が言ったように、この国を思うがままに富ませる事も可能だろう。でもそれではもうこの国はこの国ではなくなってしまう気がする。
1年にも満たない短い間だったが、ハンニバルやセヴェルス老、そして相棒と過ごしたこの国が俺は好きになっていた。俺の思うがままに変えたいとは思えないほどに。
「だから、もう迎えに来てもいいんだぜ」
俺が澄み渡る青空に呟いてみても返事は返って来ない。聞こえてくるのは相変わらず教会の鐘の音だけだ。
俺をこの世界に送り込んだ少年が聞いているんじゃないかと思ったんだが。
こうしてこの国がハッピーエンドを迎えたからにはお役御免で元の世界に戻されるのがこういう時のセオリーだろう。
暫く待ってみても何も起こらない。相変わらず聞こえてくるのは教会の鐘の音だけ、ってどんだけ鳴らせば気が済むんだ教会!いくら祝い事だからって鳴らしすぎだろ。
というかこの音、教会の鐘と何か違わくないか?
そう考えて城門の方を振り向くと……
「ようやく見つけたぞ、坊主」
「あちゃー」
早馬の警鐘を鳴らしながら城門から出てくるハンニバルが見えた。がっくりと肩を落とす俺。
何かめっちゃ怖い顔で睨まれている。
最近、キピアさんに告白して付き合うことになったとかで、幾分怖さが和らいでいたような気がしていたのだが。
「悪いが坊主を出て行かせるなと、国王陛下と宰相殿から命じられている」
「こうならないように皆が忙しいこの日を狙ったんだけど。全部読まれてたってこと?」
「坊主はもはやこの国で国王に並ぶ最重要人物なのだぞ、どんなに忙しくとも必ず誰かが目を光らせている」
「はぁー」
それはそうか、いくらお祭り騒ぎとはいえ、警備の人たちがいなくなるわけではない。
先ほどの門番さんも、俺を労いながらも自分はしっかりと門番としての職務を全うしていた。
一人で脱走しようとしても俺の魔紋は一人では何の役にも立たないのだから、頼れるものは己の身一つ。その身も子供の身体だ。優秀な警備隊から逃げられるわけはなかった。
多分、サビナがどこかで俺の事を探知しているのだろう。
「そんなに嫌か?この国に残るのが」
俺を睨んだまま寂しそうな声で聞いてくるハンニバル。
別にこの国が嫌なんじゃない、でもこの国に残ってこの国を変えてしまうのが嫌だ。
それをどう説明したものか迷う。
「この国の為にその力を貸してくれとは言わない」
その言葉に俺はカチンときた。
そうすると何だ。俺はこの国いて何もしないでいればいいというのか?
確かにそれならこの国を変えてしまう心配はない。でもそれだと俺の気持ちはどうなる?
俺は、ほとんど無理矢理だったけど、思うがままに国を作りたいと願ったからここにいる。
それが何もしないでいるなんていうのは……
「そうか、そうだな」
「坊主……?」
あの少年はこの国を思うがままにするよう俺をこの世界に送り込んだのかも知れない。でも、俺がそれに従う義理はない。というかその義理は果たした。
だったら今度こそ誰にも決められずに、俺だけの国を作り上げるべきだ。
「ハンニバルさん、僕やっぱり行きます。僕の夢のために!」
微笑みを浮かべながらそう宣言して、とりあえずどうやってこの場を切り抜けるか考えた。
初めまして。ここまで読んで下さった皆様ありがとうございます。いえ、読んで下さっている方がいるかどうか分からないのですが、少なくともこの後書きを読んでくれている方がいると信じてこの後書きを書いています。
今回の作品「第一級国家建国士」は、当初、凄い力を手に入れたチート主人公が一国の王になり、大陸全土の国々と覇権をかけて争うという壮大な構想でした。
しかしまあ私にそんな壮大な構想をまとめる力量がなく、書いているうちに展開がどんどん変わっていき、ついでに文体もころころ変わっていき、気が付くと主人公は一国の王になることすらなくエンディングを迎えてしまいました。
でも、いつかは壮大な物語を書き上げるという夢は、主人公と同じく、あきらめていませんので、次の作品以降も読んでいただけると幸せです。
それでは皆様ありがとうございました。