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第一級国家建国士  作者: 土ノ子 三台
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プロローグ

「こんばんは、お兄さん」


そう声をかけられたのは、静かに雪が降る季節、大学の並木通りでのことだった。


時間は深夜12時を過ぎていて、長い並木通りには俺以外誰もいない。

だから声をかけられたのは俺で間違いない。


俺の前には一人の少年が立っていた。

寒風吹く中、厚手のコートにマフラーと手袋をしているが、頭には何も被っておらず、その綺麗な銀髪にそっと雪がのっては消えていく。

白い頬をりんごのように真っ赤に染めてにっこりと笑いかけてきた。

つられて俺も笑顔を作る。


「えっと、外国の子かな、北欧系?

 こんな時間にどうしたんだい?」


ちょっと心配になって声をかけた。

こんな時間に小さな子が一人歩きをするのは危ない。雪だって降っているし、変なおじさんだっているかもしれない。

早く帰ってこたつで暖まりたいところだが、目の前の子を放っていくこともできない。


「もし良かったら家まで送って行くよ、ってこんな言い方したら俺が変な人みたいだな」


少年は俺の言葉を聞いてクスクス笑いだす。


「いえ、ありがとう親切なお兄さん。

でも心配しないで下さい。僕はお兄さんに用があってきたんですから」


「俺に、用?」


はて、親類に外国人はいないし、友達にもいない。

首を捻る俺に少年はさらにおかしな事を言ってきた。


「国を作ってみませんか?」


国を作る?

国ってあれか、日本とかアメリカとか?いやいやそうじゃないだろう。

たぶん群馬王国とか河童王国とか村おこしみたいな?

というか子供の言う事なんだ、ごっこ遊びか何かだろう。

ここは適当に話を合わせて・・・


「っと、」


少年は笑顔のままじっと俺を見ていた。

その眼は嘘や冗談ではすまさない本当の気持ちを言えと言っているようだった。

何て眼で見つめてくるんだ。

そんな眼で見つめられたら真面目に答えるしかないじゃないか。


俺だって大学で歴史学を勉強している歴史家のはしくれだ。

古代ギリシアやローマ帝国、中華帝国のような大国を、かの偉大な皇帝や政治家のように思うがままに作る妄想をしないはずがない。


「まあ、作ってみたいな」


「本当に?」


にこにこしながら確認をとってくる。

しつこいな、そんな眼で見つめておいて嘘なんかつけるもんか。

そう思ったのが顔に出ていたのか、別の質問をしてきた。


「それじゃあ、どんな国が作りたい?」


「どんなって聞かれても、うーん」


やはり大きな国かな、他の国に脅かされない程の軍事力を持った国。でもそれだと徴兵制とかあって堅苦しい国になりそうで嫌か。やっぱ住みやすい国がいい。そうなると日本人としては日本みたいな国がいいけど、面白みがないな。せっかく国を作るんなら今まで何所にもなかったようなわくわくできる国が作りたい。


「世界中どこを探したって他にない、俺だけの俺にしか作れない国が作りたい」


俺の答えを聞いた少年はより一層笑みを強くした。

そしてその質まで変化させた。

さきほどまでの可愛らしい微笑みではない。

まるで悪魔が魂を対価にした契約書にサインを書かせるのに成功したかのような笑みだ。


まずい、俺はとんでもない奴と関わっているんじゃないのか。

しかも最悪の解答をしてしまったんじゃないか。


「わ、悪い。俺ちょっと・・・」


用事があるから、と言ってその場から去ろうとしたが、最後まで言い切ることはできなかった。


「そう、それはちょうど良かった」


いつの間にか少年が俺の目前に立っていた。


「いい物件があるんだ。お兄さんの望むままに出来そうな国でね」


近い、近すぎる。

もうちょっとで体がぶつかりそうなくらい近くから俺を見上げてくる。

見上げられているのに逆に見下ろされているように感じるのはなんでだ。


「しかも異世界だから。この世界のどの国とも違う国が作れるよ」


ついにギュッとしがみついてきた。

お互い分厚い服を着ているのに抱きつかれた部分が熱く感じる。


「でもこの身体ではいけないから、捨てちゃおうね」


「えっ!?」


途端に背中がもの凄く熱くなった。

背中に回された少年の腕から伝わる熱とかじゃない。

もっと俺の身体の内側が痛むように熱い。


ドクン!


全身から脂汗が吹き出る。

刺された?

これは何か鋭いもので背中を刺されてるんじゃないのか。

それもそうとう深く、命に関わるくらい致命的に。


背中の熱はガンガンと痛みを伝えてくるのに、全身は急速に冷たくなっていく。

痛みに呻いてのた打ち回らないとおかしいのに、身体は指ひとつ動かせないし、声ひとつ出せない。


「その代りにこの身体をあげる。けっこう自信作だから、大事に使ってね」


そう言って最初に見せた天使のような微笑みを浮かべる少年。

それが、俺がこの夜この世界で最後に見たものだった。


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