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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇二章 こんな日は屋上でお弁当を
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 2章の1 発動! 弁当イベント

 ◇


 夏へ向かう季節は朝の日差しが心地いい。水田を渡る微風が、朝露にぬれた草の香りを運んでくる。


 登校の時間になり家の前で待っていると、向かいの家から優菜が息せき切って玄飛び出してきた。

 ツインテールを慌てて手で直しながら、口にはパンをくわえている。

 毎度思うけど、その様子はアニメっぽい。


 見ると、手には何やら包みを抱えていた。

「アキラおはよ! 今朝はいろいろ準備していたら遅れちゃった」

「準備? 今日学校でなんかあったっけ?」


「あ! ううん。無い無い。なんでもないの」


 目を丸くして手をぶんぶんと振ると、ぎこちなくえへへと笑う。

 すたすたと元気よく歩き始めた優菜をみて、僕は内心ほっとして歩き始めた。


 学校までの見慣れた田舎道を二人で並ぶように歩く。心地よい風の通り過ぎる朝の通学路で見上げる木漏れ日が、キラキラと眩しい


 何をしゃべるでもなく、空を見上げたりしてあるく僕に痺れを切らしたのか、優菜がつまらなそうに横からじーと覗き込む。


「な、なんだよ?」

「昨日のお母さんの昔話の事なら、気にしなくていいよ?」


 優菜が小さく肩をすくめてみせる。


 いつもより柔らかい瞳が、朝日を浴びて輝いている。


「僕が男に好かれる呪いをうけたとかってやつ?」

「そうそう。男子に好かれるモテ期って……笑っちゃうし」


 優菜が心底あきれたという顔でため息をつく。

 けれど前向きな僕は、夕べ実は少し考えたのだ。


「まぁまぁ。よく聞け優菜。男にモテるってのは、言い換えれば、それだけ男として、いや人間として魅力が出てきたって事なんだ。昨日の美波だって、きっと僕の人間性に惚れたに違いない。戦国武将の男気に惚れる、みないなもんじゃないかな?」


 キリッと僕は口角を吊り上げて、顎に手なんか当ててみる。


「せんごく……ぶしょう?」

「そう! 魅力はやがて女の子達にも伝わって女子モテ……つまり僕の時代がやってくる! という前兆なんじゃなかろうか?」


「無い! ないない! 女子モテは来ないから」


 優菜が武将気取りの僕をバッサリ容赦なく切り捨てる。


「全力で否定かよ」

「ないよ!」


 そんなにムキになって否定しなくてもいいじゃないか。


「でもさ、もし……今度は誰か、女の子がアキラに告ってきたらどうするの?」


 優菜が悪戯っぽく問いかけてきた。髪の先を指先でくるくるしながら、淡い紅色の瞳を僕に向ける。


「それは……」


 僕は逡巡する。女の子からの告白? 男の子からの告白と比べたらそれは……


「ウェルカムぁだだッ!?」


 バシン、と優菜のカバンが僕の背中を直撃する。


「もうさ、いっそ素敵な『彼氏』と楽しい夏を過ごせば?」


「痛ってぇ……いや、話は最後まで聞けと」


 ベー! と小さく舌をだし、ずんずん先を進んでゆく優菜のツインテールが歩くたびにぴょこぴょこと揺れていた。


「なんなんだよ!?」


 女の子からの告白なら、僕はいつでもウェルカム! ……なんて。ふざけて言おうとしたけれど、僕は二の句を継ごうとしていた。


 ――でも、優菜がいるし。


 多分、そう言うつもりだったのだと僕は気がついて、唇を軽く噛んだ。


 ◇


 二人で校門をくぐり抜けたところで一息つく。

 今日は遅刻せずに余裕で間に合ったようで、他の生徒達も大勢登校してくる時間だ。


「優菜ちゃん、天乃羽(あまのは)くん! おはようさんなのです」


 と、後ろから鈴を鳴らすような、澄んだ声が響いた。


 振り返るとそこには、朝の光みたいに輝く笑みを浮かべた女子生徒が立っていた。

 僕達のクラス委員長――豊糧(ほうりょう)弥花里(みかり)さんだ。


「あ、みかりん! おっはよー」

「お、おはよう!」


 焼きたてパンみたいな優菜と違い、炊き立てのご飯みたいに艶のある白い肌。小さく整った顔に柔らかなそうな唇。吸い込まれそうな黒い瞳が印象的な美人さんだ。


 長い黒髪が朝日の中で輝いていて思わず見とれてしまう。前髪をサイドに流して赤いピンできっちりと留めたスタイルも、とても似合っている。


 その姿をもっと目に焼き付けようと無意識に(まなじり)が下がってしまったのか、優菜が横目でじぃ、と睨んでくる。


「……どうしたの? ケンカでもしたのですか?」


 僕達の微妙な空気を感じ取ったのか、弥花里さんの首が僅かに(かし)ぐ。


「聞いてよみかりん! アキラったらね、不純なんだよ」

「ぅあ!? 優菜、ちょっおま!」


 『男子からの告白』の件ををいきなり喋る気か!? と焦る。コイツならやりかねない。ていうか昨日の口止めのアイス代返せ!


「女の子から告られたら誰でもOK、とか言うんだよ~」


 ミカリさんに優菜が抱きつく。女の子同士の朝の挨拶だ。


 そ、そっちか……と、ほっとしたのもつかの間。


「……天乃羽くん。優菜ちゃんにそんな事言ったのですか?」


 弥花里さんの視線が僕に向く。口元は緩やかに微笑んでいても、切れ長の美しい瞳に宿っ冷た光は冷たい。


「そ、そんな事言ってないよ! 優菜も人の話は最後まで聞けと……」


 僕はそこまで言いかけて、あうあうと口を濁す。


「天乃羽くんは優菜ちゃん一筋のほうがいいのです。不純異性交遊はダメなのです」


 委員長モードの弥花里さんが、誤解したまま、凛とした表情で僕に言いつける。

 その顔で言われると思わず背筋が伸びてしまうから不思議だ。


「一筋って、優菜とはそんなんじゃ……」

「ぷくく、不純『同性』交遊するところだったけどね」


 優菜が小悪魔顔でヤバイことを口走りかけたのを慌てて遮る。


「ち、ちっ違う! そもそも未遂だって何度言えば! 黙れこのっ」


 と、喉元を狙って放った水平チョップを優菜がカバンで易々とガードする。ぱしん、と見事なタイミング。てか、これじゃコントだろ。


 そんなやり取りを見て弥花里さんは「……今日もやっぱり平常運転なのです」と呆れたように微笑んで再び下駄箱のほうに歩きだした。


 優菜と弥花里さんは遅れてきた同じクラスの女子たちと合流し、きゃいきゃいと賑やかに校舎へと入って行った。


 集団の女の子達は他を寄せ付けない「結界」の様な効果があるらしく、僕はなんとなしに彼女たちと距離をとって少し遅れて下駄箱へ向かった。


 その時、弥花里さんが廊下の先で立ち止まり、ほんの一瞬、僕に視線を向けた。


「……?」


 それはほんの瞬きするほどの間。何か言いたげな眼差しだった気がする。けれど弥花里さんの口元が動く事は無かった。


 僕に何か用だろうか? 気のせい? と首を傾げながら上履きに履き替えた。


 ◇


 僕らの二年B組の教室は、いつもと変わらない授業風景が続いていた。


 古文を読み上げている教師の声はまるで読経のようで、寝るなと言う方が無理だ。

 おまけに四時間目ともなると、空腹も加わって睡魔の襲撃を受ける。古典文学の言霊の力はエナジードレインのように僕の気力を削る。三時間目が眠くなかったかと言えば、そんな事もないんだけど。


 やがてダウン寸前の僕に耳に、ゴングのような終業のチャイムが響いた。


 気が付くと手元のノートにはミミズのような謎の宇宙文字が自動書記されていた。


「ま、あとで優菜のを写させてもらうか……」

 斜め後ろの席に目を向けると、ヨダレで濡れたノートをビリビリと引き裂く優菜と眼が合った。

「えへへ」


 ……ダメだコイツ。


「僕のノートは写せないぞ。宇宙文字だし」

「えー?」


 さて、購買にパンでも買いに行こうかな。教室を見回すと、クラスの元気印(・・・)な男子連中はチャイムと同時にダッシュで購買部へと飛び出した後らしい。


 この様子だと焼きそばパンは無いだろうな……。今日もアンパンと牛乳と言う刑事みたいな昼飯決定か。

 席から立ち上がろうとすると、制服の袖がちょんちょんと引っぱられた。


 振り向くと、優菜がきょろきょろとあたりを見回して、僕に囁いた。


「アキラ、あのさ」

「何? 購買いくんだけど。買い出しならお金」

「ちがうよ、これ……。その、よかったら食べて」

「え? 何?」


 優菜は今朝抱えていた荷物の中から、四角い包みを取り出し僕に差し出した。


「おべんとう。今日、わたしが作って来たんだよ」

「誰の?」

「アキラの分だよ。わ、私のもあるけど」

「……僕の?」

「そう」


 優菜が恥ずかしそうにこく、と頷いて微笑んだ。


「えっ!? えええ!?」


 な、なんで? マジで!?


 僕の素っ頓狂な声に、教室に残っていた何人かがこちらを伺う。


「ばかっ! 恥ずかしいんだから騒ぐな!」


 優菜があたふたと僕の腹に弁当箱を押しつけた。僕は両手でそれを受け取る。


 まさか、お弁当イベントというやつ!?


 僕はまだ温もりの残る弁当を手に、しばしボーゼンとする。優菜もカバンから自分の分らしい弁当箱の包みををデン、と机に置いた。同じサイズの弁当箱だ。


 もちろん優菜からお弁当を貰うなんて初めてのことだ。


 いったい何で?


「……ご飯、炊き過ぎて余ったのか?」

「ち、ちがうよっ! 毎日アンパンじゃ不憫だから。その……作ってみた、だけ」


 こんな時、なにか気の効いたセリフでも思い浮かべばいいだろうけれど


「そ、そうなの? いや、あの、凄く嬉しいよ!」


 僕はただただ不器用に、そのまんまの気持ちを口にする。

 優菜の顔がぱっと明るくなる。僕の顔は戸惑いと嬉しさと気恥ずかしさで、かなりだらしない事になっていたかもしれない。


「か、勘違いしないでよね。べ、別にそういうのじゃないんだから」


 生でそんなセリフ聞けるとは思わなかったけど、お弁当はありがたく頂きます。


「腹へってるし助かったよ! ほんと、ありがとな、優菜!」

「……うん、食べてみて」


 購買のパンに比べたら天と地の差。嬉しい事この上ない。

 早速弁当の包みを紐解こうとする僕の指先の動きが止まる。


「これ、硬ッ!」


 力任せに結ばれたハンカチの固い結び目を解くのに悪戦苦闘していると、勢いよく教室に駆け込んでくる女生徒の姿が見えた。


「大変! 天乃羽くん!」


 声の主はすぐ分った。クラス委員長の()花里(かり)さんだった。

 

(つづく!)


【さくしゃより】

 待て次号w 毎日夕方18:30~19:00ぐらいに更新ですっ


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