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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇六章 君と僕と、世界の半分と
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 6章の7 そして、最後の告白を


 からころと下駄の軽やかな音と共に、提灯の灯された石段を下る。


 一段降りるたびに左手を握る優菜の右手に力が入り、僕は転ばないように支える格好になった。掌を通じて感じる暖かさがその存在が確かなものだと伝えてくる。


 ――そ、そうだ。ここは何か気の利いた事を言わないと。


「そういえば、弥花里さんとお風呂に入ったんだって?」


 ――あぁ、僕のバカ。


「ちょっ! なんで知ってるのよ!?」


 瞬時に凶器と化した掌が万力のように締め付ける。


「いっ痛いててて! や、八尋のやつがいってたんだよっ!」

「八尋先輩が? 覗いてたのかな……私の見てもしょうがないのに。って何よ!?」

「あだだだだだだ!?」


 握力がさらに上昇する。そこは何も言ってないだろ!


 手を振り払い、赤くなった掌を僕はふるふると冷却する。


「そ、そもそも、なんでノコノコ八尋について行ったんだよ?」


 僕はずっと心に引っかかっていた疑問を口にした。


 あの日の放課後、僕との約束を反故にして八尋について行った理由が知りたかった。何かの『取引』をしたと八尋が言っていた。その事がずっと心に引っかかっていたからだ。


「あ……あれね? 実はね」

「……?」

「豊糧神社で秘密の豊乳(ほうにゅう)祈願(きがん)があるって、みかりんが言うから……」


「ほうにゅう きがん?」


 なんだそれ? 僕は聞きなれない言葉に首をひねる。


「む、むむむ、胸が大きくなる願掛けよ、言わすな、ばかっ!」


 優菜が沸騰寸前に顔を赤らめて叫ぶ。


「はぁ!? そんな祈祷あるのかよ?」


 豊糧神社の御神体は蛇神様。豊穣なる恵みを象徴する神様。その流れで豊かな胸?


 いや……違う。確か祟り神を封じたのは尼の法力だけじゃなく、女性の大切(・・)な(・)()の(・)一部(・・)を犠牲にしたと言っていた。胸と引き換えに封じた、ということなのだから、それはつまり、優菜の「封印」とはつまり……貧乳?


 だから封印破壊すれば巨乳になるって……んなアホな。あり得るの?


「うーん?」


 僕はやっぱり首をひねる。けれど、神様の力は明確な説明や理解を超えたものだっていう事を僕は身をもって学んだばかりだ。


「祭りの日だけの秘密の祈祷だよって。それで、八尋さんが黒い御守りをくれたの」


 それでまんまと操られてしまったのか。貴女のココロの隙間お埋めします、というやつだ。


「すごく……心配したんだよ」

「ごめんなさい」


 それは拍子抜けするほど素直な声。しゅんとした顔で僕を上目遣を向ける。


「御守りを受け取ったとき、変だなって思ったの。だけど、もう身体が動かなくて。自分が自分じゃないみたいに遠くて、アキラを呼んでも届かなくって」


「優菜……」

「わたしも、凄く怖かったんだよ」


 薄暗い石段の踊り場には、柔らかな提灯の光が揺れている。


 共闘した興奮も冷め、再び恐怖がこみ上げてきたのかもしれない。

 浴衣のせいかいつもより細く不安げに見える身体を支えるように、もう一度手を握る。


「私ね、アキラが来てくれて、ほんとに嬉しかったんだよ」

「だって……約束したじゃん。必ず探して、見つけるって」


 そっか。と優菜が嬉しそうな笑顔を見せた。つられて僕も笑う。


 優菜の為に出来ることを全力で。ただそれだけの想いだった。


 こうしてまた会話を交せている事が僕は心底嬉しかった。


 だけど、もうすぐ時間切れが迫っていた。

 祭りが終わり、今日が終われば、蛇神の力がこの身体に染みついて、やがて僕は僕じゃなくなるだろう。


 弥花里さんの話が本当なら、優菜もやがて離れていく。


 石段を一歩下るたび、いろいろな思い出が浮かんできた。


 ひぐらしの鳴く夕暮れ、暗くなるまで二人で遊んだ幼き日の遠い夏の日。

 小学校の登校初日、僕はは半泣きのまま優菜に手を引かれて登校した事。

 中学の運動会、男女混合の二人三脚では二人で最速コンビと呼ばれた事。


 そして、高校になり、世界が大きく広くなっても、幼馴染として過ごした空の色と、一緒に季節を感じていた楽しい日々を。


 あぁ……そうか。


 僕は、ほんのわずかな時間でも、こうしてまた二人で並んで歩きたかったんだ。


 涙があふれそうになるのを、堪える。


 僕はただ、この時間が永遠に続いてほしいと願った。


 ――願う?


 願うだけで……いいの?


 願いは叶うの?


 想いは伝わるの?


 ちがう……。それだけじゃ、ダメなんだ。


 想いは、願いは、言葉にしなければ届かない。声を出さなければ、決して。


 そうだ。僕は、僕の想いは、


「アキラ……? あのね、私」


 黙りこんだ僕を優菜が心配そうに覗きこみ、何かを言いかけた。


 僕は眩しいものでも見るように目を細めて、その瞳を真っ直ぐ見つめ返した。


 息を吸い込み、強ばった舌を動かして、ずっと言えなかった言葉を紡ぐ。


「僕は――、優菜が好きだ」


 言って……しまった。心臓が破裂して口から出そうだった。


 もう、ただの幼馴染には戻れない。後戻りはできない。僕はそんな一歩を踏み出す。


 優菜の頬が桜色に染まり、茜色の瞳が大きく見開かれる。


「あ……きら」

「好きなんだ……。僕はずっと君が好きで、だから、これからも一緒に居たい、居て欲しい!」


 恥ずかしさと照れくささで、勢いだけで続ける。


 もう、このまま砕けろ!


「あの、私ね」

「大好きなんだよっ!」


 心の底から叫ぶ。もう一度叫び倒す。願いを、自分の本当の気持ちを何度でも。


「ああもうっ! わたしにも言わせてよ、私も……好きだよ、って」

「す……はっ?」


「もう……私が返事する前に、好き好き連発しちゃ、ダメでしょ!?」


 優菜が頬を膨らませていつもの調子で眉を吊り上げる。


 けれどそれは、すぐに柔らかなで優しい、嬉しそうな微笑みに変わってゆく。


 その時、息を切らして目を丸くする僕の頭上で、夜空がパッと赤と青に輝いた。


 一寸遅れの衝撃が身体の芯を揺さぶり、ちりちりと流れ星の様な火の粉が天を舞う。


「――花火!」


 一瞬目を奪われた僕の頬が、柔らかな手のひら包まれ、すっと唇が重ねられた。


 あたたかな唇の感触、それが返事だった。


「だいすきだよ、アキラ」


 夜空を焦がす花火は、重なり合う僕達を、いつまでも色とりどりの光で照らしていた。


<6章 了>


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