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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇六章 君と僕と、世界の半分と
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 6章の3 死闘、父と子と

「お、親父ッ!?」

「おぢさん!?」


 ご神体を収める本殿の奥から現れたのは、紛れも無く僕の親父だった。


 胸にはベッタリと黒い護符が貼り付けられていた。それは八尋が作った人の心を操る「漆黒の護符」――。

 その駆動エネルギーは、僕が放射する特殊な波動だ。


「さっきの一撃が、御神体の奥に隠れていたせいで届かなかったんだ!」


 舞台全体をきょろきょろと爬虫類のような眼つきで見回すその顔は、いつもの親父の顔じゃなかった。


「憑りついたってのか……八尋が、親父に!」


 信じられない思いに嫌な汗が噴き出す。僕はもう既に、切り札の煮汁の水鉄砲も、聖剣すらも失っている。


『ピンポーン。俺っちのとっておきの秘術さ。コイツを操るのには苦労したが……』


 親父の口が大きく歪められ、不快な八尋(・・)の声を発する。


「ふざけるな! 親父から離れろ!」

「うそ……おぢさん、うそでしょ、そんな……」


 優菜が絶句する。


『アキラァァ? お前の親父、強ぇえんだろ?』


 首の骨をゴキリと低く鳴らし、ぎょろりと見たこともない表情で親父が睨む。


 僕は後ずさる。


「やめろ……そんな顔で僕を見るな……」


 脚の筋肉とアキレス腱がこわばっていた。


 中学の頃、僕と優菜は親父に組手で挑んだけれど、手も足も出なかった。


 道場では厳しくも優しく丁寧に、生徒たちに指導する親父が脳裏をよぎる。


 ――この古武術は、防御の型だけを良しとする。大切な一人を護れれば十分なんだ。


 そう言って笑っていた。

 そんな親父が、操られ、僕達に襲いかかろうとしている。


 嫌だ……こんなのはダメだ。


「や……やめて! やめてお兄ちゃん! こんなの、こんなの絶対おかしいよ!」


 背後から弥花里さんが叫ぶ。


『あぁ? だまれよ愚妹(ぐまい)。崇高な目的を……忘れたのか?』


 八尋の声が凄む。弥花里さんがビクリと身を固くした。


「……晶くんと優菜ちゃんを使って村や……世界を支配する……」


『あぁ、そうさ。スゲェだろ? 俺はスゲェのさ。数百年ぶりに蛇神の力を開放できる(ユウナ)と、(アキラ)が揃ってるんだぜ? 宝くじなら一等前後賞だ! 手をのばさねぇほうがどうかしてるだろ?』


 口元が不穏な形に歪む。


「ふざ……けるな! 僕達は道具じゃない!」

「アキラ……」


 腹の中がぐつぐつと湧きかえる。奥歯がぎりりと音を立てた。


『ならば……力ずくでも、従わせてやるぁああああ!』


 親父(八尋)が身構えてぎゅっと拳を握る。


 空手で言うところの()(おん)に似た打撃主体の構えをとる。無手勝流に打撃の構えは無いのだから、八尋が肉体を操りやらせているのか?。


「優菜! 弥花里さんとここを離れて!」


『手足ヘシ折って、法力タンクにしてやるぁあッ!』


 破裂するような怒号と共に床板が弾け飛んだ。瞬時の突進に認識が追いつかない。


 次の瞬間、近接の間合いで真正面から上段の突きが繰り出される。

 僕は咄嗟に反応出来ずに、両の手を眼前で交差させ、顔面への直撃だけを何とか防ぐけれど、


 ――重いッ!


 激しい衝撃に腕の骨と肩が悲鳴を上げる。


「うぐッッ!」


 体制が崩れた僕をめがけ、丸太のような太さの中段蹴りが繰り出され、腹部に直撃する。あまりの衝撃に視界がぐらりと横転し、自分が真横に吹き飛ばされたのをスローモーションのように感じていた。


 ――かはっ!?


 蹴り込まれた腹部も、床板にしたたかに打ち付けた肩の痛みも感じない。


 たった二発。こんな、つ……強すぎる!

 親父の肉体と八尋のチートめいた格闘術のコラボ。戦闘力の次元が、違う。


「アキラ――――ッ!」


 薄れそうになる意識が、優菜の声でかろうじて引き戻された。


「がっ……は! だめだ! 来るなッ」


 僕は停滞した肺の空気を吐き出し、必死で声を絞り出した。

 駆け寄る優菜めがけて、振り向きざまに裏拳を叩きこむ構えをとる親父。それを目の当たりにした瞬間、カッ! と熱い力がわきあがった。


「させるかぁああっ!」


 僕はがむしゃらに全身のバネだけで跳ね起き、大木のような脚部にタックルのような体勢で全力の体当たりをくらわした。


 親父は流石にグラリと体勢を崩した。けれど僕の身体はすぐに激しく床に打ち据えられてしまった。


『ハァハァハ!? どうしたぁああ!』


 追い打ちをかけるように、岩石のような踏みつけ攻撃が背中に連続して落下する。


「いやぁああああ――――――!」


 優菜がその場にへたり込むのが見えた。白装束のコスプレもなかなか新鮮だね、なんてどうでもいい事が頭をよぎる。

 

 なんだかもう、このまま死んじゃいそうな気がしてきた。


 繰り返される一方的な攻撃に、僕はもう動けなかった。へたり込んだ優菜の横で、弥花里さんも顔を覆い泣き崩れる。

 異変を感じた観客席が騒然としはじめた。


『おまえ……この女がよほど大事みてーじゃね?』


 僕の背中に質量兵器のように巨大な足が押し付けられた。


「ぅぐっっ!」


 肺が潰されそうな圧迫にあばら骨が歪む。


『お前の脚を折ったら、次は……この女だ』

「ぐっそぉお――――っ!」


 八尋に操られた親父の口元が忌まわしく歪む。

 親父の両腕が、天を仰ぐように掲げられ、左右の拳を天空で組む。

 それは、ひとたび振り下ろされれば間違いなく僕の足の骨を易々と砕くハンマーだ。


 まるで……歯が立たない。そういや道場で一回も勝てたことないもんな。

 もうすこし真面目に練習すれば……強くなって、守れたのかな。

 ここまで辿り着いて、優菜と会えたってのに。僕は……。

 脳裏に美波と鶯崎、鬼頭先輩の顔が浮かんだ。みんな……ごめん。


『砕け散れぇぇえああああ!』


 鉄拳がハンマーと化してゴゥ! と僕の身体にむかって振り下ろされた。


 優菜と弥花里さんの悲鳴が聞こえ、僕は目をつぶった。


 だけど――肉体を砕くはずの衝撃は、無かった。


 爆風のような拳圧だけが、僕の身体を通り過ぎた。

 目を開けると、拳はわずか一寸手前で止まっていた。


「お……親父?」

「ア……(アキラ)……」


 それはまぎれもない親父の声だった。

 憑りついた八尋の声ではなく、苦しげではあるけれど、本物の聞き慣れた声。


「親父なのか!?」


 苦しげに顔を歪め、けれどしっかりとした声で僕に言った。


「諦め……るな、闘……え!」


<つづく!>


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