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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇六章 君と僕と、世界の半分と
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 6章の2 再会の優菜

「ば、ばかな! ばかな、ばかなぁぁああああッ!? 俺の、俺様(・・)百式結界(・・・・)が破れた……だとぉおおおッ!?」


 僕を縛り付けていた闇の結界が急速に薄らいでゆく。


 漆黒の宮司、八尋が頭を抱えながら悲鳴を上げ、悪鬼のような形相で僕を睨みつけて、ガクリと片膝をついた。

 その身を包んでいた闇の羽衣は既にズタズタに破れていた。僕の放った聖剣の一撃が、八尋の呪法を全て破壊したのだ。


 護符の破片が季節外れの夜桜のように辺りに降り注ぐ。それは篝火に触れると、赤い蛍のように次々と輝いては消えていった。


「やった……のか?」


 僕ははぁはぁと肩で荒い息をしながら辺りを見回した。


 気が付くと僕の手の中の『聖剣』は急速に朽ちて、ボロボロと表面から崩れて、土へと還ってゆくところだった。


「ありがとう……獲苦棲過璃刃亜(エクスカリバー)


 全てが粉々になった時、僕は空になった右手を再び握りしめ、正面を見据えた。


 気がつくと弥花里(ミカリ)さんの舞は止まっていた。白く美しい腕を天に掲げて、ただ不思議そうに舞い散る黒い紙吹雪を見上げている。


「ミカリッ! 舞を! 神楽を止めるんじゃねぇっ!」


 八尋が凄まじい形相で怒鳴りながら、弥花里さんに駆け寄るのが見えた。


「いや……」

「踊れよ、止めるんじゃねぇ! 続けろぉおお!」


 八尋が狂ったように弥花里さんの胸元を掴み乱暴に揺さぶった。装飾の施された舞子衣装が揺れる。


「……お兄……ちゃん」

「いいから踊れ!」


 八尋は右手を振りかぶる。僕はハッとして駆けだした。間に合わない!


「きゃっッ!」


 弥花里(ミカリ)さんが短い悲鳴を漏らし身を固くしたその瞬間、白い影が疾風のように二人の間に割って入った。

 バチィン! と激しい殴打音が響き渡った。

 

 次の瞬間、花里(ミカリ)さんはそのままで、逆に八尋の姿が消えていた。

 

 思わず眼を瞬かせて辺りを見回すと、黒いぼろきれの様な姿が神楽舞台の柱に倒れこんでいるのが見えた。

 一寸前まで悪態を発していた口はもはや動かず、舞台の周りにめぐらされた手すりにぐったりとよりかかり、時折ビクンビクンと痙攣している。


「……あ、?」


 弥花里さんは怯えた様子で目を僅かに開いた。そこには、殴りかかろうとしていた凶兄の姿は無かった。


 代わりに立っていたのは、(りん)、とした雰囲気を纏った優菜だった。


「女の子を殴るなんて、最っ……低」


 それは見事なほどの中段蹴り(ミドルシュート)だった。


 その一撃には躊躇(ためらい)は微塵もなかった。蹴りの構えを静かに解くと、慌てて着物の裾を直し、くるりと僕の方に向き直った。


 白装束の着物の胸元で、下ろしたままの栗色の髪がふわりとゆれた。


「来てくれたんだね……アキラ」


 優菜の唇に柔らかな微笑が浮かぶ。その瞳には確かな光が宿っていた。

 

 ――やっと、逢えた。

 

 そう思った瞬間、僕は無我夢中で駆け出していた。


「優菜ぁあああああああああああっ!」


 黒い紙吹雪が舞い続ける中を全力で走る。顔を見合わせて混乱している老人たちの間を全力で駆け抜けながら、僕は繰り返し、その名を叫んでいた。

 

 駆け行く先は、篝火に照らされた神楽の舞台。


 舞台袖の階段を一気に駆け上がると、僕は優菜の身体を掬い取るように抱きしめた。


「――優菜!」


 腕の中に感じる温かな感触を、愛おしむように抱きしめたる。優菜の腕が、戸惑いながら、ぎゅっ、と背中を優しく包む。


 それは間違いなく、まぎれもなく優菜だった。


「アキラ……酷い顔だよ……」

「いや、これは元からだから」

「えへへ、嘘。かっこいいよ」


 嬉しそうな声に、僕はただ頷いた。聞き慣れていたはずのその声を、随分と永いこと聞いていなかったような気がした。それほんの一日か二日だけなのに。


「もう……大丈夫だよ。約束通り、助けに来たから」

「……うん!」


 優菜の瞳から涙が零れ落ちた。


 顔をぐしゃぐしゃにして、そっちこそひどい感じだよ。


「あ……晶くん、大胆……なのです」


 真横で顔を真っ赤にしている弥花里さんと目が合った。


「「あわっ!?」」


 一瞬の間の後、僕達は身体を離す。冷静になれば、ここは神楽舞台のど真ん中だった。


 観客席に顔を向けると、ぽかんと大口を開けている老人達とも目が合う。


 神楽の最中に突然の乱入者、宮司がいきなり悪態をついたかと思えば、(みそぎ)中の少女に蹴りを入れられ昏倒。しまいには神聖な神楽舞台の上で大胆な抱擁……。


 何がどうしてこうなったか、理解してもらえるはずもなかった。


 とりあえず、この場を収めなければ。

 あ、そうだ。僕は閃いた。


「こ、今年の出し物は……これで終わり、です!」


 僕は深々と観客席に頭を下げた。……我ながらかなり苦しい。

 弥花里さんと優菜が目を白黒させて固まっている。

 やがて、先頭の席に座っていた老紳士がぽん、と手を打ち「……おぉ?」と納得しかけたその時、背後から、低く呻くような声が響いた。


『まだだ、まだ、終わらねぇぜぇえええええ……!』


「なっ!?」


 その不協和音のような口調は、間違いなく八尋のものだった。


 振り返ると声の主であるはずの八尋は、柱の横に力なく横たわったままだ。ビクンビクンと妙な痙攣を繰り返している。


「ど、どこだ?」


 僕は舞台の中央できょろきょろと辺りを見回す。


(マスター)の肉体から予備(スレイヴ)への憑依(ホットスワップ)大成功。って俺……天才じゃぁあああん?』


 意味不明な自画自賛の言葉と共に、神楽舞台奥の格子状の扉が吹き飛んだ。激しい音と共に木の破片がバラバラと砕け散る。


「今度は何だよっ!?」


 僕は咄嗟に優菜と弥花里さんを庇うように身構えた。


 吹き飛んだ襖の向こうは、暗闇が口を開けていた。

 冷気が白い靄を伴って、舞台中央に立ち尽くす僕らの方へと流れだした。


 そこは『ご神体』を祀る祭壇のはずだ。封じられたシロの兄である蛇神。封印された力の源泉、人々はこれを畏れ、敬い、力として利用していた神の(むくろ)


 見えるはずのない暗闇の奥で、巨大な蛇がとぐろを巻き、蠢くのが見えた気がした。


 だけどそれは幻ではなかった。ボウッ、と赤い光が二つ灯る。

 背筋に冷たいものが這う。


 それは、赤く燃えるような生き物の双眸だった。


 巨大な何かが、暗闇の向こうからぬぅっと姿を現した。


 大地を揺らすような音を響かせながら、巨躯が一歩進み出る。ごふぅ、という地獄への入り 口から吹き出すような呼吸音(・・・)が辺りの空気を震わせた。


「な……なんだよ……嘘だろ……」


「そんな!? ……どうして」


 僕と優菜が同時に驚愕の呻きを漏らす。だってそれは――――


『この身体使わせてもらうぜ、守護四天(・・・・)、最後の一人……天乃羽、大悟をぉおおッ!』


「お、親父ッ!?」


<つづく!>



【さくしゃより】

 遂に、豊糧守護四天の最後の一人の正体が!

それは・・・まさかの実の父だった!


古武術、無手勝流同士の戦いの火蓋が気って落とされる!

悲しい親子の対決の行方は・・・!?


次回「死闘、父と子と――」


おたのしみに!


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