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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇五章 強襲! 豊糧神社攻略作戦
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 5章の8 共闘、アキラと美波! ~見えない敵との闘い~

 ◇


 石段をさらに駆けあがると、視界が開けた。


 目の前には高い杉の木々に囲まれた空間が広がっていた。下界の喧騒が幻だったかのように音が途絶えあたりは静まり返っている。


「はぁ……はぁ……」


 僕と美波の激しい息遣いだけが聞こえていた。

 けれど、耳を澄ませば僅かに人々のざわめきが聞こえ、遥か眼下には神社へと続く石段に飾られた提灯の明かりが見えた。


 時折聞こえる歓声と悲鳴は、今だ決着のつかない鬼首先輩の戦いのものだろうか。


 鶯崎ソラと、あの無口な使い魔娘は無事だろうか?

 今すぐにでも駆け下りたい衝動を抑える。


 けれど僕は、目と鼻の先にある本殿に行かなきゃならない。優菜を救う為に、友達を犠牲にしてまで来たのだから。


 ようやく一息ついて見回す。ここは山頂の「本殿」に至る石段の手前に位置している駐車場のはずだ。

 山で言うならば8合目の場所にある場所で、1合目から石段を駆け上がってきた僕と美波からすればかなり高い場所にある。

 

 広場といっても二十メートル四方程度の場所で、普段であれば車両でここまで来れるように砂利敷きの道路も通じている。だけど祭り期間中は赤い三角コーンで封鎖されている。

 けれど何台かの高級そうな車(おそらくは山頂で行われる神楽の奉納に招待された人たちのものだろう)が2、3台ほど隅のほうに止まってるのが見えた。


「やっぱり……はぁはぁ、ここも誰もいませんね」

「はぁはぁ、うん、人払いの結界の気配がする……」


 山頂に至る道全てに「人払いの結界」が張られているのか、不思議なことに人の気配が感じられなかった。僕達の他に人影は見当たらない。


 広場の奥には白熱電球で照らされた質素な水場があるだけだ。山頂に登る最後の石段の横に見える水場には「お清め」という看板がたっていた。

 天狗でも現れそうな杉の巨木に囲まれたお清め場に僕達は立っているのだ。


 この場所のさらに上、石段をあと三十段ばかり登ったところに目指すべき本殿がある。


「一気に駆け抜けて本殿を目指そう」


「待って、晶せんぱい、水です! ここで補給を」


 石造りの水場を指さす美波。もう水鉄砲も空なのだ。水を僕の力でもう一度「惚れ薬」に変えて少しでも補給しようという考えなのだ。

 

 だけど、視界の端で()が動いた気配を感じて、僕は咄嗟に叫んだ。


「美波――何か……危ない!」


 僕は力任せに美波の腕を掴み抱き寄せた。次の瞬間、美波の右手に持っていたウォーターガンが衝撃と共に砕け散った。


「わっ!?」


 プラスチックの破片が足元に飛び散る。


「い、一体何が」

「しっ! 動かないで」


 僕は背後から美波を守るようにぎゅっと抱きかかえ、身を屈める。全神経を闇の奥に潜んでいるであろう気配に向ける。


 境内はまた静まりかえったままだ。空気の動きが感じられない。ただ、ひたすらに何か得体の知れない「闇」の濃密な気配だけが濃度を増してゆく。


「何か……居る」


 見えない――何か。


 美波の汗ばんだ身体の温もりと、心臓の鼓動が掌を通して伝わってくる。


「敵……豊糧守護四天?」

「おそらく……。四人居るはずなんだ。ということは3人目……、がっ!?」


 突如、激しい衝撃が僕の背中を襲った。とび蹴りをくらったみたいな衝撃に片膝をつく。 

 ――背後から蹴りつけられた!?


「アキラせんぱいっ!」


 美波は無事のようだ。だけど、こんなのが美波に当たったらと思うと、今度は怒りがこみ上げてきた。


「ぐぅ……いっててて、何なんだよ!? 見えない……敵!?」


 背中が痛い。それよりも、幾ら目を凝らしても攻撃してきた主の姿が見えない。


 ――今度の敵はステルス仕様かよ?


「晶せんぱい! ここはボクが引き受けますから! 進んでください」

「美波一人を置いて行けるかよ!」

「ボクだって少しは、って痛い!?」


 思わず僕は「どの口が言うんだ」と、美波の柔らかい頬を引っ張った。


「もう、嫌なんだ……美波や、鶯崎、僕の為に誰かが……傷つくとか」


 こんな細く女の子みたいな身体の美波までが戦うと言ってくれる。

 

 友達を危険に晒してまで進む意味があるのだろうか? と自問し、手元の砂利をギシリと掴む。

 いや――だめだ、鶯崎は迷うなと言った。進むしかないんだ。


 けれど謎の敵が居るここに美波を置いては進めない。ここはもう、多少なりとも武術の心得がある僕が戦う場面なんだ。


「隠れてないで出て来いっ! この、変態野郎――――――!」


 再び、空気を切り裂く音。今度は正面からだ!

 姿の見えない敵、速度も間合いもまるで分らない。咄嗟に身を屈める


「ぐっッ!?」


 切り裂くような衝撃が僕の頬を掠める。直撃していたら無事では済まない一撃だというのは空気を切り裂く音でわかった。

 

 それでもまるで姿が見えない。一体どういうコトなんだ!?


 闘うといっても僕の習っていた「無手勝流」は防御専門の護身術で、人を殴ったりする術に関しては素人同然だ。


「晶せんぱい……大丈夫ですか?」


 心配そうな声を出す美波を手で制し、動くなと目配せする。


 ――敵は例の黒い護符を使う豊糧守護四天なのは間違いないんだ。


 そこで僕は考える。

 

 護符の力、それの応用で姿を隠して攻撃してきてるのだろう。

 これはゲームやSF映画でおなじみの『光学迷彩』ってやつなんだ。呼び方はいろいろある。可視光領域アクティブステルス、ミラージュコロイド……。

 

 いや……違う。護符は人の心に作用するものだって鶯崎は言っていた。

 

 実際に透明になってるワケじゃないはずだ。となれば……こっちの視神経(・・・)に干渉して視界から見えなくしているだけ……なんじゃないだろうか?

 鶯崎が居たらどう分析しただろうか? こういう時とるべき戦法といえば、


 目を閉じて、心の目で――


「考えるな。……感じるんだ」


 僕は呼吸を整える。梢の音、張りつめた神社の境内の空気、微かな気配を感じ取ろうとしてみる。

 次の瞬間、ハンマーで殴られたような衝撃が肩に直撃し、僕は無様に地面に転がった。


「――っ痛てぇええ!? 出来るかよ!」


 口の中が鉄の味で満たされる。直撃を受けた僕は、よろよろと立ちあがる。

 美波が僕に駆け寄り肩を貸してくれる。そして、


「晶せんぱい、気がついたんですけど……」

「何を?」

「姿は見えないんですけど、この砂利敷きの境内で足音一つしないなんて、なんか変じゃないですか?」


 確かにこの広場には細かい砂利が敷き詰められている。人間はおろか、犬だって歩けば音がするはずだ。


 ――敵が、()()かんでいるのでもない限り。


「空中……! そうか! ナイスだ美波」 


 僕は美波の頭をくしゃっと撫でると、立ち上がった。前方の暗闇に目を凝らす。


「お前の術は今、見破った! すでに丸見えなんだよ、ばーかばか!」


 もちろん嘘だ。

 だけど敵は愚直なほどに挑発に反応してくれた。猛烈な速度で近づく気配、そして空中を滑空するような音が聞こえた。

 

 ――斜め左後方、死角からの攻撃!


 僕は瞬間的に身をよじり、直前で身をかわす。タイミングはもう読めた。


「せんぱいっっ!」

「思ったとおりだ……! 振り子だよ! 美波なら判るよな? 次の攻撃」

 腰を落とし、体制を整えつつ、片目で笑って見せる。

「は、はい!」


 僕と美波は同時に()前方(・・)の暗闇を凝視する。

 闇に包まれた空間には何も見えない。だけど確かにそこに居るはずだった。次の攻撃はそこから来るはずだ。いや、間違いなく、来る!


 なぜなら、この攻撃は杉の木同士をワイヤーで結び、その中心にぶら下がって攻撃を繰り返しているだけなんだ。

 だから必ず、前後か左右の直線的な「二回攻撃」が基本となっているんだ。


「美波! そのタンクをこっちへ!」


 足元に転がる水鉄砲のタンクを指出すと、美波が素早く拾い上げ、投げ渡した。

 受け取ったタンクの水は半分以下だけど十分だ。


 空中で振り子運動を利用した攻撃。ということは、次の攻撃は予想できる。

 そう、つまり今の攻撃の反対側から来る!

 全身をバネのように捻り、右の拳を背後ギリギリまで引き絞る。


「こっこだあああっ!」


 予想通りの方向、右前方から空気を切り裂く音の接近を感じた瞬間、僕はタイミングを合わせ全力で拳を突き出した。激しい衝撃が拳に伝わる。確実に捉えた生身の感触だ。


『ギギャッ!? あッあっッッ!?』

「あ、当たった!」

『……ぐぁあっ! よぐもっ! 豊糧守護四天の私にこんなあぁああァアアッ!』


 背後に遠ざかって行く怨嗟混じりの叫びが折り返し、再び空中から近づいてくる。


 赤黒い液体がポタポタと地面に点を描く。それが完全な目印となった。


「美波の賢さと、僕の戦闘センスを甘く見たのが……」

『ヒッ!?』


「お前のの敗因だッ!」


 僕はその見えない相手に向かって、水タンクを突き出した。ぐぽんっ! という湿った音が響いて、口に突き刺さったとしか思えない感触が手を伝わる。


『オゴェウェエエッ!』


 水タンクはそのまま僕の手を離れ、空中を滑るように舞ってゆく。


『ゴクブッ!? ペッ! うげっ!』


 虚空から不気味な悶絶する声が響く。


「せんぱいの煮汁を直接飲んだ!?」

『な、なんだこれ? 天乃羽あぁあ? おまっ、お前が……好きだ! ヤバイ!? 好きすぎる! 大好きだ! お、お前に協力する! ホントに大好きなんだぁあああ!』


 口から直接飲みこんだ僕の『煮汁』の効果は劇的だった。不気味な求愛の声が暗い境内にこだまして、正直かなり嫌過ぎる。


「……なんか、姿が見えないのって気持ち悪いですね」

「……これはキモすぎる」


 美波に同意する僕。


『ちょばっ! まって……お願い! アキラきゅぅうううん!?』


 卑劣な攻撃を仕掛けてきた守護四天の、ひたすらに気持ちの悪い愛の叫びを完全に無視し、僕達は本殿に向け歩き出した。


(つづく!)


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