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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇五章 強襲! 豊糧神社攻略作戦
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 5章の6 立ちはだかる敵、四天王

 『(ケガ)れ』――。

 

 それは今年一年の村中の不浄を一身に受けた、禁忌の人物の称号だ。

 触れられれば一年分の厄を貰ってしまう。

 それを鎮める為の村の祭りなので、穢れ役になった人物は祭りが終わるまでの間、自宅で大人しくしているのが慣わしだ。


 もちろん、僕はそんなの知ったことじゃない。


 僕の突然の乱入に、神社はハチの巣をつついたような騒ぎになった。

 敵にしてみれば、まさかの真正面からの突入だ。それもあろうことか神輿に跨って。


 祭りの実行委員会本部を兼ねる神社の社務所からは、神主姿の宮司たちがこちらを指さしながら跳び出してくるのが見えた。


「あ! あいつは!」

「八尋様に連絡を!」

「境内に穢れを入れるな!」

 口々に叫んでいる声が聞えてくる。


 僕らは神輿もろとも真正面から神社の境内へ突入するという暴挙を行ったのだ。しめ縄をブチ切って大声を上げながら境内の広場を練り歩く。


 だけど、今居る場所は神社の一番下に位置する広場だ。山頂の『本殿』に辿り着くためには、三百段もある長い石段を登らなければならない。けれど僕は行かなきゃならない理由があるのだ。

 ――優菜……!


 神社の石段は運動部が足腰を鍛えるための名物コースとして利用するほどの難所だ。登り口は、神社の大鳥居をくぐり抜けたこの広場の奥にある。


 広場は樹齢百年ほどの太い杉の巨木に囲まれていて、サッカーグラウンド程の広さがある。正面にそびえる「拝殿」は駐車場完備の立派なもので、脇には神社を管理する社務所――弥花里さんの自宅も兼ねたもの――が建っている。

 そこでは多くの祭りを見に来たお客さんたちがいて、人だかりができていた。巨木に囲まれた広場は、普段の静謐さとは違ってとても賑やかだった。

 それもそのはずで、駐車場を兼ねた広場には、色とりどりの屋台が軒を連ねている。

 のんびりと露店散策を楽しんでいた村人たちは、神輿の乱入という例年にない珍事に、歓声を上げはじめていた。


『美波、右前方二時の方向だ、撃て!』

「はいっ!」


 美波が杉の木に貼り付けられていた『護符』を水びたしにする。神社の結界を構成する黒い護符が、僕の煮汁を浴びた途端に煙をあげてボロボロと崩れ落ちた。


 どうやらこれば呪法回路に過負荷(・・・)をかければ、黒い護符の機能が停止する……という理屈らしい。


『護符は見つけ次第破壊! 結界の構成要素を全て無力化するのだ』


 的確な指揮管制能力で次々と敵陣の結界の破壊を指示していく鶯崎。


 実のところ僕は、神社に突入した途端、締め付けられるような苦しみに襲われて、青い顔をしながら神輿にしがみついているのがやっとだった。だけど、美波や鬼頭先輩が護符を破壊するたびに身体が軽くなり、回復してゆくのが判った。


「晶せんぱい! 大丈夫ですか?」


 美波が神輿の下から心配そうにな顔を僕に向ける。


「もう……大丈夫みたいだ、ありがとう」


 神輿に揺られていると徐々に不快感も消えてゆく。結界が薄らぎ始めていた。

 僕を取り押さえようと駆け寄ってくる宮司たちは、鬼頭先輩がその巨体で張り手を食らわせて蹴散らしてゆく。それはまるで鬼と陰陽師の闘いを描いた平安時代絵巻みたいな光景だった。


「敵じゃなくて良かった……」


 僕は心底そう思った。鬼頭先輩が宮司を抱え上げ後続の宮司めがけて投げつけた。その度に出店見物の若者達や集まっていた見物客から、わっ! と歓声が沸き起こった。


『突入経路クリア! 天乃羽アキラ、石段を登り本殿を目指せ! 神輿はここまでだ』


 結界の破壊が完了したと鶯崎は判断し、僕らに突入指令を下す。


 だけどその時、鶯崎が叫んだ。


『まて! 十時の方向に敵影、急速接近! 距離二百……! 神社直属の――重神輿か!』


 それは村一番の大型の神輿だった。黒光りする(じゅう)MA(モビルアーマー)のような威容が姿を表したのだ。


 鳥居をくぐり、進行上に有る細い植木をなぎ倒しながら僕が乗る神輿目がけて突進してくるのが見えた。一糸乱れぬ白装束の男達の掛け声が響き渡り、村人たちが悲鳴をあげて左右に逃げ惑った。


「貴様が天乃羽晶がぁああ! これ以上好き勝手はせぬぞぉおお!」


「なっ!?」


 豪華な装飾の施された神輿の上に立った大男が突然として口上を叫んだ。それは異様な漆黒(・・)法衣(・・)に身を包んだ山伏に似た巨漢の男だった。


「グゥフゥハハハハ! ここから先へは進ませんぞ! 穢れめが!」


「まさか――豊糧守護四天(ほうりょうしゅごしてん)!?」


「いかにもおお! 俺様は豊糧守護四天が一人……東方持(とうほうじ)国天(こくてん)を司る、無道(むどう)!」


 双眸から溢れるのは明らかな敵意だった。血管の浮き出たスキンヘッドが怒気で赤くなっている。その肉体が強大な戦闘力を秘めた筋肉の塊である事は明らかだった。


 神輿の上に無道がまさに仁王のように立ったまま、こっちに突進を仕掛けてきた。


『正面からぶつける気だ! 全員、衝撃に備えろ! くるぞ!』

「みんなッ! 気を付けて!」

 僕は鶯崎の指示と同時に叫んだ。敵の黒い神輿は完全にぶつける勢いで突撃してくる。


「「「ぅおおおおおおおおおお! 負けるなぁああああ ワッショォオオオオい!」」」

「うわぁあ!?」


 担ぎ手の若人たちが叫ぶと同時に、ガァンッ! という激しい衝撃が神輿を襲う。僕は振り落とされまいと必死でしがみついた。

 村始まって以来の喧嘩神輿の様相に、観客からは大きな歓声と拍手が巻き起こる。


「おぉ! 今年は威勢がいいのぅ!」

「青年団負けるなぁあ!」

「いけーーっ!」

 金と銀の細工で過剰なまでに意匠を凝らした神社の大型神輿よりも、清貧な地区代表の青年団の神輿を応援する声が多く聞こえてきた。


「「「わっしょーーーーい!」」」

「「「ワッショアアアア!」」」


 担ぎ棒同士が激しく激突し、押し合う一進一退の攻防。担ぎ手の数において倍もあろうかという大型神輿相手に互角に戦う青年団の姿は、ますます観客の心をつかむ。


「いいぞぉおおおお!」

「兄ちゃん負けるな!」

「押しかえせ、若い衆っ!」


 それまで杖をついていた老人までもが、杖を振り上げて大声で応援をしているのが視界の隅に見えた。

 僕は確かに穢れと呼ばれ、謎の力をもってはいるけれど、応援してくれる人はまだいるのだ。


 だけど人数では倍近い差のある大型の神輿相手に、僕達は徐々に押され始める。じりじりと神社の外側、鳥居の外側へと押しこまれてゆく。


「ぐぬぅふふふ! 神聖な場所から消えろ! 押し潰してやるぅおおお!」


 無道の咆哮と共に更に後退する僕らの神輿。足共には土煙が舞う。


「くそうっ! 押される!」

「踏ん張れぁやあ!」

「アキラきゅんの為にぃいい!」


 その時――。

 

 見物客の中から突如、何人かが駆け出して僕の乗る神輿に次々と加勢し始めた。僕はその人物たちを見て、思わず目を丸くした。


「アキラ! 楽しそうだな!」

「俺達も……混ぜてもらうぜ!」

「祭りはよ、皆でやるもんだろ?」

「井坂に田代!? お、お前らどうして!」


 僕は眼下の光景が信じられなかった。十人を超えるクラスメイトの男子達が次々と担ぎ手として加勢しはじめていたのだ。


「なんだ? こいつら一体!? ッばかな! 押し返されるだと!?」


 無道(ムドウ)と名乗った四天王とその配下の担ぎ手達からから困惑の呻きが漏れた。


「田代達だけに……いい思いはさせないでござるよ!」

「さ、佐々木も来てくれたのか!?」


 カードゲームマニアでインドア限定の佐々木までが加わっていた。

 完全アウェイかと思われた戦いの最中の思わぬ援軍に、力が漲る。逆襲の時間だった。


「よしぁああ! みんなの、皆の力を、貸してくれ――――っ!」

「「「おっせぇえええあああああああああああああああああああああ!」」」

 僕の叫びに呼応して、大型の神輿がぐらりと押し返された。

「ばかなぁあああ!?」


 無道が驚愕の叫びをあげる。神社を囲むように立っている杉の巨木に大型神輿は激しく衝突し、激しく軋み音を響かせる。無敵の巨体を誇った神輿は、そのまま木々の間に挟まると、完全に動きを封じられた格好になった。


「晶せんぱいッ!」

『天乃羽! 今だ撃て――――!』

「おぉのれえええええ! 穢れがぁあああ!」


 僕は至近距離から絶叫する豊糧守護四天・無道めがけて水鉄砲を浴びせかけた。タンクが空になるのにも構わずに撃ち続ける。


「落ちろぉおおおお!」


 だが――、無道の口元がニィッ、と歪む。


 直撃したはずの僕の煮汁は、黒い衣の表面で、水玉になり弾かれていたのだ。


「は、弾かれた!? 水鉄砲が効かない!」

『ばかな! 対呪詛(アンチスペル)被覆(コート)だと!?』


 鶯崎が初めて動揺の声を上げた。


「ぐはは、これが……神の加護なのだぉおおお!」


 無道がドヤ顔でふんぞり返る。


「てかそれ、(はっ)(すい)フッ素樹脂加工だよね!?」


 僕はつっこんだけれど、水鉄砲の思わぬ弱点に打つ手なしだ。


「汚らわしい小僧! ここまでだぁあああ!」


 無道が神輿から飛び降り、その巨体で担ぎ手をかき分けて、僕めがけて突進してくる。


「先輩! 逃げてくださいっ!」


 素早く背後に回り込んだ美波が、水鉄砲で煮汁を浴びせかけた。小柄な男の子が巨漢の男に挑む勇敢な姿に目を奪われるけれど、やはり漆黒の衣で跳ね返され直撃しない。


「危ないッ!」

『退け美波!』

 僕と鶯崎は同時に叫んでいた。


「効かぬ! 通じぬ! こんな汚らわしい汁なぞおおお!」

「逃げろ美波ッ!」


 僕は無我夢中で神輿を飛び降りて美波に駆け寄った。だけど、間に合わない。豊糧守護四天の無道が、野獣のような剛腕をハンマーのように美波の頭上に振り下ろした。

 ――が。


「――なにぃ!?」


 バチイイイ、と肉が打ち付けられる音が響いた。


「グッフゥウウ……ヌシの相手は……このワシじゃ!」

「っ! 貴様も天乃羽の一味かぁ?」

「お、鬼首!」


 鬼首が両腕で無道の一撃を受け止めていたのだ。腕に血管が幾筋も浮かび上がり、熱い闘志を秘めた鬼首先輩の目と、無道の殺意に満ちた視線が火花を散らす。


「鬼首さんっっ!」

「グフゥ……、晶と……行くんじゃ!」

「! 美波! 今だ、こっちへ!」


 僕はその場にへたり込む美波に駆け寄り、手を取って駆け出した。


 背後では主を失った双方の神輿が崩れ落ちた。青年団の神輿の勝利に揺るぎないのは、観客達の声援が証明していた。「勝利! 青年団神輿ぃぃ~!」酔いどれた親父が叫んでいる。沸き起こる拍手と歓声。


「天乃羽あぁあ! 行くんじゃ! ここは……ワシが食い止める!」


 あの鬼首先輩よりも更に一回りも大きな無道の腕が、先輩の腹をえぐる。


 痛烈な打撃音とともに、鬼首先輩の身体が浮き上がった。しかし、倒れない。


「耐えたか? ならば……神前勝負といこうかぁあああ!」


 無道が、ぬぅん! と四股(しこ)をふむ。神聖な破邪の儀式。それは相撲を原型のような動作だった。わっ、と大歓声があがる。鬼頭が上半身のシャツを破り捨て応じ構えを見せた。


 --戦うつもりなんだ! 僕のために……!


 無道が獣じみた笑みを浮かべ、黒い法衣を自ら脱ぎ捨てた。上半身の筋肉が、瞬間的に爆発したように膨れ上がる。肉体のリミッターを外し全ての戦闘力を開放しているのが判った。ビリビリと神社の広場の空気が震え始めたように感じられた。


 無道が鬼首先輩に突撃し、衝突音が耳朶を打つ。張り手と張り手の打ち合い。周囲に湧き上がる怒号と歓声に、場内は大混乱へと陥った。


「天乃羽晶、少しの間じゃったが、ヌシと一緒に走れてワシぁ、楽しかっ――」


 満足げで、どこか寂しげな顔の鬼首先輩から僕は目が離せなかった。


『参道だ! 階段を目指せ! 走れ!』


 インカムの叫びに突き動かされるように、僕と美波は駆けだした。


(つづく!)

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