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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇五章 強襲! 豊糧神社攻略作戦
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 5章の3 天乃羽アキラの世界帝国


 男達の囲むスキヤキパーティに、忽然と湧いて出たのは鶯崎の忠実な下僕……無口な助手、塚井麻子(ツカイマコ)だった。

 

 なんと、いつの間にか鶯崎(うぐいすざき)の背後から姿を見せたのだ。

 

 ――僕ら4人しか居なかったはずなのに?


 僕はその存在に気が付かなかった。最初から潜んでいたのか、あるいは後から入ってきたのか。いずれにしても只者じゃなさそうだ。


 黒髪のおかっぱ頭に色白無表情、塚井(ツカイ)は全身黒のゴスロリ風の衣装を着ていて、尻尾の飾りもついている。私服は小悪魔風らしい。


 鶯崎の横に立ち、勝手にもごもごと肉を食べ始める塚井(つかい)麻子(まこ)


「腹が減ったのか? 仕方のない奴め。ほれ、白飯もくっていいぞ」


 ゴスロリ娘は無言でコクリと頷くと、鶯崎が差し出した山盛りのご飯を受け取った。


「あ……あの、椅子どう、ぞ」


 美波が恐る恐る椅子をすすめると、遠慮なくどっかと腰をおろし、鍋から肉、白滝、豆腐と取り出して食べはじめた。鬼首先輩もはっとして負けじと食事を再開する。


「気配もなく入ってくるとか、ぬらりひょんかよ……」


 ガッ! という音と共に僕の向こう脛に激痛が走る。


「痛ッ! 蹴った! なにこいつ!?」


 僕を睨みつけるゴスロリ娘。どうもコイツとはうまが合わないみたいだ。


「……で、首尾は?」


 鶯崎がそんなやり取りを眺めつつ静かに言うと、使い魔娘はもぐもぐと咀嚼しつつも、胸ポケットからメモ紙を取り出した。鶯崎はそれを受け取り目を通す。


「ふん……思った通りだ。ご苦労だったな使(つか)魔娘(まこ)よ」


 わしわしと頭を撫でる鶯崎。無表情のゴスロリ少女の目元が笑ったように見えた。


「それ、神社の地図か?」


 覗き込むと、至る所に「×」印が付けられ、本殿には赤い○印が付けられていた。


諜報(スパイ)活動(かつどう)を頼んでいたのだ。気配を消せるこいつなら怪しまれないからな」


 頭をぐりぐりされながら使い魔娘はすき焼きを食い続けている。


「気配を消せる? 忍者か何かなの?」


 僕の疑問は意に介さずに、鶯崎が形のいい顎に手を添えて、神社の地図に書き込まれたメモを赤メガネを光らせながら睨んでいる。


「本殿を中心とした侵入防止用の二重の結界か。その内側におそらく豊糧守護四天(ほうりょうしゅごしてん)……戦闘宮司が配置されている。多層の防衛線というわけだ」

「……優菜は、本殿にいるんだよね?」

「…………」


 ゴスロリ姿の使い魔は静かに、本殿と書かれた神社の奥を指さした。


 鶯崎が悩ましげにメガネを指で持ち上げる。つまりそこに行く為には、結界を突破し、委員長が言っていた『戦闘宮司』と戦わなければいけないのだ。


 僕はそこで一つ思い出した。


「僕の親父が祭りの準備で神社に泊り込むって言ってたんだ! 連絡できないかな……、事情を話せば親父はきっと……。それに古武術の師範で凄く強いんだ、一緒に戦えればそいつらなんて!」


 すっかり忘れていた。三度の飯にプロテインという格闘技バカな親父のことを。


「だが、神社に電話する訳にも行くまい……?」

「う、確かに」


 天乃羽ですけど親父いますか? なんて電話したらバカだ。

 だから携帯を買えと言ったのに。村は山に囲まれているせいで電波状態が悪くてあまり使えないのだ。


「『戦闘宮司』とかいう連中は、おそらく豊糧の巫女が使った黒い護符以上のモノを装備しているだろう。易々とこの本殿にはたどり着かせてはくれないだろうな」

「山の裏手からは登れないんですか? たしか、参拝用の細い道があって……」


 美波がやっと肉を飲み込んだらしく尋ねた。


「足場が悪すぎる。敵は地の利もある。我々に不利だ」


 それまで食う事ばかりだった鬼首先輩が、カタリと箸を置いた。


「のぅ天乃羽よ……ヌシは大事な、ねーちゃんを助けたいんじゃろう?」


 ゴキン、と首を鳴らす。鍋を囲んでいた皆が顔を鬼首先輩に向ける。腹が満たされた鬼が、意外なほど静かな声でゆっくりと話し始めた。


「つい先日、お主とやりあった時、水をかけられての……わしゃぁ目が覚めたんじゃ」

「……え?」

「ヌシへの友情、いや……愛にの!」


 キラリンと鬼の目が輝く。比喩がおかしいけれど、そんな目が僕を見つめている。


「ヌシにはの、不思議な力が有るんじゃ。それは悪いもんじゃない。ワシァ、水を頭からかけられた時、こんな勇気のある男と心底友達になりたい、と本気で思えたんじゃ」


 鶯崎ソラが何かに気が付いたような顔で、ガタリと立ち上がった。

 

 図書室で見た知性の歯車が回りだした時の瞳。赤セルフレームの眼鏡が光を纏う。そして凛とした声を張り上げた。

 今度は全員が鶯崎に注目する。


「ここに居る私達の共通点はなんだ?」


 鶯崎が静かに僕達を見まわした。


 鬼と恐れられた凶悪顔の先輩。

 質問の主、学年一のエリート女装少年。

 いいお嫁さんになれそうな可愛い男の子、美波。


「…………?」


 僕は首をひねる。普通なら交わらないはずの僕達は今、鍋なんてつつきながら和気あいあいとしている理由?


「わからんか? 皆、お前が『好き』なんだよ。だからここに居る」

「僕を好き……ってのはそのわかるけどさ」


 皆の視線が僕に集まる。あらためて面と向かって言われた好意に赤面してしまう。


「確かにこれは蛇神の力が影響した『現象』だ。だがこれには、ある規則性がある!」

「規則性?」


「フフフ。フハハハハ、謎はすべて……解けた!」


 ズビシと僕を指さし、見た目は美少女、中身はエリートな女装男子が、事件は解決した! と言わんばかりに会心の笑みを浮かべる。


「天乃羽と我々を結ぶキーワードは『水』だ」


「水? それって?」

「どういうことですか、鶯崎さん?」


 美波も鬼頭先輩もみな顔を見合わせる。


「みず……せんぱいと水。……あ!」

 美波が目を丸くする。


「そうですよ! 晶せんぱい、僕にペットボトルを拾ってくれたじゃないですか!」

 そうだ。確かに僕は美波のペットボトル入りの水を拾ってあげた。でも、鶯崎は?


「天乃羽アキラよ、貴様、図書室に入ると必ず備え付けの水を飲んでいるな?」

「……あ!」

 そうだ、放課後暇つぶしの定番、図書館で僕は必ずタンクの水を飲んでいた。


「それにこの前ボクを助けてくれた時だって……」

「バケツの水か!」

 昼休み、美波に絡んできた鬼頭先輩に水を頭からぶっかけたんだ。


 あの時飛び散った水は廊下に広がり、クラスの男子達が歩きまわった。そして放課後、僕はクラスの男子たちに囲まれてしまった。全て水が関係している。つまり――


「どうやら、ビンゴのようだな」


「何か容器に入っていても、僕が触れたりした水は『惚れ薬』になるってことか」

「それが……貴様の能力。水を惚れ薬(ただし男に限る)にする力だ!」


「なんて残念な能力なんだよ!?」


 とは言うものの、これが弥花里さんのクソ兄貴が欲しがる力の正体なんだ。


「天乃羽アキラの放つある種のエネルギーが『水』の性質を変化させ、それに触れたり飲んだりした男の心に影響を及ぼす、と考えれば全てがつながる」


 確かに辻褄は合う。

 のべつまくなしに好かれるわけじゃない理由も説明できる。


「水分子のクラスター構造、いや……素粒子レベル。もしかすると余剰次元干渉が起きたのかもしれない。それが人体を構成する分子構造の固有振動数に影響し――」


「鶯崎! 日本語で頼む、鬼頭先輩が息してない!」


 鬼首先輩が白眼を剥き始めたので僕は鶯崎を制止する。


「ええい、貴様らに判るように言うなら、力の元になっている蛇神は『水』属性だ。太古の昔から水を司り、大地を潤し、豊穣なる実りをもたらす神性だ。それがひいては心の豊かさや『愛情』へと繋がる、という理屈だ。わかったか愚民共!」

「初めからそう説明しろよ!」


「と、とにかく、今の晶せんぱいが触れた水は、特別な力が宿るって事ですよね? だったらそれを逆手にとれませんか?」


 美波がみんなを制して、聡明な眼差しで提案する。


 ――そうか! これは逆に……使えるかもしれない!


「僕が、プールに入ったら?」

「……お前に恋する男達で溢れかえる、男だらけの半裸ハーレムが出現する」


 鶯崎が即答する。嫌過ぎる答えだった。


「僕がもし、浄水場の浄化プールに飛び込んだら?」

「水道水を飲んだ全ての男が、天乃羽アキラに愛の忠誠を誓うだろうな」


 それはもうテロだ。やってはいけないと流石に思う。


「もし、僕の浸かった水を、ペットボトルに入れて世界中で売り出したら?」

「アキラの……天乃羽アキラの世界帝国が出現する」


 鶯崎ソラの唇が震え、きゅっと胸を抱く。胸はもちろん偽物だ。


「男たちの熱狂的かつ偏愛的な絶対の忠誠が作り上げる千年王国(ミレニアム)――そこは赤い薔薇で埋め尽くされた背徳の愛の宮殿、退廃の玉座に祀られるのは……世界の絶対君主たる、天乃羽アキラ……貴様だ」


 ――黄金の玉座。足元ににかしづく数多くの半裸の男達。ワイングラスをくるくると回す僕の口元は超然と、邪悪な微笑みを湛えている。  それは未来の幻視なのか……目眩がした。


「アホか……」


 これが、豊糧の兄貴が狙う力の正体なのか。男達を引き寄せ、従わせる力。バカバカしいけれど、狙われるには十分だ。


 その時、僕の家の古めかしい固定電話が鳴り響いた。

 こんな時間に電話? まさか親父!? 僕はすぐに受話器を取った。


「もしもし?」

『ちっす。オレオレ! オレだよ、オレ』


 頭痛がするくらいチャラい声が受話器から聞こえてきた。今時オレオレ詐欺かよ?


「あ……ウチは間に合ってますんで。切りますよ」

『アキラくんっしょ? あ ま の は、アキラ』

「――!? 誰だ?」


 この声……酷く、心をざわつかせる不快な響き。


『まさか目ェ覚ましてるとは思わなかったっしょ? 俺の必殺の護符(・・)くらったのに大したもんじゃね? ちょっち、信じらんねーつーか』


「まさか、おまっ……や、八尋?」


『そ。俺っちが八尋だよん。いつも妹が世話になってるっつーか?』

「あ、いえ、こちらこそ……って、違う! 電話するか普通!?」


(つづく)


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