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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇四章 呪法のロジックと全力疾走
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 4章の6 僕は、全力で疾走する

 僕の横で、弥花里さんが真っ青な顔でカタカタと震えはじめた。

 

 次の瞬間、いつの間にか背後に回り込んだ塚井(つかい)真琴(まこ)が、素早くその手から黒い護符を奪い去り、事も無げにビリビリと破り捨てた。


 弥花里さんの瞳に狼狽が浮かび、全身を震わせて座りこんだ。その様子から、護符の影響を受けていたのは明らかだった。


「わ……私、何を……? あ、晶くん?」

「ミカリさんっ!」


 弥花里さん混乱し、僕を頼るように手を伸ばした、咄嗟にその震える手を握った。


「弥花里さん! こんな危ない護符をバラ撒いているお兄さ……八尋と優菜は一緒なんだ! お願いだよ、優菜の居場所を教えてよ!」


 僕は真剣に真正面から頼み込んだ。弥花里さんの瞳は定まらない。


「ゆ、優菜ちゃんは……八尋兄さまが神社の本殿に……連れて行ったのです」

「本殿? 山の一番上の?」


 こくり、と(うなず)く。

 僕は時計を見た。ここから神社までは三十分はかかる。田舎の見通しのいい道、追いかければまだ捕まえられるかもしれない。


 踵を返しかけた僕の袖を、弥花里さんが掴んだ。


「豊糧神社には今、晶くんは近づけません……」

「近づけないって……どういう意味さ!?」


結界(けっかい)が張られているのです。魔性の類や……晶くんのような特殊な力を持つ存在を近づけないようにする為です」


 弥花里さんの瞳にいつものしっかりとした光が戻っていた。


「な、なんだよそれ」

「神社に入ってしまえば……連れ戻すことは難しいのです」

「かまうもんか、たとえ何があっても行く!」


「ふん。豊糧の巫女よ、この私がいるという事を忘れるなよ?」


 鶯崎は後ろでよくわからないキメポーズをとりながら不敵な笑みを浮かべている。


 結界を破るほどの圧倒的な知性に裏打ちされた自信が漲る。弥花里さんは少し落ち着きを取り戻したのか、躊躇うように話し始めた。


「……今、神社の周りを、最強の『豊糧守護四天(ほうりょうしゅごしてん)』が……警護しているのです」

「守護四天だと?」

「し、知っているのか鶯崎!?」


「東の(せい)(りゅう)、南の朱雀(すざく)、西の(びゃっ)()、北の(げん)()という四方を守る聖獣になぞらえたものだ。さしずめ四天王といったところだが……」


 鶯崎ソラがむぅと言い淀み、指先に金色の髪の毛を巻きつけて弾く。


「八尋兄様は特別の護符で強化した『戦闘(せんとう)宮司(ぐうじ)』と言っていました」

「せ、戦闘宮司!?」


 僕は立ちはだかる漆黒の四人の幻影を見る。ゴゴゴ……という効果音付きでのイメージだ。

 

「元々は邪を払い、鬼を斬り、魔を鎮める為の者たちです。いままで祭りで召集された事なんてなかったのに……」


 戦わなきゃならないのか? だけど、僕の使える古武術は『護身術』でしかない。美波の時は無我夢中でやっただけだ。だけど手はあるはずだ。


「……要は、神社に連れ込まれる前に取り返せばいいんだろ?」

「晶くん……ダメなのです。とても……危険なのです!」


 今ならまだ間に合う。少年マンガじゃあるまいし、ワケのわからない四天王と戦うなんて僕には無理だ。

 けれどその神社に連れ込まれる前に取り返せれば!


 再び走り出そうとする僕の肩を、鶯崎が強く抑え込んだ。


「は、離せよ!」

「まて! 護符一枚でそんな状態なんだぞ? 貴様に何が出来る!」

「そんなの関係ない! 間に合わなくなる前に行くんだ! いいから離せっ!」


 思いのほか力強い鶯崎の手が僕を離さない。見た目は美少女、中身は男子。名探偵張りの頭脳を持つエリートのいう事はもっともだ。


「あの女を取り返したいなら一度体勢を立て直し、作戦を練るんだ。護符も結界も、こちらに対抗策が無いわけじゃない」


「その間に、優菜に何かあったらどうするんだよ!」


 妖しげな護符で自由を奪われているんだ。そしたら……拉致・監禁・荒縄……って!


 うわぁ!? と僕は頭を押さえて悶絶する。

「あんな事やこんな事、ここでは言えないような事をされちゃうかもしれないだろ!」

「お、落ち着け! 彼女はおそらく大丈夫だ」

「なんで言い切れるんだよ?」

「八尋とかいう奴の口車にのせられ、黒い御守りを持たされた。それは蛇神封印の『鍵』というのが本当だからだ。つまり奴にとっては大事な客人なんだ」


 鶯崎の必死の説得に、僕は黙って聞き入った。


「お前と引き離したのは接触させたくないからだ。結界を張り、さらに最強の護衛を配して接触を断つ。そしてお前の力の顕現(・・)を待っているんだ。まるで、収穫の時を待つように……な」


 鶯崎は今までにない強い瞳で僕を制した。


「収穫……」

「そうだ、器であるお前に、蛇神の力が満たされた時、ヤツ……八尋が女を人質に、お前に仲間になるように説得してくるはずだ。いや、あるいは強引にお前の精神ごと支配しようとするかもしれんが」


 一息にそうまくし立てると、俺の肩を掴んでいた力が緩んだ。


「……そうか、分かったよ鶯崎」

「天乃羽アキラ……、少しは頭を冷やしてだな」

「作戦は、任せたからね!」


 僕は全身のバネを弾いて、全力ダッシュで教室を飛び出した。


「ってアホか貴様っ! 分かってないじゃないかっ!?」


 鶯崎が叫ぶ声が背後から聞こえたたけれど、僕はじっとしていなんていられなかった。


 護符の効果は消えたはずなのに、足が思うように動かない。よろめき、廊下の壁に身を打ち付けながら走る。くそ! いいから動けよ、この足!


 八尋がヤバイやつだってのはわかる。だけど、優菜は元気で強そうに見えるけど、暗いのが怖いとか、一人が不安だとか、普通の女の子なんだ。


 今だって……全然平気じゃないはずだ!


 それよりも、何よりも、


 僕は今――優菜に逢いたい!


 四天王だろうが八尋だろうが、邪魔するならぶっとばしてやる!


 湧き上がる思いだけが僕を突き動かす。階段を五段飛ばしで駆け降りる。

 階段の踊り場で壁を蹴りつけ、その勢いで強引に身体を反転し、更に階段を一息に駆け抜ける。

 叫び、眼下の廊下めがけて、跳んだ。

 無音の滑空と激しい着地の衝撃を、そのまま反発力に転じ、廊下を疾走する。『廊下は静かに』のポスターが破れ舞う。


 玄関に続く廊下の曲がり角で、小柄な男子生徒が驚いた顔で目を丸くする。ぶつかりそうになり寸前で身をかわす。大きく見開かれた翡翠(ひすい)色の瞳――美波(みなみ)だった。


「せんぱい!?」


 その声がドップラー効果を伴って遠ざかる。

 ごめんね、今はそれどころじゃないんだ。


 内履きのまま校門を飛び出して、そのまま右にターン。乾いた砂が足元で擦れる。


 神社に行く道はこっちだけだ。


 夕暮れの田んぼの、むせ返る程の土と水の匂いが肺を満たす。

 走る、ただただ走る。全力の、疾走――。


 汗か涙か、鼻水なのか判らない熱いものを乱暴に拭い、走り続けた。


 苦しくて、声にならない声で呻きながら、走り続ける。


 沈みかけた陽光の遥か先、朱く輝く豊糧神社の大鳥居(おおとりい)の手前に、小さな二つの人影が見えた。背の高い男子生徒と女子生徒。見間違うはずのないツインテール。


 ――居た! 


 距離なんて関係なく僕は全身でで感じ取る。


「優菜――――――――――――――――――――――――ッ!」


 僕は腹の底から叫び、更に加速する。追いつけ! 間に合え!


 僕の叫び声に、優菜がぎこちなく立ち止まり振り返った。間違いなく視線がしっかりと交錯する。虚ろだった瞳が大きく見開かれる。


「あ……きら? 晶あぁ!」


「――優菜ッ!」


 全力疾走で狭窄(きょうさく)した視界の先には、優菜しか映らない。

 その邂逅の目線を塞ぐように、漆黒の人影がゆらりと立ちはだかった。


 こいつが、八尋ッ!


 僕は睨み返す。


「……マジ使えねー愚妹(ぐまい)だな、ミカリ」


 怜悧な容貌の、背の高い男子生徒が億劫そうに首を巡らす。口元を歪め、冷たく鋭いその眼光が、僕を毒矢の様に刺し貫く。


 距離は既に十メートル。このまま、全速でかすめ取るしかない!


 僕に向けて差し出された優菜の手を掴もうと、必死で手を伸ばした。


 目の前の八尋とは零距離の間合い。


 百分の一秒の世界で視線が火花を散らす。


 刹那、視界の隅で黒い紙片が舞うのが見えた。生き物のように不自然な軌道を描き襲いかかってくるそれを、咄嗟に身体を捻り、かいくぐる。


僕の指先は、確かに優菜の手を捉えた――はずだった。


「走れ! (ゆう)――」


 けれど、世界はそこで暗転した。


<第4章 了>


【さくしゃより】

 拉致された優菜! 110番通報できないわけが。。。

 残り2章、お付き合いください。

 晶くんの「戦い」にご注目を!

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