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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇四章 呪法のロジックと全力疾走
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 4章の5 天才女装子 VS 美人クラス委員長

「黒い……護符!」


 それを目にした途端、僕はまるで石化の魔法でもかけられたかのように全身が硬直した。


 弥花里さんの手に握られた『黒い護符』は、黒地に赤の文字が描かれていて、図書室で鶯崎が見せてくれたものとは明らかに別物だ。


 圧倒的に禍々(まがまが)しく、異様だ。怖気(おぞけ)が背中を這う。


「晶くん、これを見るのも辛いのですか? 酷い事はしたくないのですけれど、八尋お兄さまの命令なのです。……力づくでも引き離せ、と」

「うぐっ……」


 身体の自由が、きかない!


「これは八尋兄さまが丹念にこしらえた特別品なのです。いろんな種類があるのです。人払いの結界や、心身への直接干渉。八尋兄さまは……凄い人なのです」


 うっとりと彼女は黒い護符を眺め、僕の方にゆっくりと突き出した。僕は見えない何かに押されるように、よろめき床に片膝をつく。

 かろうじて両腕で上半身を支えるのが精一杯だ。


「くっそ、み、弥花里さん、君も、それに操られてるんじゃないのか!?」


 弥花里さんは黙ったまま何も答えなかったけれど、切れ長の黒い瞳を僅かに曇らせた。


「何が……何が、目的なのさ」


「晶くんには、お祭りが終わるまでの間、静かにしていてほしいのです。……優菜ちゃんさえ封じれば……蛇神様の力は完璧に晶くんに顕現(けんげん)します」


 ――やっぱり、時間切れを狙っているんだ。


 恐るべき刺客と化したクラス委員長が、優菜の席から腰を上げ、ゆっくりと近づいてきた。


「優菜を……どうする気だ」


 僕はずっと弥花里さんを信頼していた。優菜だってそうだ。「みかりん」と呼ぶ友人だったはずだ。ずっと仲良しだったはずなのに。


「優菜ちゃんは神社に来て頂く代わりに『ある取引』をするのです。それは、彼女にとってすごく幸せなことで、何も損をしません。傷つけたりもしないのです」


「いったい何を? 取引? 優菜と……何を?」


 弥花里さんが僕の目の前にしゃがみ込む。御香にも似た不思議な甘い香りが漂う。


 憧れの美少女の顔が目の前にあった。クラス一の人気者で、前髪はきっちりと赤いピンで止められていて――邪悪にすら見える微笑みと、手には漆黒の護符。


「私たちの(やしろ)に封印された蛇神様を完全復活させるには、どうしても優菜ちゃんが邪魔なのです。矢筒家は『封印』の力を引き継いだ血筋ですから」


 僕は驚きで目を見開く。弥花里さんがどこか熱を帯びた瞳で僕を見つめている。


「優菜が……封印?」

「そう。優菜ちゃんは蛇神様の力を封じてしまう『封印』なのです」

「はは、なんだよそれ、今期の……アニメ?」


 護符の効果で呻くような声しか出せない。


「晶くんは蛇神様に認められた『器』。せっかく蛇神様から印を貰って、力を得ていくはずなのに……優菜ちゃんと一緒にいては、本来(・・)()が出せないのです」


 弥花里さんは少し困ったような顔をして目を細めた。


「嘘だろ……こんなの、僕はただ」


 ――普通に楽しく過ごしたかっただけなのに。


「蛇神様の力を授かり行使できる天乃羽(あまのは)と、封印の法力を受け継いできた矢筒(やづつ)。この相反する二つの血脈から、同時に男の子と女の子が生まれるなんて……この数百年で初めてなのです! 折角……現世に、顕現する……機会なのに……」


 弥花里さんはまるで悪魔神官か何かのように恍惚として天を仰いた。機械じみた口調はまるで、誰かの台詞(セリフ)の真似事のようで、いつもとは明らかに違っていた。


「ふ、封印? なんだよそれ。図書館の文庫? あれ、あんまり……面白くないよ」


 皮肉をこめたつもりでも、足は空気が抜けたみたい力が入らない。


「二人が近すぎて、晶くんは折角の力を顕現できないのです。……邪魔なのです。あの子が……」


 暗く低い声色。弥花里さんの瞳には憎悪にも似た光が宿っていた。


「こんなこと、しなくたって僕は――」


 弥花里さんの為なら、この力が欲しいなら、幾らでも協力するのに。あげたっていい。


 そんな言葉を喉もとに押し留め、僕は立ち上がろうともがく。

 だけど、これで敵の正体がはっきりした。

 力を欲しているのは、後ろで糸を引く弥花里さんの兄――豊糧八尋(やひろ)なんだ。


 優菜を奪おうとしている、敵。


「蛇神様の力がアキラ君に顕現したら、私は……アキラくんと……(ちぎ)るのです」

「な……ち、ちぎりって、み、弥花里さん? 何言って」


 唐突な発言に、僕は動揺する。弥花里さんは微笑むと、細い指先で僕の頬を撫でる。そして両肩をとん、と押された僕は、冷たい教室の床の上に転がされてしまう。


 仰向けになった僕の上に、弥花里さんが馬乗りになる。暖かくて柔らかい肉感が、腰のあたりにむにゅんと遠慮なしに押し付けられた。


「な、な、な、なに!?」

「お祭りが終わったら……沢山、契るのです」


 とろんとした眼差しのまま、顔をぐっと寄せてくる。幾筋かの髪が鼻をくすぐり、甘い息が顔にかかる。


「ちょっ……やば……ホント、いろいろダメだってば!?」

「天乃羽くんの赤ちゃん……産みますから。そうして……蛇神様を現世に……」

「あああ、赤ちゃん!?」


「……誰も入って来れない結界を張ってあります」


 つうっと唇から首筋に細い指が這ってゆく。


 その甘い囁きに、正直いろいろ限界だった。封印とかそんな難し事はもうどこかに吹き飛んで、美波の時は結構頑張った脳内天使のライフはとっくにゼロで――


 突然、ビキイッ! という衝撃音が響き渡った。


「――――結界が!?」


 弥花里さんがハッ、と身を起こし声をあげた。瞬間、空間が割れるような衝撃が体を駆け抜けた。

 それは本物の音や衝撃じゃなかったかもしれない。


「話は聞かせてもらったぞ! 天乃羽アキラの子を産むのは……この私だ!」

「はぁあ!?」


 ガラッ! と音を立てて、開かないはずの教室の扉が開いた。


 常軌を逸した台詞を全力で吐きながら教室の扉――人払いの結界で閉ざされていた扉――を、こじ開けたのは、完璧美少女モードの鶯崎(うぐいすさき)ソラだった。


 ◇


「フゥーーハハハハ!」


 開け放たれた教室の入り口に美少女が高慢な笑みを浮かべて立っていた。

 指先で赤いセルフレームの眼鏡を持ち上げて、金髪のウィッグをふわりと振り払う。


「うっ、鶯崎くん!? そ――その格好!?」


 驚くのも無理はないよね。と僕は苦笑する。悲鳴と驚愕が混ざった声を漏らして、弥花里さんが飛び退くように立ち上がった。


 重なっていた下腹部が急に空気にさらされて、ちょっとだけ惜しい気もする。


「どうやって……『人払いの結界』を破ったのですか?」


「結界? フン。こんなもの、天才である私には無意味だ」


 鶯崎ソラは方眉を上げ、さも当然という風に言ってのけた。傍らには無口のままうんうん頷く、塚井麻子(つかいまこ)もいた。


「鶯崎……きてくれた……のか」

「気になって来てみればこのザマか? 天乃羽アキラ……雑魚(ザコ)か貴様?」


 ちっと舌打ちをして忌々しげな目で文字通り僕を見下ろす。確かに、図書館から飛び出して十分後にはこのありさまだ。


「何とでも言えよ、けど、来てくれてちょっと……嬉しいよ」

「あ、天乃羽アキラ、貴様っ! デレるのはまだ早いぞ」


 鶯崎の顔がぽっと赤くなり、眼鏡を曇らす。


 僕は無様に冷たい床に張り付いたままだったけれど、目の前で揺れる鶯崎のスカートの絶対領域を見ていたら、急に力が戻って来た。僕の赤ちゃんを産むとか血迷った事を叫んでいたし、身の危険度はさほど変わらない気もするけれど。


「豊糧の巫女よ、面白いものを持っているな。その護符、動きを封じる護符呪法か?」

「鶯崎さん、これが……読めるのですか?」


 弥花里さんが静かな調子で感嘆の声を漏らす。


「一応はな。それにその黒い色……豊糧の御神体(・・・)を削り出したな?」

「削り……?」


 弥花里さんは本当に知らないらしく、視線を護符に落とした。切れ長の目が見開かれ僅かにその手が震えはじめる。


「八尋……兄様の護符は、凄い……んです」


 弥花里さんはまるで壊れた機械の様に呟いた。よろめき、おぼつかない足取りで机にぶつかり、ガラガラと大きな音を立てた。


「どうやら……対天乃羽アキラ用だけではないようだな?」


 鶯崎ソラは刺すような冷たい声でそういうと、、弥花里さんを指さした。


<つづく!>


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