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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇三章 二人目の告白者と、失楽園
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 3章の2 図書館での素敵な出会い?

 シロと名乗ったあの娘が本当に蛇神の化身(アバター)なら、僕の手に付けられた「印」は何を意味するのだろう?

 お礼にょろ、と可愛らしく言っていたのだから、呪いじゃないと思いたいけれど、今の僕にとっては災難、つまるところ呪い以外の何物でもない。


「勘弁してよ……」


 僕は古書の匂いがする図書館の書架の前でひとりごちた。窓の隙間から差し込み午後の日差しが、空気中のホコリをキラキラと輝かせている。


 そうだ、弥花里(みかり)さんに聞いてみよう。昼間の鬼首(オニコウベ)先輩との一件の後、何かを知っている様子だった。

 そもそも彼女は豊糧神社の巫女さんだ。この昔話を知っていれば、最初に相談するべき相手なのだ。きっと何か、解決のヒントぐらいは貰えそうな気がする。

 何よりも、これを口実に二人きりで話すチャンスじゃないか! 


 ……なんて(よこしま)な考えは、とりあえず頭の隅に追いやる。今から教室に戻れば、まだ居るかもしれない。


 本を棚に戻そうと腕を伸ばしかけた、その時


「待ちくたびれたぞ、天乃羽(あまのは)アキラ!」


「あわっ!?」


 凛と響いた突然の声に、僕は思わず本を落としそうになった。


 本をあたふたと掴み直して振り返る。そこには、一人の女子生徒(・・・・)が立っていた。

 背はユウナよりも小さい。両腕を腰にあてて形の良い唇をきりりと結び、不遜な自信に満ちた青みがかった瞳を僕に向けている。なんというか、ちょっと生意気な感じの印象だ。


 紅のセルフレーム眼鏡がワンポイントだけれど、眼光は鋭い。おまけに短い制服のスカートに、ニーソックスという組み合わせは校則ギリギリの挑発的なものだ。


「……この私を待たせるとは、いい度胸だな!」


 美形という表現がぴったりの整った顔をすこし膨らませて、びしり、と指さす。


 眉を軽く吊り上げて、金色の近い色の長い髪をふわりと振り払う。これも校則違反なきがするしウィッグだろうか?


「え、えと……どちら様……でしたっけ?」

「何だと? 私を知らないとでも言うつもりか?」


 ギリッと音がしそうなほど彼女は歯を食いしばり、口元が苦々しげに歪む。


「そ、そんな事言われても……」


 胸元のリボンの色は赤。僕と同じ二年生? ……誰だっけ?


 いや、まてよ、この顔……この声、この背丈……そして、この高慢な感じ。


「ま、まさか君……う、鶯崎(うぐいすさき)!?」


 僕は驚きのあまりガタリと本棚に倒れかかった。

 心臓がばくんと激しく暴れはじめた。


「……やっと気が付いたか? そう……私は『鶯崎(うぐいすさき)ソラ』だ」


 ふん、と『彼女』が口角を吊り上げると、赤い眼鏡が西日をギラリと跳ね返した。


「な、なにぃいいいっ!?」


 僕は図書館だという事も忘れ、少年誌の主人公みたいな叫びをあげていた。


「場所をわきまえろ。神聖な図書館で騒ぐな」

「わきまえるも何も……おまえこそ、それ『女装(じょそう)』じゃないかっ!?」

「アキラらしい凡俗な言い方だな。服装で性を語るなどジェンダーフリーという最先端の価値観の前では無意味な事だ」

「訳わかんないよ!?」

 僕はかろうじてツッこみをいれる。目の前に居る美少女の名は


 ――鶯崎(うぐいすさき)空太。


 正真正銘の男だ。

 学年成績は二年でいつもトップ。自信に裏打ちされた高慢な物言いがいちいちイラッとくる奴だ。背は低めだけれど、綺麗な顔をしたイケメンということで、女子のファンがとても多い。生意気な口調も女子に言わせれば母性本能をくすぐるらしい。


 僕は隣のクラスだし、今まで直接話したことも無かった。だけど、その圧倒的スペックを持つイケメンエリートが、僕の目の前に――女装して現れたのだ。


 女装とはいえ見た目は完全に美少女だ……いや、男の娘? もうどっちでもいい。


「私は今、存在論的にも実在論的にも『美少女』なのだ。疑う余地も無く完璧に」


 宗教の教祖みたいに両手を広げて宣言する鶯崎ソラ。


「ななな、何いってんだおまっ」

「天乃羽アキラ、言っておくが……私はちょっと高圧的な言動がはなにつくお嬢様だが、意外と強引な押しには弱い女の子……、という設定だゾ」


 ぱちん、と指先で僕の心臓を狙い撃ちして片目をつぶる。


「設定!? 設定なの!?」


 自分でキャラ解説してしまうあたりがもう只者じゃない。


 身の危険を感じ後ずさる。だけど目の前の鶯崎は、正直とても綺麗だ。鶯崎は元々色白でほっそりしていて、いわゆる中性的な感じだし、誰かが「ゲームキャラのCG」と言っていた事も頷ける。

 仕草や手足の動きも完璧で男っぽさは微塵も感じない。小首をかしげて伺う仕草なんてとても自然だ。悔しいけど……並みの女子よりも可愛いかもしれない。


「天乃羽アキラ、そんなに舐めまわすように見られては困る……ぞ」


 僅かに眉根を寄せて頬を染める。困ったような、照れたような表情をして、片腕で胸を庇うように寄せる。むにゅんと柔らかそうな胸はシリコンのはずだけど本物っぽい。


「み、み、見てない! べ、別に何も」


 作り物の胸だと頭ではわかっているつもりでも、巨乳に見えただけで思わずどきりとしてしまうのは男の悲しいサガだよね……。

 

「……フフフ、男なら憧れて当然だ。最適な大きさを計算し、()っているからな」

「計算なの!?」

「フゥハハ! 当然だ! 美しいだろう?」

「い、や、まぁ……その」


 ふふんと余裕の笑みで顎を上げる。頭のいい奴は女装するに何処か違う。


「なんなら……触ってみるか? なに、これは造りものだ。遠慮することはないゾ?」

「え?」


「驚かせて悪かったな。お詫びだ。ちょっと触ってみるといい」


 演技ではなく素の感じでそう言うと、両腕を後ろ手に軽く組んで胸を突きだす。


「い……いいの?」

「あぁ、かまわない、触って……いいぞ」


 金色の光が満たす放課後の図書館で、制服姿の女の子が触っていい、と胸を突き出す。


 こんな現実離れした状況に、胸の高鳴りを押さえられない。相手は女装した変態エリート男子だとわかっているのに、僕の右手が獲物を狙う蛇の様に、胸へと伸びてゆく。


 鶯崎の胸が息遣いに合わせ、艶めかしく上下している。


 って、まてまて! 荒ぶる右腕を左手で押さえ込み「し、沈まれ!」とか言う。


「って、そこっ! 何カメラ構えてるんだよっ!?」


 鶯崎が立っている本棚のもう一つ向こうで、カメラを構えた女子生徒がにゅっと顔を出していた。腰を屈めてデジカメのレンズをこちらに向けている。


 それは図書館の入り口に座っていた座敷(ざしき)(わらし)みたいな一年女子だった。


「…………」


 カメラ女子は、無言のままキッと僕を睨みつけた。


「チッ……もうすこしだったのに」


 鶯崎のあからさまな舌打ちが聞こえた。


「おま! 僕をハメようとしたな!?」


「人聞きの悪い事を言うな。これは、天乃羽アキラを『私のモノ』にする為に、必要なことなのだぞ」


「わ……私のモノってなんだよ!」


 うふふと邪悪な笑みが鶯崎の顔に浮かぶ。あのまま胸に触っていたら、写真を撮られ脅されていたに違いない。思わず背筋が凍りつく。まずい……。これはマズイ。  本能が迫る危険を告げて、僕は逃げ道を探し始めた。


<つづく>

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