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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇三章 二人目の告白者と、失楽園
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 3章の1 忍び寄る影と、蛇神の祟り

 騒がしい教室を抜け出して、静かな放課後の廊下を歩く。

 

 人気の少ない廊下には、吹奏楽部の音出しの不器用な騒音と、動部の掛け声が聞こえていた。それに混じって(かす)かな祭囃子(まつりばやし)の音が聞こえてくることに気がつく。


 耳を澄ますとそれは、豊糧(ホウリョウ)神社で奉納される神楽の音色だった。


 独特な雅楽(ががく)の音色が祭りの季節の到来を予感させた。


「祭り、もうすぐだもんな」


 窓から外に目をやると、小高い山建つ豊糧神社が見えた。山全体が神社の敷地で、長い登りの石段を登りきった頂上に本殿がある。下の方に見える大きな建物は参拝用のお(やしろ)で、その前に広がる広場が村祭りのメイン会場だ。

 

 雅楽の音は、頂上にある本殿脇の神楽舞台から聞こえているのだろう。


 だけど今の僕は、祭りというだけで浮かれた気分にはなれなかった。


 僕は学校の別棟にある図書館を目指していた。豊糧神社に祭られた『蛇神様』のことを調べたかったからだ。


 鬼頭先輩との一件の後で弥花里さんが僕に囁いた『本当に権現様の力を得たのですね』という言葉の意味がとても気になっていた事もあった。


 右手の痣の事だって、調べれば何かが分かるかもしれない。美波の告白や、鬼頭先輩が急に僕に好意を持った事と関係があるのだろうか?


 図書館の入り口に手をかけた時、その横の窓からサッカーグラウンドが目に入った。


 無意識に目を凝らすと、紅白戦らしき練習試合をやっているようで、少し離れて観戦している人物が二人見えた。遠目に見ても一人はまちがいなく優菜だった。


 ツインテールも背格好も見間違うわけがない。

 ということは、隣に立っているのが例の『素敵な三年生』なのか?


「むぅ…………」


 一体どんな奴だよ? と、ガラスにおでこをくっつけて目を凝らしても顔までは見えない。

 なぜか胸の奥がちりちりする。


 溜息をついて図書館に入ろうと(きびす)を返した時、誰かに見られているような、ざわりとした冷たい感触を首筋に感じて、僕は反射的に振り返った。


「!? なん……だ?」


 廊下にはだれも居ない。けれど誰かに睨まれているような、嫌な感じは続いている。


 そして僕は気がついた。


 グラウンド上の優菜の隣に立っている人物が僕を『見て』いることに。


 顔を僅かに傾けて、確かに僕に刺すような鋭い視線を向けている。敵意と嘲笑を混ぜたような視線の不快感に、僕はぐらりと窓枠から離れた。


 首筋に怖気(おぞけ)が走る。

 

 けれど明るいグランドから、暗い廊下の中に居る僕が、窓ガラス越しに見えるものだろうか?

 恐る恐る窓に近づいて、もう一度グラウンドの方を覗いてみた。と、先ほど優菜の隣から、こっちを睨んでいた人物の姿は既に無かった。

 一瞬で消えた事に僅かな違和感を感じつつも、ホッと胸を撫で下ろす。


 サッカーのグラウンドではハーフタイムらしく、優菜が選手たちの元に駆け寄っていくのが見えた。


「気のせい……だよね」


 僕は得体のしれない何かから逃げるように、図書館の中へと身を滑りこませた。


 ◇


 静まり返った図書館の空気は、どこか家の稽古場に似ていると思う。


 違うのはピンと張り詰めた緊張感が無い代わりに、時間が停止したような静寂で満たされていることだ。


 図書館の入口のすぐ横のカウンター席では、ショートボブ……というか、おかっぱ頭の女子生徒が、座って読書をしていた。


 どこか人形じみた感じで、手元の文庫に目線を落としている。タイトルは『呪界』


 この学校の女子制服は胸元の小さなリボンで学年が判るようになっている。彼女のリボンは青なので一年生だ。初めて見る顔で、あたらしい図書委員だろうか?


 彼女は何故か僕をキッと一瞥すると、再び手元の本に目線を戻した。


「…………?」


 睨まれた。じろじろ見たつもりはなかったけどな。優菜にはよく気持ちが顔にダダ漏れだよとか言われるし、変な奴だと思われないように気をつけよう。


 二十五メートルプール程もある広い図書室を見回すと、不思議な事にいつもはもう少し混んでいるはずなのに、黙々と勉強をしているらしい女子生徒が一人がいるだけで、それ以外に生徒は見当たらなかった。


 静まり返った室内。古書特有の紙の匂いが鼻をくすぐる。


 さっきの妙な視線で緊張していたらしく、喉が渇いていた。僕は図書室に備え付けの水タンクから紙コップに水を注ぎ、ごくりと一気に飲み干した。


 一息ついた僕は、ぼこぼこと空気の泡が立ち上がるタンクを横目に、一番奥の普段ならめったに踏み入れないような一角に向かった。


 そこは『郷土史・資料』の書架の一角で、僕達の住む綾織(あやおり)村の歴史や文化・風習に関係した本が置いてあるエリアだ。


 地元新聞社が出版した、あまり読む事の無さそうな書籍が並んでいる。


 『綾織村の風俗と民間信仰』

 『綾織村郷土史・資料』

 『豊糧神社の伝説・昔語り』

 ……

 『蛇神封印伝・封印の旅路』

 『蛇神封印伝・死闘篇』

 『蛇神封印伝・外伝』

 『真・蛇神封印伝・悪霊の神々』

 『真・蛇神封印伝・そして伝説へ』

 

「あれ? 文庫本も混じってるし……」


 とりあえず薄い文庫本『蛇神封印伝』の一冊を手に取りパラパラとめくる。


 ――雷鳴と共に龍太の持つ七支刀が光を放つ。蛇神の放った刺客『十二魔神将』の一人・(イン)()()がその雷光を浴び断末魔の叫びを上げる。どうだ! 俺の七星守護神逆流チャクラ全開の――


「異能バトル物かよ?」


 これは後で読むことにして本を戻す。次は立派な背表紙の『豊糧神社の伝説・昔語り』という本を手に取る。随分と古い本だけど埃も付いていない。


「あれ?」


 挟まった栞を引っ張るに任せて本を開くと『白蛇と黒蛇と豊糧の尼』というタイトルが目に飛び込んできた。しろへび? もしかしていきなりビンゴじゃない? でもこれ、誰かが先に読んだのだろうか。


 中身は古くて読みにくい文体で書かれていて、誰かの昔語りを本に書き写したみたいな感じだ。なんとか読み進めると、そこには神様と人間の物語が描かれていた。


 ――昔あったズもな。

 ある若い夫婦が、傍らの籠に赤子を入れ畑仕事をしてらっけば、突然七尺(約二メートル)もある白い大蛇が現れ、赤子を丸呑みにしてしまったんじゃと。

 子を食われた男は大層怒り、白い大蛇を(くわ)で突き殺したそうな。

目の前で子を失った妻はそのまま(とこ)に伏せ、ほどなくして()くなったんだと。

 白い大蛇は土地神様で女子(おなご)の蛇じゃった。兄の黒蛇は大層悲しんだ。

 赤子を飲み込んだのは、蛇の兄妹にとっては生きる上で仕方のない事じゃった。

 妹の白蛇を殺された黒蛇の怒りは凄まじく、やがて自ら瘴気(しょうき)を撒き散らす『祟り(たたりがみ)』へと変わってしまったんじゃど。


 禍々しい呪いの力で、村の水は瞬く間に汚れ、土地は腐り、作物は次々に枯れ果てたそうな。やがて村人たちも次々と病に倒れていったんだど。

 呪いはそれだけに留まらず、大蛇を突き殺した男にも災いが降りかかった。

 なんと、村中の男衆から求愛を受けはじめだんだど。


 それは黒蛇の、男と女の自然な(ちぎ)りを壊す呪いじゃった。


 男の尻っこさおっがける(追いかける?)男色の呪いのせいで、村中の男たちは狂ったようにその男を追っかけるもんだで、やがて村の女達は子を孕まなくなったんだと。

 たんだ(大層)困り果てた男と村の長老は、通りかかった旅の尼に、村を助けてくれと平身低頭し懇願したんだと。

 尼は願いを聞き入れ、自らの身体の一部と命を供物に、三日三晩の祈祷を行い、祟り神となっていた黒い大蛇の怒りを遂に鎮めたんだと。

 村は救われた。村の衆は、兄妹蛇神の(ほこら)を建て、神様として(まつ)ったんだど。

 これが『(ほう)(りょう)権現(ごんげん)』の始まりなんじゃと。


 しかし祟りを鎮めた尼は、その代償として法力と女性としての大事な乳房(・・)を失ってしまったそうじゃ。尼はそのまま豊糧の(ほこら)に隠れ住んだんだと。

 尼に救われた男は、尼と祠を守ることを誓い、命尽きるまで添い遂げたんだど。


 (まつ)られた兄妹の(へび)神様(がみさま)綾織(あやおり)村の土地を護る神様となり、清らかな水と、豊かな土地、縁結びと子宝の御利益をもたらす『(ほう)(りょう)の蛇神様』と呼ばれて、親しまれるようになったんじゃと。

 ――どんと()れ。


「これが、豊糧神社に伝わる蛇権現の話だっけ?」


 息を吐き頭を整理する。小学校の頃確かに授業で聞いた気もする。


 蛇の逆切れで村が全滅しかけるとか、尼さんが自分の胸と引き換えに封印とか、昔話にしては凄惨だ。子供なら軽くトラウマになる部類だと思う。


 自分と関係しそうなキーワードは、白い蛇神様と、祟りで男が男に追い回されるっていう部分だろう。でも僕は蛇なんて殺していないし呪われる理由なんてないと思う。


 だけど今、起きていることはそれに限りなくこれ近いんじゃないか?


<つづく>

【さくしゃより】

 ここからすこしアキラくんにとっては辛い部分に入っていきます。


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