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モテ期な僕の呪いが解けないっ!? ~幼馴染告白奇譚~  作者: たまり
◇二章 こんな日は屋上でお弁当を
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 2章の3 幼馴染VS美少年、屋上の戦い

「うわぁあああわぁあああッ!? や、やめぇえええええ!」


 ま、ま、ま、まさかこれって、鬼頭先輩の愛情表現!?


 突然の愛の抱擁に、身悶える僕の悲惨な叫びが廊下の向こうまで響きわたった。


 視界の片隅で優菜が口をあんぐりと開けたまま硬直し、弥花里さんはなんだか確信を得たように満足げに頷いている。


 その時、ギャラリー連中をかき分けて、僕らのクラスの主力男子軍団が現れた。同じクラスの元気印のリーダー格、井坂と田代達だ。

 

「ウチのクラス前で何モメてんだよ!」

「おぁ!? ア……アキラ大丈夫か!?」


 極悪な上級生が相手でも引かない余裕の気迫が、この時ばかりは心強い。

 援軍の登場に、鬼頭の熱い胸板でぐりぐりと抱きしめられていた僕はようやく解放されることとなった。


 やがて、何が何だかわからないうちに、鬼首先輩は去って行った。最後は、僕の方を振り返りながら、すごくいい笑顔で手なんか振って。


 潰れた焼きそばパンもお持ち帰りしたところを見ると、丸く収まったらしい。


「はぁあ……一時はどうなるかと」


 僕は力が抜けて、水にぬれた廊下にへたりこんだ。


(アキラ)鬼首(オニコウベ)の奴相手によく踏ん張ったな!」

「一年庇ったんだってな? やるじゃねーか」

「あの三年ねじ伏せたってマジか!? ……優菜さんに鍛えられてるだけあるなぁ」


 バシバシと頭やら肩ををたたかれる。初めて味わう皆に認められた感じが、照れくさくて、とてもこそばゆい。

 何故か男子達(・・・)の僕に対する評価がすこぶる上昇しているみたいだった。


 あれ? ここは女子達も「晶君すごい!」と来てくれてもいい場面なのでは……?


「アキラ! なんであんな事したののよ!?」


 けれど僕は胸倉を掴まれた。優菜の厳しい声に一瞬周りが凍りつく。


「が……柄にもなく、美波の事守らなきゃ、とか、思っちゃってさ」


「みかりんの機転で頭冷やしてくれたからよかったけど、あそこで押えた手を離したらダメじゃないの! トドメ刺すつもりややらなきゃ!」

「そこか!? ……ごめん。でも、僕が倒れても優菜がなんとかしてくれるかな、と」


「……ばか! もう、心配させないでよ」


 顔を赤くした優菜が、ふっと締め上げていた手と表情を緩める。


「けど、アキラにしちゃ、がんばったよ」

「少しは、見直した?」

「イザって時は、頼りになるんだね」


 ちょっとだけ嬉しそうな声色。


「今まで思ってなかったのかよ……」

「今日からはもうすこし……頼りにするね、っと」


 優菜が僕の手を取って、引っ張り起こしてくれた。なんだか拳で語り合った試合後の格闘家みたいな感じだ。


「優菜ちゃん、天乃羽くん。ありがとうなのです」


 いつの間にか()花里(かり)さんもニコニコした笑顔で横に立っていた。

 真面目なイメージがあったけど、あそこでバケツで水を掛けろとか、意外とムチャ振りする人なんだなぁと少し認識を改める。

 不意に、弥花里さんの顔が近づいた。不思議な甘い香りが鼻をくすぐる。


「天乃羽くん…………本当に権現様(・・・)の力を、得たのですね」


「……え? なに」


 耳元で小さく囁かれたその言葉の意味を、僕は理解できなかった。

 振り返った時、弥花里さんは既に人混みに紛れていた。


「え~!? この子一年生? 可愛い!」

「なになに!? 晶くんの知り合いなの? 女の子みたーい」


 クラスの女子達がきゃーきゃー騒ぎ出した。

 美波が女子の輪を抜け出して、僕に駆け寄る。


「せんぱいっ! あ、ありがとうございました」


 キラキラとした瞳が僕を捉えて離れない。並の女子より可愛い笑顔に僕はほっとする。


「ま、怪我とか無くてよかったよ」

「その……凄くかっこよかったです!」

「い、いやぁ、成り行きというか。ほっとけないというか」

「嬉しかったです。名前……みなみって呼んでくれたし」


 うるうるっ、と丸っこい瞳で僕を一心に見つめる。

 これはもう完全に恋する乙女の瞳。また抱きつかれそうなので、慌てて話題を逸らす。


「でもなんで一年が、うちらの教室の前にいたんだよ?」

「それは、その……」


 言い出しにくそうにもじもじと頬を染める美波。

 まさか……、こんなところで好きです! とか言い出さないよね?


「こ、これからはちゃんと前見て歩くんだよ、じゃぁね!」

「まってください! これ、せんぱいに!」


 教室に戻ろうとする僕を美波が呼び止める。そして精一杯の勇気を振り絞った顔で、手に持った物を僕に向かって差し出した。


「なに、これ?」


 それは、美波が最後まで必死に庇っていた包みだった。

「これ、お弁当です。ボクが作ったんです。……せんぱいに食べてほしくて」


「お弁当?」

「はいっっ!」


 ぱっと花が咲いたみたいな美波の笑顔。


「「えぇえ――――――――――――――――――――――ッ!?」」


 僕と同時に大声を上げたのは、優菜だった。


 ◇


 騒ぎが大きくなる前に、僕達は校舎の屋上へとエスケープした。

 屋上は憩いの場として開放されている。周りには学校よりも高い建物なんて無いので見晴らしは抜群だ。


 僕を挟んで優菜と美波、三人でベンチに腰を下ろす。


 金網越しに見渡すと、緩やかな線を描く山の稜線や緑の鮮やかな田んぼの上に、白い雲がのんびりと影を落としている。


 梅雨の晴れ間特有の、湿気と熱を帯びた風が吹き抜ける。


『なによこの泥棒猫!』

『うるさい! このアバズレ!』

『やめるんだ、二人とも! ウグッ!?』ザクッ(効果音)

『キャーーーッ!』

『冬彦さん!? 冬彦さぁあああああん!』


 少し離れた場所では演劇部が練習をしていた。文化祭で修羅場劇は見たくないぞ。


「昼休み時間、半分過ぎちゃったし食べよっ!」


 優菜はすこしひきつった笑顔で、弁当の包みをいとも簡単に紐解く。そして手作りだという弁当を僕の前に差し出した。美波も負けじとお弁当を差し出しす。

 

「「はい!」」

「お、おぉう!?」


 両側から同時に差し出された手作りお弁当。お弁当のダブルブッキングなんて、こういうイベントに不慣れな僕には難易度高すぎるだろ! 


 お弁当はどちらもずっしりと重かった。気持ちのこもった重さ、とでも言えばいいのだろうか。両側からは期待に満ちた視線が注がれる。


 いいタイミングで「ぐぅ」と僕の腹が鳴る。


 この状況じゃ、どっちも食べるしか……無いよね。


 演劇部の方を見ると冬彦さんが刺されて倒れ込んだままだった。 ごくり、と溜飲して僕は覚悟を決めた。


「じゃ、じゃぁまず、美波のから」 

「気に入ってもらえるといいんですけど……」


 美波は横で照れと期待の入り混じった表情で、もじもじと頬を赤くしている。

 ぱかっ、と開いた弁当を優菜も興味深そうに覗き込む。


「お……おぉ!?」

「うっ!? うそ……すごい!」


 僕と優菜は思わず声を上げた。

 そこはまさに食材の花畑。食欲をそそるこんがりとした色合いの唐揚げ、可愛らしいタコさんウィンナー、鮮やかな黄金色の厚焼き卵。そして栄養バランスまで考えたほうれん草のゴマ和えにミニトマト。定番であればこそ、手抜きの出来ない食材の数々が綺麗に並んでいた。


「すごい! お弁当の見本みたいだよ! これ、美波が作ったの?」

「はい! 少し手伝ってもらいましたけど……」


 えへ、と笑う美波。その癒される笑顔に、僕はもう遠慮なく食べ始めた。

ぱくっ、もぐもぐ。


「う、旨い! 唐揚げの下味、ちゃんとしてる! ほぐほぐ、この絶妙な甘さの卵焼きとか。んぐんぐ、おいしいよ! これ」

「よかった!」


 美波が安堵の笑顔を浮かべる。


「ほ、ほんとにキミが全部作ったのカナ……カナ?」


 優菜が反対側から虚ろな瞳で問いかける。


「実は卵焼が上手く出来なくて、妹とお姉ちゃんに手伝ってもらいました」

「美波って、姉さんと妹がいるんだ? んむんむ」


 美波姉妹のきゃっきゃうふふな台所風景が脳内イメージで浮かぶ。いいなぁ……三姉妹って。いや、違うか?


 小さめで上品なお弁当箱という事もあり、僕はすぐに完食した。


「おいしかったよ。美波はきっといいお嫁さんになれ……」

「フ……フフッ。フフフッ! ――勝った!」

「ど、どうした優菜?」


 何故に優菜がここで勝利を宣言する。


「私はね! アキラの す き な も の を作って来たのっ!」


 ベンチの上に立ちあがり弁当箱を天に掲げ、幼馴染ですから好きなものぐらい知ってます、えっへん! な視線を美波に送る。


「ふふん!」

「うっ?」


 僕の目の前で優菜と美波の視線が火花を散らす。

 筋肉系幼馴染VS美少年というお弁当対決。もう……何が何だかわからない。


「じゃーん!」


 料理対決では先行したほうが負け、というパターンを優菜が念頭に置いていたのかわからないけれど、実際それは僕の好きな料理だった。


「ちゃっ……チャーハン?」

「そう! アキラ、チャーハン好きでしょ? 炒飯!」


 むふん、と優菜が鼻を鳴らす。


 小エビに細切れのチャーシュー、青ネギ、紅ショウガとふわふわの卵。程よく混ざり合った艶やかな米粒。香ばしい焦がし醤油の芳醇な香りが食欲をそそる。それは優菜の作れる唯一の料理でもあるのだけれど。


「あ、うん! 確かに好き、だけど……」

「でしょっ! 結構頑張ったんだよ、えへへ」


「……ちょっとまて優菜。弁当箱の八割がチャーハン、二割が……白飯というのは?」


 弁当箱の中身はツートンカラーで埋められていた。


「あ、それね、スペース余っちゃったから詰めておいたの。アキラ白いご飯も好きだし」


 炭水化物イン炭水化物!


 ご飯がおかず、夢のコラボレーション。


 並みの料理人には到底思いつかないグルメの境地に、僕の中で料理対決していた美食陶芸家とその息子が同時にブッ倒れた。


「ぶははははははは、ちょっおま……いや、ごめ。ブフッ。いかん腹筋が」

「なっ! なによ!? アキラのくせに笑うな!」


 美波が隣で固まっている。この組み合わせを見たら無理もない。


「いいから食べてみよっ!」「ほごっ!」


 強引に口に突っ込まれたチャーハンは、確かに美味だった。んぐんぐ……旨い!


 僕はこの味に覚えがあった。日曜日の昼間に優菜がふらりと家にやってきて、『練習だから!』と慣れない手つきで何度か作ってくれたチャーハンとおなじ味だった。最初は壊滅的な食べ物で、目を白黒させながら食べたものだけど、これは格段に上達していて、ぎこちなさと、優しさの入り混じった不思議な味がした。


 気が付くと僕は優菜のチャーハン弁当も完食していた。お腹も流石に限界だ。


「美味しかったよ、優菜のチャーハン」

「うん、よかったぁ!」優菜が嬉しそうに微笑んだ。


「……敵わないですね。なんだか、悔しいです」


 美波が傍らで、負けを認めたかのように寂しげに微笑んでいた。


「でもこれ、そもそも勝ち負けとかじゃないよね? どっちも凄く美味しかったよ。だけど正直、味と栄養バランスなら美波のほうが上だとおもうけど……」


 僕は必死でフォローを入れる。


「そ、そうですか?」

「また……作ってくれると嬉しいけど……」

「は! はいっ! 次は天乃羽せんぱいの好きなもの、頑張って作ってきます!」


 美波は青空みたいに澄んだ瞳を輝かせて、笑った。


「みなみ君! わたしたちも食べようよ、ね!」

「は、はいっ!」


 優菜と美波はお互いのお弁当を味見したり、友達みたいに打ち解けていた。


 僕は苦しい腹を露出したい衝動を抑えながら、ベンチに寄りかかり空を見上げる。屋上ランチもなかなか……楽しいな。


【さくしゃより】

 キャラクター紹介ページつけようかと思います。

 そのうち表紙イラストもつけますね♪


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