サンタは今宵誰に会うのか
「ああああ!寒いいいい!」
白い息をSLのように吐き出し、手で腕をさすって体を暖めようと試みる。
もみの木のイルミネーション。舞い散る雪。そこらじゅうでくっつき合っているリア充改めカップル達。
そう。今日は12月25日。
ホワイトクリスマスである。
しかし、俺はもみの木の下でワイワイやっているでも、彼らを睨んで歩き去る少年グループの1人でもない。
ケーキ屋の前で、酷く目立つ赤い帽子に赤い服の上下、白い袋を持つ男の真似をしている。
今の俺は、ティッシュを配るサンタクロースなんだぜえええ!
「おい白刃、うるさい」
「あっはい…すいません…」
元はといえば今隣にいるサンタクロースーの姿をしたケーキ屋の店員ー宮徒さんが原因なのだ。
一昨日、母さんに頼まれクリスマスケーキを買いに来た時の事。宮徒さんは俺を見つけると同時に目を輝かせながら近づいてきて、
「お、いい所に!クリスマスどうせ用事ないだろ?バイトやるよな?つーか、やれ」
…ってなんでだよ!?用事ないって決めつけんな!
まぁ、無いけどさぁ…
とにかく、その時は感情に任せて断ったが、宮徒さんは母さんに連絡をしたらしい。家に帰った瞬間にバイトについて聞かれた後、
「白刃、良かったじゃない。クリスマス暇なんでしょう?バイトやったら?というか、やりなさい」
…ってなんで!?せめて両親だけでも息子の可能性を信じて?!
というわけで、俺は宮徒さんとサンタクロースになりすまし、冬の街で働いている。
仕事は実に簡単。笑顔で歩く2人にこちらも完璧な笑みで近寄り「よろしくお願いします!」だのと言って使えそうもないティッシュを押しつけて渡すだけ。しかし、ティッシュを渡すのは無理やりのため、渡した人達(特に男性の方)に睨まれてストレスが溜まっていく。
「なぁ白刃。俺隠してた事があるんだ…」
だから、そう呟いた宮徒さんの言葉を完全に無視できる余裕など俺にはなかった。
「はぁ。なんですか」
「実は俺、霊が見えるんだよ。第3の目が開いてな…」
中二病発動おめでとうございます。そういえばこの人、俺がロッカーに手作りの目つきが悪いウサギの人形をしまう時も、
「なっ!白刃、そいつはまさか…魔物か?!くらえ!最強四元(以下略)」
と言っていたな…。そうか、既に手遅れだったのか、この人。
「見える、見えるぞ…。マフラーをつけてお前を見上げる少女が…」
どこにいるんですか、と言いつつ周囲を確認すると、
「ねぇ、あなたサンタさん?」
いた。150㎝くらいのマフラーをつけた少女がいた。黒く大きな瞳で赤い服に身を包む俺を見上げている。
「見えてるんだよね?何驚いてるの?」
そうだよ、何考えてるんだ俺!宮徒さんは中二病患者で、テキトーにいっただけじゃないか!
とすると、この子は迷子で、誰もが知っているサンタに助けを求めてみた、という事だろう。見た目は小学生くらい。話を聞くぐらいならと思い、俺は少女と目線を合わせるためしゃがみ込んだ。
「どうしたのかな?君。お母さんとはぐれちゃったのか?」
笑顔でそう言った瞬間、少女は顔をしかめながらものすごい勢いで俺の頭を叩いてきた。
「ちょっ、痛あっ!?」
「子ども扱いしないでよ。私はこれでも高校1年なんだよ?JKなんだよ?心すっごい傷ついたよ?」
嘘だろ…。いや、女子でも150㎝ない人が学校にいたな…。それよりも、高校1年になってもサンタを信じているほうが問題だ。精神年齢も低そうだし。
「えーと、君。お母さんは?」
「君じゃない。優奈っていう名前があるもん」
「う…。優奈ちゃん。お母さんは?」
「ちゃん付けるのダメ!」
「ぐっ…。優奈。お母さんは…?」
マフラーをつけた少女ー優奈は、まるで憧れの人に会ったかのように目を輝かせて言った。
「もうすぐ迎えに来るよ!それよりもサンタさん。私あなたと話したいな!ねえ、話そうよ!」
「いや、俺仕事中だし…」
そう言って柔らかく断ろうとした時には、もう優奈は遠くで手招きをしながら俺の事を待っていた。ストレスで余裕が無くなる事からも分かるだろうが、自分の事を待ってくれる女性を無視できるほど、俺の心は強くなんてできちゃいない。宮徒さんも男だ。分かってくれるだろう。
ティッシュを配っている宮徒さんに、ちょっと外しますと声をかけた後、人混みに紛れて今にも消えてしまいそうなほど小さく見える優奈の元へ走った。




