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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

壊れそうな程にシリーズ

壊れそうなほどに

作者: まこちにゃん

死ぬとか言ってるシーンが多い為、得意ではない方は、今すぐ逃げて下さい。

どうしようもなく、人を好きになった。

貴方が好き。死ぬほど好き。

けれどもう、諦めるしかない。この狂おしいほどの気持ちは、捨てるしかない。

ならそのためには、どうすべきか。

答えは簡単だ。自分の体ごと捨ててしまえばいい。

どうせ、俺を愛してくれる人なんて居ないんだから。

どうせ、俺なんて、必要無いんだから。


気付けば、俺は駅のホームに居た。

後、5分もせずに電車が来る。

ふらりと人の間を抜け、白線を越えた。そのまま前へと倒れていけば……。

誰かが、腕を掴んだ。強く、強く。それを振りほどくほどの力など、もう俺には残っていなかった。

俺はその場に崩れ落ちた。



暖かい。何かが俺の頭を撫でる。意識が覚醒していくにつれて、周りの様子がわかってくる。

俺は布団に横たえられ、誰かが頭を撫でているのだ。

目の前に居るのは、見知らぬ若い……俺とそう変わらない年の男。

「どなた、ですか?」

俺が尋ねると、男は言った。

「あ、よかった、目ぇ覚めたんだ」

質問を無視し、関係ない話をされる。軽く怒りを込めた目で男を見ると、どうやら気付いたらしく、軽く自己紹介してきた。

「えと……オレは永尾。…よろしく?」

「……昨日、俺の手掴んだの、アンタですか」

尋ねると、頷きながら言う。

「うん、それオレ。…記憶はあるみたいだな…」

永尾と名乗った男が納得するように呟いている。

俺は、どうしても堪えきれず、涙が頬を伝った。

「なんで……助けたんだ……」

「……え…」

「……なんで……死なせてくれないんだ……」

「待て、一旦落ち着きな?…何かあったのか?」

永尾は俺の肩に手を置いた。間髪入れず、俺はそれを振り払う。

「アンタに言ったってわかるわけない」

「確かにわからない。でも、話すことで楽になることもある」

「……キレイゴトだ」

「何と言ってくれても構わない」

俺は、話してみる事にした。いや、話さないと解放されないと悟った。

「好きな人が、居たんだ」

「……過去形?」

「そう、過去形。亡くなったのが、昨日」

永尾は、ただ黙って俺の話を聞いてくれた。

「彼は、俺を愛してくれたし、俺も彼を愛していた。……けど、彼は死んで、俺を愛してくれる人は居なくなった。俺が愛する人も居なくなった。ならもう……生きる意味も理由も無い」

永尾は暫くして、こう言った。

「……オレが、君を愛すよ。だから……死なないで」

「意味わかんない。例えアンタが俺を愛してくれたとしても、俺が愛する人はもう居ないんだ」

「だったらオレが、君の心を奪うよ。1ヶ月でいい、猶予をくれないかな」

「出来なければ?」

「何か一つ、君を手伝おう。……一緒に死んでも構わない」

アホらしい。そう思ったけど、永尾の目に嘘はなかった。

「わかった。その話にのる」

「じゃあ、君の名前を知りたいんだけど」

「……羽原。……羽原巽」

「……巽、か。よろしくね、巽くん」

こうして、1ヶ月は幕を開けた。



俺は、あの日既に住んでいたアパートを引き払っていたため、1ヶ月間は永尾の家で暮らす事にした。


1日目、目が覚めると、永尾は傍に居た。

昼も、夜も、ずっと永尾は俺の傍に居た。

仕事は無いのかと尋ねると、家でしているし、不定期な仕事なのだと教えてくれた。俺は、それ以上何も聞かなかった。

前日まであんなに泣いていたのに、不思議とその日は泣かなかった。


二日目は、二人で出掛けた。俺の着る服やら何やらを買い、そのあと遊びに出た。

人生で初めて、カラオケに行った。

永尾は言った。

「君にはまだまだ体験してないことがたくさんある。オレは、それを教えてあげたいんだ」

何故か、少しだけ明日が待ち遠しく思えた。



「今日は、何をする?」

あの日、永尾に助けられた日から、既に一週間経った。永尾が俺にそう尋ねる。

「……アンタのしたいこと、かな」

思い付く限りのことを、俺は既に体験した。

その他にも、永尾は俺の知らないことをたくさん知っていた。

「えー?じゃあ、キスでもしようか?」

永尾が笑う。

「なーんて、冗談……」

そこまで言いかけた永尾の唇を、俺は半ば強引に奪った。永尾が目を見開く。

俺は唇を食み、歯列をなぞり、舌を永尾の口腔に忍び込ませると、永尾の肩がピクリと震えた。

俺の知らなかった永尾だ。そう感じた。いつもの余裕そうな様子からは想像もつかないその姿に、心が締め付けられた。

唇が離れていくと、永尾は俺を見て言った。

「……好きな人が居るんじゃなかった?」

「ああ、居たよ?」

そうさらりと告げると、苦々しく言い返す。

「投げやりにはならないでよ?」

あくまでも冗談っぽく、それでも真面目に心配しているのは伝わってくるような口調だ。

「いや、もういいんだ……」

本心からそう告げる。久しぶりに笑顔を浮かべて見せると、永尾は、何故か俺を抱き締めた。



永尾と居ることは、それなりに楽しかったし、居心地も良かった。

あれから、何度も永尾とキスをした。

その度に、心臓が締め付けられるように苦しくなる。この気持ちは、なんというんだったかな……。

約束の1ヶ月経過まで、あと半月。それまでに永尾は、俺の心を奪うと言った。

出来なければ、俺は……。

そう考えると、何故か手が震えた。

何故だろう、死ぬつもりだったのに……死ぬのが、怖い。

隣の布団で、寝息をたてている永尾の背中を、ぎゅっと抱きしめる。永尾は少しだけ目を開くと、心配そうにどうしたのかと尋ねてくる。

何でもない。そう答えると、永尾は不思議がりながらも、それ以上何も聞いてこなくなった。


永尾と暮らしたからだろうか。何故か最近、死んだ彼の事で泣かなくなった。

永尾は俺に、沢山の影響を与えた。小さい事も、大きい事も。良い事も、悪い事も。

ここで暮らし始めてから二週間経つが、いつしか俺は永尾を特別に思い始めていた。

叶うならば、一生添い遂げたい。ずっと、この人の隣に居たい。

しかし、それは許されない。

永尾には伝えていなかったが、俺が好きになった人、愛した人たちは、今までことごとく命を落としてきたのだ。

家族は居ない。俺が遊びに行っている隙に、家が全焼し、俺以外の家族が皆死んだ。中学二年の時だ。

恋人も相次いで死んだ。ある人は病死。ある人は事故死。

親戚には死神、疫病神と言われ、勘当された。

俺はこれ以上、好きな人を死なせたくはないのだ。だから、俺は……死ぬことを、選んだのに。



その後も、永尾は俺に対して特に何か変わった事をする訳でもなく、刻々と時だけが過ぎていく。

「なあ……永尾は、俺の事どう思ってるんだ?」

「どうって?」

「……だから、その……」

「ああ、心奪うとかの話?」

「……」

軽く言う永尾に、俺は少しだけ不安を抱いていた。

「俺、最近、死ぬのが……怖い」

「そっか……なら、もう良いんじゃない?」

思った以上に軽く返され、呆気にとられる。

「……へ?」

「死にたくないなら、死ななきゃ良いんじゃない?」

だって、と言いそうになって、思いとどまる。

永尾は、俺が死神、と呼ばれている事を知らないのだ。

生きていて良いと、本気で思っているのだ。

なら、言ってしまおうか。俺は永尾が好きなのだと。そして、俺が愛した人は、皆死んだのだと。アンタも死ぬと。

言ってしまえば、楽になるのだろうか。

口を開きかけたとき、永尾が言う。

「まあ、事情もありそうだし、オレには何ともいえないけど、な。それとも、死にたくないからオレを好きになる?」

ニヤリとこちらを見て笑う永尾に、俺の心が悲鳴をあげた。

『駄目だ。これ以上、期待するな』と。

この人なら、死なないかもしれない。そうして何人が死んだ?

希望なんかもう持たないと、決めたのに。

「もう、人を好きにはならない」

きっぱりと、永尾に言う。その事で、自分の心にも言い聞かせた。

「そっか……。オレは、君の為なら死んでも構わないけどな……」

その台詞は、洒落にならないのだ、俺の場合。

「ホントに死んでも?」

「つーか、そう簡単には死なないよ」

馬鹿にするような態度に、思わずカチンときた。

「死ぬんだよ、俺の好きな奴は」

「……え?」

「今まで、俺の愛した人は、皆死んだ!家族含め皆!」

永尾は喋らなくなったが、俺は言い続けた。

「一人死ぬ度に、もう愛さないって決めて!でも、また好きになって、今度は死なないんじゃないか、大丈夫なんじゃないかって期待して!皆言うんだ、俺は死なないよ、大丈夫って!……大丈夫なんかじゃ……ないのに……っ!」

「巽」

「アンタだって!きっと俺のせいで死ぬんだよ!俺が……好きになっちまったからっ!」

「巽!!」

名前を叫ばれて、ようやく少しだけ冷静になれた。

それと同時に、何ということを叫んでしまったのかと後悔した。

永尾は俺を見つめたまま、言った。

「辛かったよな、苦しかったよな、ごめんな、気付いてあげられなくて……」

手を頭に乗せられ、撫でられる。その温かい手の感触に、思わず涙が溢れてくる。

「でも……オレは、そんなの関係なく、巽が好きだよ。君と居られるなら、死んだって構わない。そう本気で思ってる」

「で、も……っ!俺は、……嫌、だ……アンタが、居なくなるのはっ……嫌、だ……」

「巽……。とりあえず、落ち着け」

永尾は俺の頭に手を置いたまま、俺を宥めようとする。

「本気で好きな人と居られるなら、死ぬのなんて怖く無いと、オレは思うんだけどな」

「じゃあ、アンタが死んだら、俺も死ぬ。アンタと離れるなんて、嫌だ」

俺がそう言うと、永尾は苦笑した。

「スゲー、その台詞良く聞くな。まさか自分が言われるとは思わなかったけど」

「茶化すな。真面目に言ってるんだ」

「そうだな……。それくらい愛されるなら、心中も悪くないかもね」

軽く笑った後、永尾は急に真面目な顔になった。

「……本当に、オレの事、好きって言える?」

「あ、当たり前だろ、だから心配してるんだよ」

「ん。そっか。じゃあ、オレも君を置いては死ねないな」

また軽いしゃべり方になったかと思うと、優しい表情を浮かべている。

「オレは、いつかは死ぬかもだけど、簡単には死なないよ。だからもう、心配しないで」

何故か、俺は心から安心していた。今まで、その言葉に、何度騙されてきたかわからない。けれど、何故かこの人なら、今までのことを覆せる気がした。

出会ってから日が浅く、まだまだ知らない彼はいっぱいいるだろう。

けれど、そんなことはどうでもいい。永尾が好きだ。ただ、それだけ。



俺は、永尾を抱き締めていた。強く、強く。

「なぁ、アンタの、下の名前を教えてくれないか」

耳元で囁くように、そう尋ねると、永尾はフワリと笑った。安心できる笑顔だ。

「……捺芽、だよ」

「ナツメ……ナツメ。好きだ、ナツメ。好き……好き」

何度も何度も、好きだと伝えた。それでもまだ、伝え足りないのだ。

俺はそっと、ナツメの唇を啄んだ。ナツメはただ、それを受け入れてくれた。



「ナツメ、……したい。……俺、アンタと……したい」

しばらくただお互いに唇を奪い合っていた。俺の中で何かが燻って、それがこんな発言に変わる。

ナツメは少しだけ戸惑っているようにも見えた。

「なあ……ナツメ、俺の事……抱いて?」

ちう、と音を立てて、ナツメの首筋を吸った。

「……っ!……煽ったのは、君だからね?」

ナツメはそう言うと、少し余裕のない様子で笑った。




俺たちは、俺がナツメの上に乗る形で向かい合っていた。

俺の中に、ナツメがいる。少しでも動けば、内側が擦れ、その度身体が跳ねる。

「巽、気持ちいい?」

「う、んっ……気持ち、い……っ!」

ナツメは男は初めてなのだという。何も知らないというので、俺が上になった。

俺は一時期、そういう事をして収入を得ていた。それを言ったら引かれるかと思っていたけど、ナツメは昔の事は気にしないと言ってくれて、それが凄く嬉しかった。

「……考え事?今は、集中して欲しいんだけど、な」

「ふぁあっ!ナ、ツメ……急にっ」

いきなり下から突き上げられ、ゾクンと背筋に刺激が走った。

「ん、あ、あぁっ……」

「今は、オレだけ見てて?」

甘く淫らな夜は、まるでいつまでも続く夢のように、俺の理性を痺れさせていった。




朝が来ると、初めて会った日のように、ナツメが俺の頭を撫でていた。

「お、はよ、ナツメ」

「うん、おはよう」

そして俺は、ふとあの日の事を思い出し、尋ねた。

「ナツメ、何でアンタ、男の俺にあんなこと言ったんだ?」

「あんなこと?」

「俺の心、奪う、とか……」

少し照れながら言うと、クスクスとナツメが笑った。

「……ひ、と、め、ぼ、れ。」

そう言うとニヤリと笑ったナツメを見て、またエライ奴につかまったな、と、頬を緩めた。

自殺者が減ることを、心から願います……。

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