表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

ぷろろーぐ

年度末の忙しさに全く小説が書けないので、昔書いた小説を小出しにして時間を稼いでみるテスト。ご意見、ご感想などいただけると喜びます。




 ――ふと。僕は、口元に浮かんでいる笑みに気がついた。

 そして思う。笑みを浮かべたのは、一体いつぶりなのだろう、と。

 もしかすれば、この世界に召喚されて初めてかもしれない。


『ふん、勇者よ、何を笑っている? 力の差に絶望したわけでもあるまい』


 その僕の浮かべた笑みの理由を、正面の玉座に腰掛ける黒ずくめの老人が聞いてくる。

 とはいえ、笑みを浮かべたのもまったくの無意識。その理由も当然わからない。

 僕は笑みを消して、小さく首を振った。


「わからない」

『ほう。自らの事も理解せぬ矮小な存在が、この私と対になる勇者とは……世界も、随分と舐めた真似をしてくれる』


 くつくつと嗤いながら、魔王、そう名乗った老人が玉座から立ち上がる。何処からか蛇がのたくったような杖が現れ、老人の節くれだった手に収まった。

 それを見て、僕は静かに剣を抜く。僕の胸から引き抜かれたその剣は、とても美しく、そして儚くもあった。

 『希望の剣』。僕を勇者たらしめる元凶である。


「……」

『最早言葉は何もいらぬ。貴様が私の前に一人で立った以上、私か貴様、どちらかが潰える結果が待つのみよ。勇者よ、私のために潰えてみせよ』


 老人が杖を振るうと、玉座の間を埋め尽くすほどの獄炎が、杖から迸った。しかしそれは僕を呑みつくす寸前、急激に収縮して老人の手の中に収まる。

 刹那の後、老人の手の中には黒々と燃え盛る拳大の火球があった。


『さあ、いくぞ、勇者よ』


 老人が、つい、と僕に指を向けた。

 火球はその指示に従うように、僕へと飛来する。


「――」


 目前へと迫る魂すら消滅させる地獄の火球に対し、しかし僕はただ無感動に剣を振るった。

 諦めたわけではない。それだけで十分なのだ。

 音もなく火球は真っ二つとなり、僕の両脇を通り過ぎる。直後、僕の背後の壁が爆発。その熱風というには余りにも熱すぎる衝撃の波に乗って、僕は老人へと躍りかかった。


『勇者ァッ!』

「魔王!」


 直後、光が玉座の間を埋め尽くした。





「――そうして、勇者様は魔王を打ち倒し、この世界を暗黒の侵攻から守ったのでした、と」

 そう、太陽の様な金糸の髪を持つ少女は妹へと語った。

 白亜の部屋である。この国で最も優れた技術を結集し造られたその部屋には、現在、少女と妹の二人の人影しか存在していない。


「それで、ゆーしゃさまはどうなったの?」

「本当なら、私と結婚してめでたしめでたし、だったんだけど……」


 幼い妹の問いかけに困った様に笑って、少女はため息をつくように言った。


「……元の世界に帰っちゃったのよねぇ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ