はじまり
小学校一年生の時、父と母が離婚した。
いい両親ではなかったが、それでも捨てられたという事実に幼い私は涙を流した。
小学校では友達をつくれず、毎日のように喧嘩し、荒れていた。
そんな私の唯一の心の支えが『習い事仲間』だった。
習い事 といっても先生三人が趣味でやっていたもので、費用は要らないと言ってくれていた。
生徒も少ない方だが、少ないなりの長所が仲が良いことだ。
喧嘩してしまうと喋らないわけにはいかないので凄く自然と仲直りしていた。
習っていたのはダンスだった。
私はあまり巧くなかったし、そんなに上達もしなかったと思うが、その中でも私が軍を抜いて巧いと思っていた人が居る。
その人が一番の支えだった。
名前は、しゅうや
「しゅうやくん!!」
自分より五歳程年上だった彼は背も高く、整った顔には黒縁の眼鏡がよく似合っていた。
「んー?ひーちゃん、どした?」
ひーちゃん。習い事仲間の年下の子以外は皆私の事をそう呼んでいた。
「ほっぺ、どうしたの?」
「へ?あぁ~これ」
しゅうやくんは小さく苦笑し、自分の左頬についた真新しい赤い切り傷を指で軽く撫でた。
「こけちゃってねぇ」
そうごまかして心配してくれてありがとう、と私の頭を撫でる彼の手が好きだった。
だからあの頃は誤魔化していたなんて気付かなかった。
だから
「また~?しゅうやくんはおっちゃこちゃいだねぇー」 なんて笑ってバカなこと言えたんだ。
「いたいのいたいの飛んでけー」なんて気休めでしかなくて、決して心の傷は癒えないであろう事を言えたんだ。
幼すぎた。
左頬についたその傷の原因を知るには幼すぎたんだ。
*
小学校も四年が終わりかけていた冬
街は幸せムード一色となっていた。
そう、バレンタインデーだ。
その日私は一つの決心をして、彼を待っていた。
小さな赤い箱と大きな勇気と共に…。
『告白』だ。
結局彼の左頬の傷の原因を知ったのは二年生だった。
横長い植木鉢に突き飛ばされたときに付いたものだという。
誰にか……クラスメートに、だ。
しゅうやくんはいじめを受けていた。
悪質かつ執拗な…耐えきれがたいいじめを。
小学校当時から、だ。
それを聞いたとき私は
一緒に背負いたい
そう感じた。
そして今に至る。
実は当時、私も学校に友達とよべる様な関係はつくれておらず、孤立した存在となっていた。
だからこそ彼の力になりたい傍にいたいと思っていた。
「ひーちゃん……。俺もひーちゃんのこと凄く好きだよ?」
嬉しかった。筈なのに、彼の表情は冴えなかった。




