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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第四章
83/90

四ノ肆

 襲撃者が名乗りでたのもの気になるがそれよりもやっぱり華奈枝さんの手術が気になって仕方が無い。

 それは彪光も同じ気持ちだからか、襲撃者についての話は一度も出なかった。

 華奈枝さんのいる病室はこれといって何かあるわけでもなく静かなもので、ノックをすると病人とは思えないはきはきとした声が返ってきて僕達は扉を開けた。

 顔色はあまりよくない、口調こそ元気さがあるけど体調はよろしくないのでは?

「学校は、どうしたんだい?」

「早退してきたわ、気になって集中できないもの」

「……悪い事をしたね、心配はかけたくなかったのだが」

「私達が勝手に心配して勝手に早退して、勝手に会いにきただけ。華奈枝さんは何一つ申し訳なく思う事は無いわ」

 時刻は十時を過ぎたあたり。

 手術まではまだ少しばかり時間がある。

 華奈枝さんは検査も既に終えており、今は体を休める時間だ。

 僕達は病室に居てもいいようなので手術まで会話をするなり設置されたテレビを見るなりできるが、さて何をしよう。

 ここは何か話でもしたほうがよさげなのかな?

 なんて言えばいい?

 ――大丈夫、手術は成功するから。

 とか?

 何も思いつかないな。

「今日の朝は何を食べた?」

 そんな矢先、華奈枝さんから話を振られた。

「……チャーハン」

「いいね、今度食べたいよ」

「気が向いたら作る」

「気が向いたらじゃなく、ちゃんと作りなさい」

 彪光に扇子で頭を叩かれた。

 はいはい、解りましたよ。

 華奈枝さんと彪光、二人がいると僕の肩身が狭くてたまらない。

 しかし女性二人が揃うと会話が途切れないのは不思議なものだ。

 お互い喉にマシンガンでも装着しているのか、マシンガントークを打ち合って、時折僕も会話に巻き込まれたり。

 今日は特に会話が絶えず続くのは、華奈枝さんを不安にさせまいとする彪光の配慮もあってこそだろう。

 心配しなくても大丈夫――というのは逆に心配してしまう不思議な言葉だ。

「そろそろか」

「退院したら是非豪勢にお祝いしましょ」

「そうだね、期待しているよ」

 僕も何か声を掛けよう、うーん……なんて言えば?

「えっと、頑張って」

「ありがとう。頑張って全身麻酔を受けてくるよ」

 うん、頑張るのは華奈枝さんを手術する医者のほうだったね。

「退院したら先ず何食べたい?」

「君の作るものなら何でも」

 熱々のカップルかよ。

 それからしばらくして医者が入ってきて、手術の準備が着々と始まっていった。

 十時半から十四時時半までの予定だとか。

 大手術というわけでもないので心配なさらずにと言われるも僕達のそわそわは治まらなかった。

 手術室の近くにはドラマのような長椅子がちゃんと置かれてるんだね。

 僕達はそこへ腰を下ろして、点灯する手術中の赤い光を見て、悪い予感を振り払って祈るとした。

 こういう時はその悪い予感ってのは頭の中に立てこもって本当に嫌なものだ。

 学校でこんな気分だったら僕は今日一日授業を全て放棄して屋上にいただろうね。

 彪光は閉じた扇子で定期的に僕の膝を叩いてくる。

 落ち着かない、それは僕も同じだからちょっと叩くのやめてほしいな。

 一時間、二時間と経って十二時を回り、腹の虫が騒がしくなっても僕達は昼食を摂りには行かず、根っこでも張ったかのように席を動かなかった。

 更に一時間、二時間。

 予定の時間を過ぎても手術はまだ終わらなかった。

 こうなると嫌な予感ってやつは調子に乗って僕の頭の中を駆け回ってくる。

 そんな思考、雲散してしまえばいいのに、ただ祈っていればいいのにどうしても浮かび上がって鬱陶しい。

 彪光は扇子を開いたり閉じたりの繰り返しでもはやそわそわも限界の様子。

 とうとう席を立ってぐるぐると廊下の真ん中で歩き回りはじめた。

「彪光、動き回っても変わらないよ」

「わ、解ってるわよっ」

 僕も気を紛らわせるために動き回りたいがね。

 時刻は既に十五時を回っていた。

 彪光は未だに廊下の真ん中で歩き回っている。

 あんまりぐるぐる歩き回ってると目を回さない? 大丈夫?

 てかもう僕も一緒にぐるぐる回っていい?

 二人で手を繋いで遠心力で回ればスムーズな回転を生むと思うんだ。

 とか。

 くだらない事を考えているうちに、赤い光が消灯した。

「お、終わった?」

「……その、ようだね」

 時刻は十五時二十五分。

 予定より約一時間遅い手術の終わりだ。

 扉がゆっくりと開けられ、中から医者がぞろぞろと出てくる中、中央にはストレッチャーに乗っている華奈枝さんがいた。

「あのっ」

 担当医らしき人が歩み寄り、マスクを外す。

 その表情は――笑顔だった。

 ああ、笑顔だ。

 紛れも無く、笑顔なのだ。

 同時に、手術がどうなったのかを示している。

「予定よりも遅れたが無事に手術は完了だ」

 僕と彪光は目を合わせて、次第に笑顔になっていった。

「や、やった」

「やった」

「やったわね……」

「うん、やった」

「よかった、本当によかった……」

 一度場所を移し、僕達はこれからについて話を聞くとした。

 退院までは本人の回復もあるが大体二週間ほど掛かるらしい。

 退院後も一週間に一度は必ず通院、その間体調の変化などがあればすぐに連絡、ね。

 華奈枝さんは退院したらどうするのかな。

 しばらく僕のアパートに暮らす? それもまあ……別に構わない。

 空腹なのも忘れて僕達はその後華奈枝さんが目を覚ますのを待つべつ一度ホールへ。

 面会が可能かはまだ術後の様子次第らしい。

 それまではここで待機だ。

 学校はあと一時間もすればまた選挙活動、立会演説会まで立候補者はラストスパートをかけている最中だ。

 裏萩さんは朝から元気が無かったが、どうしているかな。

 まあ、いい。

 今は学校や選挙については何も考えないようにしよう。

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