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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理侘
第三部『生徒会選挙編』:第四章
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四ノ弐

 それから暫しの時間が流れた。

 授業をきちんと受け、休み時間はきちんと休み、昼食はきちんと摂り、放課後へ。

 特に何事もなく過ぎた時間、誰もが選挙準備室に集まるも裏萩さんだけは真っ青な状態でやってきた。

 利き手には一枚の紙。

「どう、したんですか?」

「えっ……あのっ、これ……」

 一瞬、躊躇していた。

 落ち着きのないその目。

 彼女の持っている紙は、冷静さを欠かせるには十分の効果が含まれているものと察した。

 生徒達は皆彼女と、彼女の持つ紙に集中している。

「さあ、準備しましょう」

 そこへ彪光は、扇子を開いて皆へ仕事を促す。

 そうだ、気になるものはあるけど選挙の準備をしなければ。

 一人ずつ与えられた仕事をこなすべくその場から離れ、彪光は裏萩を廊下へ連れていった。

 僕は気になって、新蔵達と共に覗いてみる。

「覗かないでこっちにいらっしゃい」

「あ、うん……」

 見られても構わないものなのだろうか?

 いやそれもまだ分からない、裏萩さんは紙を開いていないのだから。

「それで、何かあったのかしら?」

「あの……この、紙が、机の中に入ってて……」

 差し出したその手は震えていた。

 彪光は紙を受け取って開いてみると、


『選挙を辞退しなければ再び痛い目に遭うだろう。次は、もっと痛い目に』


 その一文、新聞から文字を切り取って貼り付けて脅迫状として十分な出来具合だった。

「見るからに脅迫状ね」

「ど、どうしよう……」

「私達はどうする事も出来ないわ、生徒会に言ったところで生徒会も警護する以外何も出来ないでしょうね」

 妙だ、もう何も無いと思っていたのに。

 僕自身、今回の襲撃は裏萩さんの自作自演ではないかと疑っていた。

 だからこそ、絶大的な宣伝効果によって他の立候補者との差を開けたのでこれ以上何か起こして宣伝する必要も無く、下手すれば自作自演がばれるリスクもあるので動く必要は無いはず。

 もしかして、これが彪光の“突く”って事? いやいやまさか、自身が応援する立候補者に脅迫状を送りつけるなんて事は……流石に、ね?

 ……もしかするの?

「新蔵とアンナは警護を頼むわ。今は大丈夫でしょうけど、選挙が終わった後や学校帰りはしばらく私達と一緒に行動しましょう」

「分かった」

「イエスネー!」

「生徒会には私が言っておくわ、裏萩は選挙の準備をして頂戴。どんなときであれ立候補者として、毅然とした態度をしなさい。こういう時こそ、強く立ち向かうのよ」

「う、うん……」

 また以前の頼りない裏萩さんがにじみ出ている。

 彪光は生徒会に行くというので僕はついていく事に。

「ねえ、あの脅迫状なんだけど」

「ん? あれ? 私が作ったわ」

「……やっぱりか」

「裏萩はどうでるでしょうね、生天目に話を聞きに行くかしら?」

「どうだろう……」

 そうあってほしくはない、正直なところ。

「生徒会には、この件は言うの?」

「言うわけないじゃない、生徒会に言いにいくフリだけよ」

 ですよねー。

「あとは生天目と裏萩の動きを見るだけ、直接接触はしないかもしれないから携帯電話を使っているところとかも観察して、場合によっては携帯電話を盗むわよ。強引に連れ込んで話を聞くのもありかしら」

「やる事が過激だね」

「何を今更。私達はいつだってやる事は過激でしょう?」

 それもそうですね。

 学校にカメラ仕掛けたり、隠し部屋を占拠したり、脅したり、名簿盗んだり、生徒を捕まえたり、家に押しかけたり、エトセトラ。

 どれもこれも、学校側に知られたら非常にまずい事ばかり。

 それをうまく口封じ出来ているから今があるのだけどね。

 校内を一周したのみで、僕達は選挙準備室へと戻る。

 裏萩さんは落ち着きの無い様子で、今日演説する内容の書かれた原稿は目を通しているも頭には入っていなさそうだ。

「ちょ、ちょっと教室に忘れ物したから行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい。今の時間なら一人でも大丈夫でしょうけど、心配なら誰かついていかせる?」

「大丈夫大丈夫、すぐに帰ってくるからっ」

 裏萩さんが選挙準備室を出ていくや、彪光はくすりと笑った。

「早速ってとこかしら」

「様子見に行く?」

「当然」

 教室に忘れ物をしたにしては裏萩さんの足取りは別な方向へ。

 天生ちゃんに会いに行ったのか?

 気づかれるといけないので人数は僕と彪光の二人。

 選挙の準備は音々子さんに指揮を任せれば大丈夫だ。

 遠くの角から頭を出して、僕達は裏萩さんの様子を窺った。

 天生ちゃんは出てくるだろうか……。

 正直、天生ちゃんは出てこないで欲しいと思っている自分がいた。

 裏萩さんは一年一組の教室の前に行き、教室を見渡すもお目当ての人はいなかったらしく、重い足取りで引き返してきた。

 一年一組に行った時点で、決まったようなものかもしれない……。

「残念、直接相手と会ってるところを見たかったけど、あの教室へ行った時点で生天目天生に会いにきたと言っているようなものね」

「やっぱり、そうなのかなぁ……」

「決まってるでしょ。引き返すわよ。問い質すのはまだよ」

 その日の演説はいつもよりも元気が無く感じられた。

 心配せずとも、脅迫状を送った主は隣にいるのだけど今は教えてやれないのが残念極まりない。

 選挙のほうは残らずとも既に大半の準備は終えているので前よりは早く帰宅できた。

 おかげで華奈枝さんの面会もしに行きやすくてありがたい。

 裏萩さんは校門まで僕達と帰路を共にしたが、脅迫状が気になっているのか終始落ち着きが無く、僕は真実をぶちまけたくてたまらなかった。

 彼女の頭の中で展開されているのは何だろう。

 天生ちゃんと今日は会っていない、もしかして天生ちゃんがまた何か行動をするために脅迫状を? とでも思っているのだろうか。

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