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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第三章
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三ノ陸

 立会演説会は今週の金曜日、今日を含めて四日後だ。

 討論会から演説会までの期間が短いために、今週は立候補者全員が気合を入れて選挙活動をしなくてはならない。

 短い期間を取る事で誰もが焦燥感を得てしまうが、冷静になって選挙活動に取り組む事が大切。

 ――と彪光は語る。

 この四日間のうちに諦める者もいれば、どんでん返しを望んで勝負する者もいれば、仁王立ちしてどっしりと構える者もいれば、今まで通り何も変わらない者もいる。

 裏萩さんはというと、今まで通り何も変わらない者に入る。

 昨日はちょっと元気が無かったけど、今日はいつもの裏萩さんだった。

 さて。

 立候補者ではないが、仁王立ちしてどっしりと構える者も選挙準備室にいる。

 それは勿論、彪光である。

 今日も皆が気合を入れて動いているも、僕はというとパソコンを開いて整理しきった資料を再び整理する作業。

 仕方ないだろう? 僕が集めようとした資料は既にこの中にある。

 誰かが集めてくれたのだろう、少し前なら何も無かったパソコンの中は資料でどっさりと容量を増やしてしまっていて、おかげで僕は窓際族の気分。

 そんな中、ポケットに入れていた携帯電話が震えだした。

 メール? 電話?

 答えは電話。

 しかも画面に表示された名前は『小鳥遊虎善』

 右へ左へ視線を一回振り、僕は席を立って「ちょっと電話が……」と準備室を出た。

『もしもし、虎善だけど聞こえるかしら』

「聞こえてますよ虎善さん」

『少し話をと思って電話してみたわ、けれど電話というものはあまり好きでは無いの。相手の顔が見えないというのが、ね』

「どこかで会います?」

『そうね、それが好ましい。一階のロビーはどうかしら。コーヒーの無料配布が好評で今日から金曜日まで延長になったのよ。私はそこにいるから、待っているわ』

「はい、分かりました」

 何の話だろう、気になるな。

『時に、君はコーヒーには何を入れるタイプ?』

「何も入れないタイプです」

『そう、見た目と違って意外だったわ』

 僕は砂糖とか入れて飲むように見えるものなのかな。

 というのは、見た目より幼く見える? そうだとしたらショックだ……。

 ロビーへ足を運ぶと、虎善さんは昨日より増えた円形テーブルの一席に腰をおろしていた。

 テーブルにはコーヒーが二つ。

 一つは僕のもののようだ、ありがたい。

 彼女の後ろには御厨さん。

 まるで護衛と言わんばかりに、両手は後ろに回して綺麗な起立状態。

 僕を見ると、ただじっと視線を送って――刺すように送ってきて距離は離れているものの早くも居辛い。 

 おどおどとしながら僕は席に座った。

「やはり、顔が見えるというのはいいわね。話をしている、それを実感できる」

 虎善さんは携帯電話で話すのは好きじゃないらしい。扱いも怪しかったから、今まで使用の頻度はそれほどなかったように感じられる。

「それはいいとして。襲撃の件について呼んだのだけど、貴方はあれから何か手がかりを見つけたりはしたかしら」

「いえ……全然」

「そう、私達も行き詰っているわ」

 小さくため息をついて、コーヒーを口に運ぶ虎善さんのその姿や、コーヒーのCMに出れば絶対に好評間違いなし。

「きぐるみに振り回されすぎたわ、調べても演劇部が盗まれたという事実、こっくりさんが絡んでいるという事実があっても先の展開が望めなかった」

 その結果、こっくりさんだけに容疑がかかるのみで犯人は今頃にんまりと笑顔を作っているであろう。

 最悪だ。

「犯人はこっくりさんという存在なのかもしれないけれど、今回盗みを働いた生徒を問いだしてもこっくりさんとは直接会ってはいない、媒体を通して命令されただけでは暴くのは難しいわね」

 こっくりさんについては何も言うなと強く言っておいたのに、誰だよ言っちゃった人は……。

 ペナルティを与えなきゃ気が済まないけど、今はいい。

「こっくりさんについては、調べた?」

「ええ、調べましたがこっくりさんにお願いすると願いを叶えてくれて、その代わりにこっくりさんからお願いされたら聞かなきゃいけないっていう話以外は何も」

 こっくりさんについて調べもしなかったのによく言うよこいつはって、僕のこれまでの調査を観察していた人がいればきっとそう言うね。

「犯人はそのこっくりさんという人物が濃厚だけど、濃厚であって確定ではない」

「そうですね、それどころかこっくりさんへ注目させて時間稼ぎをさせて、あとは証拠もまっさり無くして調べようにも調べられない状況を作って襲撃者側の思う壺、とも考えられます」

「まさにそれにはまってしまったのよ、生徒会は」

 なんかすみません、僕の不手際でこうなってしまって。

「気になるのは、盗みを働いた生徒はこっくりさんから命令が二回来たと言ってるのよね」

「二回?」

「生徒会に問い質されたら盗んだのを素直に喋るようにって、脅されたようで終始おどおどしてたわ」

「それはそれで……変ですね」

 僕は当然そんな命令はしていない。

 何者かが、こっくりさんを装ってそういう命令をしたようだ。

 こっくりさんに反抗する生徒が校内に……?

 しかもどうやって僕が命令した生徒を見つけ出したんだ?

 琴施美癒の件も考えると、相手は相当な情報網を持っていて、自由に手を加えられる人物。

 ……僕の正体も知られる可能性は、無きにしもあらずか。

「でしょう? まるで自分に疑いの目をむけさせるような気がして、そんな命令をする意味が無いのに」

「誰かがこっくりさんのせいにしようとしてる、とかですかね」

「それも十分に考えられるわ。ただ、探る手が無い。用意されたような手がかりばかりで、核心にたどり着けないわ。完全に私のミスよ」

「総生徒会長は悪くないです、私達が駄目なばかりに振り回されて……」

 御厨さんがフォローに入った。

「貴方達はよくやってるわ、問題は私がこの事件の早期解決すべく冷静じゃなかったのと、目の前の手がかりだけに目を向けていたのが原因」

 深いため息。

 落ち込んでいるようだ。 

 気分を少しでも紛らわせたいのか、虎善さんはコーヒーを口へ運び、扇子を開いて頬を仰いだ。

「次の襲撃がまだないけれど、今週は立会演説会があるから生徒会は一時調査を止めて立候補者達の警護に回るわ。貴方も調査はせずに彪光を守って」

「僕も正直行き詰っていたので、彪光を守るとします」

「ただし、決して下手に手出ししないでね。襲撃者にも、彪光にも」

「は、はい……」

 威圧感で押しつぶされそう。

 彪光に手出しなんてしないですよ、信じてください。

 ちゃんとゆっくりじっくりことこと煮込むように少しずつ寄り添ってるだけで手出しなんて別に、うん。

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