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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第二章
72/90

二ノ捌

 きぐるみの頭部が続々と見つかったが、かなりの数だった。

 きっと盗まれたもの全てが見つかったに違いない。

 となると、襲撃者はきぐるみの頭部を使って顔を隠してまた襲撃する気は無い……?

 襲撃の心配はもう無いと安心していいものか……いや、まだ判断するには早いな。

 顔を隠すものなんていくらでもある。

「むむっ! 君は裏萩氏の者だな?」

 彪光のもとへ行こうかなと歩き出して三歩目で早くも僕は足を止めた。

「どうも、浜角さん」

 振り返ると浜角さんはマフラーを靡かせて何故か戦隊もののポーズを取っていた。

 隣にはいつもマフラーが靡くように団扇で扇ぐ人、すごく大変そう。

「襲撃されたと聞いて、悪者を探すべく見回りをしているのだが悪者を教えてもらえないか」

「僕が知りたいです」

「困ったぞ!」

「僕に言われても困るよ!」

 それより選挙のほうは大丈夫なんですかね? 

 ……浜角さんはその圧倒的で個性的な存在感が見回りするだけでも十分な選挙活動となっている気もするけど。

 よく見れば浜角さんの選挙協力者はビラ配りを一生懸命にしていて、浜角曾芦と名前の書かれた旗を持っている生徒もいた。

 見回り兼選挙活動は出来上がっているようだ。

「襲撃の件で協力したいのならば総生徒会長に言うのがいいよ」

「むぅ……手っ取り早く悪者を見つけて懲らしめたいのだが」

「世の中世知辛いのでそんなにうまくいきません」

「世知辛いのか」

「世知辛いです」

「世知辛いので早く選挙活動しませんか?」

 見かねて団扇で扇いでいた生徒が浜角さんにそう言う。

「世知辛いな」

「早く私達も演説しましょう」

 そういえば浜角さんの演説を僕はまだ見てないな。

「演説よりやはり体を動かしたいのだ!」

「演説が嫌いなだけですよね!? せっかく原稿も書いてきたのに少しは演説してください! 生徒会長になれませんよ!」

 ごもっともだ。

「……はい」

 縮こまってしまった、意外と素直に応じる人なんだね浜角さんって。

「しかし言っておくぞ、襲撃するなんていう卑劣な行為が許せないから私はその悪者を探している。決して売名行為ではないからな! 何かあったら私に言うがいい!」

「あ、はい、どうも」

 いい人だっ。

 一々話の途中でポーズを変えたり腰に巻いてる戦隊もののベルトのボタンを押して妙な効果音を発したりでよく分からないけど。

 よほどヒーローに憧れてるんだね、曾芦……ヒーロー? 自分の名前がヒーローと似てるからそれでヒーローに憧れちゃったとか?

 てかさ。

 浜角さんは生徒会より風紀委員のほうが似合ってる気がするんだけど、気のせいかな。

 僕は両手を腰に当てて昂然たる態度で立ち去る彼女の背中を見て、そう思った。

 ちょっと浜角さんの選挙活動、見てみようかな。

 これだけ人がいれば彪光達も流石に今日は襲われる心配は無いかな。だからといって警戒心は緩めてはいけないけどね。

 僕は裏萩さん達が選挙活動している中を通り過ぎて浜角さんについていった。

 浜角さん、見ているだけで興味を沸かせてくれる人だ。

 彪光に言われたとおり正面玄関付近の芝生にて、浜角さんはポージング。

 それが合図らしく、周囲の生徒らがビラ配りを開始した。

 そして浜角さんは、

「とぅ!」

 側転。

「せいっ!」

 バク転。

「せやぁあ!」

 バク転、バク転、バク転。

「いざ!」

 最後はバク宙。

 通りかかる生徒達は皆足を止めて拍手喝采、とても満足げに浜角さんはポーズを決めていた。

「裏サークルや不良グループは断じて許さず、私は立ち向かう!」

 かっこいいっ。

 けれど彼女の志の僕も対象に入っている、もし僕が裏サークルの一人だと知られたらどうなる事やら。

 こうして選挙の現状を見ると、まだ始まったばかりとはいえ既に他の立候補者との差が出来始めている気がする。

 生徒達の足は、裏萩さんや浜角さん、それに学校の中庭へと足を進める生徒もいて、古戦谷君の演説を聞きに行っていると思われる事からこの三者での争いとなりそうだ。

 他の立候補者は残念ながら、生徒達の心をより動かすマニフェストや思わず足を止めてしまうような個性的な演説などの工夫が無ければこのまま沈んでいく事は間違いない。

 襲撃の件だが、沈みゆく立候補者がそれを自覚していて、襲撃を目論んだ……とも考えられるな。

 そう考えれば浜角さんや古戦谷君は、というよりこの二人は性格が真っ直ぐな感じがして除外していいかな。

 考えられない、うん、想像すらできない。

 犯人探しは、少しばかり時間が掛かりそうだ。

 動くべきか動かないべきか、うーむ。

 とりあえず。

 彼女のアクロバティックなアクションを見て時間を潰して、アパートに帰ってから考えよう。


 深夜、華奈枝さんが寝て一時間後にて。

 僕は外に出て、別の部屋へと忍び足で入る。

 こっくりさんとして使っているその部屋へ、細心の注意を払って。

 パソコンを起動。

 青白い画面が室内を照らした。

 部屋の照明はパソコンの画面のみ、これでは目を悪くするが暗いほうが僕は集中できるので照明はつけない。

 きぐるみの頭部を盗むよう願いを送った生徒は七人。

 ごく普通の生徒で、それでも僕への願いはたいそうなものばかりで大変だった記憶がある。

 それらの生徒達にはメールを送っておくとする、内容はきぐるみの頭部をどうしたか、だ。

 そのメールを送り終えて、次はロボ部の琴施美癒へメールを送るとする。

 願いを叶えた報告と、こっくりさんからの願いを書き込む。

 願いの内容は当然、襲撃についてだ。

 すぐにでも返信して欲しいが今は深夜十二時を回ったところ、メールは返ってくるかどうか。

 送信のボタンを押した、一時間ほどは待っていようと思う。

 小さなため息を天井へ向けて吐き出し、顔を戻すと――メールは返ってきていた。

「あれっ?」

 早い、早すぎる。

 メールを開いて読んでみるや、『次のあて先のアドレスには送信できませんでした、送信先メールアドレスが見つからないか、送信先の事由により送信できませんでした。メールアドレスをご確認の上、再送信してください』だと。

 だと?

 だって?

 琴施美癒、メルアド変えた?

 こっくりさんとやりとりをしている間はメルアドは変えてはいけない事になっている、願いを叶えて欲しいという時に注意事項をこちら側から最初に送っているのでそれは分かっている事だ。

 なのに……どうして?

 これは、琴施美癒について調べなくちゃならないな……。

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