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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第二章
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二ノ漆

「……人数は十八人、か」

 意外と多い。

 ロボ部の名簿を見てみるとしよう。

 その中にはちゃんと琴施美癒の名前が記されている、現在もロボ部に在籍。クラス名簿も確認、二年三組に確かに在籍。 

 願いを叶えるに当たって多少の調べはしていた、顔も写真を見て憶えている。

 可能性の一つとして、襲撃者は彼女ではなく、彼女の周りにいる生徒――もあり、襲撃を計画した人物が彼女――琴施美癒の可能性だってある。

 ロボ部と裏萩さんに彪光、共通点はあるのか……?

 演劇部の練習をどうしても中止させたいという理由での願いだったけど、その原因は選挙優先のために選挙活動する生徒に場所を渡す事になった演劇部、一応選挙という共通点はある。

 だからといって二人を襲うか? あまりにも的外れすぎる。

 こっくりさんとして、連絡を取ってみる?

 すぐにでも動きたかったが、やはり昨日襲撃されたばかり――彪光が仕事を終えるまで僕は学校に残って、一緒に帰ろうと思う。

 しかしここにいて時間をただただ垂れ流すのも無駄だ。

 僕は隠し部屋から一度出て、裏萩さんと彪光が襲われた場所へと向かった。

 広場に行くや人だかりが道を阻み、何だろうとクエスチョンマークを浮かべずとも皆は裏萩さんの選挙を聞いているのだろうと把握。

 裏萩さんと彪光が襲われた、それだけでこの効果だ。

 喜んじゃいけないけれど、皆は裏萩さんの選挙を注目している。

 この中には次また何か起こるかもと期待している生徒もいるかもしれない――いるであろう――いるに違いない。

 人の波を掻き分けていると新蔵を発見。

「どうした?」

「ちょっと襲撃された場所を見に行きたくてね」

「そうか」

 新蔵は僕と会話をしつつ、周囲へ視線はきちんと向けて警戒を維持。

 そこらを探せばアンナもいるだろうが見つけられるか分からないくらいに人がいるので探すのは止めておこう。

「選挙のほうは?」

「裏萩は緊張してたまに噛むが順調だ、怪しい奴もいない」

「それはよかった、早く犯人……見つけなきゃ」

「無理はするなよ」

「ありがとう、大丈夫さ。僕が襲われても皆に支障は無いよ」

「大きな支障が出る」

「そうかなあ?」

「そうだな」

 人手は足りてるとは言えない、そういう面では大きな支障かもしれない。

 周囲の生徒がまた増え始め、ここから抜け出すのも困難になる前に僕は離れるとした。

「二人をよろしく」

「ああ、分かった」

 頼りになる、なりすぎて安心しきってしまう。

 広場から正門へ向かい、その途中にてこれまた数人が固まっていた。

 何やら緊張感が空気を伝って僕の心を締め付ける。

 先生が一人、それに生徒会の腕章を付けた生徒達もいた。

 その中には、

「あら、貴方は」

「こんにちわ、虎善さん」

 総生徒会長――小鳥遊虎善さんは閉じた扇子を顎に当てて眉間にしわを寄せ、不機嫌ですと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。

「帰るととこ?」

「いえ、ちょっと調べたい事がありまして」

 この人の前では嘘はついてもすぐばれるような気がする、思わず調べたい事がと言ってしまった。

「……襲撃の事?」

 言ってしまったものは仕方が無い、僕は頷いた。

「そう、私達も調べてるのよ。手がかりという手がかりは無いけれどね」

 近くを調べる生徒達、先生は調べるというよりもここの生徒達の付き添いみたいなものであまり動きはしてなかった。

「草の踏み具合や木々の枝が微かに折れているものを見て逃げた先を辿ろうとはしたけどやはりこの敷地内の広さでは特定は無理ね」

 教えてやりたい、襲撃された一部始終の映像があるという事を。

「貴方はここへ調べに来たのは生徒達から話を聞いての事?」

「そう、ですね」

「随分と熱心に調べたのね、目撃者は少なかったのに。それほど彪光を想っての事、かしら?」

 妙な笑みを見せてくる。

 僕は、苦笑いをして、

「いやあ、そのぉ……」

 口篭る。

「まあいいわ。それで、襲撃についてなのだけれど、生徒会が全力で調べる事になったから安心して」

「生徒会が、ですか?」

 こういうのは本来は風紀委員がやるもんじゃ?

 今は生徒会も全体的に忙しい、それなのに生徒会がやるって? それも全力で?

「そうよ、彪光が襲われたからじゃないわ。選挙立候補者が襲われたからよ、私事で生徒会を動かしているわけじゃないわ」

 そうかなあ……?

「その目は、何?」

「いえいえ! 何でもございません!」

 疑いをふんだんに盛り込んだ視線を向けてしまった。

 扇子を開いて口元を覆い、小さなため息をついた様子。

「……貴方は何か手がかりを得てはいないかしら、小さな事でもいいの」

「いえ……自分もまだ調べ始めたばかりでして」

 何も言えない。

「そう、残念ね。それと、この件については生徒会に任せて貴方は調べるのはやめなさい」

「えっ? どうしてですか?」

「犯人は分からない上に学校の生徒である可能性も高い、それに複数。人を襲うという事――暴力を用いた者は、それを知られるのを防ぐために暴力を再利用しやすい。調べていたら危険な目に遭うかもしれない」

「でも……僕はただじっと犯人が見つかるのを待つなんて嫌です」

 加えて、僕しか知らない情報も持っている。

 手がかりが無くなる前に調べるだけ調べておきたい。

「……なら、携帯電話、出して」

「へっ?」

「番号、交換しましょう」

「番号ですか?」

「貴方はお互いに連絡を取り合うという手段を用いないの? 調べるのは構わない、けれど何かあったら私に連絡を、という事なのだけど」

 あ、ああ~なるほどなるほど。

 そういう事ですかすみません、唐突過ぎて思考が停止してました。

 それに虎善さんから携帯電話の番号交換を言い出すなんて意外でして。

 僕はすぐに携帯電話を取り出して番号を交換した。

 虎善さんは携帯電話に慣れていないようで、「赤外線とやらはどれかしら」と、結局僕が携帯電話を両手に持って操作する事に。

 まあ……虎善さんが携帯電話を操作している姿は思い浮かばない。

 普段よほど使っていないのだろうな。

 それから僕は虎善さんの了承を得て、周辺を生徒会の人達と一緒に調べる事に。

 虎善さんを慕う御厨みくりやさんは終始僕を観察するかのように見ていてものすごく気になった。

 僕が虎善さんと距離を縮めたり、調べている最中に軽く話をしている間なんてもう睨んでいると言っていいようなものだ。

 さっきだって虎善さんと話している間、どこからか感じる殺気混じりの視線は御厨さんに違いない。

 襲撃者が隠れていた木の奥にはまたいくつかの木々と倉庫がある。

 そのあたりは学校の庭造り場所みたいなものらしく、そのうち僕達もレクリエーションの一環として庭造りをやるとか。

 逃走ルートとして利用するにはもってこいの場所だな。

 障害物に紛れていけば目撃者もおのずと少なくなる。

「きぐるみの頭部、見つかりました!」

 コンクリートで作られた小さく簡単な倉庫、その周辺を調べていた時に、生徒会の一人が声をあげた。

「えっ?」

 そんなあっさりと?

 生徒達は倉庫から出てきては一人一人きぐるみの頭部を持っていた。

「倉庫の鍵は壊されていたようです」

「隠すには随分と雑ね」

 まったくだ、これはもはや隠す努力すらしていないのではないか。

 別に見つかっても構わないように感じられる、壊れた鍵はその場に置いたままで見つけてくれと言っているようなものだ。

「こちらにもありました!」

 木々の間からまたきぐるみの頭部を持った生徒が現れる。

 次はおそらく紛失届け若しくは盗難届けがあるであろう演劇部にこれらを見せて、盗まれた数と照らし合わせてそちらの盗難の面でも調べ始める。

 行き着き先は、こっくりさんになる、かもしれない。

 僕は冷や汗を流していた。

 もし誰かがこっくりさんに命令されて盗んだと漏らしたら、今回の襲撃もこっくりさんの仕業ではと断定されてしまうのでは?

 非常に。

 非常に、まずい。

 どうにか犯人を見つけなければ襲撃者の都合の良い結果を迎える事となる。

 しかし、そう簡単に何かが変わるわけも無く。

 二十分ほど調べて空の橙色が色濃くなったあたりでこの襲撃現場周辺は調べつくしたと言っていいほどとなり、生徒会は演劇部が何やらだとか演劇部から何やら届出がとか話していた。

「生徒会はちょっと演劇部に話を聞いてくるけど、貴方はどうする? 一緒に来ても構わないわよ」

「僕は……そろそろ、彪光のほうに行くとします」

 どうせ演劇部に話を聞きにいっても僕には何があったかなんて分かりきった話しか聞かない。

 焦っても仕方が無い、今は落ち着けるだけ落ち着こう。

「そう、今日は私達に協力してくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

 そう言って踵を返そうとしたところ、

「あの、ちょっと」

「えっ?」

「そのね、彪光の事」

「彪光に何か伝言でも?」

 虎善さんは扇子を閉じては開いてはの繰り返し、最後に扇子を開いたままにして頬を仰ぎながら言う。

「何かあったら、あの子を、守ってあげて」

「はい、分かりました」

 照れているのかな、言下に僕に背を向ける虎善さん。

「虎善さんってすごく妹想いですね」

「……な、何を言うのかしら」

 素直じゃない人はどうやったら素直になるのか誰か学者にでも教えてもらいたいところだ。

「私は襲撃された被害者がまた襲われやしないかという心配があるから言ってるの、別に妹だからっていうんじゃあないわ。それに私達は縁を切ってるの、もう妹じゃない」

「想いも、切れてしまったんですか?」

 どうにか僕は、二人をまた姉妹として再生させたい。

「……切ってしまったのよ」

「つなぎ合わせる事は?」

 虎善さんは音をたてて扇子を閉じて、またねと一言背を向けたまま呟いてその場を後にしてしまった。

 こちらから手を差し伸べても軽やかにかわされて、どうしても一定の距離を保たれる。

 ……もどかしいな。

 まだまだ、時間は掛かるかな。


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