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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第一部『継承編』:第二章
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二ノ弐

 まだパソコンを操作する音々子さんを置いて隠れ家を出るのは些か気が引けるので何か手伝える事は無いかと聞いてみるが、彼女は一人でいるほうが集中していられるからと後押しされて帰路に着く。

 帰り道にて選挙に勤しむ人らを横目に僕らは校門を出る。

 その人らの中にはもちろん元二年生徒会長がいて、名前は御厨夏江みくりやなつえと確認。

 彪光もきちんと確認したであろう。

「御厨夏江……ね。あいつの五臓六腑を引きずり出してぶちまけて天日干ししたいわ」

「怖すぎる事を唐突に言わないで欲しいな」

 彪光の恨みを買ったとなると御厨さんはこれからどうなるのか心配でならない。

 だが心配するだけでは駄目だ。

 彪光達の活動を止められなくたって、やり過ぎないように押さえ込む事は僕にだって出来るはず。

 最低でも御厨さんの五臓六腑を引き出してぶちまけて天日干しをするのだけは阻止しよう。

「アンナ、ガンバるよ」

「頑張らなくていいよ!」

「いいえ、頑張って」

「ちょっともう……」

 五臓六腑を引き出してぶちまけて天日干しという軌道に乗り始めたために軌道修正を試みるがくじけそうだ。

 それから歩いて数歩目にてアンナはすぐ近くのアパートで別れた。

 彪光から聞くに、どうやら寮生としてアパートで生活しているようだ。寮の前にサンドバッグがあるのはアンナの私物としか言いようが無い。

 彪光はこれからまた大通りを越えて住宅街までの距離。

 だが遠くにはどこかで見たことのある車両が一台停車中。

 僕の家は大通りまではいかない。

 彼女とは途中まで帰り道が一緒なので僕と別れた後は車両で帰宅するのであろう。

 彪光も車両を目視すると足を止めた。

「貴方の家、どこ?」

「え? まあ……近くといえば近くだけど」

「寄ってもいいかしら?」

 唐突にそんな事言われましても、と考えるものの特に困るようなもんも無いし断る理由も無い。

「別にいいよ」

「なら行きましょう、人ごみに紛れてそっとね」

 どうやら車両の中で待機している護衛に気づかれないようにとの真意が汲み取れる。

 護衛に意地悪でもしたいのかは知らないが、こうして彼女と友達として親睦を深める事で僕のサークルでの抑止力がよりよく働いてくれるのを期待しておく。

「まさか……この小屋に住んでるの?」

 親睦は深まるどころか僕は心の中で今、大きな溝を作った。

「アパートっていう言葉知ってる? 知ってるよね? 知らないとか言わせないよ」

「それは知ってるけど、こんな二階建てじゃなくて何十階もあるのがアパートでしょう?」

「それはきっとマンションだ!」

 彪光はすごい顔をした。

 どうして僕はこんなすごい顔なんて単純な表現をしたのかというと、一目でわかるほど大量の驚愕と衝撃を大鍋に入れて混ぜ込んだら出来ましたというくらいに解りやすい顔だったからだ。

 中へ招き入れると今度は、

「狭すぎるんだけど貴方って毎日こんな窮屈な部屋に住……ああ、貴方は音々子タイプね? 窮屈さで快感を得て過ごしてるのなら納得するわ」

「おいやめろ、窮屈さで快感なんて得ないよ。僕はそんな性癖の持ち主じゃないから誤解しないでくれ」

 生きてる世界が違うってやつ。

 僕にとっては風呂トイレ付きで六畳の空間というのは不自由ないし居心地もそれなりに良く過ごしていられているが、彼女と僕とでは広いという意味には大きな違いがあるので説明もしないでおこう。

 何かとトイレや風呂を覗いて狭い狭い呟くので僕はお茶を用意して移動させて座らせる。

 これ以上室内を見回られて感想を述べられたら僕の心が耐えられない。

「貴方って寮生じゃないの? 寮生もアパートに住んでるらしいけど」

「僕は一人暮らしさ、学校側にも了承を得てるの。それなりの事情ってやつで」

「事情ねえ。差し支えなければ聞いてもいいかしら? そういうの気になるのよね」

 まあ話しても構わないが、気分が下落するのは僕ではなくて彪光のほうなのは間違い無い。

 いいの? 本当に聞きたい? そんな質問をしてみると彪光は扇子を開いて頷いた。

 まあ、それでも聞きたいのならと僕は一度お茶で口内と舌を潤してから口を開く。

「僕の両親さ、幼い頃に死んだんだ。交通事故でね」

 彪光は開いたばかりだというのに扇子を閉じ、顎につけた。

 弱々しく曲がる眉、それに今の仕草はどこか申し訳無さそうな様子。

 気にすんなよ、って僕は眉毛を上げて表情で伝えておく。

「その後は養子として引き取られたけど中学二年あたりには関係は最悪。中学三年になった時に家を出て行ったさ。とある心強い知り合いに紹介された弁護士を通して養子縁組も解消、書類上だと世話してくれる人とか名前のみ借りたからそれなりに手続きはすんなりと終わったんだ」

「……でも生活はどうするの? お金は?」

「そりゃあぶん取ってやったよ、遊んで暮らせるくらいにね。もちろん弁護士を通してだよ? 金持ちだったのが唯一感謝できたかな」

 これにてそれなりの事情は終了。

 誰かにこうして話すのは初めてだし、話す相手もいなかったからか心の中は泥酔をろ過したくらいにすっきりしてる。

 僅かな沈黙の後にて、

「いいわね。貴方は自由を手に入れてるの、それを実感して舌で転がして味わうくらいに堪能しなさい」

 すかさず扇子を開いて彪光はそう言った。

 彼女の言葉には自分は不自由だという意味が添えられている気がする。

「君は……」

「何?」

「いや、ごめん。なんでもない」

 今の生活に不自由してる?

 とか聞いてみたらどうなっていたかは定かではないが、護衛を無視して僕の住むアパートへ寄ったりとちょっとした反抗を見せる様子が聞かずとも彼女の中に渦巻く不満ははっきりとしている。

「変な奴。貴方の十二指腸でウインナー作りたくなったわ」

 今日はやけに言葉が刺々しい。

 もしかしたら、苛ついているのかな。

 すると彼女は扇子を閉じて眉間に当てて溜息をついた。

「ねえ……今日はどうしたの?」

 さっきまで聞くつもりは無かったが、彼女の溜息が引き金となって口が動いてしまった。

 僕は来客用ではなくお楽しみ用にとっておいたチョコのお菓子を添えて聞いてみる。

 この際、彼女に差し出すのがお菓子にとっても良い選択だと思う。

 お菓子にとっても、って何だよ僕。

 そんな自分へのつっこみを入れて話を聞く。

「別に」

「別に、にしてはおかしいよ」

「どこが?」

「どこが、って強いて言えばなんか発言が刺々しいし」

 彪光は沈黙した。

 それからお茶を飲み、僕も釣られてお茶を飲んで、また沈黙。

 時計の針が唯一この空間に流れる音として漂う中、ようやく彼女は口を開いた。

「……私、来週誕生日なの」

「そりゃあ良かったじゃないか」

 すると彼女は拳をテーブルの上に振り下ろした。

 その先には僕が先ほど差し出したお菓子があり、ぐしゃりと袋の中身は粉砕された音が僕には悲鳴に聞こえる。

「十六になったら家督を継げって遺言が残されても? それで家族関係が悪化しても? 護衛が毎朝送り迎えして帰りはストーカーのように待ってても? 冗談じゃ無いわ」

 彼女は拳を高々と上げてもう一度振り下ろす。

 その先にはやはりお菓子だ。

 しかしそれよりも気になるのは彼女が口にした遺言という言葉。

 遺言という事はつまりだ、家督を継げと言える立場も考慮して大黒柱である父親を亡くしたようだが、彼女の先ほどの話からは様々なものが読み取れる。

 今は余計な詮索などしないでおくとするがね。

「……ごめん。ちょっと鬱憤が溜まってた」

 ストレスを少しでも解消できたようで何より。

 殉職したお菓子はせめて口の中へ運んでもらいたい。

「でもいいの? 僕に色々と話しちゃってさ」

「何か差し支えでもあるの? 貴方は私の家柄は大体想像できてると思うし」

「そうだけど、いや、なんていうか……」

「よく誰かにぶちまけたいって時あるでしょう? それがさっき」

 解らなくも無い。

 僕もそれなりの事情の結末を話したらすっきりしたしね。

「貴方に話すにはまだ早すぎたかしら? 私達の交友度があるとしたら下の下?」

「いいや、中くらいかな? 今もまだ上昇中」

 彪光は笑った。

 心から湧き出てきたかのような笑み、それはとても美しかった。

 口へと運ぶはずのお茶を服に引っ掛けるくらいにね。

「熱っ……」

「もう、ドジね」

 まだその笑顔が継続されていて、僕は参ったなとお茶をこぼした事に対しての言葉として誤魔化した。

 僕の性格じゃ君の笑顔に参ったんだとは言えないわけで。

「これからはお互いぶちまけたい話があったらすぐにぶちまけましょう?」

 ぶちまけるは今日何度聞いたのやら。

 そんな誘いの笑みと、彼女と交わす妙な約束も加わった笑みをしつつ僕は頷いた。

「そろそろ行くわ。またここ、来てもいい?」

 閉じた扇子で扉を叩きながらは彼女はそう言い、

「いいよ、いつでも」

 扇子を開いてのご帰宅。

 一応、車両の近くまで送ってその日は彼女と別れた。

 自分の部屋に戻って、僕は腰を下ろす。

 夕飯まではまだ早い。テレビも興味がそそるのは放送されてないようなので僕はテレビを消してリモコンをそこらに投げる。

 ……自由ね。

 砕けたお菓子を口の中へ運んで、その甘みと今の自由を重ねるようにして口の中で転がした。

 ――堪能できてる?

 ああ、僕は今堪能しているよ。

 そりゃあ一人暮らしだと飯作りは面倒だし美味しい味も見出せずに特に不味くも美味しくも無い炒飯で妥協してたり、朝起こしてくれる人がいなきゃ僕は遅刻確定だ。

 けれども何をやるにしても許可なんていらない。

 勉強するときは家庭教師を何人も引き連れてこられないし自分の自由時間は知らない偉そうな人と顔合わせをして世間話を無理やりされられる事も無い。

 今の僕は自由だ。

 でも一人だとこの部屋は広すぎて、切なくて……。

 音楽を流しても心の中まではどうしてか響いてこない。

 どうしてか? いや、目を逸らさないでよく凝らしてみると心の中に答えがはっきりと刻まれている。

 読み上げるのは簡単。

 僕は、寂しい。


 彪光の笑顔がすぐに恋しくなった。

 まったくさ、あの笑顔は卑怯だよ。

 原稿用紙では300枚以内、五章構成を今のところはプロットに沿って執筆してますがもしかしたらもう少し長くなるやも。

 どうにも学園物というか、書き物自体が元から苦手でうまくまとめられないのが原因ですねはい。精進精進。。。

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