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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第二章
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二ノ参

 暫しの時間が流れて放課後。

 資料集めの仕事もほぼ終わった。あとは整理して、と。

 そろそろ裏萩さんは広場で演説を始める、ついていこうかな。

 ……別にいいか。

 裏萩さんと彪光は既に廊下へ出て行き、彪光は廊下に出る前に僕を一瞥。ついてくるか否かの視線に僕は、少し悩んで小さく手を振ってついていかない意思を示した。

 人手ならばアンナが陽気なステップでついていったので十分だ。

 今日は音々子さんはこの場にいない、何か準備があるらしく少しだけ顔を出して僕や新蔵、それに裏萩さんの手伝いにきた生徒ら数名に指示を出してどこかへ行ってしまった。

 室内にいる生徒達は動きがそこはかとなくそわそわしていて、全員が不慣れですと訴えんばかりの雰囲気。

 自分の仕事はほぼ終わったからといってこの場を離れたらこの裏萩陣営はどうなる事やら。

 音々子さんの代わりにここは僕が立ち回るとしよう。

 うん、そうさ。

 僕がここにいる生徒達一人一人にさりげなく助け舟を出してこの陣営の足腰をびしっと正してやらねば。

「あの、何か手伝いましょうか?」

 近くにいた女子生徒二人は落ち着きがなく、先ほどから何かしようとはしているも何かが原因で何も出来ない、そんな動きだった。

「えっと、あのっ」

 その女子生徒の視線は出来上がっていた裏萩さんのポスター、しかし一枚しかない。

 もう一人の女子生徒の視線はこの室内と、廊下。

 ちょっとずつ言葉を送ってやって彼女達の目的を見出してみようかな。

「ポスターどうしたいんです?」

「枚数、足りなくて」

 ふむ、僕と同じ一年の生徒である彼女はコピー機の場所が分からなくてどうしようかと足踏み?

「それに、どこに貼るか、とか」

 もう一人が言う。

 出来上がったポスターをコピーしたいもコピー機の場所が分からず、更にはこコピーしたとしてもどこに貼ったらいいのかで動けず、ね。

 付け足すに裏萩さんがこの場を離れてしまったから、聞く機会を逃してしまったのと無闇にこの場を離れていいものかでそわそわしていたのであろう。

 おそらく他にも仕事がある、優先すべき事も頭の中で格闘中のようだ。

 ならばこれらを解決するには、

「じゃあ僕がポスターをコピーして裏萩さんにどこに貼ってくればいいか聞いてくるよ」

「あ、コピーするポスターも、加工がどうとか……」

「分かった、聞いてみるよ」

 僕が引き受ける、これに限るね。

 女子生徒らはほっと安心したようで小さな呼吸を空に溶かして、僕はポスターを受け取って彼女達には資料整理など簡単な仕事を預けてすぐさま裏萩さんのもとへ。

 正確には彪光のもとへ、だけどね。

 結局広場に行く事になってしまったな。

 広場には帰宅途中の生徒らが足を止めて裏萩さんの演説を聞いていた。

 演説に必要なマイクやスピーカーは既に用意されており、この準備は音々子さんが絡んでいそうだ。

 何度かここへ来る時にマイクとスピーカーを用いて演説している立候補者がいたけど、その人達よりもかなり高そうな機材。

 あ、そういえば古戦谷君はマイクなしで演説してたな。その声量には驚かされるものがある。

「むふぅん」

 音々子さんは変な声を出して近くで満足げに演説を眺めていた、気が済んだらちょっと戻ってきて他の生徒達に指示を出してくれないかな。

「あっ」

 思わず。

 思わず声を漏らして視線を留めた。

 その先には彪光とアンナ、二人は裏萩さんの左右に立ってビラを配っていた。

 彪光がビラ配りをする姿はちょっと似合わない、失礼かな? 失礼かもなあ、失礼だよね、ごめんなさい。

 彪光のキャラ的に頭を下げてビラ配りなんかより扇子を開いて扇ぎながら「ビラを持っていきなさいこのクズが」っていうのが合っている。

 彪光はビラ配りに加えて、生徒達になにやら熱心に話をしているその凛とした姿、できる奴って感じ。

 実際、できる奴っていうかできすぎる奴なんだけどね。

 彼女の話を聞き終えた生徒達は決まって感心した様子で頷いて満足げに笑みを見せての帰宅。

 その生徒達は皆、裏萩さんに票を投じてくれると僕は確信した。

「素晴らしいわね」

 音々子さんは腕を組んで彪光を見つめる。

「ええ、流石ですよ彪光は」

「ビラ配りしてるだけなのにどうしてこうもそそられるのかしら。あっ、そうそう私ったらさっきから遠からず近からずで何も声を掛けてもらえないからこの放置プレイのような環境に高揚してるんだった」

 音々子さんはそろそろ病院に行ったほうがいいと思う。

「君もそれを味わいたくて?」

「んなわけないですよ、早く選挙準備室に戻って皆に指示出してくださいよ」

「はぁはぁ……もうちょっとしたらぁ……」

 どうして息が荒くなってるんですかねこの人。

 周囲に集まる生徒も次第に増え、十人……二十人と囲んできていた。早いとこ聞きたい事を聞かねば。

 音々子さんは放っておいて、僕は彪光の視界に入るようにしてゆっくりと近づいた。

「彪光っ、ちょっといい?」

「何、忙しいんだけど」

 本当に申し訳ないです、ごめんなさい、睨まないでください。

「ポスター、コピーしようと思うんだけど」

「それは他の生徒に頼んだはずよ」

「でも作業が止まっててね、僕が請け負ったんだ。ポスターを貼る場所も分からなかったらしいし」

 彪光はため息をついた、僕が仕事を押し付けられて仕方なく請け負ったとでも思っているのだろうか。

「外に貼る場合はラミネート加工をお願いして。五枚まで許可されてるわ。正面玄関の近くに掲示板があるから先ずはそこに。学校の各階にはそれぞれ十五枚まで廊下の壁とかに貼っていいからどこか良い場所に貼ってきて頂戴」

「わかった、頑張ってね」

「ええ。ポスターを貼り終えて他に仕事が無かったから帰ってていいわよ」

「彪光は?」

「裏萩と明日の打ち合わせ」

 今日も少しばかり遅くなりそうだね。

 この場に居続けるのも邪魔になりそうなので、僕は頑張ってと一言声を掛けてその場を離れた。

 裏萩さん、声が何度か裏返ったりして緊張がにじみ出ていたなあ……大丈夫なのだろうか。

 ……僕が心配したところで何も出来ないけど。何かできる奴なら彼女の隣に立っているのでいくら心配したところで杞憂に終わるはずだ。

 校舎に入って先ずはポスター。

 僕はコピー機の場所なんて分からないけどそこらへんを歩いてる先生に聞けばいいだけの話、近くの先生にコピー機の場所を教えてもらい、ラミネート加工をやってもらった。

 意外と思っていたより時間は掛からないんだな。

 加工されたものを見つめて出来栄えに関心。

 なんか、すごいね。てっかてか。

 後は貼りつけの道具も借りて貼りにいくとしますか。

 先ずは中だ、外は帰る時にでも貼りに行けばいい。

 一々靴を履き替えるのは面倒だ。

 各階に十五枚までねえ、この学校は広いから十五枚をどう活用するか、距離を均等にして貼るのは中々難しい。

 ただ貼るといっても人目につかなくちゃ意味がないのでそこらへんも考えものだな。

 一番いいのは各階の掲示板とトイレの近く?

 彪光ならそんな場所を狙うに違いない。

 これで違ったらどうしよう……まあ、その時はその時で貼りなおそう。

 ……てかさ。

 周りは皆楽しそうに話をしながら帰宅したり教室ではわいわい話し声が聞こえる中、一人で黙々と廊下にポスターを貼っているのは寂しい。

 誰か呼べばよかった。

 少なくとも選挙準備室に戻れば新蔵がいるんだ、何してたっけなあ。何か作ってた気がする。

 演台? 今思い返すとそれっぽい。演台があれば見た目でのやる気も感じられて効果的かもね。

 ……一人で貼るとしよう。

 くそっ、意外と真っ直ぐに貼り付けたと思っても曲がってるな。

 貼りなおすのも面倒で一人だと厄介だ……。

 あと一つ貼って、次に貼るポスターとの距離も廊下を歩く生徒達のおかげで目視では大変だ。

 ポスターも床に置くわけにもいかず、脇に挟んで貼る作業をするも苦戦中。

「あの」

「……」

「あの」

「……えっ?」

 どこからか声が聞こえた、けれどこの喧騒な廊下では声を掛けられても直ぐには反応できない。

 振り返ると女子生徒が一人、笑みを浮かべて僕を見ていた。

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