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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第一章
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一ノ陸


「この場所は俺が選挙活動場所として頂くと前から決めていたんだぞおい!」

「しかし登録用紙は提出されていない、その悪行……許すまじ!」


 なるほど、選挙活動場所を巡っての対立か。

 他にこの場所を選挙活動場所として選ぼうとする立候補者がいないのは二人の争いに巻き込まれるのを危惧して避けているのかもしれない。

 浜角さんはごそごそと足元においていた鞄から何かを取り出して腰に巻いた。

 ……戦隊もののベルトだ。

 子供を対象とした、どこかにボタンがついていてボタンを押せば光るような、CMでも見た事のある物。

 ボタンを押すとベルトの中心部、円形がぐるぐると回転して光を帯びていた。

「貴様! 何をするつもりだおい!」

「浜角戦隊ハマレンジャーレッドの私が成敗してくれる!」

 強そう。

 でもこういう特撮ものって大体五色だよね?

 ハマレンジャーブルーとイエローとグリーンとピンクはどこにいるの?

 なんか遠くで君を見つめてる生徒はいるけど、あの人達は今だけは関わるまいと言いたげな目をしてるよ浜角さん。

「古戦谷応援団ー! ファイ!」

 ああ、こっちはこっちでうるさい。

 応援団が草むらから現れていきなり太鼓を叩いて応援し始めてる。

「迷惑な奴らね」

 彪光はため息をついて、あきれた表情で二人を見つめていた。

「こいつら、本当に有力視されてる二人なの?」

「……うん」

 自信のない返事。

 すると浜角さんはバク転を連続で行い、後方にあるベンチに近づくとバク宙でベンチへ着地して特撮ポージング。

 思わず周囲の生徒から拍手が飛んでくる。

 選挙活動の一環かと、注目し始めたところで浜角さんの選挙協力者達はチャンスとばかりにビラを配っていた。

「……やるわね」

 これはこれで生徒への刺激的で効果的なアピールだ。

「裏萩、貴方もちょっと回転してきて」

「む、無理無理!」

 体操系経験者でもないかぎりバク転バク宙を軽々とできるアクロバティックな動きは流石に無理だ。

「それにしてもここ、まだ選挙活動場所として登録はされてないようね」

「そのようだね、でも二人ともどちらも譲らない姿勢の中に僕達が入り込んでも……」

「先ずは話を聞きましょう」

 話を聞いてもらえる雰囲気でも無いんだよなあ。

 古戦谷君はさっきから応援団に応援されて気合を入れてるわ、浜角さんは今にでもベンチから特撮系のなんたらキックでもかましに行きそうな勢いだ。

「ほら、裏萩。行くわよ」

「あ、は、はい!」

 戦争中、両国の境界線を歩くかのように両者の間へと堂々と歩く彪光と怯えながらもついていく裏萩さん。

 僕はというと周囲の生徒に混じって傍観者。

 がんばれ、応援しているぞ。

 と笑顔で手を振っていると、彪光は僕に気づいて引き返してきて僕の襟を掴んで強引に引っ張ってきた。

「もしものための盾が無いと駄目じゃない」

「ちょっ、盾として連れて行かないんでっ」

 二人の身の安全は保障されるかもしれないが僕の身の安全も保障してほしいよっ。

「なんだお前らは!」

 左から古戦谷君の怒声、彪光はうるさそうに顔を歪める。

「新たな敵だな! この学園の平和を守るためにも私は立ち向かう! さあ、かかってこい!」

 右から浜角さんの快活な声。

 騒音と騒音のサンドイッチだ。

「二人とも、まだ選挙活動場所として登録してないようだけど」

「それがどうかしたか! 俺の声を響き渡らせるにはここがいいのだ!」

「私が動き回れる場所はここが一番なのだ!」

 広いスペースで選挙活動したいと。

 それならここは確かにいい場所だ。

 選挙をするにも、いい場所である。

 正面玄関と校門の間にあるから人の通りも激しく部活動をする生徒もこの広場を通って部活動の場所へ行ったり、ここで軽いストレッチをする生徒もいる。

 とまあ、そんな選挙での効果を見込める場所としては選んでいないのだから妙な話だ。

「古戦谷、貴方は中庭で選挙したほうがいいんじゃないかしら」

「むっ? 何故だおい!」

「中庭なら大きな声を出せばそれなりに反響して校内の生徒に声が届くわ」

「ここよりも声は届くか?」

「届く届く」

 届くだろうね、校内の生徒を対象にした選挙活動ならばそこそこ効果的ではあるな。

「貴方の声は大きくて素敵よね、中庭から聞こえたらさぞ清清しいでしょう」

「はははっ! うれしい事を言うな!」

 上機嫌だ。

「それに中庭はまだ誰も選挙活動場所として登録してないわ、チャンスじゃないの?」

「中庭か……ふむ、それもいいな」

 おお? 心変わりしてきてる。

「中庭のほうが効果的か?」

「ええ、効果的」

「貴様もそう思うか!」

「僕? あ、うん、はい」

 何故僕の意見が必要なのか分からないが頷いておく。

「貴様は!」

「え、あー……うん!」

 裏萩さんも同様、むしろここから立ち去ってくれたほうが彼女にとって得であるしね。

「よしわかった! 中庭に行ってみるとする!」

 古戦谷君は彪光の言葉を信じて応援団を連れて中庭へ向かった。

「馬鹿で助かったわ」

 真っ直ぐすぎる人だよ古戦谷君、もうちょっと人を疑うって事をしたほうがいいんじゃないかな。

「す、すごいわ彪光さん!」

「相手がどんな奴かを把握すれば大した事は無い」

 ――次はこっちね。

 彪光は右へと向いて今度は浜角さんとご対面。

「むむっ、奴の次はお前が相手か! いいぞ、かかってこい! 正義のヒーローは屈しない!」

 ベンチに乗っかって勇ましい浜角さん。

「ねえ、貴方はどうしてもここがいいの?」

「どうしてもだ!」

「人にぶつかるかもしれないわよねえ?」

「そ、それもそうだが……」

「正義の味方は周囲の人々の安全も守るべきではないの?」

「ま、まあ……な!」

 ポージングが弱弱しく縮こまっていった。

「貴方の立っているそのベンチ、もしもそこに誰かが座っていて貴方が気づかずにさっきの動きをしたらどうする?」

「わ、私なら気づくさ!」

「そう? ならそのベンチ、誰かが使う予定だったならば貴方は今、その邪魔をしている事になるわ。迷惑よねえ」

 浜角さんは周囲の生徒を見て、不安そうにしてすたんっとベンチから降りた。

「もっと安全で邪魔にならない場所があるんじゃないかしら?」

「そ、それは……?」

「体育館の踊り場、屋上、一階ホール、校庭、更に近くの第二校庭」

 挙げられれば動き回るに適した場所は意外とやれる場所はあるのだな。

「それに外でやるとしてもこの人通りの激しい広場より、広場から外れたすぐそこは芝生が生えて人の通らないいい場所じゃない」

「そ、それもそうだな……」

 アクロバティックな動きをするなら安全性を考えれば広場でやるより芝生のスペースでやったほうが良いといえば良い。

 一定に木が生えてはいるが木と木の間は十分な距離がある、さっきのバク転バク宙をやれる十分な距離がね。

「芝生なら着地の時の衝撃も吸収できて安定するんじゃないかしら?」

「確かに……!」

「正面玄関のあたりとかどうかしら、十分に動き回れる芝生スペースがあるわよ」

「なるほど!」

「正義の味方はやはり学校の近くにいないとね」

「そうだな! ここは譲るとしよう! 何かあったらこの正義の味方である私に相談してくれたまえ! ではっ!」

 選挙協力者らは反対だと浜角さんに言い寄るが、浜角さんの意思は固く、彼女の足取りは誰にも止められない。

 それに今回、彪光の言い分も正しい面はある。

 人にぶつかる可能性や着地時の地面がアスファルトか芝生かで身の安全も変わってくるからね。

「裏萩、急いでここを選挙活動場所として登録してきて」

「分かったわ!」

 支給されたであろうデジカメを取り出して広場を撮影、写真も必要のようだ。

 しかしすんなりといったものだ。

 無事に選挙活動場所も登録できて有力視されてる立候補者も見れた、どういう人物かを把握するには十分な会話だっただろう。 

 この広場も選挙活動するには中々いい、人の通りが激しい場所はアピールするには最高。

 彪光が浜角さんを正面玄関あたりにと提案したのは先に彼女のアクロバティックな選挙活動を見せて、選挙に気を引いたところで広場へ通りかかったところに裏萩さんがアピールする――そういう効果も見込んでの事かもしれない。

 浜角さんは刺激的な選挙活動をするに違いないがこちらはそれ以上に、そして効果的な選挙活動をしなければ。

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