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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第一章
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一ノ肆

 放課後、隠し部屋では彪光は音々子さんを縄で縛って扇子で尻を叩きながら考え事をしていた。

 新蔵とアンナの姿は無い、二人ともまたボクシングでもしにいったのかもしれない。

 ここ数日は裏サークル虎わんこ(サークル名は本当にこれでいいのか)の活動は無いに等しいなあ。

 他の裏サークルが尻尾を出さないかと情報集めはしているけど、すぐに情報が手に入るわけもなく、こうして隠し部屋でだらだらと放課後を過ごす日々。

 それもまた良し、僕はこういう平和な時間が好きだ。

 でも向かいではテーブルに顎をつけた音々子さんの恍惚な表情があって、一定時間毎に声をあげられるので、ゆっくりとお茶を飲めるには飲めるが雰囲気はぶち壊しだ。

「裏萩さんの件、どうするの?」

 彪光の考え事はおそらく、裏萩さんの件に違いない。

「勝算があるのならば、協力してもいいわ」

「現時点での立候補者なら調べられますよ」

 はっとした音々子さんは唐突に頼もしい発言。

 いつも頼もしい先輩を維持してくれればいいのに。うん、ここでは無理だな。

「すぐに調べなさい」

 彪光は縄を解くなり、パソコンへ向かわせる。

 情報収集に関しては音々子さんの収集力はたいしたものだ、掲示板などを見て回って時には学校の関係者にしか知らない情報が詰まってるであろうUSBメモリを差し込んで調査。

「立候補者は今日二人追加して、合計七人。今年の一年生徒会長選挙も白熱しそうですねぇ」

「有力視されてるのは?」

「えっと、古戦谷こせんだに浜角はまづの、裏萩の三人ですね。優秀であるか、見た目はどうか、生徒としての生活態度は、などで話し合われてますがその中でも見た目として浜角、裏萩はトップですね」

「確かに可愛いわね」

 そうだね、あの容姿につられてついつい投票してしまいそうになっちゃうかも。

「浜角さんも女性ですか?」

「うん、そうよ。優秀であるか、についてはやや劣るけど外見でカバーしてるわ」

 こうやって話し合いを見てるだけで面白い、と彼女はいくつもの掲示板を見て回ってにやついていた。

 この学校に関わる掲示板はいくつもあるのだな、裏掲示板はこの前見たけどそれとは違って平和的な書き込みばかりだ。

「裏萩に手を貸して、他の有力候補を妨害すればいけるかもしれないわね」

「妨害するの!?」

「そっとね」

 そっととはいえ妨害は妨害なんだよなあ。

 それにその楽しみだと言わんばかりの君の笑顔が僕には嫌な予感しか与えてくれない。

「とりあえずは三日間、追加の立候補者や有力候補の情報を得てから判断するわ。それに……」

「それに?」

「次期生徒会長になってくれれば選挙での恩を利用してあいつを使って生徒会の情報や私達が知る事の出来ない情報を得られる。動きやすくなるわ」

 それが目的なのね。


 そんでもって、それから二日後。

 この二日間は選挙の情報を集めるのみとあって、僕は隠し部屋に行っては選挙はどんな感じなの? と様子見の日々。

 選挙に出る生徒の数、生徒の質、選挙協力者の数、選挙する場所の取り決め状況など、様々な情報が入り込んでくる中、彪光は選挙締め切り三日目の昼に動き出した。

 彼女から僕らのクラスに来るのは初めてだ、なので教室に堂々と入ってきた時は驚いて阿呆な声をあげてしまった。

 彪光は裏萩さんのところへと一直線に歩き、彼女の前に立って扇子を開くや、


「やるわ」


 その一言。

 後は放課後にでも、と言葉は極力少なく颯爽と教室を立ち去った。

 彼女が出て行った後の教室に宿る静けさ。

 あれが小鳥遊……梔子彪光か、と一人一人、徐々に口を開き始めて顔を向け合って話す。

 綺麗な人ねえ、かっこいいわ、扇子が似合うなあ、惚れたぜ、数秒後にはざわつきが教室を覆い、彪光の持つカリスマとも言うべき感覚に刺激されていた。

 しかし忘れてはならないのは、一年生徒会長選挙に出るのは彪光ではなく裏萩さん。

 これから皆が口にするのは彪光の名前ではなく、彼女の名前でなくてはならない。

 彪光は自分以上のカリスマを裏萩さんに、裏萩さんは彪光以上のカリスマを皆に見せて発揮して選挙を勝ち抜く、裏萩さんは少なくともそうしなければならないという重みに表情はやや不安げに固まっていた。

 大丈夫かな、僕の呟きは教室のざわつきに飲み込まれた。



 悲しい事に、選挙に協力するべくビラ配りなど人手を欲していた裏萩さんであったが人手ならここにとアンナと新蔵を紹介するも、新蔵を見るや裏萩さんの表情は引きつっており、新蔵と共にビラ配りできると思っていた僕の期待は叶わず、彼は裏方に回ってしまった。

 放課後になるや、彪光は裏萩さんのところへ行くかと思いきや、僕を連れてどこかへと引っ張っていった。

「あ、彪光?」

「何よ」

「どこに僕を連れて行く気なの……?」

「いいからついてきて」

 やっぱり前を歩いて、と前へ押し出された。

 後ろからは、確かこの辺に……とかどこかしら……やら聞こえてくる。

 玄関近くまで来ると、進行方向十メートル先に虎善さんがこちらに向かって歩行しているのを見かけるや彪光は僕を虎善さんへ向けて押し込んでいった。

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「いいからいいから」

 よくないよくないっ。

「……あら、探してたのよ彪光」

 虎善さんは足を止める。

 僕達も足を止めた。

「あ、あの……」

 彪光はやや僕の後ろに隠れつつ弱々しく声を出す。

「選挙、やっぱり出ないの?」

「えっと、はい……」

 何か言われるかもしれない、一人じゃ怖いから僕を連れてきたってわけね。

「そんなに臆しなくてもいいわよ、怒らないから」

 言われて彪光は、少しだけ前に出てようやく僕と肩を並べた。

「……すみません」

「私は強要しない、貴方の高校生活ですもの。誰かのためにするのも大事だけど自分のためにしたい事をする、自分が心から楽しいと思うものを選びなさい」

「は、はい、姉さん」

 かっこいい人だね本当に、ぶれないその個性は惚れ惚れする。

「それと最近何かと問題が起きてるから、気をつけなさい」

「問題、ですか?」

「演劇部のね、きぐるみの頭部が盗まれたの。妙な盗難だけど、貴方達も身の回りの管理には注意を払って」

 なんていうか、すみません。

 これもこっくりさんとしての仕事なので。

 僕達はこれから見回りをするという虎善さんを見送って、結局僕はそれほどいる意味は無かったよなあと思うも虎善さんの後姿が見えなくなったところでその場を離れた。

 裏萩さんのいる選挙準備のために用意された一室へと向かう彪光は中々にご機嫌。

 扇子を出しては僕の肩をぺしぺしと叩いたり、やるわよーと気合十分と言わんばかりの目つき。

 立候補者裏萩、選挙準備室と書かれた紙が貼られている扉、時々通るが普段は物置として使われている一室も片付けられて中は結構な広さだった。

 数人が話し合いをしているが机すら用意されておらず、選挙には不慣れな様子が早くも窺える。


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