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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第一章
58/90

一ノ壱


「ふうん……」

 僕はパソコンの画面を見て、そんな声をあげた。

 こっくりさんに願いを叶えて欲しいと、うちの学校の生徒からメッセージが届いたのだ。

 ――演劇部の練習をどうしても中止させたい、演劇部の使っているきぐるみの頭部を盗んで隠してくれないか。

 という、妙な願い。

 詳しい説明も画面をスクロールさせると載っていたので読んでみる。

 この願いの主はロボ部、名前は琴施美癒ことせみゆ。二年三組の生徒か、顔写真を見る限り中々の美人だな。

 容姿からロボ部に在籍なんてぱっと浮かび上がらないね。

 彼女のメッセージによればロボ部は今まで体育館の踊り場でロボットの操縦などをしていて、安全かつ広いスペースで機動性の確認などをするので踊り場は大切な場所だと、ね。

 はいはい、それで?

 選挙優先のために選挙活動する生徒に場所を渡す事になった演劇部は今週の部活動場所を体育館の踊り場にとロボ部の部長に強引な交渉をして気の弱い部長は承諾してしまったと。

「大変だねえ、学校の部活動ってのも」

 思わず独り言を言ってしまう。

 長期にわたって体育館の踊り場を使用する演劇部は選挙終了まで使い続けるとなれば、ロボ部はただでさえ選挙で場所が得られないのにどこでやればいいのかと困っていて、それほど場所を必要とせずに臨場感だけで踊り場で練習する演劇部を妨害したいとな。

 要するに場所が欲しいっていうより演劇部の強引な部活動場所の確保が許せないから妨害したいってだけね。

 ……願いを叶えてやるとしよう。

 演劇部に近づけるような生徒にこっくりさんとしてきぐるみの頭部を盗んで隠せと命令するだけで簡単な願いでもあるからね。

 選挙っていうのは関係なさそうなとこでも影響が出るものなんだな。

 僕はこっくりさんとしての願いを送り、パソコンの電源を閉じた。

 その日の朝から、頭の中には選挙という言葉がぐるぐると巡っていた。

 学校では二年、三年の選挙が終わり、三年は予想通り御厨さんが生徒会長に選ばれて皆が彼女の名前を口にしていた。

 公開討論会、そういうものがあったらしいが最後の立会演説会以外は見ていない。

 演説会での御厨さんは思わず声を上げて感心してしまうくらいに群を抜いていたね、途中から御厨さんで決まりだなと僕は確信していたよ。

 二年の生徒会長は名前を聞いたものの知らない人で僕の興味は御厨さんのみ。

 彪光には御厨さんに投票はするなと言われたけどあの人以外に投票する人も得にいないので僕は内緒で御厨さんに一票を捧げてたり。


 そしてこれから一年の選挙が始まる。


 選挙前での立候補は五人ほど、今週末の締め切りまでにはその倍の人数が集まるのではないかと噂されており、一年の生徒会長を決める選挙は二年、三年の選挙よりもどこか気迫が違った。

「そりゃあ、一年の生徒会長になれば将来には二年、三年、それに総生徒会長になれるかもしれないんだから、将来を考えれば気合が入るってものよ」

 選挙っていうよりも争奪戦ね、柳生さんは言葉を付け加えた。

 なるほど、争奪戦か。

 用意された席は一つ、それに対して十人以上が奪い合いをするこの一年生徒会長選挙。

 僕は傍観側だが楽しめそうだ。

 この学園も妙な事をする。

 生徒数が多いからといって生徒会も各年に一つずつ置くなんてさ。おかげでここ一ヶ月は選挙選挙、そして選挙だ。

「うちのクラスからも一人立候補するのよね」

「へえ、そうなんだ。誰誰?」

 柳生さんは一瞥して指差した、指先から直線的に辿っていくと女子生徒が三人。

 その中で、すぐに僕の目に留まったのは真ん中の生徒。

 襟をすっぽりと隠すくらいの長さの艶やかさある黒髪、距離はおよそ五メートル、ここからでも清楚を感じるその雰囲気、もしもこの三人の中で生徒会長に立候補するのならば――

「真ん中の奴」

 予想通りである。

 外見だけじゃ判断は出来ないものだが雰囲気で分かるものがある。

 彼女を挟んで左右に立つ女子生徒は髪が茶髪で、服装にはアクセサリーが目立って選挙なんて縁が無さそうだ。

「名前なんだったっけ」

 クラスメイトとはいえ女子生徒の名前は未だに柳生さんとアンナ以外うろ覚え。

裏萩智瀬うらはぎともせ

 そうそう、それだ。

 言われればすぐに思い出す、そのうちまた忘れるかもしれないが。

 どんな人にも優しく明るく接してクラスでは人気者、男子生徒の話を聞く限りでは中々の好評。

「私はあんまり好きじゃないのよねーあいつ」

「どうして?」

「皆に優しくて、良い生徒だとは思うけど、なんか……嫌なの」

 自分でも何が嫌なのか掴みきれていないようだ。

「それに一年はきっとあの小鳥遊……いえ、今は梔子? だったっけ? そいつが立候補して生徒会長になるから無駄な事よね」

「彪光が立候補?」

「彪光、そう、彪光よ彪光。下の名前が思い出せなかったけどすっきりしたわあ。知り合いなの?」

「うん、友達だよ」

 そんでアパートではお隣さん。

 これは言わないでおこう、言う必要も無く言ったら面倒な事になりそうだ。

 彪光の奴、表向きは優等生で通ってるんだったな。

「彪光は出ないと思うよ」

「え? どうして?」

 どうしてって、そりゃあ裏サークルに所属していて生徒会の妨害とかを考えてる人が一年生徒会長になろうだなんて思わないだろう?

 御厨さんに選挙に出ないよう言われてたのもあるから、彼女は絶対に出ない。

 心の中で説明するも言葉にはできない。

「えっと、そういう選挙とかあまり好きじゃないとか、でさ」

 もっとマシな嘘を付けなかったのかな僕は。

「へー。なら選挙は波乱を呼びそうねえ。誰がなるのか予想できないわ」

「それほど彪光は有力候補だったの?」

「勿論、総生徒会長の妹さんなんでしょ? 生徒会の協力もあるんじゃないかって立候補者は皆警戒してどうにか票を集めるために作戦を練ろうとどたばたしてたわ」

「詳しいね」

「噂や盛り上がりそうな話は好きなの、好きなのよ、好きなのさあ」

 楽しそうな表情。

 柳生さんの話は本当に役に立つ、噂と言うも彼女の場合は確かな情報なので聞いていて損はない、裏サークルに所属する身としては表の確かな情報は貴重なのだ。

 裏サークルにいて、僕が学んだのはそれ。

 昼休みになって、とりあえず僕は彪光のいる教室へと足を運んだ。

 何故に僕が彪光の教室へと足を運ぶと決まって彼女はいないのだろうと、教室を見回して僕は溜め息をつく。

「あら、君は――」

 背中に届く声、聞き覚えのある透き通って綺麗なその声の主を僕は瞬時に思い浮かべてゆっくりと振り向いた。

「彪光に会いに来たのかしら」

「ええ、そうですよ虎善さん。残念ながらすれ違いになってしまいましたけどね」

「そう。よかったら一緒に探さない?」

 嬉しいお誘いだね。

「いいですよ、彪光に何かお話でもあるんです?」

「選挙についてちょっとね」

「選挙?」

「一年生徒会長選挙、始まるでしょう?」

「始まりますね、彪光が出るかどうか聞こうと?」

「そうよ」

 扇子を開くその仕草、いつ見ても美しい。

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