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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第四章
47/90

四ノ壱


 放課後。

 僕達は異餌命のサイトへ、事前に手に入れたパスを使って音々子さんのパソコンから入ってみた。

 トップページのメニューはそれほど多くなかった。

 掲示板やチャット、メンバーリストなど交流サイトと同じようなもののみ、必要最低限のメニューだけあれば十分だというのかな。

 背景は真っ黒、文字は赤、雰囲気は最悪、印象は最低。

 掲示板を見るやいくつか虎善さんの画像が張られており、加工途中と書かれていた書き込みには画像付き。

 その画像を開いてみると、加工途中としては相当酷くて言葉には表せないくらい――これより更に酷くなるなんて最悪もいいとこだ。

 どれくらい酷いか、とあえて解りやすく伝えるならば僕の隣でパソコンの画面を見る彪光の顔は憤怒を超えてそろそろ般若の顔へと変貌するのでは危惧するほど。

 チャットでは虎善さんへのいじめをどうするか、裏掲示板へ書き込みはいつしてどう皆を沸かせるか、作戦や卵の投げつけ場所、逃げ道について話されており、チャットの過去ログからして利用者は十数人、多く利用される時間帯は朝、昼休み、放課後。

 リーダーはチャットにどんな時間でも利用者がいると現れて何気ない話から異餌命の活動など話していた、今の時間もチャットは進行しており、リーダーもログインしている。

「画像提供者……最近異餌命で期待されてる新人のようです」

 ぱっと、脳裏を過ぎったのは小十太さん。

 核心は無いけど、容疑者を挙げるならばあの人くらい。

「よし、そいつを殺そう」

「やめてっ」

 彪光は音々子の膝の上にそのまま座り、マウスを奪ってパソコンを操作し始める。

 これじゃあ音々子さんが画面見れないよ彪光――と言おうとしたけど音々子さんは幸せそうだったので放っておこう。

「今のパソコンはすごいもんだな」

 新蔵はパソコンが見るからに苦手そう。

 彪光の操作によってころころと移り変わる画面を見て、過去から未来へやってきた人みたいな反応をしている。

 新蔵がパソコンを操作する姿など想像できない、今までパソコン関係には無縁だったに違いない。

 アンナに至っては、パソコン自体に興味が無いようで、いつの間にか持ち込まれたテレビの電源をつけて夕方に放送している子供向けのアニメを見始めていた。

 てゆーかここ、アンテナの配線もちゃんと壁にあるのね。

 いつも思うけどこの隠し部屋は何のために用意されたのかまったく謎だ、ここで生活でもしようとしてた人がいるのだろうか。

「ジャパーン、文化、パナーイ!」

 ……それにしても楽しそう。

「これらの画像を見る限りでは……柳生が益々怪しい。そう思わない?」

「思わなくもない、彼も似たような場所からの撮影をしていたからね」

「また捕まえようかしら」

「捕まえたとして、あの人が画像提供者だとしてもさ、前みたいに問い質してもファンクラブの会員って事でそれ以上の追及は難しいんじゃない?」

 以前に異餌命のメンバーとして疑った時はそれで終わり、今回もリーダーと関わりがあるのではと追求したところで同じ言葉を返されて何も進めない。

「拷問という手段があるじゃない」

「ちょっと待ってっ」

 暴力反対、拷問反対。

 尋問という手段も思い出してあげて、あ、別に尋問しろって言ってるわけじゃないけど手段を吹っ飛ばしていきなり暴力的なものへといく君のその思考回路は改めるべきと今は言いたい。

「他にも証明できるものはあるわ」

「例えば?」

「今は異餌命の掲示板にある画像も見れるのよ?」

「うん、それが?」

 彪光は溜め息をつく、呆れられた、ちょっと悲しい。

「画像と、彼の携帯電話に保存されている画像を照らし合わせればいいじゃない。その他に、書き込みにはパソコンか、携帯かがこのサイトには書き込みの時に名前の隣に小さく載ってるでしょう? 機種が同じかも調べられる、または携帯サイトのお気に入り登録もしてるかなど、証明に至るものは彼の携帯電話から多く得られるわ」

 画像をパソコンに保存していく彪光、自分の携帯へとその画像を送るつもりのようだ。

「なるほど」

 また溜め息をつかれた、僕はそろそろいじけようと思う。

 画像提供者の書き込みは数件、どれもさまざまな角度から虎善さんを撮ったものだ。

 異餌命@画像提供という名前、その隣にはIDと携帯電話の機種であろうBU/Zafariと載っていた。

 小十太さんの携帯電話の機種は何だったかな、直接触ってないし注意して見てはいなかったからよく憶えていない。

「書き込みをいくつか見てみましたが、異餌命へのスカウトはリーダーが行ったようです」

「この画像提供者、リーダーについて何か情報を得た可能性もあるわね」

「いやあどうだろう、新人には何も教えないんじゃない?」

「だとしてもこの画像提供者を探し出してぼっこぼこにするのは変わりない」

 あれ? リーダーについての情報より画像提供者をぼっこぼこにするのが今の主な目的になってない?

「それだけで異餌命の活動は少しは治まるでしょう?」

「治まるけど根本的な解決には至らない、リーダーをどうやって探し出すのかが重要だろう?」

「……解ってるわよ」

 異餌命の専用サイト、そのパスを手に入れてサイトに入ったのはいいが、リーダーを特定できるような情報は無し。

 次の行動を把握できるようにはなったのはいいけど、進展はそれほどない。

 メンバーリストもそれぞれ自分のハンドルネームや特徴が載せられてるくらいだ。

 リーダーだけはハンドルネームや特徴などの情報は一切載っておらず、名前の欄もただリーダーとだけ書かれていた。

 音々子さん体をずらして画面を指差して言う。

「数人がついさっき卵投げつけをしたようですね。リーダーの指示です」

「今日は早い時間に行ったのね、まあ……いいわ」

 言葉の裏に、憤怒とも言える感情が隠れているのを僕は察した。

「リーダーはどれだけ卵好きなんでしょうね」

 卵を好きというより卵を使っていじめを行うのが好きって感じじゃないですかね。

 しかし音々子さん、言うタイミングが悪いですよ。

「知るかっ」

 彪光は扇子を音々子さんの鼻に押し当てた。

「はがががっ」

 見ないでおこう、女性の顔が酷い有様になっているのは記憶しても得にはならない。

 それにきっと音々子さんはやられてると次第に嬉しそうな顔をする、間違いない。

「逃げ道について書かれてるね」

 本当にこの異餌命という組織は計画的だ。

 僕らのように計画性が不安定なサークルと違って。

「……うん? 選挙活動中の生徒に紛れて逃走する事?」

 そこには三年生徒会長立候補者の名前があった。

 以前に、ああ、以前にビラを受け取って握手をした事があったかな。

 マニフェストは裏サークル撲滅。

 彪光が絶対に票を入れないと言っていた立候補者だ。

「ハァハァ……佐々楓、それほど注目はされてない立候補者ですね。ハァ……ビラ配りや廊下での宣伝しかしてないので、今一です、ふぅ……」

 彪光は扇子を離したものの、快感の余韻に若干浸っていた音々子さんの口調は安定せず。

「異餌命に協力するために立候補?」

「書き込みをいくつか読んでると協力関係にあるのが解るわね。異餌命の仲間と思っていいかしら」

 彪光、今にも人を殺しそうな目をしながら言わないで。

 それにしてもこの佐々楓とやら、マニフェストはただの飾りのようだ。

 言ってることとやってる事がまったく違う。

 握手してもらって、ビラも頂いたけどあれは人の目を自分へひきつけて異餌命のメンバーを逃がす手段の一つだったのかな。

「音々子、調べておいて」

 彪光は音々子さんの膝から降りて、テーブルの近くへと寄って腰を下ろした。

 音々子さんは素早くお茶を注いでテーブルに。

 その際、お茶が一滴だけ彪光の手についた。

「あっ」

「……そこに跪きなさい」

 僕と新蔵は距離を取った。

 アンナと一緒にアニメを見るとしよう、アニメに集中して今起きる事は見なかった事、聞かなかった事にするのが自分にとっていい記憶の管理が出来るというものだ。

「ちょっと新蔵、これ引っ張って」

「ん? ああ」

 しばらく。

 しばらく、喜び混じりの悲鳴が室内に響き渡り悲鳴が止んだ頃に、

「姉さんの様子を見に行くわよ」

 彪光がそう言うので僕達は何事も無かったかのように頷いて準備を始めた。

 彪光は最近、一つ覚えたものがある。

 それは、亀甲縛りである。

 そして音々子さんが今そのような縛られ方をして、天井にいつの間に付けられていたフックに紐が通されて吊るされていた。

 先ほど彪光と新蔵とのやり取り。

 引っ張ったのは紐で、音々子さんは彪光の目線の高さまで吊り上げられたわけだ。

 縄の縛られ具合と吊るされ具合がいいのか、音々子さんはご満悦の様子。

 ちょっと、よだれ拭いてっ、垂れてる垂れてる。

 この人はもう駄目だな、手遅れだ――もしも僕が医者で彼女が診察に来たらすぐに首を横に振って追い返すね。

 まあ、それはいいとして。

 僕達は隠し部屋を出て虎善さんのもとへと向かった。

 佐々楓が近くで選挙活動をしているならばその中に異餌命のメンバーがいるかもしれない、誰がメンバーかは解らないが観察していれば選挙活動する生徒と異餌命のメンバーは別れるはず。

 その際に人数を数えて一度の活動で何人動いているのかとメンバーの容姿を把握できればいい。

 こちらからは直接接触したりという試みは出来ないが。

 捕まえるとしても単独の人、情報を聞き出して口封じ。

 異餌命全体にこちらの存在を知られるのはよろしくないからね。

 しかし今まで異餌命に僕達が知られなかったのは、本当に運が良かったと思う。

 何者かが探りを入れてるとか、調べてる奴がいるとか、サイトのほうではそれらの書き込みは一切無かった。

 放課後は今の時期なら生徒がかなり多いのもあって多少大胆に動いてもあまり意識はされなかったのかもしれない。

 佐々楓、それと彼女の周辺にいる生徒は異餌命が紛れ込んでる可能性有りと、異餌命のメンバー――一部であるが見えない相手がサイトを見た事によって把握できたのは大きい。

 あとはどうやってリーダーを特定して捕まえて異餌命を解散させるかだ。

 おっと、忘れてはいけない、異餌命を解散させたら彪光が解散させたと虎善さんに報告して、完の流れ。ハッピーエンドを作らなければね。

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