三ノ肆
「お待たせ」
「貴方に付き合ってあげてる私の身にもなって頂戴、あまり待たせないで」
見てて面白かったからつい五分ほど観察してたなんて言ったらすごく怒られそうなのでやめておこう。
彪光は僕に付き合うとか言っておいて常に先行。
これではまるで僕が君に付き合う形じゃないか、別にいいけどね。
むしろ君に付き合う形で、君が今日やりたい事をやって楽しむだけ楽しんでくれればそれでいい。
しかし、形だけでも僕に付き合う形にしておかなくていいの?
君がいいなら僕は別に構わないけどさ。
「先ずはどこに行きたいの?」
「うーん、考えてなかったなあ。とりあえず街に行こうよ」
「街に着くまでには考えておきなさい」
「君はどこに行きたい?」
彪光の意見はいっぱい聞きたいね。
「私は貴方に付き合うだけ」
どうしたものか。
これは、デートなのだ。
彼女を楽しませなくてはならない、僕にはその使命がある。
「僕は君が行きたいところに行きたい」
「私が行きたいところ?」
「うん、興味がある。興味がありまくり、教えてくれないとこのまま家に帰るまえである」
すると彪光は足を止めて考え始める。
「……ボウリング」
「よし、ボウリング場に行こう」
彪光がボウリングをする姿、見てみたい。
今日の服装はスカート。
ボールを投げた時に、ほら、ね?
ひらりと靡くわけだ。
って、そうじゃなくてさ。
彼女が可憐に、舞うようにボールを投げるその姿を見たいんだ、下心は無い。
うん。
街の中心まで行かなくてはならないので徒歩では時間が掛かる、近くのバスに乗っての移動。
彪光がバスに乗るのは人生で二回目、ある意味信じられない数字。
乗車券はちゃんと取り忘れずに、一番後ろの席が開いていたので彼女はその窓側に着席。
僕はその隣へ。
「ボウリングの経験は?」
「無いわ」
「そっか、どういうものかは解る?」
「正三角形に並んだ十本のピンをボールで倒すゲームでしょう? それくらい解るわよ」
手で投げ方も見せてくる彪光。
その表情、口元を緩めて目は輝き、楽しみだと顔に書いてあるかのようだ。
僕は初めてやる君のスコアがどれほどのものになるか楽しみだ。
ちなみに僕はボウリングの腕は中の下、アベレージは100を越えられればその日の調子は絶好調だと言えるくらい。
「楽しみだね、僕が手取り足取り教えてあげようか? むしろ教えよう」
「申し訳御座いません、丁重にお断りさせていただきます」
「何故唐突に敬語!? 何この遠く感じる距離感!」
「貴方との距離は数十センチだけど、心の距離は地球からアンドロメダ銀河くらいになったかしら」
「光年レベルの距離!?」
遠すぎるんだよなあ。
けど話してるときも笑顔、僕をからかってるだけのようで一安心だ。
ボウリング場に到着し、僕達は早速ボウリングを始めるとした。
その前に飲み物を買っておくのも忘れず、彪光にりんごジュースを渡した。
今日は僕が全部負担しよう、これはデートだからね。
そう、君はどう思ってるかは解らないが僕にとっては立派なデート。
「靴履き替えるの?」
「うん、君の履いてるハイヒールはボウリングしながらだと危ないからね」
彪光は渋々靴を履き替えていた。
ボウリング場で渡される専用の靴は彼女の服装には馴染まない。
……はずなんだが違和感は特に無い。
彪光の整えられた美とも言える容姿に加えて見事に映えさせるその服装へ目がいって靴くらい変わっても何も問題は無い。
下手したら下駄を履いていても違和感は無いんじゃないかな。
僕達はボールを選んで、準備完了。
彪光はやや軽めのボールにしていた、重いものから一つずつ持っていったが、彪光が腕を振って投げれるボールは最終的に一番軽いボールだった。
僕の選んだボールを見て、なんか口をへの字にしてもう少し重いボールへと変えていたが、完全に強がり。
無理しなくていいよ、と声を掛けたものの何の問題も無いと腰が若干下がり気味だったがボールを運んで席についていた。
投げれるの? 心配だ。
案の定、
「あっ」
「ん? うわぁぁぁぁあ!」
彪光は隣でボールを投げてる人のフォームを見て、見よう見まねでボールを投げようとしたら、僕の方へボールが飛んできた。
「てへぺろ」
「命の危機をてへぺろで済まさないでっ」
「今度はちゃんと投げるから」
「常にちゃんと投げて!」
使い方を間違えると凶器になるんだからさ。
片手では投げれないと判断したのか、彪光は両手で持って、放り投げるように投げた。
自分のスコアよりも安全を考えてくれて何よりだ。
ボールは真ん中を綺麗に転がっていき、ピンに当たり、しかしスピードがないのでピンはそれほど倒れず彪光は悔しそうにピンを見つめた。
「難しい」
「最初はそんなもんさ」
「あ、いい事を思いついたわ」
「何?」
「ボール二個同時に投げる」
「絶対怒られるからやめて!」
球が詰まったら店員に迷惑を掛けてしまう、あと出禁の恐れも。
その後はお互い散々なスコアをたたき出すが楽しめたので良し。
人生初めてのボウリングスコア表を受け取った彪光は嬉しそうに四つ折りにして小さな手提げバッグに入れていた。
入れ替わりにセンスを取り出し、身体を動かして火照ったのか扇いでいた。
「どうだった?」
「楽しかった」
「それはよかった」
「……いつか、姉さんと一緒にやりたいわ」
「やれるさ、絶対に」
きっと、二人の間にある溝はいつか埋まる。
未来が解るわけではない、けど僕はどこか確信を持っていた。
時刻は昼の十二時を回ったところ、腹の虫が騒ぎ始めたので近くのファーストフード店へ入った。
彪光にとっては、僕が見慣れてる店も新鮮。
メニューを見てもどういう食べ物が来るのか想像できずに頭を悩ませて、写真付きのメニューしか選んでいなかった。
「お味のほうは?」
「う、美味い……! 一ヶ月くらいこれだけで過ごしたいわ」
「栄養が偏るからやめてっ」
「野菜は別に購入するわ」
「……それでも太るよ?」
彪光の手が止まる。
おそらく。
おそらくではあるが、彪光は一人暮らしをしてから少し体重が増えたはず。
見た目は変わらないけど、僕に説得されるまでカロリーの多い食べ物をよく食べていたから太らないわけがない。
「これ、意外とカロリー高いんだよね」
彪光の食べてるのはバクドナルド特製バーガー、マヨネーズがほどよい旨味を引き出す――カロリーは言わずもがな。
「……たまに、食べるくらいにするわ」
「それがいいよ」
丸々と太った君の姿は想像もしたくないし見たくない。
「次はどこに行く?」
「私は貴方に付き合うだけ」
またそれかい。
「君が行きたいところに僕は行きたい」
本日二度目のやりとり。
「む……ゲームセンター」
「よし、決まり」
今日は楽しいなあ。
いつもピリピリかひやひやな状況が多かったから、今日は伸び伸びと過ごしていられてる。
ゲームセンターではUFOキャッチャーで僕達はぬいぐるみ一個取れたらおおはしゃぎ、二人で妙な格闘ゲームをプレイして、彪光をぼっこぼこにするとリアル格闘ゲームを挑まれて僕負傷。
夢中になって時間を忘れ、遊びつかれて外のベンチでアイスを食べつつ時計を見た時には時刻既に夕方四時過ぎ。
そろそろ秋野嶋さんに会いに行かなくてはならない。
ボウリングにゲームセンター、二つの娯楽を堪能した。
今日は楽しんでくれたかな、デートとしてどうだったかな僕の振る舞いは。
女性にお金は一切払わせなかったし前半は彪光に先行され気味だったけど後半は僕がちゃんと先行して彪光に面白そうなものを兎に角見せて一緒に楽しんで、いっぱい笑ったと思う。
満足してくれていればいいが、どうだろう?
どうだった? 最後に聞いてみる?
「さて、行きましょうか」
さっきまで緩みに緩みきっていた彪光だが毅然とした態度へと即座に変化。
僕は喉に質問を待機してたけど思わぬ彪光の気持ちの切り替えっぷりに、
「あ……うん、行こう」
としか言えず。
今日の楽しかった余韻を楽しむ間も無く僕達は席を立ち、秋野嶋さんの家へと向かう。




