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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第三章
41/90

三ノ壱



 あれから午後の授業を終えて、放課後。

 話を聞きにいくだけなのだから全員で会いに行く必要は無い。

 新蔵とアンナは学校に残って虎善さんの尾行と異餌命のメンバーの捜索、音々子さんはそのサポートに回り、僕と彪光は二人の生徒に会いに行くべく学校を出た。

 彪光は校門を出たところで足を止め、振り返って心配そうに学校を見つめる。

「虎善さんなら大丈夫だよ」

「……ええ、そうね」

 言葉をかけたところで、気休めにすらならない。

 分かっているけど何も言わないよりはいい。

 一先ず荷物を置きにアパートへ。

 服装はこのままでいいだろう、着替えるのも面倒だ。

「先ずはどっちに会いに行く?」

「南方好子にするわ、割と近い」

「早速行くとしますかね」

 日が暮れる前には終わらせたい。

 あと二時間くらいかな、日が暮れるのは。

 今日で二人とも会うのは難しい気もするがやるだけやるとしよう。

「貴方、自転車は持ってないの?」

「残念ながら持ってない、必要が無いからね。彪光は自転車持ってないの?」

 彪光は、沈黙した。

 何かまずい事でも聞いたかな?

 持ってるか持ってないか、それだけの話だとは思うけど。

「持ってないわ」

「へえ、そうなんだ。買っておいたら? 自転車あると便利だと思うよ?」

 ちなみに僕は買おうとは思わない。

 普段街中を自転車で駆け回る事も無いし、休日は専ら自宅でごろごろ。

 どこかへ遊びに行こうとしても、自宅から徒歩十分程度の場所しかいかない。

 自転車を持っていたとしても宝の持ち腐れになるからだ。

 彪光はどうかは解らないがね。

「買わない」

「街によく行くのなら買っておいて損は無いと思うよ?」

 もし買ったら僕に時々貸してね、なんて。

「別に自転車無くても街に行ける!」

 扇子で口元を隠して、僕から目を逸らした。

 なんだろうこの反応。

 ……待てよ?

 彪光はお嬢様育ちだ。

 今まで移動のための乗り物というと、自動車が主。

 もしかしたら。

 もしかしたら、だけど。

「一つ聞いていい?」

「……何よ」

「自転車、乗れない?」

 彪光は完全にそっぽを向いて沈黙。

「おーい、彪光さーん?」

「行くわよ」

 歩き始めたのでついていく。

 気になるのでさっきの質問について返答が欲しい。

「あの、彪光さん?」

「何よ」

「自転車……」

 彪光の足が早くも止まる。

 振り返って、扇子を音を立てて閉じて、僕に駆け寄る。

「質問、答えればいいの?」

 威圧的な眼光。

 たじろんでしまう、この話はもう無しにしたほうがよさそうだ。

「あ、いや、なんでもない。なんでもないです」

「なんでもあるに決まってる、ええ、答えましょう。答えればいいのでしょう?」

 痛い痛いっ。

 扇子を顎に当てないで、押し付けてこないで、ねじ込んでこないで。

「無理しないで、もういいよこの話は」

「無理? 私が無理をしてる? いいえ私は無理をしてないわ。これから私は貴方に一つの告白をする事で屈辱を味わうのだけど、無理なんてしてない」

「あの、ほら、早く行こうよ? 時間なくなるしさ、無駄話はやめにして」

「無駄話? これから貴方に告白する重要な話が無駄話? 貴方はとんだクズね、酷いわ、私が勇気を振り絞って屈辱を味わうと分かっていても告白しようとしているのに!」

「すみませんもう勘弁して下さい僕が悪かったです」

「いいえ、悪いのは私、貴方に隠し事をしていたのだから!」

 彪光、顔が近いよ。

 あと顔が怖いよ、憤怒の形相だよ、やめてよ、折角の美少女の顔が般若顔に勝る形相になってるよ。

「ええ、そう。実は私、自転車に乗れないわ。人生で一度も乗った事が無いの。自転車に乗れなくて悪かったわね!」

「……い、いえ、聞いた僕が全て悪かったです。ごめんなさい」

「このクズが」

「すみませんでした……」

 近くに自動販売機があったので、僕は駆け足で彼女が好きそうな飲み物を選んで買って渡した。

「どうかこれで」

「りんごジュース……」

 大丈夫かな?

「苦しゅうない」

 彪光はそれを受け取り、ぐびぐび飲み始めて薄らと笑みを浮かべた。

 機嫌を直してくれたようで一安心だ、ありがとうりんごジュース。

 自転車に乗りたいのなら今度機会があれば乗り方を教えてあげようかな。

 でも彪光が自転車に乗ってる姿、まったく想像できないっていうか、すごく似合わないっていうか、違和感っていうか……彪光のキャラに合わないって感じ。

 むしろ彼女には高級車が似合うね、後部座席に座って扇子を扇ぐ姿――簡単に想像できる。

 歩く事十数分、そろそろ南方さんの家が近い。

 話を聞くとして、自宅の呼び鈴を押して事情を説明して中にでも入るのかな?

 それとも強引に中へ入って聞き出すとか?

 ……彪光ならやりかねないが、なるべく荒事は避けて欲しいな。

「あら、あいつ……」

 ここら周辺の地図が示された看板を見ていると、彪光は別の方向を見て呟く。

「誰だったかしら、や、や、や……」

「柳生さん?」

「それ」

 見てみると小十太さんはどこかへ行く様子。

 特に気に留める事でもないが、僕達は彼の後ろをついていく事になる。

 故意についていってるのではない。

「方向、一緒だね」

「そうね、偶然かしら」

 僕達の目的地と方向がまったく一緒、彼についていけば僕達の目的地にもたどり着くのではないか。

「すぐそこだね、僕達と目的地同じだったりして」

「同じかもしれないわよ、ほら、足を止めたわ」

 まさかね。

 電柱の影に隠れて、様子を窺うとする。

「あそこ、南方さんの家かな?」

 一軒家の前に、彼はややうろついて何か迷っている様子だった。

「さっきの地図を見る限り、南方の家で間違いは無さそうね」

 隣には小さな空き地、そして十字路。

 電柱に書かれてる住所のほうも南方さんの住所に近い。

 南方さんの家を見つけられたのは良し、小十太さんが南方さんの家の前に立っているのは何故だろう。

 ――それに兄貴の知り合いも異餌命の標的にされて不登校になったのよね。

 ふと柳生さんがいつだか言っていた言葉を思い出した、彼女はいつだかそんな事を言っていたな。

 兄貴の知り合い――それが南方さんだったんだ。

「入ろうとしないわね、面倒だから行くわよ」

「行くって?」

「あいつを使って一緒に中に入る、心配して会いに来た生徒、それに便乗するのは好都合でしょう?」

 そりゃあ確かに。

 彪光と一緒に電柱の影から出て行って小十太さんのもとへ。

「ん? あっ、君達は……!」

「ご機嫌よう、変態ストーカーゴミクズ野郎」

「いきなり酷いな君は!」

 同感である。

 彪光は溜め息をついて扇子を取り出し、顎に当てる。

「南方好子とは知り合いなの?」

「え、ああ、そうだよ」

 迷っている様子だったけど、どうしたんだろう。

「今日は何か用件でもあるんですか?」

「いや、特に用件ってほどでもない、暇さえあれば様子を見に来てるんだ」

 ではどうしてあんなに躊躇してたのかな。

 素直に中へ入ればいいのに。

 彪光は扇子を彼に向けて、

「中に入れなさい」

 唐突に命令。

 勇ましいね君って奴は。

「何故にそうなる!?」

「南方好子に話を聞きたい、だから貴方が玄関の呼び鈴を押し、私達と一緒に中へ入る。もしかしてこんな簡単な事も出来ない変態ストーカーゴミクズ野郎なの?」

「話を聞きたい? 何の?」

 彪光は返答せずに玄関へ。

「シカト!?」

 溜め息をついて、小十太さんの顔を見てまた溜め息。

「なんか残念がられてない? ねえ、君、彼女っていつもこうなの?」

 はい、そうです。

 頷いておく。

「あのですね、自分達は異餌命というものを今調べてまして、異餌命の被害に遭った生徒に話を聞いて何か情報を聞き出せないかなとやってきた次第なんです」

「ああ、そういう事……。俺もそれについては聞いてみたいが、きっと話は何も聞けないよ」

 彼は呼び鈴を押して好子に会いに来たと話すやすぐに中へ招き入れられた。

 その様子から、ここへ来ている頻度は高いようだ。




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