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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第一部『継承編』:第一章
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一ノ参

 一番後ろの窓側端の席っていうのは、窓の外に広がる晴天が授業の邪魔をしてきてなかなか集中できない。

 飛行機が飛んでいるのを見ると見えなくなるまで無意識に追ってしまうし、校庭で体育なんかしてると黒板なんて見ているより退屈しない。

 かといってずっと窓の外を見ているのも問題であり、授業終了まで残り数分ってところで僕のノートは真っ白。慌てて黒板に書かれている数字と数式という呪文を書き写し終えると同時に授業終了、今日はどの授業も同じような状態ばかりだった。

 授業中、何度か周りとコミュニケーションを取ろうと思ったが、僕の隣に座る眼鏡が良く似合う女子生徒はどうにも話しかけるには彼女の放つ威圧感が壁となって言葉が通りそうに無い。

 ならば男子生徒、そう、男子生徒との会話なら出来そうだと目の前に座る男子生徒にでも声を掛けてみようと思ったが、このクラス一番の巨体で強面。オールバックが良く似合う格好良いが近寄りがたい男子生徒だ、話しかけたらもしかすれば僕はこの世から消えてしまうかもしれない。

 徐々に構成されていくクラスでの所謂グループ作りに乗り遅れつつ、ならば彼らを取り込めば一つのグループじゃないかと考えたところで引き入れる人徳も話術も無い。

 言い訳をするならば隣の彼女、僕は女性への接し方には些か疎い面があり、目の前の彼は先ほども思っていたように近寄りがたい、というかもう正直に言うと怖いのだ。

 という事で現状維持を自分に言い聞かせる。

 残った斜め右上については入学早々に授業をサボっているのでそれはまた今度。名前から外国人だったがどこの国なのかは知らない、自己紹介の場でもそこにいなかったからね。アンナ、とかいう名前で肩に掛かる程度の金色ショートヘアに碧の瞳が印象に残っているからはっきりと憶えている。

 昨日はきちんといたが、今日は午前と午後一時間のみ教室にいて残りの時間はどこかへ消えて今も彼女の席は空席だ。日本の授業にまだ慣れてないのかもしれない。

 ようやくして授業が終了するとまだ黒板に書かれている呪文を書き写していないのに消し始める教師。

「まっ……」

 待ってくださいと言ったところで教師の鼓膜に僕の言葉が届いたときにはどこまで消されてるかは想像が出来る。

 つまり言うだけ無駄、諦めるしかないね。

「貸してあげる」

 すると隣に座る女子生徒はノートを差し出した。

「あ、ありがとう」

 意外、うん、すごく意外だ。

 名前はなんだったかな……と脳内をかき回すがノートに名前が書かれていてすぐさまに頭へ送り込んだ。

 名前は柳生秋葉やぎゅうあきは、言下に柳生さんと付け足した。

 こうしてクラスメイトとの交流を深めていくんだなあなんて思いつつ早めに書き写して彼女へと手渡した。

 彼女はノートを受け取るとそそくさと教室を出て行く。

 一応……交流を深める第一歩にはなったんじゃあないかな。

 これから少しずつ会話に挑戦してみよう。

 残る問題は目の前に座る男子生徒だが、何事も挑戦だね。

 名前は……服部新蔵はっとりしんぞう、だったはず。むしろ今ここで「今日の授業難しかったね」とか「部活どこか入ってるの? 体つきがすごいねえ」なんて言ってみようかな。

 すると彼は席を立ち、ゆっくりとした歩調で歩いていき、僕をちらりと見ては静止。

「……」

「……」

 何か僕は悪い事をしたのかな、もしかして彼は思考を読み取る超能力者で彼を強面とか怖いとか思っていたそれらは全て筒抜けだったとかだったりして。

 ……んなまさか。

 でもどうして静止する?

 もしも気を悪くしたのならば僕はここで席を立ち、床に両手をついて日本伝統である一番の謝罪する姿勢、土下座を披露してみせよう。

 などと考えていたら彼は再び歩数を刻みなおして教室から出て行った。

 ……何だか意味深だ。 

 とりあえず今日はもう帰る事意外何も無いので僕も教室から出るとしよう。

 暇なら掃除を手伝ってとか言われたく無いしね、でもちょっとはそういう交流でクラスメイトと溶け込みたいかなとか思ったり。

 教室から出て歩数三歩目にて、後ろから肩を叩かれる僕はその肩を叩いた感触が固いものだったのである程度予想して振り返った。

 きっと彼女がいるはずだ、とね。

 もはや避けようにも避けられないのかも。

「行きましょう」

 彪光が予想通りいて、彼女は扇子を振って華麗に開く。

 今日は別に大して暑くはないが扇子を開いたら振るのは誰もがやってしまうもの。それが扇子を持つものの醍醐味。

 クラスはどこ? という質問に対しては三組、と答えた。

 僕は七組なので遠からず近からず。

「それで、行くってどこに?」

 僕の質問は彼女の背中に当たるも彼女はそのまま歩き出す。

 行き先は屋上、僕の質問は解消されたが次は何をするの? と質問したい。

 昨日の話からするとサークルを全て支配するとか何とかだが、屋上でそんな事は出来ないだろう。

 屋上には少女が一人、それ以外は誰も無し。

 金髪の髪が見ていて眩しいなと思いつつ、その少女はどこかで見た事があると脳内をかき回してみると、ああ――今日は最後の時間サボってた生徒じゃないかと思い出す。

 詳しく説明するならば僕の右斜め上の席に座る生徒、外国人。胸の大きさは彪光より上、だけどそんなの口に出して言えない。

「アンナ」

 少女は振り返りこちらを見てくるその碧の瞳と僕の視線が合い、しばらく釘付けになってしまう。 

 吸い込まれそうなくらいに魅力的な瞳を持っている。それに整った顔立ちが尚一層引き立てて綺麗という二文字を構成しているのだ。

「あやみちゅー」

 惜しいが発音は中々だね。

 アンナという名前、外国人、記憶にある彼女の容姿からクラスメイトで間違いないがどうして屋上にいるのだろう。今日の授業も後半は出席してなかったし。

「紹介するわ。アンナ・アイベックス、海外と日本を行き来してて二年前に日本に永住が決まったの。私の友達よ」

 どういう経緯で友達になったのやら。

 こちらへと歩み寄り、彼女は僕に抱きついてくる。

「ほんまよろしゅー。しぇいしぇい」

 なるほど、アメリカ流の挨拶だ。

 言葉はどうしてか方言っぽいんだけど、てかしぇいしぇいって謝謝? 日本と中国を間違ってないかな。

 出来るならばもうちょっとこうしていたいが数秒経つと彪光の眉間がぴくりと動いたので離れておく。

「グローブ持った?」

「イエス、揉みマシタ」

「グローブ……?」

 持ちましただろもう、でも可愛い。

 二人の会話に些か妙な単語が含まれていたので思わず言葉に出した。

 アンナは小さな鞄からグローブを取り出して見せてきたが、ちょっと待って欲しい。

「何にそれ使うんだ?」

「何ってねぇ?」

「イエス、ねぇ?」

 二人はお互いに顔を見合わせて、同時に僕へと視線を送った。

 これじゃあ僕がグローブに関して疑問を抱くほうがおかしいみたいじゃないか。

 それに先ず何をするかも説明してもらってないし、説明される前にグローブを取り出した時点でもうおかしい。

「殴りこみ」

 そんな当たり前でしょみたいな顔で言われても。

「カチコミね。たまぁとったるゼヨ、兄貴」

 兄貴って言うな、僕はどこの組にも属してない。

 それにたまぁとったるぜよとかその魅力的な唇で言うのは止めようよ。

「一旦落ち着こう? 後先考えずに行動するのは駄目だと思うんだ」

 ほらそこ、ジャブの練習するんじゃないで。

 彪光も「いい拳ね、さすが鉄拳のアンナ」とか彼女を褒めるんじゃなくて止めさせて。

「考えてるわよ、ほらこれ見て」

 彼女はいくつかの写真を懐から取り出して僕へ手渡した。

 どこかの部屋へ入ろうとしている女子生徒が写った写真だ。よく目を凝らしてみると扉のプレートには第二資料室と書かれている。

 よく撮れてるでしょ、と自信ありげな表情。まあ、よく撮れてるよ。でも学校にカメラを持ってきたりこういうの撮ったりって高校生になったばかりの女子がやる事かね。

 さてさて写真についてだが、校内は広いので第二資料室がどこにあるかはまったく解らないが、別にそこがどうかしたのかなという疑問が一つ。

 この女子生徒は何か用があって入ったのかもしれないし特に問題などは見当たらない。

「ここね、聞いた話だと使われなくなった資料を保管するためにあって生徒が入る事は先ず無いらしいの」

 ふうん、それなら入ってみようとかちょっとした好奇心が彼女を動かしただけなんじゃ?

「様子見してみたら数時間は出てこなかったわ、変でしょう?」

 その人はよほど資料が好きなんだよきっと。

 歴女とかもしかしたら資料萌えとかかもね。資料を見ると興奮して没頭して時間と我を忘れてしまうに違いない。

「鍵が開いてたら中をそっと覗いてみたらね、誰もいなかったの」

「……もしかして幽霊?」

「やだら怖いベ、兄貴」

 アンナの言葉でゾッとした背筋は一瞬で治まった。

 もう東北の方言とかも混ざっちゃってるね、それと兄貴って言うな。

「違う違う、ここに何かがあるって話。きっとどこかのサークルが隠し部屋を勝手に作ってるのよ」

 そんな馬鹿な。

 苦笑いを浮かべる僕に彪光は不機嫌そうに扇子を閉じると踵を返して、

「百聞は一見に如かずよ」

 そう言って屋上から出て行くので僕とアンナは後を追いかけた。

 彼女にグローブ置いていったら? と言ってみるも首を横に振って大事そうに鞄へ戻す。

 暫し歩くが中々到着しないところから校内はやはり広いなと改めて実感。中庭なんか僕が中学の頃に通っていた校庭くらいある。家が何軒建つかな、十軒ほどは余裕であろう。

 近道なのか、その中庭を入って横断。木製の足場があって上履きは履き替える必要は無い。所々にベンチがあり、ここで昼食を頂いたらいつもより美味しく味わえそうだ。

 緑の香りを鼻腔で味わいながら歩くのは清々しいがやや歩調は速め。

 もう少しゆっくり歩いてこの香りを味わいたいものだが、言っても聞いてくれないだろうね。

「兄貴、オイしい香りでヤンス」

 そうだね、この香りは美味しくも感じるね。

 それともう兄貴でいいよ……。その呼び名で定着しちゃったようだし。

 中庭から再び校内へ入ってさらに進行し、やや奥のほうへと行くと日陰が目立ち始める廊下。

 窓の外を見ると木々が多く茂っていてここらは陽光がそれほど射してこないようだ。

 徐々に不気味とさえ感じてきた廊下をさらに進行するとそこに第二資料室はあった。

 人通りも少ないほうで隠れてサークル活動なんかするには取って置きの場所ではあるが、まだ断定は出来ないね。

「鍵は……空いてるわよ」

 中へ入ってみると壁など見えないくらいに本棚で埋め尽くされて、埃臭い空間に思わず口元を手で覆った。

「けほっ……きっと何かあるはず」

 といってもなあ……。

 辺りを見回しても本、本、本。

 アンナはとりあえずジャブを止めてくれないかな、埃が舞ってる。警戒しなくても何も無いと思うよ。

 それにしても暗い。

 窓の外には丁度大木があるためにこの部屋は先ほど通った廊下よりも暗い。今はまだ午後四時くらいだというのにそれらしい時間などこの部屋には存在しない。

「床を見て」

 すると彪光は床を指差した。

 薄く積もっている埃の上は足跡が刻まれていた。換気もしていないこの空間では当然であろう。普通よりやや小さめの足跡がいくつかあり、この小さい足跡の主は写真の女子生徒を連想させる。

「なんか奥に続いてるね」

 足跡を辿ると奥の窓側まで続いており、そこから右へ。

 僕達もその軌跡を辿ってみるがもちろん本棚しかない。

「幽霊デスな……兄貴……」

「幽霊は足跡残さないよ」

 本棚を調べてみるとするか。

 プリントの束や本が詰め込まれており、その中でなんとなく本を取ってみる。

 古典、それもかなり劣化していて本を開けば紙が破れる嫌な音が聞こえ出すのですぐに閉じた。

 閉じると同時に埃が舞い、咳き込んで涙目。

 何でこんな目に遭っているんだ僕は。

「怪しいわねこの本棚」

 彪光は扇子を開いて口と鼻を防御しながら言う。

 僕にも扇子の予備があったら分けて欲しいな。

 彪光はそっと指差し、僕らはその指差された方向へと視線を辿ってみると到達したのは本棚の上。

「隣の本棚見て」

 言われるがままに視線を移動すると、隣の本棚と今僕達が調べている本棚……高さが微妙に違う。

「同じ本棚なのに、この本棚のほうが高いわ」

 でもそれは設置したときに何か挟まったりしたんじゃないかな。

 本棚の下を見てみると少々床と隙間があるが覗いても暗くてよく見えない。何かが本棚の下にあるようだが別に気になるものでは無いな。

「それにここだけ埃が薄い。押してみましょう」

 埃塗れの本棚を? 冗談だろ?

「押しなさい」

 冗談じゃないですねすみません。

 言われるがままに押してみるが、びくともしない。

「……お、重い!」

 ぎしぎしと本棚が音を立て、アンナも僕の背中を押して手伝ってくれてる(?)が動く気配など無し。

 当然の結果だ、だってそうだろう?

 本棚は壁に接している、壁ごと動かせるような怪力が無ければ押して何かが起きる結果など見出せない。

「回転式なのかも」

 その発想はどこから来るのやら。

 先ずさ、僕達が今やろうとしている事は隠し部屋でも探してサークルを見つけるみたいな事、学校を改築しなければ無理だと思うよ。

 押すだとか回転式だとかはもう十分だ、そんなのあるはずが無いのだからここは引き返して喫茶店にでも行きたいね。

「ワタシ、右、押しマス」

「なら貴方は左側を引いて」

 どうしてもやるというのならやってやるけど、満足したら帰ろうね。最初は右回りを意識して押し、次は左回りでやるらしい。

 当然彪光は少し離れて見学。僕らは埃まみれになるんだけど、君は高みの見物かね。まあ、いいけどさ。

 僕はアンナに視線を送り、せーのっという気の抜けた掛け声をしてお互い押し引きをする。

 ほら動かない、帰ろう。

 そう言うつもりだった、本棚はびくともせずに溜息をつくはずだったのに、気になる結果はというと本棚はゆっくりと右回りに回転していったのだ。

「おおおお……!」

 押すと同時に思わず喉の奥から声が漏れていく。

 思わぬ結果だったのだ、回転式の本棚に隠し部屋とかどう考えても学校にあるはずが無い。現実を直視してそれ以外など無視する僕のつまらない思考はここで一部分だけだが砕けた瞬間である。

「兄貴! オツトめご苦労サマーでごザル」

「僕は刑務所には入ってないよ!」

 言いたかった事はなんとなくわかるがね、もうちょっと日本語を学んで欲しいな。

「さあ、行くわよ」

 彪光は今流行のどや顔で先行。

 この本棚、僕とアンナが動かしたんだけど。

 せめてよくやったとかの一言くらい欲しかったな。




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