二ノ肆
翌日からは校門に立つ生徒が増えていた。
その中には、
「おはようであります!」
どこか聞いた事のある口調の人物がひときわ目立っていたね。
彼女――鍋島さんがいるって事はここら周辺に風紀委員の生徒が潜んでいるか登校中の生徒に紛れ込んでるに違いない。
今のところ卵が投げられる事は無く、異餌名が昨日に鍋島さんの話していた事を聞いていたとしたら、警戒してしばらくは手を出さないかもしれない。
結果的に、鍋島さんが口を滑らせてしまった事によって虎善さんを守るってのに繋がったとも言える。
裏掲示板では虎善さんの写真がいくつか載せられたくらいで大きな動きは無かった。
写真が載せられる事自体大きな動きとも言えなくは無いが、異餌命の書き込みは今のところ無いので今は異餌命の活動は無く、何もされないと思っていいのだろうか。
そうであったとしても、一応今日も虎善さんの尾行はする。
確実に何もされないと決まってはいないからね。
「風紀委員増えたね」
御厨さんは朝の選挙活動へと回ったようだ。
心配そうに虎善さんを時々見ながらの選挙活動で集中は出来て無さそうではあるがね。
「そうね、まるで大統領を守るシークレットサービスみたい」
まさに、その通り。
周囲の生徒が懐に手を突っ込めば皆が視線を矢のように向けていて非常に警戒心が高い。
腕章を付けてない風紀委員も僕が見える生徒達の中にいるはず。
その中で彼らを統率しているのは鍋島さんだ。
虎善さんの近くに立っており、どこから卵が飛んできても受け止めてみせると今にも言いそうな気合の入った表情。
「これなら異餌命も手出し出来ないね」
「そうかしら?」
「何かしてくるとでも?」
「何もしてこないとでも?」
すると。
すると、だ。
校舎から何かが飛んできた。
数秒後、割れる音がした。
「そ、総生徒会長!」
鍋島さんが声を上げた。
生徒達のざわめきがまるで海から津波でも押し寄せるようにこちらへと聞こえてくる。
僕は虎善さんのもとへと近づくと、虎善さんの頭にはまた卵。
むしろもう何故卵なのかと問いたくなるくらいだ、卵にこだわりでもあるのだろうか。
「何かしら」
虎善さんは毅然とした態度で鍋島さんに言う。
「た、卵がまた!」
「そうね、でも大丈夫。フライパンは持ってきてるの」
「大丈夫じゃないであります!」
まったくである。
彪光はまた怒るだろうなあと彼女を見ると、僕のように駆け寄ってはおらず、むしろまったく動かず周囲を見回していた。
冷静に異餌命のメンバーを探しているようだ。
そう、そうだ、そうだよ。
異餌命のメンバーを見つけるのが僕達の目的だ、こうして慌てふためいて虎善さんの頭に乗ってる卵を見ていても何も解決しない。
虎善さんの近くは騒がしい、僕も彪光のもとへと戻り周囲を見回した。
「それらしき人、いた?」
「いいえ、でも卵が投げられた場所は把握したわ」
「本当? 何処?」
「校舎の二階角の部屋、窓が半開されてる場所から」
僕はそこを見てみると、不自然に窓が半開されてる部屋を確認。
「何か道具を使ったのかしら、距離が離れてるのに正確に当てたわ」
「十メートル以上はあるね、僕には当てるの絶対無理だなあ」
「それとまたあいつ、いるわよ」
彪光は顎で軽く方向を教えてくれて、僕は視線を向けると木陰に男子生徒。
その手に持ってるのは携帯電話かな。
彼は携帯電話に指を走らせて、携帯電話をポケットにいれるや木陰から出て虎善さんのところへ足を進めていた。
近からず遠からず、そんな距離を保ちしばらくすると離れていった。
「怪しいね」
「ええ、とても」
「どうする?」
「殺そう」
「やめてっ」
いけないよそういう思考。
「おーい」
そこへ新蔵とアンナが合流。
若干二人とも息が荒い、結構走ってましたと言わんばかりに。
「あら、二人とも。何か手がかりでもあった?」
「それがよ、さっきの見て校舎に急いで入って見に行ったけど部屋には誰もいなかった。近くの生徒は選挙活動してる奴らばっかりで逃げようとする生徒は一人も無し」
「アヤシー奴、いないネー。皆ーセンキョーヨー」
「こっちは一人見つけたわ、あれなんだけど」
あれ、と彪光は扇子で男子生徒を差す。
「あれか」
「アレね」
新蔵とアンナの目が鋭くなった。
ちょっと荒事はやめてくれよ?
「とりあえず、学校から出て生徒が周囲にいなくなったら確保」
「了解」
「KILL!」
「殺さないでっ」
二人は左右に分かれて男子生徒の後ろを歩く。
僕らもやや二人の後ろを歩行。
「もし彼が異餌命のメンバーだったとして、顔見られたらまずいんじゃ?」
「問題無いわ、口封じはちゃんとするから。それに標的が私に移れば好都合。私を囮にして異餌命を捕まえる。そして異餌命は解散、私達の勝ちよ」
虎善さんと同じ事言ってる。
口調も雰囲気も同じでこの姉妹は本当に似てるね。
男子生徒は学校を出て住宅街の方向へ向かうも、脇道が多い場所を選んだのが運の尽き。
生徒が減ってきたところで、後ろから二人は男子生徒の両肩を掴んだ。
「えっ?」
男子生徒は二人の顔を交互に見て唖然。
脇道へ連れて行かれて、無事に確保。
あまりにもすんなりといったものだ。
選挙もあってまだ学校に生徒が留まっていたために帰宅する生徒がそれほど今の時間帯は多くなかったのが幸いした。
行き止まりの脇道が近くにあったのも行動を起こしやすい要因の一つだった。
「な、なんだ君達は!?」
「ちょっとお話が」
「アルネー」
両肩を掴まれて動けない男子生徒。
彪光は彼に近づき、懐に手を突っ込んだ。
「お、おい! 何を!?」
「生徒手帳を見せてもらいたくて」
生徒手帳を見つけるや取り出して、中を拝見。
「ふむ、三年の柳生小十太か。次は携帯電話を見せて頂戴」
柳生? そういえばうちのクラスの柳生さん、兄貴がいるって言ってたけどもしかしてこの人?
どうであれ今は彼が異餌命のメンバーなのかを確かめなくては。
「な、なんで君に見せなきゃならないんだ!」
小十太さん、ここはあまり反抗しないほうがいいと思う。
「私に見せないと貴方は大変な目に遭うかもしれないからよ、私は親切で言ってるの。解る?」
彼は新蔵とアンナの顔をまた交互に見る。
二人の顔は笑ってはいるけどその笑顔の裏には恐ろしいものが待機している、それを彼は察して携帯電話をすぐさま差し出した。
「いい子ね、ありがとう」
半ば強制である。
「ふむ、やはり」
彪光は僕に携帯電話の画面を見せてくる。
そこには虎善さんが映っており、撮った画像は数十枚ほど。
「どうして総生徒会長の写真を撮ってたの?」
え? 君の姉さんなの? なんて余計な話に繋がって遠回りを避けたいからか、彪光は姉さんとは言わず総生徒会長と言った。
「いや、その……」
「ストーカーなの?」
「ち、違う!」
「異餌命のメンバー?」
「……い、いや、違う!」
一瞬の躊躇。
怪しさが上昇。
目が泳いでいる、呼吸もやや荒い。
右手を握るのは緊張した時の癖なのかな? 今頃手汗びっしょりと予想する。
何か隠していそう、いや、何か隠しているね。
「では、何故?」
「そ、それは……」
「それは?」
左右には三階建てのビルが聳え立ち、光が届きづらく薄暗い。
後方は行き止まりで囲まれているとあればこの作られた重々しい雰囲気、威圧感には耐えられまい。
「お、俺が……総生徒会長ファンクラブの一員だからだ!」
「「「「……は?」」」」
僕達四人、全員が声を揃えた。