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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第一章
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一ノ肆

 放課後の学校敷地内は選挙活動をする生徒と部活動をする生徒で騒がしかった。

 中には僕達と違って学校にちゃんと認められたサークルもあり、視聴覚室を借りて映画鑑賞をしてるサークル、外では激しいダンスを踊っているサークルなどが活動していた。

 僕達はというと、ひっそりと物陰から双眼鏡で生徒会関係者一同を観察している。

「御厨達は今日の選挙活動を終了して敷地内の見回りをするようね」

「え? 解るの?」

「読唇術」

 彪光さん、貴方って人は羨ましいくらいにスペックが高いですね。

「あれ? 新蔵とアンナは?」

「君が意気揚々と隠し部屋から出た後、アンナは新蔵をつれてボクシング部に向かったよ」

「ボクシング部?」

「新蔵とボクシングやるんだって」

「ア、アンナの奴……」

 純粋無垢で無邪気、アンナはその二つを宿して目を輝かせてアトハ任せタヨ兄上ーとか言ってついていくふりをしてこっそり行ってしまったが任せたと言われてもなあ。

「箱置くだけだからいいじゃん」

「サークルメンバーは心を一つに動かなきゃならないでしょ!」

 少なくとも僕は君と心を一つに御厨さんに腹パンボックスを喰らわせたいんじゃないんだけど。

 止められるなら止めたいが、彪光は絶対に止めないだろうなあ。

 無理にでも止めようとすれば扇子で叩かれそう、怖い。

「アンナったら最近なんか浮かれ気味」

「新蔵と仲良いよね」

「……そうね」

 口をへの字にして、何か面白く無さそう。

 彼女はすっと立ち、双眼鏡で何度か見て場所を移動する。

 大切そうに腰に抱える腹パンボックス、今奪い取って逃げるのは可能だが後が怖い。

「先回りするわよ」

「了解……」

 学校の敷地内、広いから先回りって結構移動するよね。

 来る疲労に僕は溜め息をついて、彼女についていった。

 体育館の周辺を見回りする御厨さんと役員達を、草むらに紛れてまた様子見。

 彪光は双眼鏡でじっと見つめていると、口元がにんまりと緩んだ。

 何かあるのかな。

「二手に分かれるようね、御厨がこっちに来るわ。よろしく」

「よろしく……って?」

「腹パンボックス置いてきて」

「えっ?」

 僕が?

 ちょっと心の準備が出来てないのに、いきなり言われると慌てちゃうよ!

「相手から見えないように移動して、曲がり角付近にこれ置いてくればいいだけよ」

「えー……」

「早くして!」

「……わ、解ったよ」

 渋々僕は従った、断りたくても断れない、万が一断れたとしても彪光が設置する、結果は変わらない。

 曲がり角付近、ね。

 えーっと、御厨さんは建物に沿って歩いてたから、この腹パンボックスも建物の壁側に置けば彼女が見つけてくれるかな?

 って、彼女が見つけたらそれはそれでまずい!

 でも彪光がこっちを睨んでる!

 壁側に置けと扇子で指示。

 僕が渋っていると彪光の表情がどんどん怒気を纏い始めていたので僕はすぐに置いて草むらに飛び込んだ。

「さっさと置きなさいよ!」

「ご、ごめん……僕の罪悪感が働いて」

「そんなもの捨ててしまえ!」

 そんな無茶な……。

「ほら、来るわよ!」

 彪光は草むらの奥へと引っ込んで腹ばいになって双眼鏡で見る。

 それを使うような距離では無いのに……よほどはっきりと見たいのかな。

 僕は伸びた草を手で避けて隙間を作って覗いた。

 御厨さんは体育館の角を曲がるや地面に置かれた白い箱と遭遇。

 何だこれはと手にとって側面や底をじろじろと見ていた。

 役員達も不思議そうにそれを見るが、彼女は中身に興味が沸いたのか手渡そうとはせず、 取付蓋に手を伸ばす。

 今すぐ叫びたい。

 開けないでください! と。

 でも叫んだら叫んだで、その箱を置いたのは僕、怒られるのも僕。

 彪光はきっとすぐさま逃げるだろうし。

 御厨さんは蓋に手を掛けてゆっくりと開く。

 ああ、もう、駄目!

 すると、蓋は勢いよく開き、中からボクシンググローブが飛び出して取付蓋に引っ掛かり、軌道を変えて、


「ふぐひっ――!」


 重い打撃音――御厨さんの腹部に命中した。

 彼女の痛々しい声はこちらまで聞こえた。

 箱を落とし、膝を崩して腹部を抱えて悶絶。

 彪光も今に悶絶しそう、笑いを堪えていて。

「ふ、ふは……! し、し、し、死んで、し、死んで、し、しま、しまうっ」

「あ、彪光、落ち着いてっ、てか深呼吸してっ」

 駄目だ、笑いを堪えているが既に限界点を反復横飛びしてる状態だ。

 泣き笑いして完全にツボに入ってる。

「あとあまり声出さないで! 聞こえちゃうよ!」

「わ、解ってる!」

 僕は必死に彪光の口を手で塞いだ。

 このままだと絶対に見つかる、彪光が大爆笑して。

 僕は彼女が落とした双眼鏡で御厨さん一同を見る。

 よほど強烈だったのか、役員達の肩を借りて御厨さんは連れていかれた。

 今日帰宅する頃にはきっと御厨さんは保健室でお休みになられているに違いない。

「はぁはぁはぁはぁ……」

 息が荒いよ彪光。

 限界を突破しすぎたのか、彼女は音々子さんばりの恍惚な表情で泣き笑いしながら橙色に染まり始めている空を見上げていた。

「腹パンボックス回収されちゃった」

「も、もういいわ、あれ、役目を果たしたもの……」

 そうだね、十分役目を果たしたね。

 御厨さんの腹部を崩壊させるどころか君の腹部まで崩壊させちゃったもんね。

「お、おんぶ……」

「どんだけ笑いつかれてるんだよ!」

 足腰が安定せず、彪光は僕に両手を差し出した。

 仕方ない、おんぶしてやるとするけど、僕は人をおんぶできるほど力持ちじゃないので苦労しそうだ。



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