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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第一部『継承編』:第四章
22/90

四ノ肆

 さて、ある程度の準備も整った。

 我武者羅に動くよりも準備を最速最短、最低限でも済ませてから行動に出たほうがいい。

 この間で要した時間は十三分、たかが十三分、されど十三分。

 一分一秒さえ今は無駄に出来ない、時間を使いすぎた――そう考えるべきであって、そう考える事で僕は自分を戒める。

 僕は再び携帯電話を取り出してとある人へ連絡。

 頼む、すぐに出てくれ。

 三回目のコール音が鳴り終えると同時に相手は電話に出えた。

 せめて一回目のコール音が鳴り終える時に電話に出てくれたら僕は頭の中で数える無駄の秒数も少なかったのに、なんてちょっと心の中で愚痴る。

『君が電話してくるのは意外だったから、間違い電話かと思って出るのを躊躇ったよ……狗』

 そう思うのも仕方が無いか。

 なんせ彼に電話をしたのは人生で二回のみ、最後の電話は一年も前だ。

 狗、そう呼ばれて懐かしささえ感じてしまった。

 彼ともう一人以外に僕を狗と呼ぶ人はいないからね。

 それにしても電話が繋がって何よりである。

 彼については詳しくは知らないが学生ならそろそろ午後の授業が始まるし社会人なら仕事を再開する時間だ。

 とはいえ彼について詮索するつもりは毛頭も無く、詮索など禁止行為なのですっぱりと思考を切り替える。

「こっくりさん使いたいんだけど」

『僕に了解を得る必要は無いだろう?』

 確かにそうだ。

 こっくりさんは相手の願いを一つ叶える代わりに、相手はこっくりさんにお願いされたら一つ叶えなければならない。

 だから、彼に言う必要は無く願いを叶えた相手に言えばいい話。

 そういうわけだ、がしかしだ。

「僕が今までに願いを叶えた人達全員に、なんだ」

 規模が規模。

 一人で全員に連絡するのは些か骨が折れるというか複雑骨折というか疲労骨折というか。

『……本当に?』

「本当だよ」

『君は人々の願いを一番叶えたからなあ……全員となると時間が掛かるんじゃない?』

「僕一人ならね、だから君とこっくりさんの契約をしたいんだよ。今からやる事を手伝って欲しいんだ」

 何やら溜息が電話越しから拾えた。

 その溜息は呆れた故か、それとも別の感情が働いていたのかは定かではないが彼の感情を想像するよりも、今は選択を早く決めて欲しいという事だけが僕の思考を固定する。

『君とは契約しない、何故なら僕個人として手伝うからね。あれ? こんな台詞を言った僕って中々かっこいいかな?』

「あ、ありがとう! でもそんなに台詞は栄えも映えすらなくてかっこよくなかったよ!」

『……うん、ごめん。とりあえず狐には僕が連絡しておく。彼女も手伝ってくれるはずだ』

 これでこっくりさん全員が動いてくれる。

 全員といっても狗の僕に狸の彼、それと狐の三人しかいないけど、今から僕が願いを叶えた相手にお願いすれば、お願いした人数が皆僕の手足となって動いてくれる。

『君のリストを送ってくれ、十分で全員に一斉号令出来るようにする』

「よろしく頼むよ」

 僕は一度連絡を終え、彼にメールで用を済ませてから正面玄関へ。

 アンナが右へ左へと視線を振り回していた。

「アンナ、こっち」

「あ、あ、あやみちゅ……」

「心配無いよ、大丈夫。絶対に見つける」

 もう午後の授業が始まっている。

 そのために外で体育を行っている人達に僕らが堂々と学校の外へ出るのを目撃されるのは避けるべく裏門から人目を気にしながら出て行った。

 向かう先は、まだ彪光を探すための足取りではなく、僕の住むアパートへ。

「あやみちゅ……殺さレル?」

 いつものアンナらしさは無く、背中を小さく丸めてしまい表情にはか弱さが目立つアンナ。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 それは彼女の不安を和らげるための発言ではなく、彪光はまだ殺されないのは確かであるからこその発言。

 それに彪光が殺される可能性は限りなく低い、僕はそう思う。

 彪光に化けた奴がいて、彪光とは普通に連絡が繋がったのもあるしね。

 それに――

「今日は継承式だよね。偽彪光がその継承式に出て継承式をぶち壊すという可能性もあるけど、それなら本物の彪光は要らない。それなのに殺さずにしかも連れ去ったんだ。殺さない、いや、殺せない理由があるのかもね」

「リユう?」

「僕に変装がばれたから、先ずは本物と見直して変装しなおすまで殺さないだろう。しかも彪光は僕に電話できた。つまり偽彪光は殺さずにただ彼女を連れ出して隠した、焦っていたのもあるだろうけど。殺すならどこかに運んですぐ殺せばいいのにさ」

「……なるホド!」

 よく解ってないだろうが、彼女が殺される可能性は低いというのは理解したようで安堵の笑顔が見られた。

「死体にして運んだほうが便利だからね、最後の電話でも彪光は僕と連絡していたのを目撃されたにもかかわらず偽彪光はそのまま彼女を連れて行ったようだし殺せない理由――彪光を利用する方法を控えてるとも考えられるよ」

 しかし推測は推測に過ぎない。

 だから決して安心はしていけないのだ。

 偽彪光の目的は継承式であろうが、何をするつもりなのかも解らない。

 ただ確実に何かをしでかすであろうが、その事によって彪光が死に至るというシナリオを考えている可能性も否定できない。

 入念に司法解剖されても疑問を持たれないようにあえて殺す時間を遅らせている可能性だってある。

 警察に知らせたらそれこそ偽彪光を追い詰めて、彪光に何が起こるか解らない。

 でも偽彪光が僕を意識したはず。

 これからの計画のために彪光の生死を盾に、計画の邪魔をさせないように彼女をちらつかせてきたら逆に彪光が殺されるとしても時間は延ばせるが僕らは大きな制限をかけられる。

 そうなる前にこちらから手を回しておく必要がある。

 入念に、そう……入念にだ。

「継承式の正確な時間は解る?」

「夜の六ジだよ」

 現在の時刻は十三時を回ったところ。

 残り五時間とはいえ、時間は無駄に出来ない。

 継承式までに偽彪光から彪光を救い出して、継承式は本物が出席すれば問題無しだが、もしも彪光が見つからなかったら終わりだ。

 ようやくしてアパートまでたどり着き、「ここが僕の住むアパートだよ」と一応アンナに説明。

 僕は自分の部屋へ――行くのではなく、階段を上がって二階の一番奥の部屋へ。

 プレートには喫宗と書かれているが断じてこんなへんてこな名前が僕の名前なはずは無い。

 むしろこんな名前の奴がいるか?

 いいやいないね、僕が気まぐれで思いついた名前だから。

「パソコン、いっぱい」

 居間にはパソコンが三台とパソコン一台につきモニタ二台のデュアルモニタ、それと中央にこの街の全体が細かに再現された模型と冷蔵庫が一つだけあるくらいで生活必需品は一切無い。

 空気もやや冷たく、床はひんやり。

 僕はパソコンの電源をつけて、椅子に座る。

「街、すごいネこれ」

「だろう? 再現度は相当高いと思うよ」

 アンナのアパートの前にあるサンドバッグもきちんと設置してる。

 すごく小さいからわかりづらいと思うけど。

 室内の広さを考えて模型の大きさは大体縦横二メートルくらいが限界だった。

 これ以上大きくすると座る場所さえなくなってしまうが、小さくするという考えは無い。これは重要なものであって、僕が行う事でも必要なのだから。

「兄さま、ナニモノ?」

 僕に疑問を抱くのも無理は無い。

 街の模型にパソコン、しかもデュアルモニタを装備させてこれからテロでも行うのかと言わんばかりの設備。

「君の想像に任せるよ、最も想像してあらぬ方向を思い描かれるのは自分としてはなんだかなあとか考えちゃうかも」

 モニタ六台に光が宿り、三つのキーボードを僕は自分の手元へ寄せる。

 僕の得意な事、それはタイピング。

 しかしそれが発揮されるのはここしかなく、学校の授業はノートパソコン持込可能だったらノートに書くなんていう面倒な行為はせずにタイピングで済ませられるのにとか授業中時々思う。

 モニタの壁紙は皆同じもの、大きな十円玉。

 特に意味は無いけど、壁紙は何がいいかなって思ったときにこっくりさんと言えば十円玉だなとそのまま採用しただけで、しかも直ぐに色々とファイルやらを開いてしまうので壁紙がまともに見られるのは数秒間のみ。

 正直壁紙なんて無くたっていいのだけれどパソコンの機能に壁紙の設定があるから仕方なく活用してやっただけの事。

 とまあ、そんな意味の無い回想混じりな思考は一度雲散して、僕はスカイプというものを先ず見る。

 これは本当にパソコンを使う上では便利なもので人と通信が出来るのだからパソコンをしながら電話しているようなもの。

 音々子さんには最後の電話で僕のスカイプの名前も教えておいたのでいつでも連絡できる。

 他の画面ではチャットルームを開いており、続々と入室者が増えていた。

 それは僕の願いを聞き入れて叶えようとしてくれている人達の数だ。

 用意したチャットルームはおよそ五個。

 一個につき五十人とのチャットが可能で最高のサーバーを使っているので処理落ちも無い。

 既に三つが埋まっているし、もしかしたら全てが満員になるかも。

「兄さま、これ……ナニ?」

「今から彪光を助けるためにこの人達が協力してくれるんだよ」

「ほほウ……」

 僕は携帯電話から音々子さんに送ってもらったトラックの画像をチャットルームに送信。

 『このトラックを探して欲しい』とだけメッセージを送った。

 ナンバープレートも見えてるので他のトラックとの間違いも避けられるであろう。

 そんで残りのモニタには街の至る所に設置してあるカメラからの映像。

 このカメラはきちんととある人から許可を貰っているのでご心配なく。

 カメラからの映像を巻き戻して数十分前の映像にして、僕はトラックを探しながらチャットルームにも目を向ける。

 チャットルーム五個はもう満室、情報も続々と集まっている。

 最初は二百五十人を使ってトラックのみの情報集めに力を入れよう。

 『学校近くで見た』『三丁目を通り過ぎた』『大通り近くの交差点に』『運転手は女だった』『十分前だけど、四丁目を通っていた』等々。

 そのメッセージを元に僕は模型を見て、トラックに似た物を学校に置き、そこから小さな旗を刺していく。

 三丁目、四丁目、大通り近くの交差点。

 『大通りのスーパー近くにトラック走行中』『北に向かってる』『信号無視、他の車が交通事故にあった』更なる情報を元にまた旗を刺す。

 そうして出来上がっていくのがトラックの逃走ルート。

 この逃走ルート、誤差はまったく無い。

 無いに決まっているのだ。

 チャットルームに入っている人達はどこにいても必ず外に出て、トラックを探して道路を見て、トラックとそのナンバープレートを確認して、メッセージを送ってくれている。

 それに交通事故が起きたのならばいい目印になり、メッセージの正確性も高まっているのだ。

 二百五十人のメッセージはまるでナビゲートのように、模型へ刺す旗は何十本にも及び、それでも旗が止まらないのはまだトラックは移動中。

 けれども予測は大体つく。

 このまま進めば海沿い、その近くには空き倉庫が多くある。

 誰にも邪魔をされずにしかも大きく目立つトラックも隠すには丁度良い場所。

 チャットも海沿いへ向かったとばかり書かれているし、これ以上追わせるとチャットに入室している老若男女らに思わぬ危険が及びかねない。

 僕はチャットに感謝のメッセージを述べてチャットを終えた。

 数というのは本当に素晴らしいものだね。

 僕のお願いを聞いてくれて、わざわざ探し回った人もいるだろう、トラックを追いかけた人もいるだろう、授業や仕事を放棄してでも外に出て行った人もいるだろう。

 その結果が、模型に記されている。

 まるでトラックが模型にそのまま足跡を残したかのように旗がいくつも立って道を示しているのだ。

 これで一応は追跡できる、この模型の画像を携帯の機能を使って収めて保存すれば持ち歩き可能のリアルな地図の出来上がりだ。

 しかしまだ終わりじゃなく、キーボードを叩く指の動きは止まらない。

 何十人ともメールのやり取り、それを今行っている最中なのだ。

 まだ僕のお願いを待機している人達は三百人弱、彼らへのお願いの内容やらを伝えないとね。

 十四時までには行動に移せるが、偽彪光がどう動くのかが気になる。

 偽彪光の情報は一切無く、変装の時間もどれほど掛かるのか解らない。

 戦闘能力はかなり高いがアンナとではどうだろう。

 どちらが勝つかも不明だし、先ず戦闘に臨んでくるかも解らない。

 空き倉庫にはあらかじめ踏査や準備のために何か道具を置いていっている可能性も高い。

 なので空き倉庫で武器を手に入れている考えられる。

 偽彪光の目的、今のところ僕の推測では彪光の代わりに継承式へ参加して滅茶苦茶にする――これはこれで推測が当たっている自信がある。

 この目的を重視するならば本物は見つからないところへ、そして偽者は本家へ行って継承式の準備。

 でも彪光は学校へ今日は行くと言ったから迎えは学校に来るはず。

 その迎えに乗り込みこのまま本物が見つからなければ偽彪光の計画はもはや成功したと言える。

 迎えの時間の変更はおそらく彪光の携帯電話さえあれば声真似だって出来るのだから可能ではあるが、僕と会話していた最後に僕と彪光との会話を目撃して携帯電話を踏み潰した際に携帯電話はまだ使用可能だったのか、それとも不可なのかで左右される。

 後者であれば彪光の迎えの車を待ち、迎えが来る時間帯に探すのも一つの手だ。

 だがのうのうと待つほどの神経を僕は持っていない。

 なんていったって僕は短気だ。

 自分で言っても何だが、他人に僕はこうなんだ、僕はこういう時にこうなんだと一から十まで説明すれば誰もが――嗚呼、君は短気なんだねと言うだろうし、そうでなくたって精神科やらそういう面に詳しい人に診察してもらえば僕は短気だと証明できる。

 正面で短気だなお前って言われればすぐ怒るし、褒められたもんじゃないし胸をはるもんでもない。

 ただ……もう十分に考えた。

 だから僕はミネラルウォーターを口へ運び、それが徒競走でいう全力疾走するための構えのように、飲み終えて即座にアンナを連れて部屋を出る。

 昔っからあるだろう?

 こっくりさんを怒らせるなって。

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