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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第一部『継承編』:第四章
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四ノ参





 彼女が捕まっているとすれば使われていない学校のどこかの部屋や、学校外ではあっても近い場所、学校敷地内の倉庫や建物か。

 候補はこの三つだが、さらに偽の彪光を追いかけるか本物の彪光を探すかの選択も現在進行形で迫られている。

 僕は一先ず、偽者の彪光を追いかけるのを止めて自分の教室へ。

「アンナ! 来てくれ!」

 食事中のアンナはサンドイッチを齧りながらこちらを見ていたが、食べ終わってからでいいよとかは言える状況でないのでそのまま手を引いて連れて行った。

「ど、どうしたネ?」

「彪光が捕まった! しかも校内にほんものそっくりな偽者の彪光がいるんだ! 膝に絆創膏が貼ってないほうが偽者!」

 極力言葉は少なく、そしてすぐに状況を把握できるよう簡単にまとめて彼女に説明した。

「私、どうすればイイ?」

「校内にいる彪光を探してくれ! あとこれ、前に貰った小型無線! 渡しておくよ!」

 それは以前、園芸部の花壇に落とし穴を仕掛ける時に連絡用として頂いた物。

 落とし穴を仕掛け終わったら、これは必要ないけど……まあ持っておこうと気まぐれに彼女の分も預かっていてそのまま制服のポケットに入れっぱなしだった。

 今、それがこうしてまた役に立つとは思いもよらなかったがね。

「ワカた!」

 そして僕はアンナと分かれて今度は二年生のいる階へ。

 目的は音々子さんに会うためだったが彼女は何組なのか、昼は何処で何をしているのかすら知らない。

 なので、

「音々子さん! 音々子さん!」

 彼女の名前を叫びながら廊下を走った。

 周りの視線とかそういうものは気にしている暇じゃない。

 兎に角聞いてくれ、音々子さんへそんな感情を込めた叫びは羞恥心さえ捨て去る勢い。

「ちょ、ちょっと!」

 教室から顔を出してきた音々子さんはサンドイッチを加えながらのご登場。

 サンドイッチが流行ってるのかなとか今はどうでもいいとして、僕は先ほどと同じ説明を彼女にした。

「アンナには小型無線渡してるので、僕も持ってますから連絡してください! 校内に偽彪光がいた時と、それか本物の彪光を隠せそうな場所も教えてください!」

「え……あ、うん」

 念のため、僕は携帯電話の番号とメールアドレスも彼女と交換しておいた。

 小型無線では学校敷地内は何とか通信できても距離によっては不可能の場合があるし電波の良し悪しはかなり影響されるからね。

 音々子さんは即座に隠し部屋へ行ったし、これで監視カメラのある場所にいれば見つけられる。

 校内はアンナに任せるとして、僕は校舎から出て周囲を観察。

 校外は監視カメラの数が少ない、もしも校内に偽彪光の姿は無く校外でも見つからなかったら監視カメラの無いところを調べまわればいい。

 偽者と知られた以上、偽彪光は彪光を連れ出そうと考えるのならば目立った行動は避けるはず。

 なので彪光を隠せる場所が近くにあり、移動する道は人気の無い場所が多々あるとすれば校舎裏か、園芸部のプレハブ小屋付近も考えられる。

 いや、考えられる場所などいくらでもあって、どうしようもなく多いのだ。

 敷地内は広すぎる、ここに入学して全てを網羅するほど僕は時を経ていない。

 僕の知らない選択肢も数え切れないほどであろう、だけどここで僕があれこれ考えるより動いたほうがいいかもしれないな。

『――もし!』

 ポケットからの声、ああそうだ、と僕は通話中のままだったのを思い出した。

「彪光、何か自分の居場所が解るようなものは無い?」

『暗くて――い』

 それほど暗いのは窓が塞がれているのか、窓の無い建物?

 人を隠すには普段誰も使わないような場所で且つ窓が塞がれている若しくは窓の無い建物というと、倉庫などが思い当たるが偽彪光が意図的に窓を何かで塞いだとも考えられるし、判断がつかない。

 一番は偽彪光を捕まえる事だが、体力の無い僕では追いつけないし追いかけるアンナとカメラで校内を捜索する音々子さんがいれば僕よりも希望はある。

『こちら音々子だけど』

「あ、はい! 偽彪光は見つけました?」

 早速音々子さんからの連絡、それは隠し部屋で彼女の準備も全て終わっているという意味だ。

 むしろもう捜索しているかもしれない。

『アンナに指示して偽彪光を追いかけてたんだけど、消えちゃったの……』

「消えた……?」

『そう、カメラでも追いかけてた。でも角を曲がったらもう姿が無くて、アンナも見失ったって……』

 消えた、それは考えられない。

 いや……もしも……。

 もしも彪光の姿ではなく別人に変装したとしたら?

 僕を以前に殴ってきたあの女の子、姿を変えられるあの女の子は園芸部の部長にも変装してみせたし、可能といえば可能。

 以前から疑問を持っていたそれは姿形を自在に変えられるというのが前提ではあるけど、もはや常識なんてどこかに落としてきましたとしか言いようが無い前提だ。

 でも何度も見せ付けられたらそれも常識に含まれるって自分に言い聞かせるしかない。

「わかりました、学校の外の様子も注意して見てください」

 昼休みゆえに外へ出て行く生徒も多数、注意して見てとは言ったもののどこをどう見ればいいのかも言えなかった。

 八方塞、そんな言葉が今の状況のタイトルにでもしたい気分。

 僕は再び携帯電話を耳へ。

「彪光、何か音は聞こえない?」

『――聞こえない、何も――わ』

 ならば騒がしい校庭付近の建物はたとえ人目につかない場所に建てられているのがあっても除かれる。

 それからごそごそと電話越しで何か動く音がした。

『周りはよくわからない道具や本がいっぱいあるだけで壁に耳を当てても何も聞こえないわ』

 彼女の声が聞き取りやすくなった。

 体勢を変えた事でさっきよりも声が拾えるようになったのだろう。

 壁に耳を当てても何も聞こえないのは単純に壁が分厚いか静かな場所にあるか、校舎であれば隅の部屋とかそういう位置だと思われる。

「まだ時間がかかるかもしれないけど絶対に助けるから、待ってて!」

 歩きながら会話は絶やさぬようにした。

 彼女に安心感を少しでも持たせたいからね。

『……こうなるかもって、予想してた』

「そうかい、でもその予想はハッピーエンドで終わるよ」

 言葉に力が感じられなくなってきている。

 まずいな……。

 先に彼女の心が挫けてしまうのだけは避けたい。

『もう……探さなくて、いいわ』

「……え?」

 その言葉、聞き取れなかったのではない。

 むしろはっきりと聞こえたからこそ、僕は自分の耳を疑って言葉を漏らしたのだ。

『見つけられるはずないでしょう? この学校の広さを考えなさいよ、それに貴方達が目をつけられたらどうするの?』

 諦め――そんな感情が彼女をそう言わせているのだとしたら、僕は諦めずに探す。

 校舎裏の倉庫はどこも鍵が開けられた形跡は無し。

 錠前にややついている錆び、これはしばらく放置された倉庫。

 侵入の痕跡とかより、扉をノックしてまわるのがいいか。

「彪光……それ以上は何も言わないでくれ、もし君が諦めてそう言っているのだとしたらね」

『諦め? 違うわ、受け入れただけ』

「受け入れた?」

『そう、受け入れたの。そしてこれから私の身に何があろうとも私は全て受け入れるわ』

 言い方を変えれば結局それも諦めの一つじゃないか。

「そ、そんなの――」

『諦めと違うのは、覚悟が有るか無いか。それだけでしょう? 死ぬ覚悟、今はこれさえあれば十分』

 僕の言葉を遮っての彼女の発言。

 それは僕が抱いた気持ちに対して、彪光は僕がそう思っているであろうと察して出した答え。

 ――しかしだ。

 その震えた声を聞いて納得するほど僕は馬鹿じゃない。

 鼻をぐずらせているのも聞き取れている、今……君は泣いてるんじゃないの?

 覚悟とか言っちゃってさ、顔が見えないからって言いたい放題な奴だ。

 強がり、見栄っ張り、馬鹿、阿呆、もう君を罵る言葉なら濁流の如く思いつく。

『近くで、音が聞こえたわ。多分、どこかに連れ出されるのかな。もう電話は切っていいわ』

 音々子さんは依然、カメラで捜索中。

 アンナもおそらく校内で探し回っているがやはり捜索範囲と人数に差がありすぎる。

「彪光……」

『ありがとう』

 そんなありがとうは聞きたくない。

「……一つだけ、願いを叶えてあげる」

『……え?』

 だから、僕は君が願うなら、

「今、君は何を望んでる? 今じゃなくていい、これからの事でもいい、これからの事を含めてでもいい、色々な意味を含めた一つの願いでも叶えてあげる」

 僕は全力を尽くそう。

『何……を言ってるの?』

「ただし非現実的な願い以外に限るよ」

『だ、だから――!』

 僕は、小さく深呼吸をしてから口を開いた。

「こっくりさん、君も知ってるだろう?」

『こっくり……さん……? え、ええ……』

 動揺している、それは無理も無い。

「一度願ったら、どんな手を使ってでも僕は叶えてみせる。君がどんなに自分の気持ちを押さえ込んでも、誰かに手を差し伸べたくても出来ずにいたって! 敵はどんなに凶悪でも、どんなに最悪でも、君の願いは……きっと叶うよ」

 最後は優しく、彼女の鼓膜を撫でるように意識して僕は喋った。

「だから……教えて、君の願いをさ。君はどうして欲しい? 手を差し伸べる相手ならここにいるよ。その手、掴んであげるよ。僕……こっくりさんがね」

『わ、私は……』

「まだ我慢してる? たった一言、たった一言口にすればいいんだよ。強がらないで、君が今言ってしまいたい、そんな言葉があるだろう? それを口にすればいい」

 するとその時、雑音が混じってきた。

 何かが動く音、彼女の吐息がかすかに聞こえる。

 おそらく近づく危険が雑音を、彼女の鼓膜には扉を開ける音、若しくは足音なんかが届いているのではないか。

『……でも』

「僕が守るから、彪光……言って」

 一言でもいい。

『わ、私は……』

「無理しないで、強がらないで、僕は君に手を差し伸べてる。君はそれを掴めばいいんだよ」

 彼女の吐息だけが少しの間だけ聞こえ、そして――

『……助けて』

 ああ、ようやく聞けた。

『何もかも、辛い事から全部、もう真っ白にして……』

 それが彪光の、本当の気持ちだ。

 だから僕は、

「ああ、その願い……聞き入れたよ。彪光」

 全てを賭けてでも助ける。

『きゃ――!』

 唐突に彪光は声を上げた。

 襲われてる? いや、どこかへ連れて行かれるのか。

「彪光!」

『警察に言ったらこいつがどうなるか、解るよな?』

 それは以前に僕を襲った女の子の声。

 やはり君か、と頭の中で呟いた。

 言下に衝撃音と共に途切れた事から携帯電話は踏み潰されたのかも。

 それから数秒後、

『彪光様を連れてく奴が外のカメラに映ったわ!』

 音々子さんから無線に連絡が入った。

「アンナも外に来るよう伝えてください。それと、何か彪光を連れて行った人物についての特徴とかはありますか? それ以外でも小さな情報でもお願いします」

 もちろん、相手は外見を変えられるために今は特徴を聞いても意味無いかもしれない。

 まだ彪光の姿を維持している可能性もあるしね。

 もしも姿を別人に変えていたとしたら、彪光に再び変装するという意味。

 それも入念に今回は変装するであろうから、彪光に変装して何をするつもりかは定かではないがその計画を遅らせる事に繋がる。

 でも彪光の姿をしていたというのは継承式に何かをしでかそうとしているのかも。

『女の子よ、何年生かは解らないけど制服を着てるわ。あっ――彪光様がトラックの中に入れられてるのが映ってたわ!』

「そのトラックの特徴はわかりますか?」

『食堂の食材を運搬してた中型トラックで車体は青と白が目立つものよ!』

「ありがとうございます、画像に出来たら僕の携帯電話に画像を送ってください」

 パソコンを通しているのでおそらくカメラからの映像を静止させて画像にする事も可能だろう。

 少なくとも音々子さんはパソコンの技術に長けているであろうし。

『でも行き先は解らないわよ』

「十分です、それと、音々子さんにはちょっと調べて欲しいものがありまして」

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