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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第一部『継承編』:第二章
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二ノ陸

 それからは部長が説明してくれた。

 二人は彪光の言う通り恋愛関係にあり、偶然目撃した服部はそれを知って脅してきたという。

 恋愛関係になったのは最近の事、以前から二人は想いあっていたものの教師と生徒という関係がそれを思い止まらせたが部長からとうとう告白して結ばれたとの事だ。

 生徒と教師という関係での恋なんて羨ましいがそれは置いといて。

 脅しに対しては主に服部の要求はお金。

 一度渡したものの、二度三度と続いてこれでは拉致があかないと投書を出したそうだ。

「学校側に知られたら間違いなく大問題、それにお金の要求もあっては大変ね。ここ数日で相当取られたでしょう?」

 橘先生は涙を流しながら頷いた。

「でも投書を出しても解決はしてないですよね? 服部は確かに来ようとはしないでしょうけど」

 僕の疑問はここ。

「その……こっ……」

「こ?」

「こっ……こっくりさんに頼もうと思って……」

 部長は至って真面目、橘先生も然り。

 彪光は扇子を広げて溜息を隠した様子。

 溜息……?

 いや欠伸か。少々涙目になってるし。

 お願いをすると何でも一つだけ叶えてくれるけど、その代わりこっくりさんからいつかお願いをされたら絶対に叶えなきゃ駄目、柳生さんから聞いた説明を僕は復習するように脳内で読み上げた。

「噂にはなってるけどまさかそんなのにすがるとはねえ。ここらだと確かに有名だけど、本当にいるかは解らないのよ?」

「いる、きっといるさ……。もし見つからなくてもその時は俺がケリをつける……」

 部長はどうにも何かをやらかしそうな雰囲気。

 心を静めるための時間稼ぎでもあったのかも。

「どうしても誰かもっと力のある、例えば他の先生とかに相談はできないんですか?」

 とりあえず聞いてみる。

 じゃあ相談しましょう、とは絶対にならないだろうけど。

「無理、絶対に無理よ……。警察に駆け込んだって結局学校に連絡がいくじゃない、私の事はどうでもいいわ、でも幸隆君はきっと辛くなる……」

「先生……」

 二人の頭の上に氷でも置いてみたくなるくらいに熱々な関係が見て取れる。

 お互いの視線が交差して頬を赤らめて、僕はこの場にいるのはちょっと嫌になってきた。

「もしも私達が何とかしたらどうする?」

 自信を乗せたその言葉、彪光は不敵な笑みを見せて表情でも自信を表現しての発言は、

「な、なんとか出来るの……?」

 大きな希望を与えたがしかし、彪光の思惑通りに事が運んでいるのがどうにも素直に喜べない。

「任せなさい、その代わりこの問題を解決したらそれなりの見返りを求めるけどいいかしら?」

 窮地に陥ったところで助けてくれると言って手を差し伸べられたら誰でもその手を掴むのは必至。

 即座に二人は彪光に頭を下げて、僕は溜息をついて外で楽しそうに土を均すアンナを見て癒しを求めた。

 アンナ、土を均すのはいいけど調子に乗っちゃ駄目だよ。人一人入れるような穴が出来てるよ、すぐに均そうね。

 そうしているうちに彪光は席を立ち、もうここを出る様子。

「大船に乗ったつもりで安心しなさい」

 泥舟にならなきゃいいけど。

 僕は彪光を追いかけるようにして、きちんと頭を下げてから外へ出て行った。

「アンナ、行くわよ」

 彪光はこの問題を解決すると断言したけれど、出来れば暴力抜きで解決してもらいたいものだ。

 隠し部屋へ戻ると音々子さんは数枚を束ねた書類を彪光に手渡していた。

 彪光は書類に目を通し、その間僕はアンナから飴を貰って口の中で転がす。苺味ってのは久しぶりに味わうね、美味しいもんだ。

 しかし小さい飴はすぐに溶けてしまい、完全に溶けて無くなった頃に彪光は口を開いた。

「先月からこいつ、かなり問題を起こしてるようね。恐喝や喧嘩、それに街の不良グループとも繋がりがあるわ。巧妙にも学校側に知られないようにしてるようね」

「そ、そうなんだ……」

「はい、かなり調べなければ解りませんでした。口封じも行ってますし聞き込みも入念に行わなければなりませんでしたし」

「し、新蔵がそんな事……」

「するわけがない? 貴方は呪文のようにそう言っていれば本当になる魔法使いかしら?」

 何も言えない……。

「知りたくなければ耳を塞ぎなさい、見たくなければ目を閉じなさい、嗅ぎたくなければ鼻を塞ぎなさい」

 彪光は僕の頭を扇子で軽く叩いた。

「でも彼は、友達なのよね?」

 ああ、そうだ。

 これが事実、否定しようにも否定できない事実なのはもう自分でも解ってる。ただ、直視する勇気が無かっただけ。

「どうしたい?」

 新蔵をこれ以上悪い方へと進ませるわけにはいかない、たとえお互い友達としての時間は少なくても、僕は彼を友達だと思っているから。

「……止めたいさ」

「解ってるなら、それでいいわ。さ、今からそいつに会いに行きましょう。今頃街中でまた何かやらかしてるかもしれないし」

 でもどうやって?

 彪光以外は誰もがそんな疑問を浮かべて口をへの字にしていた。

 唯一自信ありげな表情をしている彪光は何か探しだせる当てがあるのだろう。

「街を歩いてれば見つかるでしょ」

 前言撤回。

 見切り発車な奴だな君は。

 まあそれでも何かと結局思い通りになってるわけだけど。

 そんな事で今日は夕方から街を歩き回る事に。

 女子三人が先行し僕は少し後ろを歩いた。

 何だか肩を並べるのはちょっと恥ずかしいっていうか、慣れてないっていうか。

 そうこうしているうちに歩く事一時間、空色を窺うに夕方というよりも夕暮れ。

「情報によるとここらでよく悪事を働いてるらしいのですが……」

 大通りの近くと言えば近く、でもシャッター街に成り下がりつつある場所で年々大通りの勢いに押されており今では通学路としての利用のほうが多い場所。

 脇道も多いし街灯は点灯していないのもちらほら、所謂カツアゲとかにはいい場所が探せば続々と出てきそうだ。

「ん……あれは?」

 歩き回っても仕方が無いので見通しの良い場所で張りこむ事にしておよそ一時間後。

 遠くのほうで脇道へ入っていく人影一人。

 ほんの少ししか見えなかったけど、どこか見覚えはあった。

 後をつけて行くとするがいやはや、人数が多いと物陰から覗き見るのも串団子みたいな感じ。

 ビルとビルの間に伸びる脇道は流石に光も入らず薄暗い。

 その奥で新蔵らしき人影があるが、もう一つ他に人影があった。

 何かを手渡していてここからでは言葉も拾えず、彪光に指示を仰ごうとしたが彼女は既に脇道へ入っていった。

 冷静でいた僕と音々子さんはお互いに顔を見合してどうしようかと視線で相談。

 アンナは悩む間も無く彪光の後ろをついていってしまった。

「御機嫌よう、服部新蔵君」

 まだ新蔵だとは解らないが彼女は既にそう決め付けているようだ。

「何だお前……」

 その声を聞いて僕は新蔵と判断して、物影から出て脇道に入った。

 彪光の後ろにつくと新蔵は後ずさりして動揺した様子を見せる。

 彼の隣にいる人は誰かは解らないが、新蔵が彼の肩を突き飛ばすように押すと逃げるようにしてその場を離れていった。

「新蔵……」

 僕は新蔵へ歩み寄ろうとしたが、彪光がそれを止める。

「アンナ、行きなさい」

 アンナは腰につけていたポシェットからグローブを取り出して装着。

 飛び掛るようにして彼女は先ず右ストレート。

 新蔵はそれを寸前で避けて反撃するが、拳を拳で防ぐアンナ。

 グローブならではの防御だ。

 脇道という行動が大幅に制限され、且つそこらにはゴミ箱やら障害物の多い場所ではお互い攻防にも支障が出る。

 だからこそ蹴りなどはなるべく控えた拳のみの戦闘が目立った。

「中々やるわねあいつ」 

 北の鬼、そう言われるだけの強さを僕は目の当たりにしている。

 お互いの拳は当たらず、その度にアンナの笑みは増していく。

 ようやくアンナの拳が彼の腹部に一発めりこむが、同時にアンナの頬へ一発の反撃。

 効いていないようだ。

 それに対してアンナは口元から出血。

 唾を吐くと赤く染まっており、口内も切ったようだ。

「新蔵! ……もう、止めようよ」

 声を出さずにはいられなかった。

 次にまたお互いが動き始めたら今よりも激しい戦闘になるからだ。

「……止める? 今こいつとやってる喧嘩をか?」

「そうじゃない……その、園芸部の事、とか……さ」

 新蔵はそれから何も言わなくなった。

 小さな溜息だけが聞こえ、僕は心の中で漂っていた『脅してたりしているのは本当は新蔵じゃないのかも』とかそういった希望がふっと息をかけて消える蝋燭のように消失するのを感じた。

 アンナは再び動き出し、お互いの攻防が再開される。

「随分とお金を必要としてるのね」

 彪光は彼が聞いているかすら解らない激しい状況下で喋り始める。

「中学の頃は来る敵のみ、それなのに先月から貴方は突然暴虐に目覚めたかのように喧嘩カツアゲ恐喝、どうしたのかしらねえ?」

 変化が起き始めていた。

 攻め続けるはアンナ。

 手数も減って防戦一方は新蔵。

 先ほどの拮抗した状況とは明らかに違う変化。

 疲れや負傷が理由では無く、彼が攻めるのを躊躇っている気がする。

「仁義ある不良、北の鬼だっけ。そんなの確かに噂でしかないわね。本当は金に目が眩んだ汚いクズだもの」

「金が欲しくて何が悪い!」

 新蔵の反撃、アンナは防御するものの、彼の拳はアンナの腕を弾いて顔面に。

 寸前で顔を反らして避けようとするものの頬に打撃、アンナは三歩ほど後退して膝をつきそうになるが何とか体勢維持。

「あやつ、ツヨイよ」

 喧嘩慣れしているに加えて身体能力とそれを活用できる体躯、更に腕の長さでもアンナは不利。

 しかしそれ以外に彼の強さの源は何らかの執念があるように感じられる。

「僕は君に助けられた時や話してる時、いい人だって思った。今でもそう信じてる……」

「俺を見ろよ、どう見える? 俺は鏡で自分を見ると金のためなら何でもする奴にしか見えねえ」

 僕にはまだ友達としか見えない、優しい友達、心強い友達、ちょっとお茶目なところもある友達、それが彼だ。

「妹さん、元気?」

 すると彪光は僕らの会話に割り込んだ。

「……何だって?」

「妹さん、いるでしょう? 元気にしてるかしら? あ、でも私は貴方の妹さんとは面識も無いけれどね」

 彪光の傍には音々子さんがいて、おそらく妹さんがいるという情報は彼女が教えたものと把握。

 音々子さんが書類を指差して、それを目で追って読む彪光。

 何だか秘書と社長みたいな感じ。

「何が言いたい……」

「入院してるようね、今からお見舞いに行こうと思うのだけれど兄さんは元気? とか聞かれたらどう答えたらいいかしら? 教えてくれない?」

 新蔵は動きを止めた。

 その隙をついたアンナの拳は、新蔵の顎をとらえる。

 崩れるように膝をついて倒れる彼の意識は彼方へ飛んだようだ。


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