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第26話:友と書いて宿敵と読む

 少し暗くなりましたがこれでもかなり描写を軽くしました。それでも4000字オーバーw


 通路は6つに別れていたがタイツァーが選んだ通路は適当に選んだ道ではなかった。

 その奥にリースと……勘違いとは思えないほどよく知る邪悪な気配を感じたからだ。





「……また会ったな」



「ああ……」


 通路の先にいたのは若干痩せ気味の髪の長い男だった。

 一見して弱そうにも見えるが男を見て弱いと思う者はいないだろう。その男の目に宿る光はひたすら黒く、殺意の塊だった。


「久しぶりだな。タイツァー。まずは婚約おめでとうと言っておこう」



「……なぜお前がここにいる!元ニカンド帝国第二師団団長サンマ・ノヘビ!」

 忘れる訳がない。この男はかつてタイツァーとは肩を並べて共に戦ってきた親友であり、幼なじみでもあるのだ。


「タイツァー。俺がお前を恨んでるのは知ってるだろ。ならその俺がお前に復讐するために超魔王様の部下となっていても不思議ではないはずだろ?お前は俺の妹のリムを殺したんだからな」

 タイツァーも忘れたわけではない。この男、サンマと決別した日の出来事を。


「確かにリムのことはすまないと思っている。だがお前も分かっているはずだ!リムがこんな事を望んでいないことを!」




 十年前、ニカンド帝国を大量の魔物の軍勢が襲ってきたことがあった。


 その時すでにレベル9999のニカンド帝国の英雄として活躍していたタイツァーは幼なじみで同じレベル9999の親友、サンマと一緒に前線に出ていた。


「サンマ、まだいけるか?」



「へっ、俺を誰だと思ってるんだ?俺はじゃんけんに負けてニカンド帝国の英雄にはなれなかったが実力でお前に負けたとは思ってないさ」



「やっぱりお兄ちゃんもタイツァーさんも頼りになるなぁ。私もお兄ちゃんの口の中にでも隠れてようかな♪」


 戦場にしては穏やかな会話。それもそのはず、第一師団団長のタイツァー・ジュセシ。第二師団団長のサンマ・ノヘビ。同じくサンマの妹で第三師団団長のリム・ノヘビの三人は辺り一帯を吹き飛ばし、すでに戦いは終了したようなものだったからだ。


「全くリムは油断しすぎだよ。今日がリムの誕生日だから浮かれるのもわかるけど。だけどそこが可愛いから怒れないんだよな~♪この戦いのあとに特別に注文した誕生日ケーキが待ってるんだからこの優しい優しいお兄様を尊敬するといい」



「うん、お兄ちゃんだーい好き♪」


 この日はリムの誕生日でサンマは誕生日に備えて特大ケーキを以前から注文していたのだ。突然の魔物の襲撃で誕生日会は遅れることになるだろうがあと一時間もすれば街に戻って誕生日会を行っているだろう。そしてサンマとタイツァーは幼なじみで親友でもあるためタイツァーもリムの誕生日を微笑ましく思っていた。


「某が練習したバースデーソングは最高のデキだからハンカチを用意しておくのだぞ」


 ここが戦場であることを忘れてしまうような風景。


 だがその事を三人はほんの一瞬だが本当に忘れていたのだ。


「グォォォォォー!」


 一匹の死にかけの魔物がタイツァー目掛けて飛びかかってきた。


「危ない!」


 完全に油断していたタイツァーは気づくのが遅れたが、いち早く気付いたリムがタイツァーを突き飛ばし…………魔物に胸を貫かれた。


 そのあとは血を吐き倒れるリムをタイツァーが受け止め、サンマが魔物を倒し、駆けつけた医療班がリムを連れて帰った。

 タイツァーとサンマもすぐに城に戻り、集中治療室の前で待っていたがリムが生きて出てくることはなかった。


 それがきっかけでタイツァーとサンマは決別したのだった。サンマはタイツァーを殴り、罵り、絶望に取り付かれた顔をしてニカンド帝国から去っていった。

 職務中に軍のトップに位置する師団長が勝手に国から出たことはすぐに国中に知れ渡ったが誰もその足取りを掴むことはできなかった。






「俺はあのあと超魔王様に拾われ、お前に復讐するために修行に打ち込んだ。憎しみってのはすげえな。今までとは比べものにならない位成長が実感出来た。そしてその実力を試すのが今だ!」


 サンマは持っていたナイフをタイツァーに突き立てた。


ガキィン

 タイツァーもそれに反応し、大剣を片手でナイフのように構え、剣戟を切り結ぶ。


「やめろサンマ。お前とは闘いたくない。某はリースを助けたいんだ。頼むから引いてくれ」


キィン

「余裕だな。英雄様は!リムはお前のせいで死んだんだ!お前さえ……お前さえいなければ!」


 タイツァーには隠しスキルとして『怪力』能力以外にもあらゆる物の『死』を視る特殊な眼を持っていた。だがそれは本来視えてはいけないもの。タイツァーは極力使わないようにしていたし、今回のサンマとの闘いには使うつもりはなかった。だが……


「まずは片方」


 サンマの左手がタイツァーの右目を抉る。


「ぐぉぉぉ!」



「お前の眼はあらゆるモノの死を視るんだってな?俺が利用してやるよ」


 そう言うとサンマは抉り取ったタイツァーの眼球を食らった。


「俺の能力は知ってるよな?食ったものの能力を手にする『食事』能力。食べ物はやがて血となり肉となる」


 サンマの右目からも血が流れ落ちる。まるで涙のように流れる血と黒くドブ川のように濁った眼はタイツァーの眼を食らって手に入れた力とは思えないほど禍々しかった。


「こりゃあいいや。お前の『死』がはっきりと視える」


 サンマは再び切りかかり、今度もタイツァーは剣で防ぐが、サンマの一撃はタイツァーの剣をあっさりと切り裂き、そのままの勢いでタイツァーの左腕を切断した。


「サンマ……貴様物の死まで視えるのか?」



「ん、お前には視えないのか?まあいい。ここで更なる絶望をお前に与えようではないか」


パチン


 サンマが指を鳴らすと床が開き、血まみれの姿で鎖に縛られたリースが出てきた。


「タ……タイ…ツァー……」


 普段の明るくて人をからかうのが大好きで何よりも自由なリースからは考えれないような弱々しい姿だった。


「リィィィィース!」



「ははははは。タイツァーいい様だな。お前が来るまでこいつを拷問して遊んでたんだよ。なんせこいつは『再生』能力を持ってるからうっかり殺しても生き返るんだもんなぁ」


 そう言いながらもサンマはリースにナイフを突き刺していき、そのたびにリースは悲鳴をあげる。そして最後にサンマはリースの『死の点』を刺した。


「いくら『再生』能力があってもこの傷からの蘇生はできない。……そうだ。タイツァー、お前にも愛しの恋人に別れの言葉をかけるかい?そのくらいの時間はくれてやるよ」



「リース!」


 放り投げられたリースを残った片手で受け止め、その顔を見る。


「ごめんなさいねタイツァー。私が油断しちゃったから。……かっこ悪いとこ見せちゃった」



「(ウソだ。ウソだ。ウソだ!)」


 視たくもないのにタイツァーにはリースの死が視えてしまった。


「リース!」



「あなたの過去はサンマから聞いたわ。彼の恨みは理解できるけど彼は間違ってる。そしてタイツァーを好きになったのが私の死ぬ理由だとしても後悔してないわ。だってタイツァーは間違ってないもの。だからあなたの本気をサンマに見せて彼の心を救ってあげて。彼は悪人ではないのだから……」


 それがリースの最後の言葉だった。


「さて…と終わったか。タイツァー?」



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


キィン!ギィン!ガキィン!

 タイツァーは根元から切断されてしまった愛剣『魔王殺し』を捨て、代わりにリースの武器、モーニングスターを手に殴りかかった。壁や床を蹴りつけ、立体的に、獣のようにただ暴れた。


「ほっほう。どうやらお前も物の死を視えるようになったようだな」


 タイツァーは剣戟の度にサンマが狙ってくる自分が持つモーニングスターの死の線や死の点をずらして受けるが。


「ぐはぁっ」

 タイツァーは『怪力』の能力を発揮できないほど弱っていたためすぐに吹き飛ばされ、壁にしたたかに打ちつけられた。


「……今のお前が俺に勝てるわけねえだろ!俺はお前が苦痛に歪んだ顔を見るために強くなったのになんでそんなに憐れむような顔をするんだ!何故そうまでして闘うんだ!?お前は……絶望に打ちひしがれてればそれでいいのに!」



「ゴフッ。……何故闘うかなんてお前が一番よく知ってるはずだ。愛する女性の最後の頼みだからだ。お前の親友として間違ったお前を正す。

リースはこれまで某だけでなく仲間に頼るということをしなかった。その彼女が最後にたった一度だけ某に頼んだのだ……もうその一度しかないのだ!」

 タイツァーにはもうハナクソをほじる力も残っていなかった。だがリースを殺したとはいえ、サンマもまたタイツァーにとって大切な友。リースからの最初で最後の頼みというだけでなく今でもタイツァーはサンマを救いたいと思っているのだ。そしてその言葉はかつての親友の心をわずかに揺らした。そして、そのわずかな揺らぎはサンマの心に届いた瞬間大きなざわめきとなった。



「(……そういえばタイツァーは俺の親友だったよな。なんで俺は親友を殺そうとしてんだ?リムが自分の命と引き換えにしてまで助けた大切な幼なじみを俺は殺そうとしているのか?)」


 サンマは漸く気付いた。タイツァーが親友でもあったことに。自分の大切な友であったことに。


「……すまなかった。タイツァー…俺としたことがお前が親友であったことさえ憎しみのあまり忘れてしまっていた。……だがまだ間に合う!責任を取らせてくれ」


 サンマはリースの死体に近づき。


「俺の命と引き換えにこの女を助ける!さらばだタイツァー!今更だがお前のかつての友として死なせてくれ!」



「待つんだ!サンマァァァァー!」


 辺りが光に包まれ、その光が収まった時にはすでにサンマは消えていた。




「……タイツァー」


「リース!生き返ったのか!?」



「あの世でリム様に会って伝言を頼まれました。『タイツァーさんを恨んでない。サンマお兄ちゃんと一緒に仲良く暮らすからあなた達も幸せに暮らしてください』と言ってましたわ」



「そうか……。リム。サンマをよろしく頼む。あの世で兄妹仲良く暮らしてくれ」


 タイツァーは今は亡き友と愛する恋人の存在に涙を流す。


「ジン殿が待っている。早くヒナ殿も助けねばな」


 そうしてタイツァーは右目と左腕を失いながらもリース救出と魔族六将軍の撃破に成功した。

 はい、タイツァーは左手と右目を失いました。このくらいなら問題ないかな?リースは外見イメージがシエルですし、タイツァーも本当にガッツになっただけのことですし。

 まぁ、世界強者ランキング第4位ということで麦野っぽさも出そうかどうしようか悩んでますからね。もう少しヤンにしてもいいかもしれません。男で、ロリな上にリース相手に強気に出るタイツァーが想像できませんがw

 それにしても大剣壊しちゃったけどこれから先どうしよう……。次は刀でも持たせようかな。「姓はジュセシ。名はタイツァー」って感じの侍キャラもアリかも。まぁ、タイツァーが失くしたのは左手ですが。「某」って一人称も侍っぽいし。

 

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