第20話:頂上決戦
ついに今まで出さなかったあのネタ出しちゃったw
あと登場人物設定も新しく更新予定なので本日の昼までには投稿予定です。
「かはは。ようレン、久しぶりだな。俺の名前を言ってみろ」
宝石が砕けたあとに姿を表したのは巨大な石の樹木といった外見をした怪物だった。そしてその顔には入れ墨が彫られていた。
「レン先輩。こいつを知っているのですか?それに先輩が死ぬとはどういうことですか」
「言葉通りだよ狼ちゃん。あいつは僕の憎しみの感情が分離して出てきたもう一人の僕だね」
レンは悲しげに怪物を見ながらヒイロの質問に答える。
「そう、俺はレンの憎しみから生まれたもう一人のレン・コーン。便宜上、カラシレン・コーンとでも名乗るかな。いい加減に話してやったらどうだレン」
「ああ、そうだな。狼ちゃん。ガルス・ウルの剣くんも聞いてくれるかい。
僕は千年前の古代都市イツワの生まれなんだ。当時ジャルフレッド王の圧政に抵抗しようとした僕の村は古代都市イツワの英雄によって滅ぼされ、僕は怒りと憎しみのあまり憎しみの感情を分離してこの怪物カラシレンを作り出してしまったんだ」
「そう!そして俺が生まれた訳さ。あれは最高に楽しかったな~。王を殺しても怒りが収まらないから国中の人間を皆殺しにしてやったっけな~」
怪物はさも愉快なことをしたと不気味な笑みを浮かべヒイロ達を見つめる。殺気を漲らせながら。
「かはは。せっかく復活したんだし手始めにお前らを殺したあと、この時代の人間全てを虐殺してやるよ。死んじまいな」
カラシレンはいきなり溜めもなくとんでもない破壊光線をこちらに向けて放った。
「そうはさせんぞ!」
とっさに飛び出したレンが障壁を張るがそれでも抑えきれず、レンの手は炭化してボロボロになっていく。
「くぅー、さすがは僕の憎しみだよ。これまでに吸収してきた生命の大半がこの障壁だけで消費してしまう」
レンの手は炭化と再生を繰り返し、今は大丈夫でもすぐに防げなくなるだろう。
「さて、ここで狼ちゃんにお願いなんだけどさ。僕を殺してもくれないか?
あいつは僕が死ねば死ぬはずだけど僕は自殺をしようにも死にかけた瞬間に周囲の生命を体が勝手に吸収してしまうから自殺出来ないんだ。狼ちゃんの魔法で『能力』を凍らしてから殺してくれないかい」
最初からこうするつもりだったのだろう。レンに迷いは一切なかった。
「たわけ!レン先輩を見捨てられるものか!死ぬ覚悟があるなら最後まで生き抜く覚悟を持たんか!」
「……僕は色々な不幸を見て生きてきた。僕を助けるために死んでいった家族や友達を見殺しにしてまで生きてきた。僕一人が幸せになるわけにはいかないんだよ。
……だから!あの怪物を倒すためにも、この時代の人達のためにも僕は死ななければいけないんだ!」 なんと悲痛な覚悟だろう。ヒイロにはレンのこれまでの人生がどれほどのものだったかなど想像もできなかった。
……だが!
「レン先輩の理屈じゃと誰も幸せになれない。過去は過ぎたのじゃ。もうどうにも出来ないんじゃろうが。じゃが今は何とか出来る!
人が皆『昔』を背負って『今』を生きなきゃならんのならこの世は幸せになっちゃ駄目な者ばかりになるじゃろうが」
「僕からもお願いします。ヒイロ様のためにもレンさんはここで死ぬべき人ではありません。生きてください」
しばしの沈黙。ヒイロとガルス・ウルの剣は言うべきことを言った。あとはレン自身が決めることだ。
「まいったねこりゃ。そんなこと言われたらかっこいいところを見せたくなっちゃうじゃないか」
レンの目には確かに生への希望が宿っていた。
「貴様らこの俺に抵抗する気か?ならば構わん。レンはどうせ死なないだろうから最大出力で葬ってくれる」 さらにカラシレンの破壊光線は威力をあげる。
「ガルス・ウルの剣。わっちはこれからぬしを使ってわっちの本性を出す。耐えてくれ」
「ヒイロ様のためなら海に落ちても、川に落ちても、山に落ちてもついて行きます。そしてレンさんもヒイロ様にとって大切な人なら助けるのは吝かではありませんよ」
これまでヒイロは頑なに武器を使うことを拒んできた。それはヒイロの中にある自身にもわからない黒く、まがまがしい感情に自我を乗っ取られそうだったからだ。
「かはは。てめえ何か秘策でもあんのか?一応言っておくが俺を殺してもレンは死ぬんだぜ」
「わっちは武器を使わないが使えない訳ではない。大事な家臣が体を張ってくれているのだ。貴様をどうにかする策などすでに考えておるわ」
ヒイロはついに剣を手に取る。武器を持つたびに感じる自身の中の言い表せない不吉な感覚にのまれそうになるが耐える。全ては自分のために。
「わっちは世界の全てを救おうなどと阿呆なことは言わん。じゃがここにいる苦しみ続けてきた先輩と大切な部下のためにも負ける訳にはいかないんじゃー!」
耐え難い吐き気を耐え、抑えがたい破壊衝動を抑え、ヒイロはカラシレンに向かって切りかかった。
パキィィン
だがガルス・ウルの剣はカラシレンに触れた瞬間砕け散った。
「俺の体はレンと同じ『吸収』能力を持ってるんだからその剣の丈夫さを吸収しつくせば簡単に砕けるんだぜえ」
「まだじゃ。ここからがガルス・ウルの剣の本領発揮じゃ」
ヒイロは砕け散った破片を集め、自らの魔力を込めて修復した。
「これでも以前に細工師でもあるナシャちゃんに修復魔法を習っていたのでな。これでこの剣は真の姿になった」 先程よりも輝きを増したガルス・ウルの剣(真打ち)を握る。
「さあ来いよ。お祭り気分もたけなわじゃ。1000年前から続くくだらない物語の最後を飾る決戦じゃ。オセロのように白黒つけよう。きっちりと正々堂々と、サシで勝負じゃ」
「かはは。じゃあ正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってやるぜ」
そうして両者はぶつかり合い、ヒイロのガルス・ウルの剣(真打ち)と、カラシレンの何処からか取り出したニッケル合金製の刺付きバットが剣戟を響かせる。これまでヒイロは剣を持つと『斬りたい』という黒い衝動にのまれそうになり、武器を使うのを避けていたが、この状況で初めて『斬らねばならぬ』と思う強い意志が心を強くしたのだ。しばらく打ち合い互いに必殺の構えをとる。
「カラシレンよ。憎しみを捨てろとは言わん。だがレン先輩の中に戻って負の感情と向き合え!」
ヒイロは剣を触媒にして自身の魔力を限界まで込める。
「食らえ!浄化魔法ボーテックス」
ヒイロが使った魔法『ボーテックス』は別名『闇にそびえる浄化の塔』と呼ばれる地面から聖なる水の柱を作り出し、その中に邪悪を封じ込め浄化する。この魔法は標的の魔力があまりに強大な場合、封じ込められないこともあるがそこは大魔王のヒイロ。ガルス・ウルの剣(真打ち)とレンの力も加わり、カラシレンのような負の感情だけで出来た存在に負けるはずがなかった。
「ば、馬鹿な!この俺が負けるなんて……」
「知っておるか?憎しみは何も実らないんじゃ。まあ、安心しろ、ぬしもレン先輩の一部じゃ。殺しはせんがしっかり反省せい」
ヒイロが言い終わると同時にカラシレンは力を徐々に失っていく。
「悪かったね。僕が勝手に生み出しておいて勝手に消すなんて。だけど1000年前の悲劇は繰り返したくないんだ。だから僕に喰われろ」
レンはカラシレンに近づき、その体に触れた瞬間、カラシレンはレンの中に入っていき、あとには静寂のみが残った。
「はっはー。1000年分の憎しみはすごいね。僕の中で渦巻いてるよ」
「じゃがレン先輩、次こそはちゃんと自分の感情に向き合うんじゃぞ。次暴れられたら今度はわっちの中の怪物も暴れだしそうじゃ」
「そういやヒイロ様。僕を使ってから体に影響ないですか?強すぎるヒイロ様はずっと武器を使うのを避けていましたが」
「大丈夫じゃ。これから先、武器を使わねば徐々に落ち着いてくるじゃろう」
とは言うものの今回の闘いでかなりギリギリまで追い込まれてしまい、これから先の闘いはほとんどがガルスとメレル任せになってしまうだろう。
「何にしても助かったよ狼ちゃん。ところでこれからどうするんだい?」
「そうさなあ、また世界を回ってみるかのう」
「もちろん僕達もついて行きますよ!」
「ああ、俺達はヒイロ様のためなら何処までもついていきます」
合体を解いたメレルとガルスは同時に言う。やはり二人にとってヒイロは無二の主なのだ。
「じゃあ僕もまた発明家としてこれまでに奪ってきた命と同じだけ多くの人達を幸せにする研究を続けるよ。またね狼ちゃん。ガルスくん、メレルくん」
そうして掴みどころのない先代大魔王レン・コーンは去っていった。
「考えてみれば退職金をもらっておらんし、この魔王城を使って世界旅行といこうかのう♪」
「「サーイエッサー!」」
こうしてヒイロ達の冒険は一応の完結となった。だがこれからも旅を続けるヒイロ達には更なる出会いと新たなるバトルがある。そして回り始めた運命の歯車は最後にどうなるのかはこれからのお楽しみ。
『ヒイロ・ホロホロの冒険』これにて終了♪
西尾さんの本は好きですが、殺人鬼を出したりしたら私のグロ系の話が好きな血が騒いじゃって、本作のテーマの『明るいギャグ』から外れそうだったのでこれまで出しませんでしたが一番好きな漫画家の藤田さんの漫画のネタを拝借して暖かみを加えたから大丈夫かな?
さて無事にシーズン2ヒイロ編も終わり、次はいよいよ最終章。シーズン3はほとんどバトルになりそうなので、只今バトルの前の話に力を入れて構想を練り上げています。今度の更新は来週かな?話が溜まりすぎたら投稿を早めますが、今月は色々と忙しいのでのんびりペースでいきます。