第16話:ヒイロの本気は愛のため
今回は登場人物設定⑤と同時更新です。
翌日の朝。一悶着あったようだが朝食を済ませて作戦会議を開くことにした。
「わっちが提案する作戦は『全員でフルボッコにしよう作戦』じゃ」
「いや、ヒイロ様。どうせなら『成り行きまかせ作戦』の方がいいですよ」
「僕はヒイロ様に賛成ですよ。いくらデカくても僕の『心の槍』でチクチクすれば倒せるでしょう。」
3人は随分楽観視しているが相手は山の主。一筋縄ではいかないはずだ。
「じゃあ私が囮をしますからみんなには遊撃をお願いしちゃおうかなぁ」
「ふむ、ではヒラちゃんメインでわっちらが遊撃でよいか。この山にも詳しいじゃろうし」
ヒイロとてヒラを囮にするのはあまり乗り気ではないが誰よりもこの山に詳しいだろうから任せたのだ。
「じゃあまず相手の索敵をしますね。弓にゃん頼んだよ」
「はい、ご主人様。『捜魔の弦』」
ナカノ弓は大気を震わす程の音を鳴らした。
「この近くを西に向かって進行中の30m程の魔物の姿を確認」
「じゃあ先回りしようよ」
「よし、出撃じゃ!」
ヒイロ達はムスカバルスよりも先に到達予測地点についた。
「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱーっ」
相変わらず鬱陶しい奇声を発するでかい魔物。
「ドーーーーーーーーーーーーン!!」
「ぎゃっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱーッ……目ガァァァ、目ガァァァ!」 ヒイロの目潰しが直撃し、ムスカバルスは悲鳴をあげる。
「あいつ普通に話せたんですね。でも僕の『心の槍』は今宵も血に飢えてるんだよね~。ほい、必殺、流星破天槍!」
「メレル、今は朝だ。そして俺もボコりたいから怪異殺しの特性を抑えておけよ。本気だったら一撃で殺しかねん。こちらも必殺、聖拳突き」
どうやらガルスもこの魔物との闘いに楽しさを覚えたようだ。
「弓にゃん任せた」
「はい、ご主人様。『衝打の弦』」
それぞれの必殺技が直撃した。だがそれでもムスカバルスは傷一つなかった。
「態度ヲ慎ミタマエ。君達ハ雪山王ノ前ニイルノダ」
「なんて奴だ。俺らの全力攻撃だぞ」「こりゃ討伐は諦めて眠らせてから体内捜索とかにしますか?」
ガルスとメレルはあまりにも生命力溢れるムスカバルスに諦めかけていた。
「そんな……いま狩りを止めたら怒ったムスカバルスが麓の村を襲うかもしれないんですよ。それなのに……」
「ご、ご主人様!?私は最後まで一緒に闘いますから泣かないでください」
ヒラは村が壊滅したらハンターをクビになるだろう。
「安心するのじゃヒラ。頼もしいことにこのヒイロ様は全知全能じゃぞ!」
やはり我らがリーダーのヒイロ。ここぞという時に仲間をまとめる。
「しかしヒイロ様。僕達の全力攻撃を食らっても平気な上にあんな馬鹿デカいやつ相手を倒すことなんて出来るんですか?」
「俺は情けない話、腹が減って動けないでござる」
そう、メレルもガルスも先ほどの攻撃は全力だったのだ。いくらヒイロと言えども勝てるとは思えなかった。
「ふっふっふっ。わっちの本気を見せる時がついに来たようじゃの」
ヒイロは着ていた上着を脱いで放り投げる。
ズシン
上着が地面に落ちた瞬間、地震のように大地が揺れた。
「くふふ♪土砂震いが止まらん。ぬしら!わっちの理性がちょっとでも残ってる内に離れておけ!」
慌てて距離を取る仲間達を見ながら
「変身」
変身完了。ここから先はヒイロ自身にも自分を止められるかわからない。
「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱーっ」
「ほう、いまのわっちに向かってくるとは……だが、勇気と無謀は別物じゃ」
変身して大きくなってもムスカバルスはいまのヒイロよりもさらに大きい。
「わっちらの宝石集めの邪魔だけでなく、ヒラを泣かせた罪は万死に値する。覚悟せよ」
「オマエ、コロス、不思議ナ魔法デ殺ス」
ムスカバルスは多少の知能はあるようだがこちらの話を聞くような奴ではないようだ。
「じゃあもういい。お前死ねよ」
ここでヒイロが使ったのは隠しスキル『エナジードレイン』。本家の吸血鬼にはかなわないだろうし、この巨体の魔物には効かないだろう。だが、大魔王のヒイロは大魔王らしい闘いをこの状況にも考えたため、かっこいいオーラを出すためだけに発動したのだ。全てはヒラとの熱い夜を過ごすため。
「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱーっ」
ムスカバルスの尻尾ブルンブルン攻撃。
「黙れ、そして腐れ」
エナジードレインも多少は効いたらしく、動きが一瞬鈍った。その隙を見逃さずヒイロの一撃はムスカバルスの首を切り落とした。
「奥義、絶・天狼抜刀牙」
「すごい……」
この光景を目の当たりにしたヒラはヒイロの圧倒的な強さに惹かれた。ヒイロのヒラちゃんの気を惹こう作戦も成功といったところだ。
さてさてそこからは全員で手分けしてムスカバルスの体を切り分けて宝石を見つけるまでに随分時間はかかったが、ヒラの道案内もあり無事に麓の村までたどり着いた一行でした。
「ヒイロお姉ちゃん達、今回は色々助けてもらってありがとね。みんなのおかげでこの山の危機は乗り切れたよ」
「私からもお礼を言わせてください。私とご主人様だけでは勝てなかったかもしれませんでした」
たまたまとは言え確かにヒイロ達がいなければヒラは一人で挑まねばならなかっただろう。
「そんなに気にしなくてもいいよ。ヒイロ様とメレルがヒラちゃんみたいに可愛い娘を助けない訳ないんだからさ」
「えへへ。ありがとうございます♪でも私これでも結婚してるんですよね」
……
…………
「「「結婚してるの!?」」」
「今年で60歳なので孫もいますよ♪」
「な……なんと」
これにはさすがにヒイロも驚いた。口調も肌艶もどうみても十代のそれだった。
「おーいヒラ」
小さな子供を連れた男?が近づいてくる。
「大魔王のヒイロさんですね。今回は妻がお世話になりました」
「私の夫のウィルハと孫娘のアキとコトとタイですよぉ。可愛いでしょう♪」
「「「おばあちゃんを助けてくれてありがとー♪」」」
ヒイロ達は言葉を失った。よく見ればこの村には年寄りがいないのだ。
「私達は狩りに生きる種族だから若い時期が長いんですよ」
そのあとは歓迎の料理が振る舞われ、たいへん盛り上がった。
ヒイロも最初はヒラが年上だったことに驚いたが、幼い可愛い子が一杯の村、と考えるとにやけてしまうのだった。
そして当然メレルはどんな女性でも受け止めていた。
さすがに3000字を越えると誤字脱字の修正箇所や加筆したい場所を見つけるのが面倒なので、今回の雪山編は区切りました。