タイトル未定2026/04/13 23:37
やっと自分の家に着いた春人はすぐに部屋に駆け込んだ。やることが多いとか、疲れているから、とかではなく。
確かめないといけなかった。
ドアを開け急いで机の方に向かう。小さな手鏡を手に取り顔を確認する。
なるほど……な。
手鏡に映っている自分は不細工とも言えないし、イケメンとも言えない。冴えない顔が映っていた。自分の容姿を改めて確認していたのだ。
これから目立つ機会が多くなる。つまり、見た目に気を配らないといけない。高校生は見た目で判断する。間違ったことではないが、正しいことでもない。
けど、子どもで成長の階段を登っている俺たちにとって見た目はあまりにも決定的な要所なのである。だから、今日から美咲と努力をすることにした。
これから先、僕らは見た目で勝たないといけない。相手である容姿端麗な王子と王女に。簡単に勝つことはできないだろう。だが、ここで諦めるほどの人ではない。
湧いてくる自信を前に春人は思わず笑みをこぼす。また努力の季節がやってきている。今日から見た目の努力を始めよう。
昨夜の筋肉痛と闘いながら春人はバスを待っていた。家から徒歩5分でつくバス停。スマホをいじりながらバスを待っている春人に誰かが声をかけた。
「春人?」
聞き馴染みのある声で、今は聞きたくなかった声でもある。その声に反応するかのように春人は首をあげ視線を移す。
そこには――近藤夏樹が立っていた。スマホをポケットにしまう。
「おお。夏樹じゃん」
「久しぶりに声聞いた」
夏樹は言葉にならない表情を浮かべた。二人の間に静けさが流れる。気難しそうな、語れないような。そんななんとも言えない空気。
「元気にしてるの? 春人」
名前を呼ばれ思わず胸が痛む。なんとか取り繕いの笑顔を向ける。
「めっちゃ元気よ。そっちこそ、元気か?」
「うん。とても、とは言えないけど元気にしている」
「そうか」
会話ができない。続かない。いや、続けたくないのかもしれない。正直話すことなんてないのだ。夏樹とは縁を切っているから。
お互いのために縁を切った。だから、こうやって話すことはきっと何かの間違いなんだ。本当はしてはいけないことなんだ。
人はルールを守らないといけない。ルールに従わない人は悪で、その人が悪くて…………
「春人!」
「んっ?」
「バス来てるよ?」
夏樹はいつもと同じで優しい笑みを向けてくる。
バスに乗るとちょうど奥の席が空いていた。そこに腰を下ろした春人はすぐに窓に視線を移した。現実から逃げるように。だけど、そんな現実を壊すように夏樹が隣に腰を下ろした。
少し距離を近づければ肩が当たりそうな距離。そんな距離で夏樹は小さく言葉を零していく。
「私ね生徒会選挙出るんだ。もう、知ってるとは思うだけどさ」
何も見つめないまま夏樹はまっすぐ顔を前に向ける。
「そんなこともう知ってるよ」
「流石ね。情報量の天才」
「天才と付ければいいと思ってるのか?」
平然を装うんだ。動揺は決してバレてはいけない。春人は夏樹に顔を向ける。また、夏樹もまた春人を見つめた。
「うんん。本当に天才だと思ってるよ。ずっとそばで見てきたんだからわかるよ」
過去を匂わすかのような言葉を口にする。車内が少し揺れる。まるで、春人の感情を表しているかのように。
「ずっと、近くで見てた……か」
「うん」
首をゆっくり縦に振る夏樹。
夏樹がここまで接近してきているのは何かしらあるのだろう。そうじゃなければ、ここまで急に距離を詰めてくる理由がわからない。
「何かあるのか?」
呆れた声を半分混ぜた声を出す。すると、その言葉を待っていたのか夏樹はハッと明るい表情を浮かべた。
何も遠慮することなくて、言い回しなどなく。短くて意味が分かる言葉を夏樹は口にする。
「私の第二の推薦者になって欲しいの」
ふつふつと熱を込め激しい願望。傲慢。絶対に断られることがないと確信しているかのような声が春人の耳を強く突き刺す。そして、残酷極まりない笑みを浮かべる。
「断らないよね? だって私の彼氏なんだから」
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